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【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.4 作ること、届けること、受け取ってもらえること

StoryWriter

時と共に増えては身動き取れなくなって
重ねては取り返しつかなくなって

この歌詞、好きだよ、と言われた。2年半前のわたしが書いた、「トワイライトバックグラウンドミュージック」という曲。

わたしはいま歌詞を書いている。

わたしたちSOMOSOMOが8月にリリースするアルバムに入ることになるであろう、新曲だ。

その作詞が、驚く程に、進んでいない。

人が楽曲を好きになる理由は、メロディが頭に残るだとか、声がいいだとか、歌がうまいだとか、アレンジが素敵だとか、数えきれないほどある。

そのなかでも、わたしが楽曲を好きになるとき その理由は“歌詞”であることが多い。

わたしが歌詞に着目するようになったのはきっと、Vol.3に書いた、敬愛するアーティストの歌詞に心を打たれて、救われたことがきっかけだったと思う。

僕がいますぐ欲しいのは「ソレ」から逃げる「理由」なんかじゃなくて
僕がいますぐ欲しいのは「ソレ」と戦う「勇気」が欲しいんだ
「Fight Music」SEKAI NO OWARI

敬愛するバンドのボーカリストは、自転車に乗りながら作詞をすることが多いという。

わたしは、作詞をするときのルーティーンというものがない。

わたしたちの楽曲「七変花」の<君にとって僕が 僕にとっての君であれ>という歌詞は電車のなかで突然思いついたし、「ノンフィクションガールズ」の歌詞が完成したのは遠征先から帰るハイエースのなかだった。「never-ever」はカフェを何件もはしごして泣きながら書いた。初めてひとりで作詞をした「ヒーロー」は実家のリビングで、レコーディング当日の早朝に完成した。

わたしは、作詞をすることを愛しながらも、作詞をすることにずっと怯えている。

わたしたちの楽曲は曲先という方法で作られる。

CDやデジタルでのリリース、ライブでの初披露に合わせてスケジュールが組まれて、最初に作曲をしていただき、そのあとメンバーが作詞をし、歌詞ができたら振付を作っていただき、振り入れをしたり、レコーディングをしたりして完成する。

他のメンバーとの合作も含め、いまあるSOMOSOMOの楽曲の中で3分の1以上の楽曲の作詞をしていることは、わたしにとって誇りであり自信にもなっている。

自分が書いた歌詞を好きだと言ってもらえたり、ライブ中に笑ったり泣いたり一緒に歌ってくれたりするファンの方の存在を実感するたび、嬉しくて幸せでたまらなくなって、頑張って良かったと、そしてまた歌詞を書きたいと、心から思う。

でもそれと比例して、不安が大きくなっているのも確かなのだ。

良い歌詞を書かなくては、せっかく作っていただいた曲を台無しにしてしまう。

早く歌詞を書かなくては、メンバーにも振付の先生にも迷惑をかけてしまう。

そしてなにより、それを聴いたり観たりするひとたちの心を、動かせなくなってしまう。期待を、裏切ってしまうことになるかもしれない。

さあ歌詞を書こう、とスマホのメモを開いても、コピー用紙にボールペンで書いたメモを見ても、何も進まない時間もある。

そういうとき、わたしは、お前には才能が無いと、言葉よりももっと明確な事実という武器で 打ちのめされるような気持ちになるのだ。

眠る前、猛烈な焦燥感に襲われる。

頭のなかの自分が、「寝ていいの? 歌詞を書けていないのに」と問いかけてくる。

ああ、わたしのなかの辞書にある言葉はもう使い果たしてしまって、これ以上歌詞を生み出すことはできないのかもしれない、と思う。

歌詞を書き始めたころのわたしは、きっともっと身軽だった。

時間が経てば経つほど、経験をすればするほど、身軽とは程遠くなってきた。

でも、それは、大切なものが増えた証拠なのかもしれない。

曲を作ってくれる人がいる。

振付を作ってくれる人がいる。

それを歌って踊ってくれる人がいる。

そして、それを観て聴いてくれる人がいる。

歌詞を書き始めたころは、いまのように「あなたの書く歌詞が好きだ」と言ってくれる人なんていなかったから、好き勝手書けたのだ。

良いものを作りたいと思えるのは、作ったものを見てくれる人がいることを知ったから。

そして、良いものを作れば、それを理由に好きになってくれる人がいることを知ったから。

もう前と同じようには書けないかもしれないけれど、あのときのわたしがいたからこそなれたいまのわたしだから、書ける歌詞があるかもしれない。

良い歌詞を書きたい。

できるなら、いまある不安よりも、いままで重ねてきた経験を原動力にして。

いつかわたしが歌詞に心を揺さぶられたように、誰かの心に何かしらの形で響くように。

さて、これからまた、歌詞を書いてきます。

もしかしたらこの記事が公開される頃には、作詞は無事に終わっているかもしれない。

そうであってほしいけれど、もしかしたらまだ完成していないかもしれない。

どちらにせよ、まだあなたたちの知らないこの曲を、わたしが心から大切にしているということだけは、嘘偽りない確かな気持ちです。

8月にリリースするニューアルバムが、どうかいいものになりますように。

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