
SNSでバズるための「かわいい」。トレンドをなぞるだけのアイドルたち。
楽しみに観に行ったアイドルのライブで「メンバーの心が死んでいるように見えた」と語るのは、4人組青春ロックアイドル・BLUEGOATSのほんま・かいなだ。彼女は、アイドルに必要なのは“流行”ではなく“芯”だと断言する。
BLUEGOATSは、グループ初となる1stフルアルバム『さらば青春の光』を2026年4月28日にリリースする。同作には、かいなが作詞を手がけた「新生かわいいアイドル」が収録される。そこで歌われるのは、現在のアイドルシーンに向けた鋭い問題提起だ。アイドルがアイドルの在り方に踏み込んだ、異例の一曲といっていい。
誤解がないように言っておくと、かいなが否定したいのは「かわいい」そのものではない。彼女が抗うのは、「押し付けられるかわいい」という価値観。青春パンクという武器を手に、BLUEGOATSが切り拓こうとしている「新しい正義」とは何か。「新生かわいいアイドル」に込めた思いを、ほんま・かいなに訊いた。
取材&文:西澤裕郎
写真:すずき大すけ
「自分たちの存在がなかったことにされている気がする」と思った
――今回の取材にあたり、事前に「新生かわいいアイドル」のコンセプトを3ページびっしりにまとめたメモを拝見しました。このメモは、何用にまとめられたものだったんですか?
かいな:このメモを使ってYouTubeを撮ろうと思っていたんです。自分ひとりで「新生かわいいアイドル」について語る動画を撮るための台本みたいな感じで作りました。
――いつも、こんなふうに細かく自分を深掘りして言語化されるんですか?
かいな:私は論理的に話すのがめちゃめちゃ苦手なので、ひとりで話すときは、このくらいまで作ります。
――歌詞を書くときも、こうやって一度内容をまとめる?
かいな:いつもはモチーフが出る前に1行だけ書き始めて、そこからバーッと思いついてテーマが決まっていくことが多いんです。でも今回はテーマをちゃんと決めて、「言いたいこと」を書き出して、それを歌詞にしていきました。

――そもそも、どうしてこのような歌詞を書きたかったんでしょう?
かいな:自分は「かわいいアイドルになろう」と思っていまの事務所に入ったわけじゃなかったんですよ。だからこそ、今「かわいい」を歌うアイドルが王道になっているのを見たときに、「自分たちの存在がなかったことにされている気がする」と思ったんです。
――「かわいい」アイドル以外、存在がなかったことにされている気がした、と。
かいな:別にかわいくなくてもアイドルをやりたい子はたくさんいるし、かわいいを表現したくなくてもアイドルをやってもいいはずなんですよ。でも、かわいい系アイドルから、「君もかわいくなりたいよね?」「アイドルになる人は絶対かわいくなりたいよね?」みたいな押し付けを感じて。「アイドルはかわいくなくちゃダメ」みたいな空気を感じるんです。
――それはアイドル活動をされているからこその視点ですね。
かいな:いろんなアイドルがいるからこそ、「こうだよね」と決めつけられるのが正直イヤなんです。私は違うし、違う人たちだっていっぱいいる。もちろん、第一線でやっているグループに関しては、かわいいに対して強い思想があるのは伝わってくるんですよ。歌詞は大人が書いているかもしれないけど、かわいいを通して伝えたいことがちゃんとあって、メンバーも納得して表現している感じがある。でも、流行っているからという理由で真似事をしてるアイドルが最近すごく多くて。それを見た時に、「ほんとにそれでいいの? 流行りに乗っているだけで心もクソもないじゃん」と思って。疑問と怒り。それが大きかったですね。
人それぞれの「かわいい」であって、誰かに押し付けるものじゃない

――「かわいい」という価値観が押し付けられているように感じるのは、最近特にですか?
かいな:もともとはアイドルという枠組みのひとつだったはずの「かわいさ」が、今は「かわいいって正義だよね?」みたいに感じて。その空気が違うし、ムカつくんです。
――一方で、さっき言っていたように、かわいいを追求して、信念を持ってやっている人たちを否定してるわけじゃないんですよね?
かいな:そうですね。たとえば、CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」がリリースされた時も別に何も思わなかったし、「そういう人たちもいるんだな」くらいだったんです。でも、それがだんだん広まって、SNSなどでいろんな議論が起きてくるうちに「巻き込まないでくれよ」と思うようになって。違う価値観で歌いたいアイドルだってたくさんいる。真似事のような曲を歌っているアイドルに関しては、「顔だけでいいです」って自分から言っているように見える瞬間があるんですよ。それって違くない?と思って。本気で思っているならもちろんいいんですけど、絶対思ってないだろ……と感じる時があって。
――流行をトレースして真似ているアイドルたちへの疑問提起なんですね。
かいな:そう。今流行っているからって理由だけでやっていると、「かわいい」の流行りが終わったら、また次の流行りに乗っかって別のことやるの?って。芯がなくて、かっこ悪い。
――「かわいい」って抽象的な言葉ですけど、かいなさんにとっての「かわいい」ってどういうものだと思います?
かいな:私にとってのかわいいは……自分が思うように生きた先にあるもの、であってほしい。「私はこれがかわいいと思う」「あなたはそれがかわいいと思う」、それで終わりでいい。人それぞれの「かわいい」であって、誰かに押し付けるものじゃない。
――<かわいいだけじゃだめですか?>というフレーズのパンチが強すぎて、TikTokなどSNSで一人歩きしていってしまった部分もあるのかなと思います。
かいな:それで「議論を巻き起こそうとしてるんだろうな」って感じはするし、わかってはいるんですけど、どうしても思うところはあって。

――コンセプトをまとめたメモには、「「こうやったら売れるから」って流されて思ってもない「カワイイ私」とか歌うためにアイドルになったの?」「歌ってる時の目、死んでるよ?」ともありましたが、実際にそう感じる出来事があった?
かいな:SNSでずっと見ていて、めっちゃかわいいと思っていたアイドルがいて。「ライブを見たい!」と思って行ったんです。曲もすごく好きだったから、めちゃくちゃ楽しみにして。でもライブが始まってみたら、メンバーが楽しそうじゃないんですよ。ちょっとニコニコしながら小さく踊るのが20分くらい続いて。こっちも楽しくないし、向こうも別に楽しそうじゃない。「お互い何なんだろう、この時間……」って。相手がやっていて楽しそうじゃないって思っちゃったのが一番つらかったかも。
――好きで見に行っているから、余計しんどいですよね。
かいな:前の方にいるお客さんたちがスマホを構えているんですよね。メンバーもそれに向かってちょっとだけ反応して、TikTokになる素材を作る、みたいな。それを見た時に、「ああ、この時間ってバズる動画を作る時間なんだ」と思っちゃって。「今ここに見に来てる人たちのためのライブ」というより、そっちが大事なんだなと。「ライブってなんなんだろう」って思っちゃったんです。
――かいなさんにとっては、音楽とライブが中心にある、と。
かいな:アイドルって、そこが本質じゃなきゃダメだと思っているんです。よく言われるじゃないですか? “お遊戯会”とか“歌が下手でもなれる”とか。ああいうの本当に悔しいんですよ。アイドルだって本気で頑張ってるし、クオリティの高い歌やダンスをやっている子たちも地下にはたくさんいる。特典会メインでライブが二の次、みたいなイメージがつくのが本当に嫌で。……いつからこうなってしまったんだろう。
――理由はいろいろあると思いますが、コロナで“現場が一回できなくなったのは大きいと思うんですよね。強制的にライブがなくなって、代わりにSNSやオンラインが主流になって。でも、今はライブも遠慮なくできるので、BLUEGOATSみたいに「本当にそれでいいのか?」と疑問提起するグループが出てくるのは、めちゃくちゃいいことだと思います。
かいな:そもそもBLUEGOATSは、メンバー全員ライブがしたくて、歌いたくて、踊りたくてアイドルになった人たちなんです。私とマリンが事務所に入った時は、BiSHがまだ活動していて、WACK全体で「のし上がるぞ」みたいな空気がすごくて。その泥臭さがめちゃくちゃカッコよかった。彼女たちって特典会はやるけど、あくまでライブが最優先で、本気でのし上がるためなら何でもやるみたいな根性があった。やっぱり私は、ライブとか歌、音楽、自分の生き様で、のし上がっていきたい。現場で自分たちの本質を叩き上げて、その大事にしているものをファンにも同じように大事にしてもらいたい。そう思いますね。
「この世界を変えます」という宣言

――僕はかいなさん作詞の「誰もあなたを笑わない」という曲がすごく好きで。一生懸命何かを伝えたい、何かを成し遂げたいと思ってやっている人への応援歌と僕は受け取ったんですが、そうした気持ちは、いつぐらいから自分の中にあったんですか?
かいな:ずっと明確に思っていたわけではないんですけど、心のどこかにはあったのかもしれないです。BLUEGOATSプロデューサーの三川さんって、のし上がるためなら何でもやるというか、炎上系も厭わない人で。ずっと三川さんのことを見てきて、私は 1ミリもかっこ悪いと思わなかった。むしろ、その姿勢を美しいなと思っていたんです。プロデューサーがあそこまで身を削ってやってくれるって、めっちゃ嬉しい。世界の誰かが「あいつのやってることは間違っている」と言っても、メンバーやスタッフは絶対にそう思ってない。誰もかっこ悪いなんて思ってないよって。それは、前身グループのときには思わなかったことなんですけど、BLUEGOATS になってから、すごく実感したことなんです。外から見れば「炎上系ね、はいはい」みたいに言われていたけど、すごくまっすぐで、かっこよかった。その気持ちを書きました。
――上記の考え方が、「新生かわいいアイドル」にもつながっているんですね。本当にかわいいが好きで、それを貫いてる人に対しては否定していない。かわいいの押し付けを受けて流されてやっている人たちに、「それでいいのか?」と気持ちを投げている。
かいな:「誰もあなたを笑わない」も今回の曲も全部そうなんですけど、「私にしか歌えない歌が絶対にある」と思っていて。それって、みんなそうだと思うんですよ。全員に「自分にしか救えない人」が絶対にいる。なのに、二番煎じみたいなことをやって、人生の一番若い時間を消費していて本当にいいの?って思っちゃう。まだ見ぬ誰かを救える歌だって、あなたには本当は歌えるのに。それを捨てて、流行りに流されているのを見ると、すごく悔しい。ちゃんと、そのアイドルにしか歌えないことがあるはずなのに、と思っちゃうんですよね。
――「新生かわいいアイドル」は、曲調もアイドルソングのカウンターになっていますよね。言葉数も多いし、ほとんどのパートをかいなさんが歌っている。
かいな:思ってないことは歌っちゃダメだと思うんです。だから、ソンソナにはあまり歌わせられないなと思っちゃう。あの子はあの子で武器があるから。マリンには、<スカスカの歌で上がる肯定感/かがみ見て下がるその悪循環>の2行を歌ってもらっています。
――ここでいう、肯定感があがって、悪循環に入る対象は誰なんでしょう?
かいな:かわいい系アイドルのファンの子たちって、ああいう曲で肯定感が上がるじゃないですか? でも、現実を見て、「……いや、かわいいだけじゃダメじゃん」ってなる。この繰り返しなんだろうなって。
――<さあ売れたいならこうしよう/可愛いは飽きたから塩コショウ>って歌詞も、インパクトとユーモアがありますね。
かいな:ちょっとポップに言いたくて(笑)。

――<私には狭い世界壊しちゃって一体どうしたい>は、誰に対する問いかけですか?
かいな:これは……自分ですね。考えた結果、「あ、私はこの世界じゃないな」と思ったんです。だから、「この正義を壊す! じゃあ、私は何がしたいんだろう?」と。その時の気持ちをそのまま書きました。とにかく今はこの「かわいいの正義」をぶっ壊して、BLUEGOATSで自分のやりたいことをやった先に何があるのか見てみたい。その意思表明です。
――そして、<もっと僕ら心のままに生きたい世界の真ん中で叫ぶんだ「世界を変えよう」>と歌います。“世界を変えたい”という気持ちがある?
かいな:ありますね。元々は全然そんなこと思ってなくて、割とゆるゆる始めちゃったんです。でも今は、ちゃんと毎日考えながら生きないと何も出てこなくなるんです。それをずっと考えていたら、「人の人生を変えたい」と思うようになりました。誰かの人生が少し変わる。その積み重ねが世界を変えると思うんです。これは、「この世界を変えます」という宣言みたいなものかもしれないです。
私は、“地下アイドル”の価値を上げたい

――かいなさんはYouTubeでギャンブルなど過激な企画もやられていますよね。ある意味、「数字がすべての世界」という理解もあるわけじゃないですか。つまり、「いい曲を出して、いいライブをしても、それだけじゃ数字は出ない」という現実も分かってる。そこを今、どうやって消化しているんですか?
かいな:そこはずっと葛藤しています。数字を取ろうと思ったら、何も持たざる人間は過激になるしかないんですよ。でも、それって本当に自分が言いたいことなのか?と思う瞬間があって。過剰にしすぎると、「私の言いたいことって、そうじゃないんだよな……」と分からなくなっちゃう時もあるんです。自分が言いたいことを言うだけじゃ甘えなんじゃないか?とも思う一方で、みんなに聞いてもらえなきゃ意味がない。「いい曲を出して、いいライブをして、それだけじゃ数字は出ない」っていうのもめちゃくちゃ分かる。だから本当に葛藤中です。いいライブする、いい音楽をやるアイドルは腐るほどいて、でもほとんどの人は地下のまま終わっていく。今の時代、どうしたらいいのかなって。本当に難しいです。
――メモには「流行りは自分たちで作るもの」という言葉もありました。自分たちで新しい流行を作っていくんだという意思も感じました。
かいな:だからこそ、青春パンクを見つけた時、「これだ!」と思ったんです。今まで誰もやってなかったし、自分たちもやりたいと思ったし、バンドのライブの流れを意識した構成って、他のアイドルでは見ないじゃないですか? まずこれを見つけられたことが、めちゃくちゃ大きいなと思っていて。これが流行るかどうかは分からないけど、「作る側」に立ったという実感はあります。あとは自分たちの色をつけていくだけ。こういう、自分たちにしか言えないことを言うアイドルを、たくさん増やしたいと思っています。
――メモの最後に、「いつかこれを聴いたあなたと、聴かなかったけどこれからどこかで出会うあなたに、ライブハウスで待ってます、ではまた」と書かれていました。
かいな:“地下アイドル”って、地下のライブハウスでやるから地下アイドルって呼ばれると思うんですけど、あまり良い意味じゃ使われないじゃないですか? 「地下アイドル=メジャーになり損ねたアイドル」みたいな。でも私は、地下アイドルって、めっちゃかっこいいと思っているんです。バンドはライブハウスから始まっても“地下バンド”って呼ばれないのに、なんでアイドルだけ地下って言われるんだろうって。同じ土俵なのに。だから私は、“地下アイドル”の価値を上げたい。悪い意味をつけられたくないし、ここから叩き上がることは絶対にできると思っている。ライブハウスでやるって、本当にかっこいいことなんだぞって伝えたい。もちろん、自分たちが一番かっこいいと思っていますけど(笑)。BLUEGOATSきっかけで、「ライブハウスのアイドルってかっこよくない?」みたいな空気が広まっていけば、それはすごく嬉しい。その気持ちはめちゃめちゃ強く持っています。

■リリース情報
BLUEGOATS
1stアルバム『さらば青春の光』
発売日:2026年4月28日(火)
価格:¥2,250(税込)
品番:QARF-60368
収録曲:
1. いざサラバ
2. 流星
3. きっと輝ける
4. 印税558円
5. 新生かわいいアイドル
6. アイドルなんて可愛いだけで良いのに
7. 私が一番カワイイアイドル
8. Remember you
9. 青春初期衝動
10. くだらない日々
11. 友よ
12. さらば青春の光
■ライブ情報

BLUEGOATS 6thワンマンライブ『さらば青春の光』
2026年1月28日(水)@東京・恵比寿LIQUIDROOM
OPEN/START 18:00/19:00
【バンドセットメンバー一覧】(敬称略)
Bass ISAKICK(175R)
Guitar 勝田欣也(ex.STANCE PUNKS)
Guitar キタムラチカラ
Drum 吉岡紘希
Keyboard 砂塚恵
チケット 超VIP30,000円/VIP20,000円/一般3,500円/当日4,000円/各+1D
https://t-dv.com/BLUEGOATS_TOUR_FINAL



