【連載】テラシマユウカの「それでも映画は、素晴らしい。」Vol.4『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

突然ですが、
誰かの為に自分を犠牲に出来ますか?

私には分かりません。

人の為に自発的に行動するなら、例え自分に犠牲があっても決して見返りを求めてはいけない。

けれども、自分が気持ち良くなるだけの善意を信じて疑わず振りかざしてくる人もいれば、無意識のうちに見返りを期待してしまっている人も多いと思います。

自分がやった善意が相手にとっても善であるかなんて分からないのに。

「誰かの為に何かしたい」

その言葉の裏には少なからず自分の為でもあるものが見え隠れします。

そもそも人の為に何かをすることが、犠牲を払ってるなんて考えに至る自体おかしいのかもしれません。

そんな自分に恥ずかしくなります。

* * * * * * * * *

そんなこんなで今週は、息子の為に犠牲を払った深い愛のあるお話しをご紹介します。

SCRAMBLESの沖悠央さんおすすめ映画です。

Vol.4『ダンサー・イン・ザ・ダーク』

 

【以下、ネタバレを含みます。】

舞台はアメリカのある町。チェコからの移民セルマは、息子ジーンと2人暮らしをしていた。貧乏だが工場での労働は、友人に囲まれて日々楽しいものだった。

だが、セルマは先天性の病気で徐々に視力が失われつつあり、今年中には失明する運命にあった。ジーンもまた、彼女からの遺伝により13歳で手術をしなければいずれ失明してしまうため、必死で手術費用を貯めていた。

しかし、セルマは視力の悪化により仕事上のミスが重なり、ついに工場をクビになってしまう。しかも、ジーンの手術費用として貯めていた金を親切にしてくれていたはずの警察官ビルに盗まれてしまう。セルマはビルに金を返すよう迫り、もみ合っているうちに拳銃が暴発、ビルは死んでしまった。

セルマは殺人犯として逮捕され、裁判にかけられる。セルマはこのまま真実を語らなければ、死刑となってしまう。しかしセルマは真実を語らず、無情にも裁判官からの温情は得られず死刑となる。セルマは最後に恐怖からジーンの名前を叫び、死の恐怖を女性看守に訴える。女性看守はセルマの恐怖を避けるため、顔にかぶせるはずの黒い布を例外的に外す。死刑の見届けをしていた元職場の同僚キャシーは周囲を振り切り、死刑台にいるセルマにジーンのメガネを渡す。セルマはジーンがもうメガネが必要なくなり、手術に成功したことを知る。安心したセルマは落ち着き、笑顔になりながら「最後から二番目の歌」を歌った。しかし、途中で死刑が執行されてしまう。セルマが真実を語らなかった理由は「自分よりもジーンが大事だったから」であり、ビルを殺してでもジーンのためなら構わなかったためであった。

涙が止まらなかった。

ここまで映画で絶望を味わうものかと、言葉を失いました。

最後には心臓が凍て付いてしまいそうな程の衝撃が苦しすぎる。

鑑賞前から救いのないストーリーだと、ふわっと知っていました。ですがそれでも主人公が困難を乗り越え、救われると、ほんの少しでも期待を抱いていた私は、突然背後から悪魔にメッタ刺しにされたかの様な気分です。

最悪という言葉がぴったりな映画。

セルマはとても美しく逞しい人間でした。

母の無償の愛を持つセルマは、我が子の目を守るため自分の命まで犠牲にします。

この作品は絶望そのものです。

ですが、解釈の仕方によっては、セルマは幸せな人生を送ったと言えるのではないかと思います。私はそう思いたいです。

彼女の周りには少なからず愛に溢れていた。

彼女を愛している存在がいた。

視力を失った彼女が本当に見えていなかったのは、身近な存在から向けられた愛ではないでしょうか。セルマは誰にも助けを求めず、自分を犠牲にしました。

劇中のセリフからも、人に頼らず弱音を吐かないことが強さであるとセルマは考えていたととれます。

セルマは優しすぎるあまり、人を思い、自分が思われているという事に気づけなかったのではないか。

ひとりで強がり過ぎるのも逆に、周囲の人間を悲しませてしまうことになり兼ねません。

セルマは、貯金を盗まれ濡れ衣を着せられ死刑になっても、最後の最後までビルとの秘密を守ります。

絶対に自分の決めた事を譲りませんでした。幼いジーン以外の登場人物全員に譲れない自分があった。

だから誰も救えなかった、そんな気がします。

セルマがついた優しい嘘が全て裏目に出る、救いがないとはこういうことか…… と、もどかしくともどうしようもない。

むごすぎるストーリーの中で心折れずこの作品を最後まで観れたのは、ビョーク演じるセルマの唯一無二の愛しい歌声があったからです。

目の光を失い、人間の欲に汚された暗闇でのミュージカルという唯一の救い。

ミュージカルによって生き生きとしたセルマを見て、”音楽に救われる”という感情の真意に初めて触れることができた気がします。

現実から妄想のミュージカルに移る流れはあまりにも自然で。現実だと思わず錯覚してしまいます。

セルマが辛い現実から逃れるように妄想する世界で歌っている言葉がグサグサと突き刺さり、ラストのシーンには息ができなくなります。

歌いながら死刑台までの107歩を華麗なステップで向かい、そして黒い布を被せられ死の恐怖に泣き叫び、息子ジーンへの愛を歌う。

決して最後を見ないセルマの、最後から2番目の歌。

憂鬱が過ぎます……。

処刑が実行された直後の無音に恐怖を掻き立てられ気が狂ってしまいそうで。泣き叫びそうになる、、

悲しみの波に溺れて窒息してしまいそうで、良い意味でも悪い意味でも”心動かされる”作品でした。

第三者から見ればセルマはただ不幸な人生と捉えられてしまうかもしれません。ですが、愛する息子の為に躊躇わず生きたという母として最高の幸せを彼女は感じていたと信じていたいです。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、観て欲しいけど観ない方が幸せなのかもしれない。心に異質なものをドンっと置かれた気分です。

ハリーポッターと死の秘宝で私の大好きなドビーやスネイプ先生が殺されてしまった時ぶりに映画で号泣しました。

史上最悪に素晴らしい映画です。

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次回は、GANG PARADEマネージャーの辻山さんオススメ映画をご紹介します。

それではまた来週〜!

 

※「それでも映画は、素晴らしい。」は毎週火曜日更新予定です。

【連載】Vol.1『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』(推薦者:テラシマユウカ)
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テラシマユウカ


2014年に結成され、現在9人組として活動中のアイドル・グループGANG PARADEのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

テラシマユウカ Twitter

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