【連載】なにが好きかわからない Vol7「火花」(又吉直樹著)

皆さんこんにちは。

就活が始まってからというもの、知り合いは会う度に口を揃えてやれ説明会だの、やれwebテストだの…「友達と会う時くらいその話するの止めない?」って半ギレになるのを毎回抑えています、エビナです。

不安なのは分かるんですけど、その話を振ってくることで僕にまで不安を波及させてくるのはマジで勘弁ですし何より生産性が無くない? って思っちゃうんですよね。

でも僕もホントは不安なのに現実に目を背けているだけなんでしょうけど… 僕達弱虫は身を寄せ合うより先ず己にできることをやるべきなんじゃないかって思います。いつまでも弱いままで良いワケないだろう馬鹿者。

さて、今回お話したいのはミーハーofミーハーなのですが『火花』(又吉直樹著)です。

就活についてクソみたいな不平不満を垂れ流している僕ですが、一応出版業界に勤めたいと思っているので本はそこそこチェックしているんです。又吉直樹さんの本はどれも面白いですよ、『新・四字熟語』なんかも結構又吉さんのセンスが光った一冊だと思います。今回は『火花』ですけど。

『火花』、皆さん映画やドラマでもチェックされた方いらっしゃるんじゃないでしょうか?

僕は菅田将暉さんと桐谷健太さん主演の映画も観ました。関西出身で実力派俳優のお二方が主演というだけあってなかなかにスパークス(劇中の主人公:徳永の漫才コンビ)の舞台上の華やかで眩い光とその裏側の実は切なくて鈍い光、2つの光の対比、師弟関係が描写されていて素直にいい映画だと僕は思いました。ですが、僕は映画公開より以前に『火花』を読んでいたので、原作の方に思い入れがあります。

 

主人公・徳永の相方山下は、印象は薄いですが、良い意味でも悪い意味でも結婚するから家族のために芸人を引退したい「普通で真っ当な人生を歩む」人間です。その一方で、徳永はそもそも性根が大衆から外れている人間で、自分の人生を輝かせようとする意志はあるけど、輝ききることができない。そうした悶々としてイラついた日々をもがいて生きる、僕が好きな対比を用いて言えば“弱虫”です。また、徳永の師匠になる神谷さんという人物は、全く売れていないものの自分が理想とするお笑いスタイルに真っ直ぐであり、他の芸人仲間やスタッフが陰で何と言おうと、自分が信じるスタイルにぶれることはない、強虫と言えます。

(以前、第2回の記事で少し出したこの「強虫と弱虫」の定義からすると、徳永が弱虫という表現はちょっと違うんじゃないの?と思うかもしれませんが、強虫である神谷に憧れている関係性から徳永が弱虫というのは位置づけられるものだと思います。)

世間的にはどうであれ、神谷さんはその人柄もあってか徳永には眩しい存在です。決して大衆に媚びることなく、どんなになじられても自分が面白いと思ったことしかやらない。そんな神谷の強い意志に憧れて慕う徳永ですが、結果として神谷は全く売れず、反対に徳永はコンビとしてもどんどん成功していきます。

自分が理想とする神谷さんは全く受け入れられず、一方でその理想に到底及ばない自分は大衆に受け入れられ始めていく… これって徳永からしたらとんでもなく残酷なんじゃないかなあと思いました。更に、ボロボロの理想(神谷)に「もっと徳永のやりたいように面白いことやったらええねん」とまで言われてしまった。そして、ここで言う徳永の言葉。

捨てたらあかんもん、絶対に捨てたくないから、ざるの網目細かくしてるんですよ。ほんなら、ざるに無駄なもんも沢山入って来るかもしらんけど、こんなもん僕だって、いつでも捨てられるんですよ。捨てられることだけを誇らんといてくださいよ(『火花』(又吉直樹著)より)

淡々とした台詞に見えますが、実はこれが作中で一番徳永の気持ちが篭っているんじゃないかと思います。弱虫は強虫に憧れますが、そんな強虫が理想であればあるほど否定され傷付くところなんて見たくないんですよね、暗に自身が否定されているのと一緒ですし、弱虫はそれに耐えられない。最後の漫才のシーンが一番の盛り上がり所と言われていますが、僕にはこのシーンが火花という作品で一番エモーショナルな部分だと思っています。自分は悩み、もがき苦しみ、「それでも自分の道を歩め」と。ボロボロなはずの自分の理想である神谷に言われた時、心からゲロを吐くように出てきたこの吐露… 人間は、もがき悩む弱い部分に価値があると思う自分にはゾクッとするシーンです。

僕はいつも集団に心から迎合できずはみ出てきた、且つ弱虫サイドの人間なので、自分と同じくはみ出ているのに刹那的に光り輝こうとしている2人、それこそ『火花』の生き様を描いたこの作品が大好きです。『火花』の主役2人のように、人間ってもっと悩んで泣いて、それでもどうにか踏ん張って生きていくのが素敵なのになあ。

今週はこの辺で。

ちなみに又吉直樹2作目の『劇場』もベクトルはちょっとズレますがなかなかに面白いので是非。また来週。

※「【連載】なにが好きかわからない」は毎週木曜日更新予定です。
エビナコウヘイ(えびな・こうへい)
1993年生まれ、青森県出身。進学を機に上京し、現在は大学で外国語を専攻している。中国での留学などを経て、現在では株式会社WACKで学生インターンをしながら就職活動中。趣味は音楽関係ならなんでも。
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