【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回

「××●▽で、■◎まさかの×◎▽〇〇×!◆が〇の×◎~!」

なにを言っているのか、まったくわからない。

派遣業務の休憩時間。私は、給料の良い職場にとらば~ゆすべく、求人誌を眺めていた。

そんな私に、さっきから、エトウさんがしきりにガサガサ声でこちらに向かって話しかけてくる。冬を迎え、空気の乾燥と共に一段と磨きがかかった天龍ボイス。聞き取り、不能。

しかも、昨日はエトウさんがヴォーカルを務めるデスメタルバンドのライヴがあり、完全に喉は潰れているようだ。

私は、理解したふりをしながら時折うなづき、場をしのいでいた。

それだけ、今の私は己の身の振り方に真剣になっている。先月までの私とは、違う。だってそうじゃん、マンスリーで人生はステップアップするもの。今すぐ、少しでも良い条件でデューダしたいのだ。

清潔な職場環境、高い賃金。円滑な人間関係、そして巨乳。

いや、ダメだダメだダメだ。バカ、私のバカ。職場に巨乳を求めてはダメだ。仕事に集中できなくなってしまう。私が転職する目的は、純粋にお金を稼ぐため。そして、お金が貯まったならば、行こう、あの街の向こうへ。

サカイくんがやってきて、エトウさんが発する工事現場的なノイズを私の代わりに受け止めている。すまない、サカイくん。私は今、大切な時を過ごしているのだ。後は、任せた。

しきりにうなづいているサカイくんに対し、「キミ、僕の言葉がわかるのかい!?」とばかり、嬉しそうにボリュームアップするエトウさんのガサガサ声。私は、歯を食いしばり、求人誌に意識を集中した。

「◎×●■〇▽キャバクラ×◎▽〇〇×!」

曇天のごときガサガサ声の中から差し込む、一筋の光。「キャバクラ」というワードが私の耳に飛び込んできた。

「■〇▽歌舞伎町×◎▽〇〇×だよねえ」

耳が慣れてきたのか、徐々に聞き取れるようになってきた。どうやらエトウさんは歌舞伎町のキャバクラについて、私に訴えかけていたらしい。

そんな私の変化に気付いたのか、サカイくんが、私に解説をはじめる。私より、エトウさんとの付き合いが長いサカイくん。もはや、彼のガサガサ声を翻訳できるのは彼だけなのだ。

「エトウさん、あの後、歌舞伎町で違うキャバクラに行って、お気に入りの嬢を指名して、80,000円も使ったらしいっすよ」

なんということだ。エトウさんは、私たちと一緒に行った「ア・モーレ」ではなく、単独で別の店に行っていたのだ。私たちに内緒にしているなんて。天龍ばりの、ダブルクロス。私は、「ア・モーレ」のニューウェーブ嬢・ミカに会いたいがために、資金を作ろうと転職を企てていたのに。しかも、どうやらもっと高級な店に行ったらしい。

「エトウさん、昔歌舞伎町でホストやっていたらしいですからね。結構人脈あるみたいですよ。しかも、かなり楽しくて延長しまくった結果、80,000円になったそうです」

そうなのか。ブサメンなエトウさんが、ホスト。まあ今はそのことはいい。ということは、エトウさん経由で店に行った方が、よりディープな歌舞伎町を知ることができるのかもしれない。見ると、サカイくんが仰天したような顔をしている。いったい、どうしたのだろうか。

「アセさん、エトウさんが、奢るから今度一緒に行こうって言ってますよ!」

私は、サカイくんを押しのけると、より詳細を聴き出すべく、エトウさんに近づく。しきりに話そうとするエトウさんのタラコ唇に求人誌を押し当ててふさぐと、紙とペンを渡した。

「歌舞伎町 高級店 60分11,000円  ボトルは8,000円から ギャル多め」

あらゆる情報をエトウさんから引き出す私。「ギャル多め」。ギャル、気になる。

「ちょっと、休憩時間とっくに過ぎてるわよ!」

川野マネージャーの代わりに、暫定的に責任者を命じられているベテラン派遣社員のおばさん、安田さんが呼びかける。その後ろから、中国人留学生のテイさんが訝し気にこちらを見ている。テイさんは、もしかしたら私に気があるのかもしれない。いや、今はそれどころではない。一刻を争う事態なのだ。

私は立ち上がろうとするエトウさんの肩を掴んで再び着席させると、店の名前を書くように促した。

「ロザーナ」

私は、すぐにスマホにメモをした。

しばらく、転職はおあずけのようだ。

行こう、歌舞伎町の「ロザーナ」へ。

〜シーズン3 第4回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回

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アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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