【連載】Jumpei Yamada「illusionism」2nd season Vol.2──太田ひな

泉谷しげるや曽我部恵一をはじめとしたミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD、書籍、広告、webや雑誌などの撮影を手がけている写真家のJumpei Yamadaが、写真をもっと自由に捉えてほしいという想いをもって、7月3日(火)よりスタートした連載「illusionism」。

2nd seasonは、1人のゲストモデルの撮り下ろしの写真を、月曜日から金曜日まで毎日更新。最終日金曜日にはゲストライターによる書き下ろしストーリーも掲載。Jumpei Yamadaとモデル、ライターとの化学反応を毎日お楽しみにご覧ください。

Vol.1──櫻井 紗季(東京パフォーマンスドール)はこちら


Vol.2 太田ひな

DAY1

DAY2

DAY3

DAY4

DAY5





 

赤いマフラーが好きだ。10代の頃からマフラーは絶対「赤」だと決めている。違う色や柄のものも買ってみたけれど、どうもしっくり来ない。このこだわりは、中学生の時のある出来事が少なからず関係しているように思う。

 

私の通っていた学校はとにかく校則が厳しかった。女子はおかっぱか三つ編み、男子は耳と襟足にかからない短髪、制服を少しでも着崩すようなら先生に怒鳴られ、それでも済まない場合は「気合い棒」と呼ばれる竹刀でぶっ叩かれる。

 

そんな学校だったから、同じ陸上部にいたK先輩は特別に目立っていた。ただでさえ背が高いのに、髪の毛をワックスで立たせていたせいでもっと大きく見えたし、学ランの前ボタンを全開にして「腰パン」と呼ばれるズボンの履き方をしていた。女性に好かれそうな切れ長の目と薄い唇、甘えるような喋り方が特徴的で、実際に「開校以来の色男」と呼ばれていたくらい色恋の噂が絶えず、学年にいる3分の1の女子はK先輩の元カノだと聞いたことがある。

 

ある日、下校途中に真っ赤なマフラーを巻いたK先輩が自転車に乗っている姿を見かけた。校則では黒・グレー以外のマフラーは禁止だし、当然、自転車での登下校も厳禁だ。一緒に校則違反を目撃した友人は「あのマフラー、カシミヤで年上の彼女にもらったらしいよ」と言い、「いつも付けてるブルガリの香水も」と加えた。カシミヤもブルガリも何のことかさっぱり分からず、どこかの国の名前みたいに聞こえた。

 

そしてその時、芥川龍之介の「蜜柑」という小説で、田舎くさい小娘が汽車から蜜柑をばら撒くシーンをふっと思い出した。基本的には暗くてセピアっぽい世界観の作品なのに、蜜柑がばら撒かれる瞬間だけは鮮やかなオレンジ色がパッと映える。それと同じように、冬の日暮れのいつもと同じ通学路に、K先輩の赤いマフラーだけがくっきりと色づいて見えた。驚くほど綺麗な光景だった。

 

愚かなことに私はその冬、上野で赤いマフラーを買ってしまうのだった。1000円のカシミヤでも何でもないマフラーだったけれど、真っ赤で無地で、ほとんど見た目が一緒のもの。ついでにアメ横の香水屋に入って、BVLGARIと書いてある香水のテスターを手に取り、自分に振りかけてみた。思いのほかキツくて、頭がくらくらする。お店を出てすぐに買ったばかりの赤いマフラーを巻いて、香水の匂いを漂わせながら少し早足で歩いてみた。途中、ショーウィンドウに映る自分の姿を見たら、やけに背筋がしゃんと伸びていた。

 

自分で言うのもなんだけど、私は優等生と呼ばれるようなタイプだったと思う。だから、ひっそり買った赤いマフラーを学校にしていくことは一度もなかったし、ブルガリの香水を付けることもなかった。それからしばらくして、友人と下校をしている時、K先輩が追い越しざまに「君たちこれあげるよ」とピンクの紙を渡してきた。動揺しながらその紙を覗き込むと、ラブホテルの割引券だった。「うわ、キモー!」と友人が叫んだけれど、K先輩は振り向きもせず颯爽と歩いて行った。「先生に言うわ」私は低い声でそう呟いてピンクの紙をビリビリに破き、陸橋から投げ捨てた。

 

あの日、同じようなマフラーと香水を付け、背筋を伸ばして歩いたのは一体何だったのか。もしかしたら恋だったのかもしれないし、もはや憧れのあまりK先輩になってしまいたかったのかもしれない。でも「先生に言うわ」という言葉を吐いた時、私は少し震えて泣きそうだったから、やっぱり好きだったんだろう。



Jumpei Yamada「illusionism」シーズン2は、月〜金、毎日更新いたします。

Model = 太田ひな

1996年生まれの女性シンガー・ソングライター。幼少期よりピアノに触れ、15歳の時に作曲を開始。2015年にライヴをスタートし、現在も都内近郊のライヴハウスを中心に活動している。2017年にリリースした自主制作CD『理性的なあなた』は、手売りで300枚以上の売上を記録。四谷天窓で行なわれた同作品のレコ発ライヴでは公演開催前にチケットがソールドアウトとなった。ライヴではドラム、ベース、ラップトップなどを入れたバンド編成、ピアノ弾き語りのソロ編成、ソロ〜少人数のラップトップミュージック編成など、様々な編成で行なっている。

Text = まりな(日本マドンナ)

3ピースバンド「日本マドンナ」のギタリスト。

2018年4月には6年ぶりの新作『ファックフォーエバー』をリリース。

新宿を拠点にマイペースに活動中。

Twitter : @nihonmadonna

Photograph = Jumpei Yamada(じゅんぺい・やまだ)

1987年富山県生まれ。
2007年より関西にて活動。
活動拠点を東京へ移し、2014年独立。
ミュージシャンのポートレート撮影を中心に、CD・書籍・広告・webや雑誌等各種媒体の撮影を手がけ、並行して自身の作品制作も行う。

2015年2月 写真集「ギミ!ギミ!ギミ!ダーリン!」発表。
2018年2月写真展「immanent」at 高円寺FAITH

Web : https://jumpeiyamada.com/
Twitter : @jumpeiyamada_

写真はもっと寛容で発想力を掻き立てるもの──写真家・Jumpei Yamadaが人生、連載を語る
「illusionism」シーズン1 はこちら


被写体募集
illusionismに被写体として参加して頂ける方を募集中です。経験不問。興味のある方は「氏名」「年齢」「バストアップ写真、全身写真(3ヶ月以内撮影)」「芸能活動されている方は芸歴・活動歴」を明記・添付の上、件名:被写体募集にてillusionism.wanted@gmail.comまでご連絡下さい。応募者多数の場合、採用させて頂く方にのみご連絡させて頂きます。

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