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【連載】なにが好きかわからない Vol.5 中国映画「一瞬の夢(中題:小武)」

StoryWriter

(ネタバレ含みます、注意)

にーはお。

就活真っ只中ですが早い所はもう面接がありまして。人見知り且つ目上の人と喋るのが苦手な僕は面接の手応えがいつも絶望的なので最近は常に暗黒のテンションです。この記事が世に出る木曜に面接の結果発表ですが果たして…

さて、前回も書きましたが最近名画座で映画を観ることにハマってます。

そんな中で明日3月23日(金)まで早稲田松竹座にて中国第6世代の監督の作品を取り上げておりまして、「一瞬の夢(中題:小武)」を観ました。実は僕は大学で中国語専攻でして、当初から全くやる気もないのに鬼のような厳しい中国人の先生に日々授業で詰められたり留学したりしてたんです。イヤイヤながら些かの言語感覚と文化をムリヤリ学んだものの、そのお陰でこの作品を一層楽しめたのですが…苦笑

 

1997年に公開されたこの映画は贾樟柯(jia zhang ke)監督の一作目の作品にも関わらず、中国の検閲をくぐり抜けてベルリン映画祭を筆頭に名だたるコンテストに出品され賞を取りました。

あらすじは、スリ稼業で生計を立てている主人公小武(シャオウー)が山西省の実家に帰郷したところから始まります。かつてはスリ仲間だった友人の結婚に祝言とお祝いを持っていくが、既に実業家としての道を歩んでいる友人にとってシャオウーは目ざとい存在なので拒絶される。やさぐれていたシャオウーは、立ち寄ったカラオケバーのホステス嬢のメイメイと出会い惹かれていくが…といった感じです。作品全体として、カラオケバーでメイメイが歌う「心雨(シンユ)」以外のBGMがほとんどなく、とても暗い雰囲気です。朗らかさが伝わってくる場面など微塵もないという印象でした。物語全体としても救いはなく、90年代後半の不安定な時期にあった中国の山西省(決して栄えている地域ではない)の実情を切り取っているのかな、といった印象です。なるほど、中国の検閲に引っかかったら確かに問題になっていただろうな、という描写の連続。

主人公のシャオウー、本当にクズなんです。いい年こいてスリ稼業で日銭を稼ぐ生活、特に人望もなく、やさぐれており、しっかり働いている両親と兄弟には家をつまみ出され、挙句に孤独で可哀想な自分と何か近い物を(勝手に)感じたホステス嬢には他の男と逃げられ…紆余曲折あって、そんなシャオウーを汚い物を見るかのような目で見つめる群衆の眼差しに囲まれるラスト。

彼に同情できる余地は作品を通してもあまり描かれていませんが、それにしても現在より厳しい社会主義体制の当時ではシャオウーのような少しはみ出してしまった人間にまともな視線さえ投げかけてくれないんですね。

ゴリゴリの社会主義、統制社会時代の中国という舞台が、より一層社会環境をリアルに感じさせました。

でも実はこれって別にどこの社会でもあることだと思います。もちろん日本も例外ではなく。僕も天邪鬼で協調性を表に出せない人間なのでなんとなく感じます。

結局大きなメインストリームの潜在的な意識に基づくルールっていうものが絶対的なもので、且つそれに共感して準じられる人にだけ快適なシステムになっているんです。弱者やマイノリティに優しくしようなんて言ってますけど、果たしてマジョリティが歩み寄ってあげるべきなのか、はたまたマイノリティが大衆に迎合していくべきなのか…

どっちが正しいとかではありません。ですが、大衆側が何の悪意もなしに投げかけている目線や意識って実は受け手にとっては物凄く残酷なものでもあるんだろうきっと、という風に感じました。

重ね重ね言いますが、それでもシャオウーにはあまり共感できません。でも、ラストのあの民衆の目線がとても刺さってきてゾッとします。

といった感じなので、皆さんが社会や周りの関係から疎外感を感じる、「自分って浮いているな」って思ったときに観て欲しいです。絶対忘れられなくなる作品ですよ。ぜひ。

ちなみに贾樟柯監督の作品の主要キャストは劇中の8割方ずっとタバコを吸っているのですが、これも何か意味があるのかも…?

とまあ、今回はここら辺で。

次回は僕が最も好きな音楽の時代である90年代邦ロックのバンドを取り上げたいと思います、可以好好期待哦~谢谢大家。

※「【連載】なにが好きかわからない」は毎週木曜日更新予定です。
エビナコウヘイ(えびな・こうへい)
1993年生まれ、青森県出身。進学を機に上京し、現在は大学で外国語を専攻している。中国での留学などを経て、現在では株式会社WACKで学生インターンをしながら就職活動中。趣味は音楽関係ならなんでも。
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