“青”という意味をグループ名に持つ、4人組ヴォーカル・ユニット、CYNHN。揺れ動く感情や心の機微を繊細に描き続けてきた彼女たちが、結成8周年を迎える2025年、3年ぶりのアルバム『INVERSIOИ』を完成させた。
その楽曲性が高い評価を受けているCYNHN。アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』オープニング曲など大ヒット楽曲を担当している渡辺翔がメインコンポーザーを務め、ポストロックバンド・toeの美濃隆章サウンドディレクション、ドラムを toe の柏倉隆史で制作した「バニラ」など、この3年間でリリースされた楽曲を中心に13曲が収録されている。
本作の制作背景には、メンバーそれぞれが経験してきた痛み、喜び、葛藤、そして深い絆が色濃く刻まれている。とりわけ収録曲「バニラ」は、綾瀬志希による初の作詞楽曲として、CYNHNの“今”が表現された1曲だ。
本インタビューでは、「青」という色に対するそれぞれの捉え方や、メンバーによる楽曲解釈、ライブへの想い、そして“この先”への静かな決意まで、じっくりと語ってもらった。
取材&文:西澤裕郎
写真:Jumpei Yamada
メンバーが思い描く「CYNHNの“青”」
――CYNHNは、活動当初から“青”をテーマに活動されていますよね。青の種類は200色近くあると言われているので、まずは、それぞれのメンバーが思い描く「CYNHNの“青”」がどういう青か教えてもらえますか?
綾瀬志希(以下、綾瀬):私は、「変わらない青」と「変わっていく青」、両方を兼ね備えていると思っていて。CYNHNでいろんな楽曲を歌わせていただいてきたんですけど、その中にもいろんな“青”があるんです。それを歌っていくうちに、自分たちも色々成長もすごくさせてもらったし、変わっていったこともたくさんあって。同時に、ずっと持っている青というか、最初から持っている青みたいなものもたくさんあるなと感じています。

綾瀬志希
広瀬みのり(以下、広瀬):もともと私は淡い青が好きだったんですけど、CYNHNに入ってからは、もっと深い青とか、いろんな青の種類を知るようになって。表現するうえでも、「今回はどんな青で表現しようかな」と考えるようになりました。いろんな青があるけど、CYNHNらしい色っていうと、やっぱり“濃くて、クールで、かっこいい青”っていうイメージが強い。実際にグループに入ってみたら、メンバーの人柄にもそれぞれの“青”があって。それがステージ上で自然と表現として出てくるんですよね。青って本当に奥が深い色だなって思いますね。

広瀬みのり
――青にも幅があって、グラデーションがあるんですね。
青柳透(以下、青柳):(自分の衣装を指差しながら)私は、だいたいこの衣装ぐらいの青のイメージですね(笑)。曲やコンセプトによっていろんな青を表現するんですけど、根本にあるのは、これくらいの“THE・青”っていう感じ。どんな色にも変化できるけど、根っこにはこの“青”があるっていうか。たとえば、濃いブルーがコンセプトのときもあれば、爽やかな曲では薄い青だったりもするけど、やっぱり基本はこの「ザ・青」みたいな色をイメージしています。

青柳透
月雲ねる(以下、月雲):CYNHNの楽曲って、曲調や歌詞のメッセージが本当に幅広くて、いろんな方向性があるので、いろんな色を感じるんですよ。青じゃない曲も結構あるんですけど、CYNHNが歌うことで“青になる”というか。私たちが歌うことそのものが“青”を表現しているんじゃないかなって思います。

月雲ねる
――北野武監督は、特に初期映画作品で“キタノブルー”と呼ばれるくらい青を印象的に使っていました。彼の映画って、すごく暴力的な描写がある一方で、優しさも同時に描かれていて、相反する要素を包括している。CYNHNの“青”にも、爽やかで透明感があるだけじゃなく、もっと複雑な感情が含まれているように感じます。
青柳:まさに、志希ちゃんが「バニラ」の歌詞を書いていたときに言っていた気がする。
綾瀬:私が「バニラ」の歌詞を書かせていただいたんですけど、そのときに思っていたのが、“自分の中にある最大の愛”と“最大の暴力”を掛け合わせたい、ということだったんです。歌詞の中には、それこそ「もうピンクになってしまってもいいんじゃないか」っていう気持ちも込めていて。私は愛の部分も乱暴な部分も含めて、自分の中にあるものをそのままぶつけて書いたんです。それが“青”にぴったり合うと思ったし、CYNHNが歌うことで、すごくしっくりくるものになったんじゃないかなって。
――「のろい」って言葉も歌詞の中に出てきますよね。歌詞を書くにあたって、曲を聴いてイメージを膨らませていったんですか?
綾瀬:書くなら、「今、自分が一番大切にしていること」をテーマにしたいと思っていたんです。以前、草野華余子さんの楽曲に作詞させていただいたことがあるんですけど、その時は自分自身のことをけっこうストレートに書いたんです。今回は自分が置かれている環境を一歩引いて見つめたときに、「今という瞬間が一番大事だな」って感じて。それがテーマになりました。(照れながらピースをして)イエーイ!(笑)
――あははは。メンバーが書いた歌詞をメンバーが歌うのは、またちょっと違う感覚があったんじゃないですか?
青柳:私はいつも歌詞は“与えていただくものとして受け取っていて、あとから意味がわかってくることが多かったんですけど、志希ちゃんが書いた今回の歌詞は、すっと自然に入ってきたというか、「これは私たちの歌だ」って、最初から思えたんですよね。
――それは、どんな部分に感じたんですか?
綾瀬:それこそ、〈のろいは青でできてる?〉っていうフレーズとか。今、自分たちが置かれている環境や、歌い続けることができているのは、本当にありがたいことで。でも、その幸せが“呪い”に感じることもあって。そこから回復させてくれるのもCYNHNでもある。
青柳:ちょうどその時期、自分の中でも「今が一番輝いてるけど、はかなくて、痛い日々だな」って思っていて。きっと後から振り返ったら、「キラキラしていたな」って思うんだろうなって思っていたときに、私たちの歌だと思えたんです。
広瀬:透ちゃんが言ってくれた通りで。志希ちゃんが書いてくれた言葉だけど、私たち自身も共感できる感情がすごく詰まっていて。メンバーならではの気持ちだったり、CYNHNだからこそ抱く感情だったり、今のメンバーだからこそ歌える曲だなって強く思うんです。書いてくれたことに本当に感謝しています。感情をのせやすい歌詞なので、大事に、大切に歌っていきたいなって、心から思います。
ねるちゃんって、どこか“魔法使い”っぽいんですよ
――「バニラ」を聴いていると、皆さんそれぞれの声に感情が宿っていて、まるで“浄化”されていくような印象があります。掛け合いのパートやユニゾンの部分もすごく印象的ですけど、元からパート割りを決めていたんですか?
綾瀬:もともと私たちの楽曲をずっと手がけてくださっているコンポーザーの渡辺翔さんが歌詞のベースを作ってくださって。そのうえで、「このパートはこのメンバーに歌ってほしい」っていう私の想いをパズルみたいに組み合わせて、今の歌詞割りになりました。
――それは、声質で決めたのか、歌詞の内容で決めたのか、どちらなんでしょう?
綾瀬:内容ですね。もちろんキーとかも関係あるんですけど、たとえば<もうピンクにでもなってしまおうかな!>って歌詞は、みのりちゃんに歌ってほしくて。もともと他のグループでアイドル活動していた頃から、彼女は“ピンク”にすごくこだわりを持っていて、自分の意思でピンクを選び続けてきた子だった。そういう背景があるからこそ、彼女が歌うと説得力があるなと思って。それから「まほう」っていう言葉は、ねるちゃんに歌って欲しかった。<のろいは青でできてる?>っていうフレーズもねるちゃんに歌ってもらったんですけど、ねるちゃんって、どこか“魔法使い”っぽいんですよ。
――魔法使いっぽい?
綾瀬:日常の中でも、ちょっと魔法が使えそうな雰囲気がある。現実離れしているというか、ビジュアル的にもそうだけど、「本当にこの世界に存在しているのかな?」って思う瞬間があるんです。だから、そういうファンタジーな言葉をねるちゃんが歌うと、すごく深みが出るなって思って。あとは、Aメロの<意味もなく指をきった、あれは守れないかなあ。>ってフレーズは、透ちゃんに絶対に歌ってほしかった。声にすごく艶があるから、“諦め”とか“切なさ”みたいな感情を込めて歌ってもらうと、本当に聴いている人に直接届く感じがして。「本当に自分に言われている」って思ってもらえるんじゃないかなって。っていうふうに、ひとつひとつのパートに思い入れがあって、正直、全部は伝えきれないくらいあります(笑)。
――ちなみに月雲さんが魔法使いっぽいという部分は、他のメンバーは共感しますか?
青柳:初めてねるちゃんに会った時、ドアを開けた瞬間にエフェクトみたいに花びらが一緒に入ってきたように見えたんです!
綾瀬:本当に「えっ!? こんな可愛い子、いるの!?」って、衝撃でした。すべてが可愛くて、彼女だけの世界観が完成していて。「あ、この子、本当に存在しているんだ……」って思った。たぶん、そう思っている人、多いと思いますよ。
――月雲さん自身はどうですか?
月雲:いや、めっちゃ“人間臭い”と思います(笑)。
青柳:確かに(笑)。接していると、性格はすごく人間らしいよね。
マイナスなもの同士でも、重ねることでポジティブになっていく
――アルバムタイトル『INVERSIOИ』は「反転」という意味ですが、このタイトルに対してはどのように捉えているんでしょう?
綾瀬: “儚さ”と“強さ”の両方を持っているのが、私たちCYNHNだと思っていて。「前に進むぞ」という強さもあるけれど、同時に、変わらない弱さや、“人間味”ある部分もあって。でも、弱さを持っているからこそ、人ってもっと強くなれると思う。他人の痛みを理解できる人間になれるというか。自分自身の痛みに向き合ってきたからこそ、もっと成長できるんじゃないかって。そういう意味を、私は“反転”= INVERSIOИという言葉に重ねています。
――たしかに、対極の存在があるからこそ意味が生まれる、という部分はありますよね。
青柳:最初に「いいおくり」という楽曲をもらったときには、正直そこまで意味を掴めていなかったんです。でも、『INVERSIOИ』のツアーをやっていく中で、だんだんとその意味が自分の中でも育っていって。最初に抱いていた曲のイメージと、今の印象が反転したというか。「ああ、こういう解釈もできるんだ」って、自分の中にも“INVERSIOИ”が起こったような感じがありました。あと、このアルバムにはけっこう前の楽曲から最新曲までが収録されているんですけど、その間に私自身の心境の変化がすごく大きくて。気持ちの面でも本当に“INVERSIOИ”だったなって思います。
――“心境の変化”というのは、どんな部分が変わったんでしょうか?
青柳:当時は、頑張っても頑張っても何をしてもうまくいかない……みたいな時期があって。でも今はこうやって取材をしていただけたり、いろんな場面で手応えを少しずつ感じられるようになって、「もっと頑張れるな」って思えるようになりました。気持ちがガラッと逆になったというか。それもまさに、自分の中での“INVERSIOИ”だなって思っています。
――3年の中で、心の状態が上向いてきたと。
青柳:もともと「頑張りたい」気持ちはずっとあったんですけど、周囲の状況が変わっていったことで、気持ちにも変化が出てきました。今は、「これで大丈夫かもしれない」って思えるようになってきたんです。
――それは“自信”という言葉にもつながる感覚ですか?
青柳:そうかもしれません。「ファンの人たちにこれを届けても大丈夫!」って思えるようになってきた。ついてきてくれる方も増えたし、そういう支えがすごく大きかったなと感じています。
――広瀬さんはどうですか?
広瀬:アルバムタイトルが『INVERSIOИ』だと聞いたときに、「マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになる」っていう意味が込められていると聞いて、「ああ、確かに」ってすごく思ったんです。その説明の中で、「寒いねって言われたら“寒いね”って返す、その言葉のやりとりが生む温かさ」っていう例えもあって。それが本当に印象的で。ネガティブなことでも、言葉を交わすことで“温度”が生まれる。それって、CYNHNが“青”というテーマをずっと歌ってきたからこそ出てくる良さなんじゃないかって思うんです。マイナスなもの同士でも、重ねることでポジティブになっていく。そういう“掛け合わせ”が、このグループの強みであり、魅力なんじゃないかなって。
――曲のバラエティも幅広いですし、そういう掛け合わせもありますよね。
広瀬:いろんなテンション感の曲が入っていて。たとえば「バニラ」から始まって、最後は「スターレット」で終わるんですけど、ラストの歌詞<君は君のままでいいよ 僕は僕のままでいるよ>っていうメッセージが、この作品全体を象徴しているなって感じました。言葉の一つ一つが、より深く届くストーリーになっていて。『INVERSIOИ』って、そういう“色合い”とか“メッセージ性”をすごく感じさせてくれるアルバムだなって思います。
――それこそ、3年前と今とで心境の変化もあったんじゃないですか?
広瀬:私は3年前にCYNHNに加入したんです。メンバーの中では一番後から入ってきたので、最初は“青”に夢中になって、とにかく必死にがむしゃらに走ってきました。その中でメンバーみんなと一緒に悩んだり、「バニラ」みたいに志希ちゃんが書いてくれた歌詞と向き合ったりして、本当にいろんな“青”に出会ってきた。悩みながらも、ようやく“自分にとっての青”を見つけられたなって思えるし、私が加入して初めて歌った楽曲も、このアルバムに収録されているので、CYNHNで過ごしてきた時間そのものが詰まっています。
――このアルバムはすごく思い入れのある一枚なんですね。
広瀬:はい。本当に“みんなと一緒に作ってきた”感覚があって、それがすごく嬉しいです。
綾瀬:みのりのファンの方も、ちょうどこのアルバムからCYNHNを知ってくれた人が多いんじゃないかな。だから、なおさら思い入れが深いんじゃないかなって思います。
――月雲さんはいかがですか?
月雲:3年という時間の中で、ファンの方もそれぞれの曲や、その瞬間に強い思い入れがあるんだろうなと思っていて。このアルバムを聴いたとき、その時々のことを思い出してもらえたり、「この曲がきっかけでファンになったな」とか、振り返るきっかけになるんじゃないかなって。3年って、けっこう長い時間じゃないですか? その間ずっと応援してくれていたファンの方がいてくれることが、本当に嬉しいなって思います。
“痛い日々だったけど、それでも輝いていた”みたいな感覚がある
――まさに“写真のアルバム”にも近い作品とも言えますね。せっかくですので、お一人ずつ、この作品の中で特に思い入れの強い曲を挙げていただけますか?
綾瀬:うーん、1曲か……。
――選びきれないとは思うんですが。
青柳:最近だと「いいおくり」なんですけど、アルバムを通して3年間を振り返るなら、やっぱり「キリグニア」が印象深いですね。
――それはどういった理由で?
青柳:「キリグニア」はシングルとしてリリースされた曲で。ちょうど夏頃にリリイベでいろんな場所に行ったんですよ。そのとき、私は腰を痛めちゃっていて、ライブで踊れなかったんです。椅子に座って歌ったりしていたなぁって。そういう意味でも「バニラ」と同じで、“痛い日々だったけど、それでも輝いていた”みたいな感覚がある。あの時間はもう戻ってこないし、儚いけど鮮やかに残っている。そんな日々とすごく結びついている曲です。あと、「こんなにいい曲、隠し持っていたのか!」って当時は本当に思いました(笑)。
他メンバー:隠していたわけじゃないよ(笑)。
青柳:うん、隠していたわけじゃないけど、「まだこんな良い曲出せるんじゃん!」って、驚いた記憶があります。「おお、いい曲あるじゃん!」って(笑)。
――あははは。それまでの曲を更新するような感覚?
青柳:そう、どんどん“更新”されていくなって感じがありましたね。「この曲が来たなら、まだ大丈夫だな」って前向きな気持ちになれた記憶があります。それこそ、「水生」をいただいたときの衝撃に近い感覚で。「あ、CYNHN、まだまだ行けるな」って思えた曲でした。
広瀬:私は「キリグニア」のジャケ写撮影のことを思い出しました。あのとき、廃墟みたいな場所で撮って、塩を撒いたりして……。
青柳:ああ、あったね! 貨物用のエレベーターしかない場所だった。
広瀬:そう、それそれ(笑)。
月雲:私は「ジンテーゼ」ですね。アカシックさんがバンドアレンジをしてくださって、作詞が理姫さん、作曲が奥脇達也さんという布陣だったんですけど、この曲が入っているミニアルバム『アウフヘーベン』が、私たちにとって“初めてご一緒する作家さん”で固められた作品で。すごく新鮮だったし、新しい出会いの連続で、CYNHNの新しい可能性が見えたなと思えたミニアルバムでした。中でも「ジンテーゼ」は、私が個人的にもすごく好きなアーティストの方が関わっていたので、本当に嬉しかった記憶があります。あと、あの時の衣装を私がデザインさせていただいたんです。なので、それもすごく思い出深いです。
――当時の衣装にはどんなテーマがあったんですか?
月雲:『アウフヘーベン』の意味が“対立するものを統合する”っていうニュアンスだったので、衣装はグレーの生地にブルーの要素を加えて、水色とグレーの配色にしました。
青柳:ねるちゃんって、「ジンテーゼ」がずっと好きだよね。結構一貫しているイメージ。
月雲:自分で歌うより、聴く方が好きです(笑)。
“ファンに届ける言葉”って、絶対に本物じゃないとダメ
――綾瀬さんはいかがでしょう?
綾瀬:それこそ「スターレット」とか。私はレコーディングで泣いちゃいましたからね。「こんなキラキラした歌詞、歌えない……」ってなって。
――それは、どういう感情だったんですか? “キラキラしすぎて歌えない”っていうのは。
綾瀬:“光に押しつぶされる”ような感覚というか。太陽もまぶしすぎると目を開けられないじゃないですか? あんな感じで、「自分がこれを歌う意味ってあるのかな?」とか、「私がこれを歌っても説得力があるのかな?」とか思い始めちゃって。ポジティブで背中を押すような言葉を、もし気持ちが伴っていない状態で歌ったら、それって“嘘”になっちゃうんじゃないかなって。レコーディング中も、どう歌えばいいかずっとわからなくて。何回歌っても自分の声に聴こえないし、自分の言葉に聴こえなかったんです。「どうしよう……」ってなって、結局リスケして後日にさせてもらったくらい感情がぐちゃぐちゃになってしまった。でも「スターレット」も「いいおくり」も、ファンの皆さんに届いたときに、私が思っていた以上にたくさんの気持ちが返ってきて。そこからステージで歌い続けるうちに、ようやく「この曲は、私の言葉なんだ」って思えるようになったんです。どの曲にも思い出が詰まっていて、もう言い足りない(笑)。
――やっぱり“自分の言葉として歌えるか”は、大きいんですね。
綾瀬:私は“ファンに届ける言葉”って、絶対に本物じゃないとダメだと思っていて。本当の気持ちじゃないと誠実じゃないと思うんです。だって、ファンの方は自分の時間やお金をかけて、予定を調整して、私たちに会いに来てくれるわけじゃないですか。それに対して、こっちも本気で返さないと失礼だと思っていて。だから、「もしそれが嘘になったらどうしよう」って、常に思っています。
――レコーディングのときと、今では、その感覚も変わってきましたか?
綾瀬:変わってきましたね。今ではメンバーみんなもすごくこの曲が好きになっていて。「スターレット」はライブの最後に歌うことが多かったんですけど、それもまた感慨深くて。
――広瀬さんはいかがですか?
広瀬:ずっと迷っていたんですけど、やっぱり「いいおくり」ですね。
この曲を最初にいただいたとき、大きなステージで歌っている自分たちの姿が自然と浮かんできたんです。「実際にそういう場所に立てたときに、この曲はもっと良い曲に感じられるんだろうな」と思って。そんな願いも込めながら歌っていたのを、今でもよく覚えています。言葉もすごく力強くて。渡辺翔さんが、曲全体を“全部サビ”のように作ってくださっていて。たとえば、<あんな日も捨てなくてよかった>って歌詞とかは、いつか大きなステージに立てたとき、どんなふうに響くのかなって。そんな未来への楽しみも、この曲には込められています。本当に素敵な曲で、ファンの皆さんとのライブでは大事にしている1曲です。
綾瀬:やさしいよね。この曲の<それでいい>って感覚。
広瀬:否定も肯定もしない、でも、すごく包み込んでくれるようなスタイルの曲だなって思います。本当に、素敵な楽曲をいただけたなって心から思います。
――渡辺翔さんとは密にコミュニケーションを取っているんでしょうか?
青柳:それが、直接そんなにやりとりしてないのに、「なんでこんなにわかっているの!?」ってなることが多くて(笑)。たとえば「息のしかた」の歌詞とか、ほんとに「なんで知っているの?」って驚いたんですよ。私たちというより、大人のスタッフさんたちとやりとりしているのかもしれないけど、それでも「なんで!? それ言っていいの!?」みたいな気持ちになりました。
――「それ言っていいの!?」」というのは、どんなところに感じたんですか?
青柳:いっぱいあるんですけど……。たとえば、サビの<思ってもない欲しい言葉言うから。優しくしても忘れるのに。僕よりマシなんて、幸せだなんて吐かれても、一体どうしたらいいっていうの。>っていうところとか。あと、落ちサビの<忘れられない言葉が欲しいのに 忘れたい言葉ばかりだった。寄り添い合っても、手を差し伸べても痛くなってく。一体どうしたらいいっていうの。>って部分も。こういう言葉って「歌にしてもいいんだ」って。
綾瀬:それを歌詞にしてくれて、心が震えました。今までずっと言いたかったけど言えなかったこととか、あの時伝えたかったのに言葉にできなかったことが、ちゃんと歌になっている感じがして。私はずっと、「こういう歌を歌いたい」って言ってきたので、本当に自分にとって大きな曲です。聴く人も、歌う私たち自身も、思わず“ギョッとする”ような、“真理”に触れるような、そんな曲ですね。
これまでの歴史を背負って、それを肯定しながら進んでいきたい
――皆さんの中に、少しずつ“自信”や“前向きな気持ち”が芽生えてきているんだなと感じました。今のCYNHNは、どんな目標を掲げているんでしょう?
青柳:具体的な目標として掲げていることは今のところ設定はしてなくて、CYNHNがこれまで積み重ねてきた全ての時間や想いを、もっと“良い場所”に連れて行きたいと思っています。その「良い場所」がどこなのかはまだわからないけど、これまでの歴史を背負って、それを肯定しながら進んでいきたい。たとえば、初期のころに少しだけ関わってくれたスタッフさんとか、たった一度だけリリイベに来てくれたお客さん、もちろん今も支えてくれているスタッフさんやファンの皆さんも含めて、メンバーで、より遠く、より良いところへ連れていきたいって本気で思っています。その途中に野音(日比谷野外音楽堂)みたいなステージがあるんじゃないかって。「息のしかた」や「いいおくり」は、そういう場所で絶対に歌いたい曲なんです。ただ、それが最終目標ってわけじゃなくて、あくまで通過点として。その先へ、またみんなと一緒に進んでいきたいなと思っています。
――生バンドでもやられていますけど、野外でのライブは絶対気持ちいいですよね。
綾瀬:バンド編成で野音とか本当にやりたいですね。私たちのプレイリストの中には、きっと誰かしらにとって“好きな曲”が絶対あると思うんです。それぐらいジャンルの幅が広いし、いろんな色を持った曲を歌ってきているからこそ、「私たちの音楽は、みんなの居場所でありたい」って、すごく強く思っているんです。ずっとここにいるから、ここに戻ってきてもいいし、ここで過ごしてくれてもいい。そんなふうに思っています。
――6月8日(日)には、東京キネマ倶楽部でのワンマンも行われます。チケットはSOLDOUTしているそうですが、配信チケットは販売されるとのことで、どんな雰囲気のライブになりそうですか?
綾瀬:いつも私たちって、結構かっこつけているんですよ(笑)。たとえば3月3日のライブ(※「CYNHN TOUR 2025 – INVERSIOИ -」ツアーファイナル@Spotify O-EAST)のときも、照明や映像にすごくこだわってビシッと決める感じでやっていたんですけど、今回は少しだけファンの方向けというか、肩の力を抜いたようなテイストを予定していて。CYNHNのことを好きな人なら、絶対に楽しめるライブになると思います。
広瀬:歴史を感じられるようなコーナーも予定していて。本当に「やりたい曲」がたくさんあるんですけど、それをギュッと詰め込んで、楽しい気持ちになってもらえるような8周年ライブにしたいと思っています。メンバーが主体となって考えて、ファンの皆さんと一緒に作り上げるライブになるので、「CYNHNチーム全員で作るライブ」っていう感覚ですごく楽しみですね。
■リリース情報
CYNHN
3rd Full Album『INVERSIOИ』
2025年4月16日リリース
https://www.teichiku.co.jp/artist/cynhn/
https://cynhn.lnk.to/INVERSION
収録曲:
1. バニラ
2. 息のしかた
3. いいおくり
4. ノミニー
5. 楽の上塗り
6. 飴玉
7. キリグニア
8. Tokyo stuck
9. Interlude
10. ソルベ
11. リサイズ
12. ジンテーゼ
13. スターレット
■ライブ情報
〈CYNHN 8th Anniversary LIVE Octablue〉
2025年6月8日(日)@東京キネマ倶楽部
https://cynhn.com/contents/897421
THANK YOU SOLD OUT
▽配信チケット購入はコチラ
https://dearstage.zaiko.io/item/370845