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【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.5 映像で音楽を観る

StoryWriter

わたしは歌詞を書くとき、映像を想像しながら書くことが多い。

わたしたちSOMOSOMOの楽曲「七変花」は、いままで歌詞を書いてきたなかで、いちばん映像が想像しやすい曲だった。

歌詞を書いたのは2年前のちょうどいまごろ、梅雨入りをしたころだった。壮大になる最後のサビで加わるハープシコードの音が、雨が止んで晴れ渡ったような、雨が降って曇っていたはずの空が突然晴れた狐の嫁入りのような、そんな景色がぴったりだった。

(話は逸れるけれど、ハープシコードではなくチェンバロと書いたほうが伝わりやすいのかな。実家の電子ピアノに『HARPSICHORD』と書いてあったから、わたしはこの音をハープシコードと呼びたくなってしまう)

山田智和監督の映像が好きだ。

わたしは、映像に対しての知識はまるでない。

映像作家をたくさん知っているわけでもない。善し悪しもなにも分からない。まあ映像であろうと音楽であろうと、エンターテインメントに正解などないのだろうけれど。

その名前を意識するようになったのは、藤井風の「青春病」という楽曲のMVがきっかけだった。

 

例えばわたしが想像する「青春」は、学生のころ放課後 渡り廊下で体育祭の練習をした初夏とか、好きな男の子がひとつ上の先輩を可愛いと言っていたときのもやもやした気持ちとか、吹奏楽部のコンクールで金賞を取って部員と顧問の先生みんなで泣いた夜とか、そういうものなのだけれど。

「青春病」のMVは、そのどれひとつにも当てはまらないというのに、わたしは何故か間違いなく「青春」だと思えるのだ。

わたしひとりでは思いつきもしないような、でも確かな「青春」が描かれている。

いまでこそこうやってこの映像をどうにかこうにか言語化しているけれど、初めはこんなに深くも考えていなかった。

ただこの映像をYouTubeで観たとき、この映像の色味や 切り取られた一瞬一瞬が、ただなんとなく愛おしくてたまらなくて、この理由の分からない愛の理由をもっと知りたくなって、概要欄を開いて、たまたま目に飛び込んできたのが監督の名前だった。

その名前を知ったのは初めてだったけれど、あの映像にはどこか既視感があった。もしかして、まさか、と思い、思い当たる映像を調べてみる。

あいみょんの「マリーゴールド」のMV。

 

この映像が公開された数日後、YouTubeでたまたま流れてきて、何の気なしに再生したことを覚えている。そして、そのまま最後まで止めることなく観てしまったことも。

何に惹かれたのかは分からない。ただなんとなく、引き込まれるみたいに、その映像から目を離せなかった。

あの雨のシーンは雨を降らせる演出だったわけではなく、自然の雨が降っているなか撮影していたのだという話を、後日どこかで知った。

End of the Worldの「Lost」のMV。

 

わたしが愛してやまないSEKAI NO OWARIの海外名義での楽曲。それまでわたしはEnd of the Worldとしての楽曲をあまり聴いたことがなかったのだけれど、この曲とこの映像をきっかけに、End of the Worldのことも愛すようになった。

壮大で、現実と非現実の狭間のようで、自分が生きている世界と繋がっている世界だとは思えないのに、確かに存在する景色で、どこか寂しくて、感動するような。

この映像が、わたしはその理由も分からないまま、ただ狂おしいほどに好きなのだ。

映像に詳しくないわたしでさえも、あ、好きだ、と思った映像たちのほとんどを手がけているのが、山田智和監督だった。

昨年、山田智和監督が手がける長編映画『四月になれば彼女は』を観るために、映画館に足を運んだ。主題歌は藤井風の「満ちてゆく」。

映画のストーリーや映像そのものにどきどきして感動して泣きそうになって、劇中で「満ちてゆく」が流れた瞬間、わたしは涙が止まらなくなった。

ひとりのアーティストの、ひとつの楽曲の、ひとつのMVから、ひとりの映像作家に出会い、ひとつの映画を観に行くまでになった。

わたしは音楽が好きだ。

そしてわたしは、その音楽を取り巻いてさらに煌めかせる、映像のことも好きになった。

わたしたちSOMOSOMOにはYouTubeチャンネルがある。

いまはもう非公開になっているものがほとんどだけれど、昔は撮影から編集まですべて自分たちでやっていた。

でも正直あのころ、それが誰かに届いている実感はあまり無かった。

その上、いいものを作れている自信もあまり無かった。

映像でSOMOSOMOの魅力を伝えることができている実感が、あまり無かったのだと思う。

でもいまなら分かる。

映像で伝えることができる音楽の魅力は大きい。

だってわたしが身をもって思い知ったのだから。

いまのSOMOSOMOのYouTubeは、この約1年ほどでスタイルがかなり変わった。

いまは編集者の方に編集をお願いしている。日々の活動の裏側に始まり、ライブ映像、ドキュメンタリー映像、そして開催まで1ヶ月を切ったワンマンライブのメインティザー映像も公開されている。再生回数も少しずつ増えてきている。

 

YouTubeを観てライブに来てくれる人もいる。いつも応援してくれているファンの方々にも、さらに魅力を伝えるツールになっている。

わたしたちの音楽が、音楽だけに限らず、色々な入口からたくさんの人に届きますようにと願う。

わたしたちを知った理由が『たまたま』であれど、好きになった理由が『なんとなく』であれど、それはきっと、魅力が伝わった証拠なのだと思うから。

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