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【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.17 アイドルになりたいと思えなかったわたしへ

StoryWriter

大人になって、小中学生の頃好きだったアイドルグループの曲を聴いていたら、「そんなものを聴いて、急にどうしたの?」と友人に笑われたことがある。

別に何か理由があったわけではなかった。ただふと思い出して聴きたくなったのだ。

AKB48の『神曲たち』というアルバム。

わたしは、もう何年も前に好きだった音楽を突然ふと思い出して、取り憑かれたかのように毎日繰り返し聴いてしまうときがある。そしてそれは決まって、そのどれもが思い入れの強い音楽たちだ。随分と久しぶりに聴くのに、歌詞を完璧に覚えていることも多い。AKB48も、そのひとつだ。

先週末 北海道遠征から帰る電車のなか、SNSのわたしのタイムラインはAKB48の武道館コンサートの話題で持ち切りだった。<AKB48 20th Year Live Tour 2025 in 日本武道館 〜あの頃、青春でした。これから、青春です〜>というタイトルは、SNSに流れてくるコンサートのようすを見るだけでも まさしくぴったりなタイトルだと思った。現役メンバーに加え、過去にAKB48を卒業して行った卒業生達も多数出演していた。その中にはもちろん、わたしがAKB48に出会った頃のメンバー達もいた。

わたしの人生で初めて自分のお金で買ったCDはSEKAI NO OWARIの『ENTERTAINMENT』というアルバムだったのだけれど、それよりももっと前、人生で初めて手にしたCDは母親が買ってくれたAKB48の『神曲たち』というアルバムだった。人生で初めて好きになったアイドルグループ。

お小遣いを貯めてCDを買った。付属のDVDを観て、誰に見せる訳でもないのに振付を覚えた。親や兄姉のPCを借りてMVを何度も観た。音楽番組も必ず録画していた。

携帯電話も持っておらず、SNSも普及していなかった時代。いまよりもずっとアイドルが遥か遠く遠くの存在だった時代。

だからこそ、だったのかもしれない。AKB48が、いちばんの憧れだった。

SOMOSOMOとして自分がアイドルデビューしてから、「わたしは元々アイドルになりたいわけではなかった」と幾度となく話してきた。それは紛れもない事実だ。でも、「アイドルになりたいと思ったことがない」と言えば嘘になると思う。

わたしがアイドルになれるなんて、思えなかったのだ。

こんなわたしが、あんなにもきらきらして、あんなにも遥か遠くにいるアイドルになりたいなんて、思っていいと思えなかったのだった。

いまのようなアイドルに気軽に会いに行ける時代になったのは、あの頃「会いに行けるアイドル」をコンセプトに人気を博すようになったAKB48のおかげなのではないか、と思う。

『アイドル』という存在は、昔よりずっと距離が近くなった。ファンのひとりとしても、アイドルを夢見るひとりとしても。

わたしがアイドルとしてデビューすることができたのも、この時代の変化のおかげなのではないか、と思う。
奇跡だと思うし、本当に運が良かったおかげだと思う。

ただ、当然だけれど、アイドルになれたからと言ってAKB48のようになれる訳では無い。なんなら、『アイドル』があの頃よりも身近になったいまなのに、『AKB48』は、あの頃よりももっと遠くに感じるかもしれない。

きょうわたしが買ってもらえた1枚のチケット。その何百倍、何千倍、何万倍もチケットを買ってもらえる魅力が、AKB48にはあるのだ。

わたしがふとAKB48を思い出すように、いま、わたしは、いつかふと思い出してもらえたりするようなアイドルになれているだろうか。

昔よりずっと距離が近くなったアイドルだからこそ、そんなアイドルになることがずっと難しく感じる。

そして、わたしがアイドルになったからこそ、AKB48を心から尊敬している。

いまのわたしにとっての『アイドル』は、ただきらきらしているだけではない。簡単に、AKB48みたいになりたい!と言えるほどに夢見がちでもいられなくなった。

それでもわたしはアイドルが好きだ。アイドルでいられる時間が好きだ。あの頃アイドルになりたいと思えるほどの自信がなかったわたしは、いまもまだ自信がないままアイドルでいるけれど、自信がないから、自信が欲しいからこそ頑張れている。AKB48と同じ『アイドル』だと、自信を持って言いたいから。

あの頃、わたしの目の前、画面の向こう側に現れてくれた、AKB48に特大の愛と感謝と尊敬の意を。いつか心のどこかで憧れていたアイドルに、わたしもなれますように。

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