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【連載】ツクヨミ ケイコ「大丈夫、わたしには音楽がある」Vol.27 井の中の蛙、大海を知る。

StoryWriter

サマソニのAdoが、めちゃくちゃ格好良かった。

そりゃあいまのわたしが売れられるわけないって、思ってしまった。

以前、Vol.20で『地下アイドル病』について書いた。あのときわたしが示していた地下アイドル病はそういえば、マインド的な地下アイドル病のことだった。わたしはいつの間にか、技術的な視野でも地下アイドル病なのかもしれないと、いまになってやっと気づく。

駅に着いた瞬間、なんなら駅が近付くに連れて少しずつ空気が変わるのが分かる。途中で合流して隣にいるメンバー以外は、当然全員知らない人だ。それでもわたしには、この人たちの多くがこれからどこに向かうのかが分かる。

SUMMER SONIC 2026。

わたしたちSOMOSOMOは、昨年に引き続きSUMMER SONICのClub Que Será Seráというステージに出演させていただくことになっていた。

入口のゲートをくぐり最初に目に入る野外ステージ。それがClub Que Será Seráだった。

わたしたちのライブが始まる直前には雨が降り始め、ライブが終わる頃には青空が開けていた。そんな不安定な天気の日だった。

いつもの景色とは比べ物にならないほどにだだっ広い景色。できるだけ遠くまで手を振ってみたりする。国内外問わず出演する名だたるアーティストたちと、それに集う何万人もの音楽ファン。その中にわたしたち、所謂地下アイドル。正直アウェーだ。

そのなかで、すこし視線を下ろせばいつもライブハウスで会いに来てくれる自分たちのファンがそこにいてくれて、とにかく心強かった。自分がすごい景色を見たいという気持ちはもちろん、この人たちにもっといい景色を見せたいと思った。

25分の持ち時間なんてよくあるライブなのに、どんな25分のライブよりも短く感じた。

3日間あるサマソニのうち、わたしたちが出演したのは2日目、8月15日。わたしたちの出演が決まるよりずっと前、この日がSNSで話題になっていた。

フェスにはヘッドライナーというものがある。ヘッドライナーとはそのイベント最大の主役であるアーティストを指し、トリを飾る。

今年のサマソニは3日間 つまり3組のアーティストが決まるはずだが、そのうち1組だけヘッドライナーの解禁が遅れていた。

そしてついに、満を持して解禁された最後のヘッドライナーは、日本のアーティスト、Adoだった。

今年のサマソニのヘッドライナーは異質だった。

サマソニの公式サイトには、《海外に移動しなくても世界レベルの音楽フェスを気軽に楽しんでもらいたいというメッセージ(Travelling Without Moving)》とある。サマソニは日本国内で開催される大型フェスのなかでも海外アーティストの出演が多く、ヘッドライナーも例年は殆どが海外アーティストだった。そんななか、今年のサマソニのヘッドライナー3組のうち2組が日本のアーティスト。

Adoがどうしてヘッドライナーに選ばれたのか、そしてどうして1組だけ解禁が遅れていたのか。洋楽に詳しく根強いファンであると自信は全く無く、毎年サマソニに通っているわけでもないわたしであれば、その根拠は公式サイトを見れば充分理解できる。

もちろん祝福や歓喜の声もある。

ただ正直わたしは、この解禁について、酷い言われようだと感じた。

海外アーティストが良かった。残念だ。期待外れだ。がっかりだ。終わった。サマソニも変わってしまった。

気持ちは分かる。もしわたしがもっと、海外アーティストに詳しかったとしたら。もしわたしが海外に行かずとも海外アーティストを見ることができる、そんなサマソニだからこそ毎年楽しみにしていたとしたら。

同じ気持ちになるわけない、とは思わない。

夜。幕張メッセにいたメンバーとわたしは、行列に並んでシャトルバスに乗り、急いでZOZOマリンスタジアムに戻る。着いた頃、その音漏れをBGMに早歩きで客席に向かう。アリーナにはすでに入場規制がかかっていた。階段を上りスタンド席に向かう。

Adoはその日の朝、Xでこう言っていた。

Adoの音楽は、日常を過ごしているなかで殆どの人は避けられないのではないかと思う。正直Adoの音楽に知識が浅いわたしですら、音漏れで聞こえた音楽を、耳が覚えていた。「うっせぇわ」だ。

わたしは、完全に圧倒されてしまった。

同じ人間ではないみたいだった。わたしも未熟とはいえ、演者として生きているから、分かる。圧倒的声量、ぴったりと合った音程、がなったかと思えば突然ファルセットになる歌い方や、シルエットしか見えないのに伝わる表現力、感情。バンドの演奏、ステージの演出。

自信を持つに相応しすぎるパフォーマンスでしか無かった。

わたしたちSOMOSOMOは 新体制としてデビューして2週間。このメンバーで披露できる曲は、全曲のうちやっと半分を超えたところだ。ライブそのものは勿論のこと、ライブ前の円陣も、MCも、お決まりのSEの影ナレーションですら、まだ慣れているとは言えない。未完成で未熟な状態。新しいSOMOSOMOを作っており、藻掻いている真っ最中である。

とはいえ3週間前までは前体制であり、その1週間後に始まったこの新体制は、初期メンバー3人、新メンバー4人。ちゃんと頑張っている。新体制なのにすごいね、とか、サマソニに出られてすごいね、なんて、数え切れないほど言ってもらえる。

まあそれでも、そんなことは知ったこっちゃないのが世間だ。

もし例えばわたしがサマソニのヘッドライナーがどうこうだなんて話をなにも知らず、音楽のことも、サマソニのことも、Adoのことも、なんにも知らずにこの場にいたとしても、あのパフォーマンスに心を打たれたんじゃないか。

そんなの知ったこっちゃないひとたちの心を、動かせるか。そして、どう動かせるのか。

批判されようが、アウェーだろうが、自分はここに相応しい存在だと証明する。言葉や気持ちだけでは無く、音楽そのもので。

売れる音楽って、売れるアーティストって、多分こういうことなんじゃないか。

そりゃあいまのわたしが売れるわけないって、思ってしまった。悔しいと思うことすら恥ずかしいくらいだ。

世界情勢や流行とともに、音楽も移り変わる。やっぱり寂しさもやるせなさもある。音楽には多種多様なジャンルがあって、交わらない音楽もきっとある。それでも、それで視野が狭くなって、ほんとうは心を打たれるはずのものから目を逸らすなんて、勿体ないのでは無いか。

このSUMMER SONIC 2026に行くことができてほんとうに良かった。演者としても観客としても。

数日後、渋谷の街中で聞いたことのある音楽が耳に飛び込んできた。声を聞いただけで分かる。Adoだ。

売れるって、こういうことだ。

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