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【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.8 親愛なるわたしのヒーローへ

StoryWriter

デビューしたばかりの頃、初めて仲良くなったアイドルグループがいた。

そのグループのワンマンライブの前日のこと。

衣装を着てフライヤーを持って街中にいたそのグループのメンバーと偶然会ったとき、嬉しくて思わず駆け寄ったわたしたちに、「これからもSOMOSOMOさんと一緒にがんばっていきたいよねってメンバーで話してたんです」と言ってくれて涙が出そうになったことを、わたしはいまでも忘れられないでいる。

翌日のワンマンライブで、メンバーたちには何も知らされていない状態で突然、そのグループの解散が発表された。

毎日同じ時間に同じ場所に行くわけではないわたしたちアイドルは、同じ業界で活動している人と仲良くなる、ということをすごく難しく感じる。

一度共演しても、次はいつ共演できるか分からない。同じイベントに出演していても、会うことができない出演者もいる。一度仲良くなっても、気が付いたら解散してしまっていたり、脱退してしまっていたりなんてざらにある。仲良くなった子の連絡手段は、いつの間にかひとつ残らず消えていた。

そんななかで、わたしたちSOMOSOMOにとって、さとりモンスターというグループは、仲が良いと自信を持って言える数少ないグループのひとつだ。

数年前、楽屋で話しかけてくれたひとりの女の子がいた。

礼儀正しくて優しい雰囲気が印象的で、SOMOSOMOのことを心から褒めてくれた。

その子のグループもしばらくして解散してしまったのだけれど、その子は、またしばらくして、違うグループに加入した。

それがさとりモンスターだった。

同じライブに出演するたびに楽屋まで音漏れしてきたさとりモンスターの曲を、わたしは気が付いたら覚えていた。

楽屋が近いことも多かったし、出番が前後になることも多かったから、袖でさとりモンスターのライブを観たり聴いたりしながら、負けたくないと燃えていた。

「さとりモンスターと一緒にまわるツアーに向けて、お互いのことを意識した新曲を作ろうと思ってる。作詞はケイコがいいと思ってる」と言われたとき、わたしはとにかく嬉しかった。

いままでSOMOSOMOとしての感情や伝えたいこと、わたし自身の感情や伝えたいことばかり歌にしてきたから、こんなにも他人のことを想って歌詞を書くのは初めてだった。

朝から夜までさとりモンスターのことを考えていた。

A4のコピー用紙にボールペンで、『さとりモンスター』から思いつく限りの言葉や感情を書き出していた。

コンセプト、印象的な歌詞、一緒に過ごしてきたいままでの思い出。いつデビューして、どんな変化をしてきたのか。大阪でさとりモンスターが主催に呼んでくれた日の夜の打ち上げのこと。お互いの曲をカバーし合ったこと。一緒に初めて立った日比谷野外音楽堂のこと。沖縄遠征で3日間一緒に過ごしたこと。

作詞をする前、わたしたちはいつもプロデューサーと、新曲のコンセプトや方向性を相談する。その上で今回は、さとりモンスターへ戦友としての歌詞を、と決まっていた。これからも良きライバルであり、仲間でいられるような歌詞にしよう、と。

わたしは困り果ててしまった。

戦友としての歌詞を書かなくてはいけないのに、わたしはさとりモンスターのことを、ただただ大好きになっていってしまったのだった。

締切をぎりぎりまで伸ばしてもらって、どうにか書ききった新曲、タイトルは「ニューエイジャー」。

SOMOSOMOやさとりモンスターが主体となって、いつもご一緒している仲間のようなグループで集まって開催している<NEW AGE>というイベントの名前から。

名の知れた大きな事務所に入ることも、名の知れた大きなフェスに出演することも、並大抵のことでは無い。

でも、その道をあえて選ばず、わたしたちが新時代を作るのだと、見つけてくれる誰かを待つより、誰かに見つけてもらえるように自分から動き出すのだと、強い気持ちを込めて。

さとりモンスターは8月9日に恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブがある。わたしたちはその日、昨年から決まっていたスケジュールの影響で応援には行けないのだけれど、それもまた戦友としての姿かもしれないとさえ思える。

どんな日でも、お互いがお互いのヒーローであれますように。

夢を見よう。大人になってもずっと。

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