北尾修一が仕掛けた編集の意図とは?──百万年書房が初の雑誌を文学フリマで発売

北尾修一が2017年9月に立ち上げた出版社・百万年書房から、初の自社刊行物『何処に行っても犬に吠えられる〈ゼロ〉』が、5月6日(日)、文学フリマにて発売される。かつて北尾が編集長を務めた雑誌『クイック・ジャパン』で執筆したニュージャーナリズム的手法のルポ記事を、2018年版に大幅に改稿して掲載。それだけでなく、「私と一緒に雑誌を作りませんか?」とTwitterの公募で参加した小西麗さん(女優&ライター:24歳)による原稿とが並列に並び、頭から順番に読んでいくことでひとつの作品となっている。気鋭のイラストレーター・おたぐち、デザイナー川名潤も参加し、1冊通して「ひとつの読み物」となった本作について渋谷で北尾に直撃インタヴューを敢行した。

インタヴュー&文:西澤裕郎


「カルチャーにすらなっていない漠然としたにおい」を記録しておきたい

──百万年書房にとって初の自社刊行物『何処に行っても犬に吠えられる〈ゼロ〉』の発売、おめでとうございます! それにしても、なぜ文学フリマでの販売なんでしょう?

北尾修一(以下、北尾):きっかけは、九龍ジョーくんと話しているときに、「ZINEを作って文学フリマで売るのおもしろいですよ」って言われたことなんです。この前取材してもらった百万年書房LIVE!http://live.millionyearsbookstore.com/ は、雑誌とほぼ同じ発想で作ったWebなんですけど、やっぱり雑誌には雑誌ならではの編集術やおもしろみがあるのも事実で。「久しぶりに雑誌を作るの楽しそうだし、文学フリマ限定のスケール感なら何かできるかもな」と思ったんです。あとは、本の流通システムって、いま曲がり角に来ていて、このままで良いとは誰も思っていない。そんなタイミングで出版社を立ち上げたんだから、第一弾は蔦屋重三郎スタイルで、自分で作ったものを自分で手売りする、読者の顔を見ながらお話もする、みたいなところから始めて、そこから少しずつ規模を拡大していくのが自分の中ではすんなりきた。そこは百万年書房LIVE!と同じ発想ですね。まずはコアな読者ときちんと繋がってから、徐々に間口を広げていく。

『何処に行っても犬に吠えられる〈ゼロ〉』(A5横/80p/定価1,000円)

──文学フリマには、お客さんとして行かれたことはあったんですか。

北尾:大塚英志さんが立ち上げた初期の頃に行ったのと、ここ数年で2回くらい行っています。まさか自分がブースを出す側に回る発想はなかったですけど。

──文学フリマで販売することによって、本の内容も影響は受けているんじゃないですか?

北尾:無意識では影響されているかもしれませんけど、文学フリマに来るお客さんを読者層に、と明確に考えて作ったわけではないですね。

──百万年書房LIVE! で北尾さんが連載している「何処に行っても犬に吠えられる」がタイトルになっており、北尾さんの名刺代わりの1冊になっているとも言えます。

北尾:そうですね。どっちかというと、「文学フリマに来るような読者層に」というより、「あの連載を読んでいる人に楽しんでもらえるものを」と考えて作ってました。百万年書房LIVE! 連載のスピンオフ(文学フリマversion)みたいな感じです。

百万年書房LIVE! で連載中の「何処に行っても犬に吠えられる」バナー

──個人的には、北尾さんの連載が百万年書房LIVE! の中で1番おもしろいと思っていて。「何処に行っても犬に吠えられる」は、2018年の東京をルポタージュするノンフィクションですけど、テーマやルールみたいなものはあるんでしょうか。

北尾:取材はちゃんとする、でも無理はしない(笑)。自分の生活圏の中でテーマを探す、安倍昭恵氏や山口達也メンバーに取材依頼はしない。普段の生活の延長線上で、半歩だけ踏み出した先をルポルタージュして、今の東京の空気感みたいなものを記録しておきたいなと。

──それこそ、恵比寿や渋谷などでの出来事が中心になっていますもんね。

北尾:本当に事務所の近所ばっかりです。

──派遣会社に登録してコピー用紙を運んでいた話は、リアリティがあるけど視点がおもしろくて、なぜか暖かい気持ちで読んでいました。

北尾:西澤さんもそのうち分かると思いますが、「いざとなったら肉体労働ができるかどうか」は おっさんにとって切実なテーマです。

──ちょっと踏み出しただけで、日常ってこんなにおもしろいんだなというのは、北尾さんの文章を読んでいてよく思うことです。磯部涼さん著『川崎』の書評を書くために、渋谷の街を歩きながらスケートボードに乗っている人を探すという記事を読んでから、本当に今の渋谷ってスケートボードしている人多いなと思うようになって。

北尾:サイト名どおり、LIVEで書いたものをLIVEで読んでもらっているメディアなんですけど、たぶんオリンピックが終わったあとに読み返すと、自分でもまた違う感想を持つんじゃないかと思っているんです。「ああ、2、3年前の東京ってこんなノリだったよね」って。この空気感、たぶん今だけだと思うので、そういったカルチャー誌も取り扱わない「カルチャーにすらなっていない漠然としたにおい」を記録しておきたいんです。

やってみないとどうなるかわからないことって、楽しいじゃないですか(笑)

──そういう意味では時代を切り取っている記事だと思います。その手法のプロトタイプとなっているのが、90年代に『クイック・ジャパン(以下、QJ)』で北尾さんが書いていたニュージャーナリズム的手法をとった記事なんですよね。

北尾:ここであの連載が始まった経緯を話すと、ご存知のとおり昨年秋に僕がフェイクニュースで炎上したじゃないですか(笑)? そのときに「やっぱり自前のメディアを持つのって大事だな」と思って百万年書房LIVE! を作ったんです。で、記事がどんどん消えていくというコンセプトを思いついたんだけど、さすがに他人の記事を24時間で消すのは忍びないので、自分が書いた記事を物凄いペースで消す実験をしてみようと。そこから「あ、今の自分が記事を書くなら、「何処に行っても犬に吠えられる」ってタイトルをつけるとキャッチーだな、知人たちはきっと笑ってくれる(失笑?)だろうな」と思っただけ(笑)。ただ、そのタイトルを思いついた時に、同時に昔の自分がQJで書いていた記事を思い出していたんです。まだ自分が編集長になる前に、いろんなルポ記事を書き散らしていた時代があるんですけど、あれと同じことを50歳目前の自分がやったらちょっとおもしろいかなと。

──(笑)。当時から、いまのような取材の仕方や書き方は意図されていたと。

北尾:それはQJ創刊編集長の赤田(祐一)という天才編集者がいるんですけど、赤田が当時、ニュージャーナリズムという言葉を誌面でよく使っていたんです。で、自分が当時のQJに協力できることがあるとすれば、現場に突っ込んでいってネタを掴んで帰ってくることしかないんじゃないかなと。赤田の編集テクニックの引き出しの多さや知識量は本当に凄いですから。

──北尾さんは、当時から知らない場所に飛び込んでいく度胸をもっていたんですね。

北尾:度胸はないくせに好きなんです。やってみないとどうなるかわからないことって、楽しいじゃないですか(笑)。どこかの会議室で「今から1時間、取材をしてください」って言われて、話す気満々のタレントさんが目の前に座っている、という状況は「取材」じゃないんじゃないか? という刷り込みがあって。自分にとっての「取材」は、相手が話を聞かせてくれるかわからない状況で、そもそもそれが記事になるのかどうかすらもよく分からないもの。今の連載「何処に行っても犬に吠えられる」も、ボツネタや無駄足もけっこうあるんですけど、それも含めておもしろがってやっています。

──ニュージャーナリズムというと、沢木耕太郎さんとかが浮かぶんですけど、北尾さんの中にあるニュージャーナリズムって、どういうものなんでしょう。

北尾:新聞や週刊誌のような取材記事ではなくて、客観・中立の立場を踏み越えて、状況に自分も巻き込まれながら、その巻き込まれている自分も含めてレポートする。みたいな感じですかね。

──読み手からしたら、書き手も登場人物のような印象を受けるといいますか。

北尾:そうそう。

分かりやすく言えば『COME ALONG』シリーズみたいなことです

──『何処に行っても犬に吠えられる〈ゼロ〉』には、過去に『QJ』に掲載された記事もバージョンアップされて載っているんですよね。

北尾:はい。おかげさまで自分の連載「何処に行っても犬に吠えられる」、「読んでいるよ」と言われることが最近多くて。そういう人たちに昔のQJの記事を読んで欲しいな、と単純に思ったんです。そのタイミングで文学フリマの抽選に当たったので、これは「やれ」ということだなと。で、せっかくなら一手間かけようかな、ひょっとしたら昔のQJ読者も読むかもしれないから、そういう人たちが読んでも楽しめるように、今回の文学フリマ限定のアレンジを施そうと。

──以前、『QJ』のバックナンバー持ってないですか? と北尾さんから電話がかかってきたのは、この本のためだったんですね(笑)。

北尾:そうそう。自分の作った本って、昔から家に1冊も持ってないんです。本になるまでにさんざんゲラで読んでいるわけだから、出来上がってから読み返すことってほとんどないし、家狭いし。でもこういうとき困りますね(笑)。

──あははは。Twitterで編集を手伝ってくれる子を公募していました。それも今回の内容に繋がっているんですよね。その子の原稿が掲載されているのも特徴です。

北尾:誰かと組むんだったら自分と考え方が全然違う人がいいなと思って、なんとなく20代ががいいなと思ったんです。それこそ自分の取材のやり方と似ているんですけど、応募が来る前にこういう人がいいと決めずに、応募が来てからどうしようか考えようと。

──そのなかで、小西麗(@uraranran524)さん(女優&ライター:24歳)を選ばれた理由は?

北尾:応募者の中には、もっと編集スキルの高い人もいたんですけど、彼女と話している途中で今回の雑誌の構想が浮かんだんです。彼女が書く文章は自分と真逆のスタイルで、それもいいなと思った。実際に掲載したのは6本なんですけど、20本以上の原稿を書いてもらってたくさんボツにしたので、恨まれているかもしれません。

──原稿のテーマはあったんですか?

北尾:なし(笑)。

──テーマがないなかでどんなことを書かれることが多かったんでしょう。

北尾:フィクションかノンフィクションかわからない、女の子を主人公にした日々のエッセイみたいな感じです。その中から、今回の雑誌のパーツとしてはまるものを6本選びました。

──北尾さんの文章も、そういう視点で選抜されている?

北尾:そうですね。今回の雑誌は、1冊通して「ひとつの読み物」だと思ってほしいんです。だから、自分のなかではミックステープを作っている感じに近かったんです。自分が山下達郎で、小西さんは小西克哉。分かりやすく言えば『COME ALONG』シリーズみたいなことです。

──ミックステープの場合、チルアウトとかアゲアゲみたいなテーマがあるかと思うんですけど、『何処に行っても犬に吠えられる〈ゼロ〉』に関しては?

北尾:そういうテーマは設定してなかったです。2018年GWの気分ミックス、じゃダメですかね?

──あははは。個人的には、大阪ミナミのおばさん、ミス・ポーラを追いかける記事が入っていたのが嬉しかったです。学生のときに読んで衝撃を受けました。

北尾:前のインタヴュー(https://storywriter.tokyo/2018/01/11/003/)で西澤さんが言ってくれてたやつですね。西澤さんへのサービスのつもりで入れてみました。

「ゼロ」は単にストロングゼロに便乗しただけなんですけど(笑)

──あと、デザインやロゴも可愛らしい本になっていますよね。

北尾:デザインは前からお仕事をしている川名潤さんにお願いしています。ものすごく分かりやすく言うと、『君たちはどう生きるか』の漫画をデザインしてる方です。イラストは、おたぐちさんにお願いしているんですけど…… 本当に可愛いですよね。

──「ゼロ」とついているのは、今後続いていく可能性があると捉えていいですか?

北尾:何も考えてないですけど、まあ流れ次第では。「ゼロ」は単にストロングゼロに便乗しただけなんですけど(笑)。

──本当ですか?! でも確かに10年後、「ストロングゼロ」という言葉が通用するかはわからないですし、時代性のある言葉といえば言葉ですね(笑)。ちなみに、文学フリマでは、他にも販売する雑誌はあるんでしょうか?

北尾:実はもう1冊あるんですけど。そっちはもっと小部数で、地下出版物(笑)。当日会場に来た人だけのお楽しみです。

──気になります! タイトルだけでも教えてもらえますか??

北尾:『good girl go to heaven、bad girl go to everywhere』(良い子は天国に行けるけど、悪い子はどこへだって行ける)なぜか英語のタイトルなんですけど、地下出版物だから別にいいやって。こちらは文章を一切書かずに、編集テクニックだけで構成した超限定本なので「買ってのお楽しみ」ということで。当日は自分で売り子やってるので、みなさんぜひ遊びに来てください。

【第二十六回文学フリマ東京】
2018年5月6日(日)@東京流通センター 第二展示場
時間:11:00~17:00
料金:一般来場は無料。出店者カタログ無料配布(先着・無くなり次第終了)

文学フリマ公式サイトはこちらから(https://bunfree.net/

北尾修一(きたお・しゅういち)
1968年京都府生まれ。編集者。株式会社百万年書房代表。http://millionyearsbookstore.com/
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