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【密着ルポ】鈴木実貴子ズ、35分を待たずに笑った夜――〈47都道府県路上ライブツアー「いばらのみち」〉新潟編

StoryWriter

取材&文、写真:西澤裕郎

4月14日(火)深夜、筆者は新宿から新潟行きの夜行バスに乗った。

鈴木実貴子ズが現在敢行中の〈47都道府県路上ライブツアー「いばらのみち」〉は、1月28日にリリースしたメジャー2ndアルバム『いばら』にちなんだ企画だ。文字通り47都道府県を巡り、路上でライブを行うというもので、4月15日の新潟は29本目。折り返し地点を越えて、すでに後半戦を迎えている。その1つ1つの軌跡をすべて追うことはできないが、せめてその移動の感覚だけでも追体験してみたくて、夜行バスを選んだ。

朝5時30分、新潟駅に着く。まだ街は眠っている。40分以上歩いて海を見て、名物の万代バスセンターのカレーを開店と同時に食べ、新潟をひとりぶらぶら歩く。彼女たちは朝、名古屋から東京経由でここへ向かっているという。その間も筆者は、ひたすら新潟の街を歩きながら街の空気を味わっていく。なんとか地元の空気とともに、鈴木実貴子ズの路上ライブを味わいたかった。

15時30分、メンバーと合流。開口一番、ズに笑われた。「(西澤さんが)1番エモくなってるじゃないですか」。

左から、ズ、鈴木実貴子

名古屋から東京経由で新潟まで移動してきたばかりの鈴木実貴子

同じく移動してきたばかりのズ

傘のない筆者を気遣い、傘に入れてくれた

駅構内の喫茶店で取材を終え、2人とレーベルスタッフの4人でバスセンターへ歩く。外は小雨だ。傘を忘れた筆者を見て、ズが傘の中に入れてくれる。実貴子は笑っている。10分ほど歩いてバスセンターに到着。ズはカレー、実貴子はその隣のラーメン屋でラーメンを食べる。移動してきた疲れからか、少ししょっぱい味が体に染みる。束の間の休息を経て駅へ戻ろうとすると、雨が少し強くなってきた。2人は宿へ。実貴子は仮眠を取ると言っていた。

万代シティバスセンターに到着

ズは、名物万代そばのバスセンターのカレー(ミニカレー)を注文

セルフの水を汲んできてくれた、鈴木実貴子

鈴木実貴子「お水ですよ」

仲良く食事、鈴木実貴子は、バスセンターにあるラーチャン家のラーメンを注文

19時少し前、新潟駅の改札を出てすぐの広場に、2人が現れた。実貴子が慣れた手つきでギターケースを開き、ズがアンプとマイクをセッティングする。実貴子がギターをジャカジャカと鳴らすうちに、いつの間にかライブがはじまっていた。近くでは地元の女子高生たちが、にぎやかな声を上げている。

新潟駅の改札を出てすぐの広場には、地元の女子高生たちもたくさん。その中でセッティング

慣れた手つきで、ものの5分もしないうちにセッティングは完了

ズはチラシを手に通りかかる人々に声をかけ、スマートフォンで演奏を撮影してはSNSに投稿する。この日はレーベルスタッフも新潟に駆けつけ、SNSでのライブ配信も行われていた。29箇所を巡ってきた2人の動きは、とても自然で、慣れていた。

チラシを配る、ズ

この日のライブは生配信も行われた

最初に立ち止まったのは10人ほどだった。

実貴子はほとんど前を見ない。目を瞑るか、視線を落として歌っている。路上では、「お客さんに期待しないことが自分を守る術」なのだと、彼女は直前のインタビューで言っていた。「通りすがりの人が一瞬見て帰ることもある。それをずっと引き止めようとは思わない。勝手にやってるから、勝手に止まるなり通りすがるなりしてって。そうやって閉鎖的にやることが、防衛本能」なのだと。その言葉通りの佇まいが、そこにあった。

路上ライブ中の鈴木実貴子ズ

ところが「暁」を歌い終えた瞬間、実貴子は正面を向いて、はにかむように笑った。

まだ2曲目だった。〈止まるなよ危険だぜ 涙も枯れたのに今宵ミラクル待ってる〉――「止まるな危険」の一節だ。全国各地に行って誰もいないかもしれない、でも目を瞑りながら歌って、約40分のライブ中に最後の5分で目を開けた時に人がいることが、自分にとってのミラクルなんだと実貴子は語っていた。だから最初から前を向かない。ミラクルは、最後に起こるものだから。何かが緩んだのか、それとも新潟の夜気がそうさせたのか。本人にしかわからないことだけれど、その笑顔はどこか意外で、だからこそ印象に残った。

路上でのライブでは、ほとんど目を瞑り、客席を見ないで歌うという

「止まるな危険」「壊してしまいたい」「0月0日」。曲を重ねるにつれ人が増えていく。いつの間にか30人ほどが輪を作っていた。

この日のセットリストを振り返ると、『いばら』の収録曲は2曲ほどで、あとは実貴子のソロ曲や、まだリリースされていない新曲が並んでいた。事前の取材で、「路上では普段のライブでやらない曲をやりたい、好きにやらせてもらいますという気持ちが強い」のだと話していた。さらに言えば、「0月0日」は音源では2人プラスバンド編成で録られているにもかかわらず、2人のライブでは一度もやったことがない曲だという。ソロ曲的な感覚の曲だから2人でやると気持ちがアガらない、常温の街の空気に合う曲だと実貴子が言っていたが、新潟の駅前でそれが鳴っている光景を見ると、確かに腑に落ちた。

鈴木実貴子の歌声に聴き入る観客たち

ズは演奏を撮影し、SNSにリアルタイムで投稿していく

「止まるな危険」は、ほとんど自分に向けて歌っている曲だと実貴子は言っていた。路上ライブでのベースになっている気持ち、とも。1年ほど前、「他人にテンポを決められてそれについていけない自分が情けなくて、それでも空振りでもダメな曲でも作ることをやめたら当たる可能性もなくなるから、とにかく止まらないことを自分に言い聞かせるように書いた曲」だという。音源ではさまざまな楽器が重なるアレンジだが、ギターとボーカルだけで鳴らされるそれは、むしろ言葉の切実さをむき出しにしていた。

「0月0日」を歌い終えると、実貴子がマイクに向かって嬉しそうに言った。「新潟の女子高生は元気ですね、たのしくなっちゃった」。少し離れた場所で我が道を行く女子高生たちへの言葉は、揶揄でも媚びでもなく、純粋な実貴子の眼差しだった。ルールやしがらみから解き放たれ、青春を謳歌している彼女たちの姿は、筆者の目にもひどく眩しかった。実貴子は笑顔のまま、新曲を披露しはじめた。

路上ライブは、もとより来ることを決めた客だけを相手にするわけではない。女子高生たちは自分たちのテリトリーで笑い合い、通勤帰りのサラリーマンは立ち止まるか立ち止まらないかを一瞬迷い、それぞれの夜をそれぞれに生きている。鈴木実貴子ズの音楽はその中に、静かに、しかし確かに差し込まれていく。筆者自身、街なかで弾き語りの場面に出会っても素通りしてしまうことがほとんどだ。しかしその輪の中には、その中だけの大切なストーリーがある。価値観の多様さが偶然とともに交差する。そんなストリートという場所で演奏することの大変さと意味を、この夜は改めて実感させられた。

警察から注意が入ったことを観客たちの前で伝える、ズ

鈴木実貴子「最後、1曲だけやってすぐ終わりにします」

見守る観客たち。いつの間にか人数が増えている

新曲が終わりに差し掛かったころ、警察官が広場の後方に現れた。ズが静かに交渉する。しばらくの沈黙の後、黙認するかたちで見守る警察官の前で、実貴子はギターを鳴らし始めた。「正々堂々、死亡」。ひるむことなく、そして自分自身と対峙するように歌い上げた。鈴木実貴子ズのファン、たまたま通りかかった新潟の学生や社会人、そして警察官。この日しか集わないであろう偶然の観客たちの前で、彼女の歌声が新潟の夜の広場に響き渡った。

鈴木実貴子のアコースティックギター

ライブが終わり、急いで機材を片付けようとする2人のもとに、路上の観客たちの列ができていた。CDは売り切れ、それでも感想を伝えようとする人たちの輪の中に、じっと実貴子を見つめたまま動けずにいる女子高生が1人いた。ほとんどの客が話し終えたタイミングで、ようやく勇気を振り絞った彼女は、実貴子に話しかけた。「どうやって歌を練習しているんですか?」。おそらく彼女も歌っているのだろう。照れながらも丁寧に答える実貴子の姿は、日本全国の路上で繰り返されてきた光景と地続きだった。

止まることなく、ここまで来た。だからこそ生まれたミラクルが、新潟の夜にはあった。〈47都道府県路上ライブツアー「いばらのみち」〉はまだ続く。形を変えながら、そのミラクルもまた積み重なっていくだろう。帰りの夜行バスの中で、そんなことを考えているうちに、筆者は一瞬で眠りに落ちた。

鈴木実貴子ズ、新潟駅前にて


■リリース情報

鈴木実貴子ズ
︎『心臓』
2026年5月20日(水)配信リリース

鈴木実貴子ズ
︎メジャー2ndアルバム『いばら』
発売中
https://lnk.to/ibara

■ライブ情報

「いばら」リリースツアー
5月8日(金)北海道・KLUB COUNTER ACTION w/ 後藤まりこアコースティック violence POP
5月10日(日)宮城・LIVE HOUSE 仙台 FLYING SON   w/toddle
5月25日(月)東京・渋谷 CLUB QUATTRO ※ワンマン
https://lit.link/suzukimikikozu

️AL「いばら」リリース記念47都道府県路上ライブツアー『いばらのみち』
4/28(火):鳥取
4/29(水祝):島根
4/30(木):岡山
5/1(金):山口
5/2(土):広島
5/7(木):札幌
5/28(木):名古屋
5/29(金):岐阜
6/3(水):宮城
6/4(木):岩手
6/5(金):青森
6/6(土):秋田
6/7(日):山形
6/11(木):横浜
6/12(金):東京
※ライブ場所に関しては、ライブ当日に発表します。

鈴木実貴子ズ Official HP http://mikikotomikikotomikiko.jimdofree.com

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