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StoryWriter

「あいにく、アセは本日出社しておりませんが……」

派遣先の上司・川野マネージャーが気を遣ってくれている。クレームが入り、私は会社に迷惑をかけてしまった。

「どうしたのアセくん? 最近なんだか仕事に身が入ってないわよ」

マネージャーの言う通り。私は日々の仕事に支障が出てしまうほど気もそぞろだった。原因は、嬢。あの日以来、嬢のことが頭から離れないのだ。

嬢との初めての同伴の日。焼き鳥屋で2時間ものデートタイムを過ごした私たちが向かったのは、焼き鳥屋から徒歩1分、嬢の働く店。

「いらっしゃいませ」

店の看板前でボーイに迎えられ、嬢と私は階段を降りた。

「じゃあ、後でね!」

店の入り口で、嬢はそう言って手を振ると、着替えとメイクのため控室へと消えて行った。ボディにピッタリとフィットして谷間をチラ見させたセーター姿で薄めのメイクだった嬢。そのままで良いのに。なぜ着替えてしまうのか。そんな忸怩たる思いを抱えつつ、席に着く。

「こんばんはー! 飲んできた感じですかぁ」

すかさずやってくる中繋ぎの嬢。結構、カワイイ。しかし、私には本命の嬢がいる。嬢以外の嬢に心を許すわけにはいかない。そんな私の貞操観念をぐらつかせる中継ぎ嬢。絶妙に私の体に密着し、華やかな香水を漂わせて心をくすぐる。

「嬢ちゃんって、綺麗ですよね。スタイルもいいし。うらやましいなあ」

私が嬢のお客であることを最大限にリスペクトした発言。生き馬の目を抜くキャバクラ界に於いて、他の嬢を称えるとは。この子はできる中継ぎだ。ジャイアンツで言えば山口鉄也投手並みの中継ぎ力。おかげで、私は嬢が登場するまでの時間を夢中で駆け抜けることができた。

「おまたせしました~」

中継ぎ嬢がマウンドを譲り、嬢がやってきた。私は、その姿に目を見張った。先ほどまでの嬢のビジュアルとはまるで違う女性がそこにいた。胸元がざっくりと開いたブルーのドレスにハイヒール。うなじを見せ盛りに盛ったヘアスタイル。真っ赤なルージュを引きアイシャドウを塗った派手なメイク。それはまるで夜の蝶。

まるで、キャバクラ嬢じゃないか。さっきは女の子だったのに。ボーントゥビー嬢。嬢は生まれながらの嬢なのかもしれない。私は緊張のあまり鼓動が高まりすぎて気絶しそうになる。私の嬢はこれじゃない。さっきまでの嬢を返せ。リメンバー、素の嬢。口をパクパクさせている私に、嬢が言った。

「ボトル、入れよっか?」

頷くしかない私。「鏡月」5,000円也をオーダーして、すかさず頭の中でそろばんをはじく。なんとか、なる。

そんな気持ちを見透かされたのか、嬢が畳みかける。

「私、アセロラで割って飲みたいな」

私は自分の無知を恥じつつ、嬢にアセロラの価格を尋ねる。

「4,000円、かな」

アセロラが4,000円もするのか。なんという世界なんだ。そんなバカな。あまりにも高すぎる。もしかしたらコーラを飲んだら1万円するのではないだろうか。ジャンプが170円だった世代の私には物価が高すぎる。これがキャバクラという世界なのか。

私は仰天し、震える手でボーイを呼びメニュー表をもらう。

「アセロラのピッチャー:2,000円」。どこにも4,000円などとは書いていない。

「あれ? 間違えてた! 超ウケる!」

チンパンジーのように手をたたきながら大ウケしている嬢。そんなに面白いかといえば、面白くない。むしろ、私はムッとしても良い。だがしかし、私は許す。嬢がアセロラを飲みたかったがための些細なミスを。

そして、もしもアセロラが4,000円だったとしても、私は注文を受け入れただろう。私は思った。素の嬢であろうと、夜の蝶に変身した嬢であろうと、やっぱり嬢が好き。本気で好きなのだ。改めて、嬢にすべてを捧げることをここに誓おう。

そう、この日から私は「アセロラ4000」となったのだ。

〜第5回へ続く〜

【連載】アセロラ4000「嬢と私」第1回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第2回
【連載】アセロラ4000「嬢と私」第3回

※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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