わたしは、秘密の呪文を持っている。
それがいつからなのか すっかり忘れてしまったのだけれど、心のなかで唱えるときもあれば、頭のなかで勝手に再生されるときもある。
『大丈夫、わたしには音楽がある』
音楽が好き。
ずば抜けた才能や知識や技術があるわけではない。ただ、小さいころから生活に音楽が溶け込んでいるのが普通だった。そして、それは少しずつ濃度を増していって、気が付いたらわたしは、喜怒哀楽のすべてを音楽とともにするようになっていた。
小さいころ、母親が洗濯物を畳みながらかけていたカーペンターズの「Top of the World」。
頑張りたいのにうまく頑張れなくて泣きながら聴いたSEKAI NO OWARIの「Fight Music」。
吹奏楽部で初めて金賞を取ったスティーヴン・ライニキーの「The Witch and the Saint」。
高校生のとき初めて組んだバンドでコピーしたSHISHAMOの「量産型彼氏」。
遠くに住む大切な友人に会いに行った帰りの新幹線で聴いた藤井風の「優しさ」。
大切なライブの前に必ず聴くと決めているTHE ORAL CIGARETTESの「ONE’S AGAIN」。
テストをがんばる理由はチケットを買ってある好きなバンドのライブで、苦手な学校を1週間がんばる理由は毎週行くと決めていたCDショップのため。うまく言葉にできなかった心は好きなアーティストの歌詞が代弁してくれた。好きな人が好きだと言っていた音楽をこっそり聴いた日もあった。
学校が楽しくなくてもわたしには音楽がある。友人とうまくいかなくてもわたしには音楽がある。勉強がうまくいかなくてもわたしには音楽がある。嫌なことを言われても、分かってもらえなくても、わたしには音楽がある。
唯一の救いだった。
じぶんの環境がどんなに変わろうと、じぶんの心がどんなに揺らごうと、音楽は変わらないでいてくれるから。
縋っているだけかもしれない。逃げているだけかもしれない。最初はそうだったと思う。
それでも結果的に、音楽がわたしを強くしてくれた。
濃度を増していった音楽は、2019年のアイドルデビューと同時に わたしにとっての仕事になった。好きなことや好きなものが仕事になること、そしてそれを続けることは、幸せでありがたいことでありながらも、簡単ではないと、この身をもって実感している。
でもわたしは、この文章を書き進めているいま、この瞬間までもずっと、音楽を嫌いになった瞬間はない。だからずっとわたしは、この呪文を唱えて生きてこられた。
そして今回、その濃度がさらに増すことになった。
連載をやらせていただけることになりました。
わたしが愛してやまない音楽のことを書こうと思います。アイドルのことはもちろん、それに限らず、わたしを取り囲んでついて回る音楽のことをなんでも。
いままではわたしの頭のなか、心のなかだけで唱えていた呪文を、今度は誰かにとっての呪文になれるように、書き残していこうと思います。
大丈夫、わたしたちには音楽がある。
※「大丈夫、わたしには音楽がある」は隔週月曜日更新予定です。
ツクヨミケイコ
1月13日生まれ、東京都出身。2019年5月に結成、同年7月1日にデビューした、7人組アイドルグループ・SOMOSOMOのメンバー。「全身全霊ではしゃぎ倒す」をコンセプトに掲げ、ロックを軸とした楽曲でエネルギッシュなライブパフォーマンスを行なっている。SOMOSOMOでは楽曲の多くの作詞も担当している。