アニメーション制作会社STUDIO4℃が手がける、アンデルセンの名作おとぎ話「人魚姫」をベースにしたアニメーション映画『ChaO』が、2025年8月15日(金)より全国公開される。
『となりのトトロ』『魔女の宅急便』(宮崎駿監督)のラインプロデューサーを務めた田中栄子が主宰するクリエイティブ集団STUDIO4℃。これまでに、『鉄コン筋クリート』(06年)『海獣の子供』(19年)『映画 えんとつ町のプペル』(20年)など数々の名作を世に送り出してきた彼らが最新作で描くのは、「種族と文化を超えた恋と奇跡の物語」。人間と人魚が共存する未来社会。船舶をつくる会社で働くサラリーマンのステファンは、ある日突然、人魚王国のお姫さま・チャオに求婚される。そして、ステファンは訳も分からないまま、チャオと一緒に生活することに。戸惑いを見せていたステファンは、純粋で真っすぐなチャオの愛情を受けて、少しずつチャオに惹かれていくが――。
そんなチャオとステファンに寄り添う重要な人物が、マイベイとロベルタだ。地上での生活に不慣れなチャオを側でサポートする面倒見の良いお姉さんであるマイベイ役を演じるのは、ミュージシャンとしてはもちろん、女優・俳優業でも活躍を見せるアーティスト、シシド・カフカ。そして、ステファンの友人で発明家のロベルタ役の声を担当するのは、『アイドルマスター SideM』鷹城恭二役や、『マッシュル-MASHLE-』アベル・ウォーカー役、アニメ『お嬢と番犬くん』宇藤啓弥役などで知られる人気声優、梅原裕一郎。
制作期間7年、総作画枚数10万枚以上という緻密なアニメーションで、瑞々しくもかわいく人間と人魚の恋模様を描いた本作について、シシド・カフカ、梅原裕一郎、それぞれが演じたキャラクターについて話を聞いた。
取材&文:西澤裕郎
物語を見終えたときに、ふと共存や多様性について考えさせられるような深さのある作品(梅原)
──「人魚姫」をベースにしながらも、近現代の要素も織り交ぜられた本作ですが、最初にこの物語を読み込んだとき、どう受け止められました?
シシド:ステファンとチャオの恋愛が主軸にある作品だとは思うんですけれど、それ以上に私が目を引かれたのは、種族間の話だったり、供給過多とも言えるような要素だったり、あと機械の描写などですね。本当にさまざまなテーマやストーリーがこの作品には混在しているなと感じました。そういう意味でも、観る人によって全く違う受け取り方ができる作品なのではないかと思いました。

シシド・カフカ
──供給過多、というのはどういう部分で感じられたんでしょう?
シシド:「私たちは自分が必要とするものだけあれば十分よ」というセリフがあるんですけど、その言葉にすごく共感したんです。今って、本当に大切なものを見極める精神が薄れてきているような気がしていて。小さなシーンでしたけど、私の中ではとても響きました。
──梅原さんは、初めて脚本を読んだ時、どのように感じられましたか?
梅原:物語の軸としては、ステファンとチャオの恋愛なのですが、それ以上に、2人が理解し合うこと、そして恋愛に限らず人と人が歩み寄ることの大切さを描いている作品だなと感じました。映像は迫力があり、それだけでも楽しめるのですが、背景に流れているテーマ、それこそ共存のようなものにも気づけたら、より深く味わえる作品なんじゃないかなと思いました。

梅原裕一郎
──人間と人魚という種族を通して、共存というテーマが描かれていますよね。
梅原:はっきり描かれているわけではないけれど、そうした要素は随所に散りばめられていると僕も感じました。観る人それぞれが自由に感じ取っていいと思いますし、それを押しつけるような作品でもないと思うのですが、物語を見終えたときに、ふと共存や多様性について考えさせられるような、そんな深さのある作品だと感じます。
──本作では、人間や魚類が入り混じっていたり、同じ人間でも頭身やサイズ感が違っていたり、非常にユニークな世界観が描かれています。こうした特殊な世界の中、それぞれの役にどう入り込んでいったんでしょう?
シシド:ここまで現実とかけ離れたデフォルメされたキャラクターたちが目の前にいることで、逆に迷いなくその世界観に入っていけました。現実にない設定だからこそ、むしろ納得したというか。私が演じたマイベイという役も、ビビッドな存在感を持って描かれていたので、そのイメージに乗せて声もいろいろとこねくり回しながら演じさせていただきました。
──現実と距離があるぶん、すっと世界に入り込めたと。
シシド:作品全体の作り込みがすごいので、何の躊躇もなく飛び込めた感覚でした。
──梅原さんはいかがでしたか?
梅原:見た目としては確かにかなり個性的なキャラクターですが、この世界で生きている人たちにとっては、それが普通なんですよね。だから演じる上では、多少のキャラとしての味付けは入れつつも、あまりやりすぎる必要はないと感じました。この世界では彼らは日常を当たり前に生きているわけで、だからこそ自然体で、生き生きとした感じを出せればいいなと思いアフレコに臨みました。
──シシドさんと同じく、すんなり世界に入っていけたと。
梅原:最初はやっぱり驚きました(笑)。すごく独創的な世界だなと。でも演じるとなると、自分は一人の人間としてそこに存在するだけなので、あまり戸惑いはありませんでした。
大変ではありましたけど、非常に有意義な時間でした(シシド)
──マイベイとロベルタは、チャオとステファンと非常に近い存在であり、物語の中で欠かせないキャラクターでもあります。それぞれが感じたマイベイ、ロベルタという人物像についてお伺いできますか?
シシド:最初に映像と台本をいただいた時、マイベイは姉御肌で包容力があって、面倒見のいい女性、という印象が強かったんです。でも、声を入れる段階で監督と話していくうちに、たとえばお化粧が下手みたいな可愛らしい一面がある、ということを教えていただいて。それを聞いてから、もっとチャーミングで人間味のあるキャラクターとして見えてきたんです。その視点を加えることで、私自身の中でマイベイの印象が少しずつ変わっていきました。

左から、マイベイ、ロベルタ
──梅原さんから見たロベルタという人物像はいかがでしょう?
梅原:ロベルタは、すごくこだわりの強い人物だなと感じました。最初に監督から説明を受けたときに、「ちょっとキザな喋り方をする、かっこつけたような人物です」と言われて。その時点で、単なるイケメンということではなく、彼自身が「こういう喋り方がカッコいい」と思ってやっているんだろうなと想像しました。頭のいい人物なので、ジョークというよりはエスプリの効いた言い回しが好きなんだろうなとか、白衣をずっと着ているのも、発明家としてのプライドや、ロマンがあるからなんだろうなとか。自分なりの“かっこよさ”に向かってまっすぐ進んでいる、そんな人物像が浮かびましたね。
──ロベルタの発明が、物語の大事なポイントになっていますよね。そういった面を演じる上で、どんな思いを持って臨まれたんでしょう?
梅原:彼の発明が物語にとって重要な役割を担っているので、非常に大切な立ち位置のキャラクターだと感じました。でもロベルタは、すごくまっすぐな人物でもあって。自分が良かれと思ってやっていることばかりなんですよ。ステファンのため、チャオのために行動している。その思いが根底にあるから、彼はすごく憎めないキャラクターなんですよね。研究者や発明家って、しばしば人間的な感情に疎いという描かれ方をすることもありますけど、ロベルタは決してそうではなくて。きちんと人としての温かさを持っているからこそ、ステファンとチャオのことを見守る立場になれるんだと思います。
──監督とのやり取りの中で、印象に残っていることはありましたか?
梅原:収録中はあまり細かいディレクションはなく、最初に監督から、作品全体の説明と「ちょっとキザな喋り方で」「自由に、自分の思うようにやってください」と仰っていただきました。
──かなり委ねられていたんですね。
梅原:それだけに不安にもなりました。これで合っているのかな?って(笑)。でも、映像が本当に素晴らしいので、そこに助けられる部分も多いだろうと思いながらやっていました。
──シシドさんは、監督とのやり取りで印象に残っていることはありますか?
シシド:必死すぎてあまりはっきり覚えていないんですけど、「もうちょっと可愛らしく」と言われた記憶があります。たぶん、包容力や面倒見のよさといった面に自分の演技が寄りすぎていて、マイベイの“可愛らしさ”が足りなかったんだと思います。そういう部分を意識して、調整していったような気がしますね。
──かなり必死だったとおっしゃっていましたが、今回のアフレコの経験は、新しい挑戦だったんじゃないでしょうか。
シシド:本当にそうでした。想像していた以上に大変でしたし、でも同時に、想像していた以上に楽しかったです。
──大変だった部分と楽しかった部分、それぞれどのあたりに感じたのでしょう?
シシド:まず大変だったのは、セリフを映像の間尺にぴったり合わせて喋らなければならないという点ですね。これが本当に難しくて。それから、自分でマイベイの声をかなりローに設定してしまったことで、思った以上に声に抑揚がつけづらかったというのも苦労した点でした。声の出し方から全体のバランスを考える必要があって、試行錯誤の連続。でも、ちょっとした表現を変えるだけで、プレイバックしてみたときに印象がガラッと変わるんですよね。その発見もすごく面白かったです。完成した映像で効果音やBGMがついた状態を見たときも、「ああ、こうなるんだ」と思える瞬間が多くて。大変ではありましたけど、非常に有意義な時間でした。
──音楽のボーカル表現とアフレコでの声の出し方で、違いを感じられましたか?
シシド:私は違うものだと感じました。もちろん共通点もあるのかもしれないんですけど、今回の経験だけではまだその共通点を見つけるには至ってなくて。今後、もっと時間をかけて、いろいろな作品に何度も出演させていただけるようになったら、そういった共通点も見つけられるかもしれません。現時点では、まったく新しい楽しさとして受け止めていますね。
視覚でも聴覚でも楽しめる、五感を刺激する映画(シシド)
──マイベイとロベルタは、非常に親密で、絶妙な距離感を持った関係性のキャラクターだと思います。今回、お互いの演技をどのように感じられたか、お伺いできますか?
梅原:完成した映像で初めてシシドさんのお声を聞いたのですが、ステファンとチャオの2人を陰ながら支えるような温かさと、先ほどもお話しされていたような姉御感がすごく自然に出ていて、そのバランスがとても絶妙だなと感じました。「可愛らしさをプラスしてほしい」と言われたという話がありましたが、きっと監督は、シシドさんの声に最初から備わっている包容力や姉御肌的な雰囲気を感じていて、そこに可愛らしさを加えることで、より奥行きのある人物になると考えていたのではないかと思います。作り込んだ演技ではなく、自然体の空気感が声に乗っていて、本当にぴったりな役だと感じました。
──シシドさんは梅原さんの演技をどう感じられましたか?
シシド:私は、梅原さんの声を聞きながら収録することができたんです。ロベルタというキャラクターの色がしっかりと感じられていたので、その隣に立つ女性というイメージがとても掴みやすかったですね。すごく助けられましたし、ロベルタのキャラクターをすごく素直に受け入れることができました。何よりも、梅原さんの声は言葉がとても聞き取りやすくて、ずっと耳に残っているというか。話し方の抑揚もすごく心地よくて、「ああ、こういうことなんだな」と実感する瞬間が多くありました。
──まるで実際に一緒にその場で会話しているような、そんな感覚だったんですね。
シシド:その空間で一緒に喋っているような感覚でした。だからこそ、自分なりに声優らしさというものをどう出していこうかと、必死に模索していましたね。
──今回の作品には、声優さんだけでなく、ミュージシャンや芸人の方など、さまざまな分野の方が参加されています。そういったジャンルを超えた共演も、『ChaO』での多種多様なキャラクターの共存とリンクしているように感じました。
梅原:確かにそうですね。僕自身、普段は基本的に声優の方との掛け合いが多いので、他ジャンルの方と同じ作品に出るというのはすごく刺激になります。「こういうアプローチがあるんだ」と気づかされることもありますし、自分ではなかなか思いつかないようなお芝居が、きちんと成立しているのを見ると、本当に刺激的です。今回はシシドさんの完成した音声を聞くことしかできなかったので、実際に掛け合いができていたら、きっともっと楽しかったんだろうなと思います。マイベイはセリフが少ない分、説明がしにくいところもあって、そういう役って実はすごく難しいんですよね。
──シシドさんも、今後もアフレコのお仕事にチャレンジしていきたいと思いますか?
シシド:はい。もし機会をいただけるのであれば、ぜひ挑戦したいです。声だけで表現するって、本当に面白いことだなと感じて。声を通して、いろんな世界が見えてくる。そういった表現にトライすることには、すごく興味があります。
──最後に、これから本作をご覧になられる皆さんにメッセージをいただけますか?
シシド:映像は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがあって、本当にさまざまな情報がひしめき合っています。登場人物それぞれにしっかりとストーリーがあり、スピード感のある展開がありながら、最後にはすべてが納得できるような構成になっている。とても見応えのあるアニメーション作品だと思います。何より光と水の描写が本当に美しくて、観ていても、聴いていても心地いい。視覚でも聴覚でも楽しめる、五感を刺激する映画です。この夏のお供として、ぜひ劇場で体感していただけたらうれしいです。
梅原:映像の魅力にぐっと引き込まれる作品だと思います。その根底にあるのは、誰もが知る「人魚姫」的な物語。だからこそ、きっと物語に入り込みやすいと思います。そのうえで、少しキテレツな世界観、街並みだったり、キャラクターの造形だったり、そうしたちぐはぐな面白さも随所にあって、それがまたこの作品の魅力だと感じています。恋愛的なときめきや切なさはもちろん、恋愛を超えたもっと大きな愛のようなテーマも流れている作品です。観終わったあとには、きっと心が温かくなる。そんな物語になっていると思いますので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
■作品情報
映画『ChaO』
公開日:2025年8月15日(金)Roadshow
声の出演:鈴鹿央士 山田杏奈
シシド・カフカ 梅原裕一郎 / 三宅健太 / 太田駿静 土屋アンナ
くっきー! 山里亮太
監督:青木康浩
キャラクターデザイン・総作画監督:小島大和 美術監督:滝口比呂志 音楽:村松崇継
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:東映
©2025「ChaO」製作委員会
映画公式ホームページ:https://chao-movie.com/
映画公式X(旧Twitter)、映画公式Instagram:@ChaOmovie