【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた! E.H. ポーターの「5つの態度」

ビートルズの超有名な曲『Let It Be』は、バンドが崩壊しつつあることを悲観したポール・マッカートニーの作です。

 

そのポールは1970年にビートルズの脱退を表明するのですが、さて、みなさんは「バンド、やめたいんだ」と言われたとき、どんなふうに答えますか?

1. 「どうしてやめたいの?」
2. 「バンドに不満があるのか」
3. 「そんなのダメだよ、困るよ」
4. 「やめたいならしかたがないね」
5. 「やめたいと思ってるんだ」

僕の経験上では、1の「どうしてやめたいの?」型の人が一番多いような気がしますが、みなさんはいかがですか?

これは、E.H.ポーターという人が提唱した「5つの態度」という類型です。人はこの5つの態度のいずれかでコミュニケーションをはかります。

まず、1の「どうしてやめたいの?」ですが、これは「調査的態度」といいます。相手の人に対して、もっと知識や情報を集める態度で、「診断的」とも言えます。原因を探って処置方法を考える、という客観的な構えに立って外側から相手に働きかけて、成果をあげようとする態度です。

これはこれで悪くないですし、局面においては必要なことなのですが、気をつけないと、人はいきなり調査・診断されると身構えますよね? 下手すると尋問されてるような気持ちになってしまいます。これは相手との人間関係や信頼関係、タイミング等への配慮がなされていないと、うまくいかない場合があります。

2は「解釈的態度」になります。相手の発言に対し「不満があるのだろう」という解釈をしています。この解釈が当っていれば良いのですが、はずれていると、単なる決めつけになってしまうという危険性があります。これをやられた相手は、その解釈がぴたりとくるものでない場合も、「う〜ん、まあ、そうですね」とか「ああ、それもあるかもしれませんね」とか返答することも多く、すると、「自分の解釈が当った!」と気分良くなってどんどん変な方向に行ってしまう、なんてこともあります。これも何らかの形で「あなたはこう考えるべきだ」というふうに暗示していて、やはり外側から相手に働きかけて成果をあげようとする態度といえます。

3は、「評価的態度」です。相手の発言に対して、善悪・正不正・適不適などの判断をしている態度です。これは、なんらかの形で相手のなすべきこと、なさざるべきことを指示していて、自分の評価尺度で判断していますから、相手を受容しているとは言えません。そしてやはり外側から相手に働きかけるやりかたと言えます。

4は「支持的態度」です。このほかに、なんらかの相談に対して「大丈夫ですよ」と保証したり「あなただけではない」となぐさめたりすることも含まれます。「同情的」「温情主義的」で、深刻な感情や不安を緩和し、除去して落ち着かせようという態度でもありますが、「あなたの現在の感じ方や考え方は不必要である」と言っていることにもなる場合があり、自分の意図とは別に、相手の心の動きを抑圧するはたらきかけにもなることがあります。そして、これも「こちらからの働きかけ」によって相手を変えていこうというアプローチです。

最後の5は「理解的態度」といいます。相手の言葉、感情、ショック、知覚等をありのままに受取、正しく理解しているかどうか、それを確かめようとする態度で「共感」「受容」といわれる態度を含みます。これは相手の内側からの働きかけになり、カウンセラーの態度のベースはこれになります。まずは受容する。そして、相手が語り始めればそれを傾聴しますし、沈黙すれば待ちます。あるいは「良かったら、もう少し詳しくきかせてもらえますか?」とかでも良いかもしれません。

前回も書いたように、カウンセラーは、とりあえず個人的な価値判断はぜんぶ横に置いて、「相手が何をいいたいのかをありのままに」受入れる態度をベースとします(「無条件の肯定的配慮」「共感的需要」)。

1〜4がすべてだめということではなくて、相手との信頼関係によってはアリな場面もあるでしょう。まず基本は5の「理解的態度」が良いと思いますが、「自分がどの態度の傾向が強いのか」を自覚しているだけでも、随分違うと思います。

ちなみに『Let It Be』は、ある日、ポールが14歳のときに亡くなった母・メアリーが耳元に降りてきて「あるがままに全て受入れなさい」と囁いたことにインスパイアされて作ったと言われています。ちょっと意味合いは違うかもしれませんが、メンバーの脱退、バンドの解散という危機に、「あるがままにすべてを受入れた」結果、名曲が誕生したのかもしませんね。

参照:E,H,Porter. 1950. An Introduction to Therapeutic Counseling. 大段智亮 1986人間の看護の出発点

Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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