watch more

【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.10 格好良い人になりたい

StoryWriter

「きょうは〇〇ちゃんとだけ遊びたいから」と言って置いてけぼりにされた幼稚園、ある日突然仲良しグループの女の子たちから悪口を言われるようになった小学生、わたしのいないLINEグループで「明日の委員会決めの投票、けいこには入れないでね」と根回しされた中学生。

いま思えば、しょうもないねと笑えるような、でも当時のわたしにとってはどん底みたいな日常。

ひとつひとつ真に受けてはいちいちきちんと傷ついて引きずって、どうしたら良かったのだろうと自分のだめな部分を探して、他人からも、自分からも、自分を責める。

自分と誰よりも一緒にいるのは自分自身なのだから、自分のだめなところを誰よりも知っているのは自分自身なはずなのに、いつまでも同じことを繰り返している。

そういう自分にすらも嫌気がさして、格好良い人になりたいと思い始めたのは高校生の頃だった。

人生で初めて好きになったライブアイドル。流行りの曲のMVに出演していた高身長でロングヘアで美人のモデル。4人組バンドの紅一点で活動しながら、小説家になったピアニスト。誰にも似つかない唯一無二の世界観で、「ふざけんな世界、ふざけろよ」と歌うシンガーソングライター。イラストレーターでありモデルでありフードコーディネーターでありライターでもある、天真爛漫な憧れの人。

追い求めている『格好良い』は、どちらかといえば、人の外側よりは内側のもの。

ただ笑っているだけではなくて、なにかと向き合って戦っているような。

そう簡単に駄目になってしまわないような。

もし駄目になりそうになってしまっても、また立ち上がれるような。

ひとりで生きていけてしまいそうな。

でもそばにいてくれる人のことを、大切にできるような。

でも、未だにあの頃と同じことを思っているということは、まだそれになれていない証拠なのだと思う。

あの頃からいまこの瞬間までもずっとわたしは、わたし自身のことを、格好悪い、情けない人間だなあと思い続けている。

Bray meというバンドを初めて生で観たとき、何よりも先行して頭に思い浮かんだ言葉は、『格好良い』だった。

何が?どこが?と言われると難しい。

別に戦っているわけではない。勝ちたいわけじゃない。

でも、ああ、勝てない、と思った。

真っ直ぐな言葉や音楽には、圧倒的な信頼度が欲しい。

わたしは、あとから自分で読み返してもなんだかよく分からなくなってしまうくらいの、捻くれた歌詞を書きたくなってしまう。
自分のまっすぐな歌詞に自信が無いから。

わたしが真っ直ぐな歌詞を描いても、ただ薄っぺらいだけの歌詞になってしまうような気がするから。

だからこそわたし以外のメンバーが書いてくれる歌詞が大好きなのだ。わたしはメンバーががんばっていることをよく知っているし、知らない部分も少しくらいは想像できるから、そんな人たちが書いた歌詞を信頼できないわけがない。

Bray meさんの場合は、『逆』だった。

曲を初めて聴いた時から、訳も分からないままただひたすら、なんて格好良い人達なんだ、と憧れた。

「Bray meさんとツーマンをやる前にメンバー全員で配信をするから、ひとり1曲ずつ、Bray meさんの曲で好きな曲を選んで」と言われたとき、わたしは真っ先にこの曲を選んだ。

“よくぞここまで歩いてきた
始まりからずっと続いた呼吸さ
誇れるモンはそれだけで
充分じゃないかと思ったんだ”
(エビデンスロード/Bray me)

よくぞここまで歩いてきた、なんて、顔の見えない、いつかこの曲を聴く誰かに向けて歌うなんて、あまりにも格好良すぎるのだ。

わたしたちが先日リリースしたアルバム『Colorful』を制作するにあたって、そのうちの1曲の作曲をBray meさんにお願いすると聞いて、どうか作詞をわたしにやらせてもらえますようにと心のなかで祈っていた。だから作詞はケイコがいいと思っていると言われたとき、わたしはとにかく嬉しかった。

「ただ、今回歌詞が先に欲しいみたいで」と言われた途端、わたしは一気に不安になった。

わたしたちがいままで作ってきた楽曲はすべて曲先と呼ばれる、先に作られた曲に後から歌詞を付けていくスタイルだった。詞先なんて初めてだ。せっかく憧れの人たちと1曲作れるのに、わたしのせいで台無しになったらどうしよう。何も無いところから歌詞を生み出すなんて!

嬉しさと楽しみと不安を抱えたまま最初に決めたテーマは、『なりたい自分になるための歌』。

わたしは一旦、わたしが歌いたいことを文章にしてみることから始めた。たったの8行。自信なんてなんにも無いまま、それをBray meさんに送った。

そこから、制作は想像していなかった方へと進んで行った。

Bray meのこたにさんとスタジオに入って、わたしが歌にしたいことや思いを、2時間近くとにかくたくさん話した。

自分のこと。メンバーのこと。ファンのこと。だれにでも共感してもらえるような曲にしたいこと。わたしがSOMOSOMOを辞めないと決めた日の意地のこと。

1週間後、わたしがこたにさんに話した言葉たちは、想像を遥かに超えるほどに素敵な1曲になって帰ってきた。

文字数は気にしなくていいから、変えたいところは教えてね、という言葉と一緒に。

そのときはまだ名前が無かったこの曲を書いているとき、ひとりで戦わなくて良いことが、わたしはすごく嬉しかった。

プロデューサーと「苦しんで書いた方が良い歌詞が書ける」という話をしたことがあるし、人生で一番体調を崩したとき母親に「歌詞を書いたら?」と言われたことがある。苦しいことが悪いことだとは思わない。

レコーディング当日の早朝に書ききった曲だって、ひとりでカフェを何件もはしごして3日で書いた曲だって、たくさん愛してもらえる曲になった。

でも、いままでに10曲以上作詞をしてきて、この曲の作詞がいちばん楽しかったのだった。

こうやって時間をかけてできた1曲は、わたしが思い描いていたような、もはやそれを超えるような、『なりたい自分になるための歌』になった。

格好良い人になりたいと願ったあの頃から、わたしはいまもずっと同じことを繰り返しているのかもしれない。

でも、あの頃と同じことをしている自分は、やっていることがたとえ同じだとしても、やっている自分自身はあの頃と同じ自分ではない。

苦しくて泣いた夜を、誰にも言えないままでも、自分自身だけは知っているから大丈夫。いつかまたあの夜が来ても、これからはこの曲があるから大丈夫だと、自分自身にも、誰かにも、言ってあげられる曲になった。

格好良い人になりたいと願うわたしが、格好良いと憧れる人達と作った曲。

8/14にリリースしたアルバム『Colorful』に収録されている『With me』という曲です。

SOMOSOMOをどれだけ好きだろうと、Bray meがどれだけ好きだろうと、逆にわたしたちのことを何も知らなかろうと、あなたに寄り添える曲になりますように。

PICK UP