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【INTERVIEW】巻上公一に訊く、40周年イヤーを邁進中のヒカシューの現在

StoryWriter

バンド結成40周年イヤーを迎え、精力的に活動中の5人組ロックバンド、ヒカシュー。巻上公一を筆頭に5人の強烈な個性がぶつかりあい、独特な世界を繰り広げる楽曲に加え、それぞれが即興性を有するロックバンドとして長年唯一無二の活動をしてきた彼らは、今もなお進化の最中である。2019年は毎月のマンスリーライヴに加え、巻上がプロデュースを務めた〈JAZZ ART せんがわ 2019〉、〈第1回熱海未来音楽祭〉を開催するなど、ますますエネルギッシュに動き続けている。そんな現在のヒカシューについて、巻上にロングインタビューを行った。

取材&文:西澤裕郎


“システムと乱丁”が表現になる

──昨日のライヴ(2019年8月22日〈ヒカシュー40th Anniversary [マンスリーヒカシュー 8月編]〉)を拝見させていただいたんですけど、2部のインプロビゼーション(即興演奏)が本当によくて。会場全体でコミュニケーションを取っていく感じがすごく伝わってきました。

巻上:毎月違う感じでやっているんだよね。インプロビゼーションだけを長くやったのは今回が初めて。その中でもお客さんとのコミュニケーションの力加減が重要で。だから立ってちょこんみたいな人はできないんだよね(笑)。自分に集中しつつ、どれだけ音楽の強度を高められるかが大事。今回はお客さんとの関係も上手くいっていた気がします。

──プレイヤー同士も仕掛あっているというか。

巻上:あのへんをさらっとできるのは、いいメンバーですね。

ゲストに平沢進を迎え、多くのファンを驚かせた共演を収録した2枚組ライヴアルバム

──各メンバーがしっかりと主張し合えるような演奏環境はどのように培われたのでしょうか?

巻上:1人1人がバンドのリーダーに気を遣わないでどれだけ自由にできるかがプロデュースだと思っていて。どれだけ自分のバンドだと思ってやるようにするか。その設定を作り上げるのに時間はかかったんですけど、上手くいってよかったなと思います。

──いつぐらいからその手応えを得ていったのでしょうか?

巻上:1980年代後半ぐらいに、すごくよかった時代があって。でもメンバーが死んじゃったりして、それからまた作り上げていったので、みんな非常に高い演奏能力を持っていて、即興性もあると。その中で曲順も決めなかったり、本当に舞台上で出来上がっていくヒヤヒヤの関係をたくさん味わいつつ出来上がってきましたね。

──即興性の高いメンバーを選ばれたのはなぜでしょう?

巻上:もともと最初の段階から即興は重点的にやっていたんですよね。作られたショーというのは、1つの方法としてあるじゃないですか。特にテクノポップ関係とかそういう傾向になるんですけど、そうじゃないものを当初から見ていたので。“システムと乱丁”というか、上手く収拾できないものが合体することによって軋轢のバランスが行ったり来たりして、それ自体が表現になるという風に設定しています。そのレベルが高ければ高いほど濃いものになっていくと思うので、メンバー選びは苦労しましたよ。

──ゲストの方が来たからインプロっぽいというわけではなくて、普段ヒカシューだけでいるときもそのような緊張感があると。

巻上:そうなのよ。だから、誰が来ても瞬間にできると。今回は、トーマス・ストレーネンが来て。今のECMを代表する相当素晴らしいミュージシャンです。さらっとやっているけどね(笑)。

体験することが重要だと思って仕掛けている

──巻上さんは昨日までトゥバ共和国にも行かれていたんですよね。ホーメイ(トゥバ共和国伝統の喉歌)のコンテストで行かれていたそうで。

巻上:毎回コンテストの審査員をやっているんです。下手な人から上手い人まで、全部点数付けないといけなくて大変で。審査員は7人ぐらいいるんだけど、全然意見が合わないし(笑)。でも、みんなそれぞれこだわりがあっておもしろいんですよね。これは伝統的じゃないとか、モンゴルにもちゃんと点をあげてくれとか。

──流派があるんですよね。

巻上:モンゴル対トゥバみたいな(笑)。

──巻上さんのホーメイはどちら寄りのものなんでしょう?

 

巻上:僕はトゥバのホーメイに出会って、やりたいなと思ったんですよ。もちろんそれまでホーメイとか、モンゴルのものを小泉文夫さんの番組とかで知っていたし、実際に演奏会も行ったんだけどモンゴルのは民謡寄りであまりピンと来ていなくて。でもトゥバを見たときにすごくロックで、荒々しくて。ワイルドでバンドっぽい感じで気に入ってね。モンゴルだとホーメイの人がソロでやるみたいな感じがあるんだけど、トゥバのホーメイは歌があって、その中にホーメイが入っていてすごくかっこいいなと思って。それでその次の年から毎年行くようになりました。25回ぐらい行っていると思いますよ。行き過ぎですよ(笑)。1ヶ月前にも行っているので今年2回目なの。1ヶ月前は作家のいしいしんじさん、茅野裕城子さん、劇作家の石原燃 さんを連れて行って。トゥバの作家協会と交流をしたりトゥバ作家会議に参加したんです。

エニセイ川といしいしんじ氏

──トゥバもそうですけど、前はロシアの方とかも行かれたりしていましたが、どんなところに惹かれるのでしょうか?

巻上:交流を始めてからだいぶ経つので、知り合いが多すぎるんですよ。なので行くと、安心するというかね。あと実はトゥバは、歴史的にも非常に重要な地域で。最近もアルジャンと呼ばれる地域で、いろいろな遺跡が発掘されたり、黄金がすごい出てきていたり。スキタイ(紀元前9世紀〜紀元後4世紀にかけて中央アジアで活動したイラン系遊牧騎馬民族および遊牧国家)の中心がどこかというのが、世界史のテーマとして1つあるんだけど、この発見でいろいろな風に揺れ動くと思うんです。日本の研究者とかにもっと行ってほしいんですよ。あまり行っていないですもん。ぜひ行ってほしい。

アルジャン遺跡 出土品

──巻上さんはきっとそこに何かあると踏んでいるわけですね。

巻上:そうですね。シルクロードというのは実はもっと北のルートであったというような説があって。クラスノヤルスクからトゥバの間ぐらいのところが非常に栄えていたんじゃないだろうかという仮説で。何しろ荒野みたいなところなので、発掘は大変ですよね。他にもウイグルの王宮だったのではないかと言われているのポル=バジンという遺跡もあるんだけど、それがあと何年かで沈むと言われている。何か発見があれば世界史を書き換える準備をしなくちゃいけないんだけど、あまりヨーロッパの学者が熱心ではなくて動きが鈍いんじゃないかな(笑)。ぜひNHKとかで特集してほしいんだけども(笑)。

──巻上さんの実際に現地に行って観察することと、表現をすることというのは連動しているのでしょうか?

巻上:僕は人に刺激を与える存在でしかないので(笑)。みんなにやる気を出してもらうように仕向けるという方向にですね。トゥバに日本から何人か連れて行ったりとか、興味がある人というのを手助けをする仕事をしているんです。文化交流ですよね。どんな人であれ、違う刺激があると、また角度が変わって深まりますよね。ホーメイも、日本でサイトを見て勉強をしても分からないわけですよね。大体間違っているのしか載っていないし、削除してあげようかとか思うんだけども(笑)。現地に行って、直に習ったら圧倒的に違いますよ。だから体験することが重要だと思っていろいろ仕掛けているというか。

次のアルバムは今年日本で録ることになるかも

──ヒカシューも今年で40周年を迎えましたが、まだ深めていく先があると感じてらっしゃるのでしょうか?

巻上:まだ何もしていないですよ(笑)。新しいもの好きですからね、基本的には。最初に出会ったものたちを忘れないように、40年もブレずにコツコツやっています。

──40年間で受け手側の変化もあったと思います。リテラシーの問題なのか、自分の分からないものを理解しようとする雰囲気というのがどんどん少なくなってきているような気がするのですが、巻上さんは今の環境をどう捉えていらっしゃいますか?

巻上:日本だけで活動していない面、わりと大丈夫かなと思いますね。世界中実はいろいろ大変だけど、頑張っていますからね。落ち込むことはあまりないですね。こうやって演奏をしていると楽しくてね、昨日なんかみんなすごく楽しかったみたいでいい顔をしてましたよ。

──それは本当によかったです。

巻上:まあやるしかないですよね。あまり考えているとね、悩みが大きくなると思うんですけど、やることによってしか解決できない。お客が減ろうが、増えようがなんとかしないといけない。金銭的にはあまり入らないと厳しいけれど、今のところなんとかなっているということですね。

──40周年ということに話を戻しますと、ベスト盤も出されました。

ヒカシュー20世紀ベスト-40th Anniversary-

ヒカシュー21世紀ベスト-40th Anniversary-

巻上:古いものはだんだん聴かれなくなるし、しかも枚数が多すぎるのでどれを買っていいかが分からないだろうと思ってベストを出しておいた方がいいかなと(笑)。

──作品は今でも新たに作られているのでしょうか?

巻上:ほったらかした新曲とかもあるんだけど、まだちょっとまとめられない段階ですね。今年、清水さんが体調を崩していたので。

──最近はニューヨーク行かれてレコーディングをしてというサイクルがあったと思うのですが、もし作品を作るとしたら同じような形になりそうですか?

巻上:清水さんの体調次第なんだけど、ひょっとしたら次のアルバムは今年日本で録ることになるかもしれない。曲はもうあるので、アレンジをしたり。また新しいのを作ったり。これからもライヴはいっぱいやっていくので(笑)。

日本の中でも相当珍しいイベント〈JAZZ ART せんがわ〉

──巻上さんが手がけられているイベント〈JAZZ ARTせんがわ2019〉(調布市仙川町の地域密着型即興音楽×アートイベント)は今年で12年目を迎えましたが、開催に至るまで苦労されたと伺いました。

巻上:開催できるように調布市とのやり取りに4ヶ月費やしました。指定管理者制度に移行をして、劇場の体制が調布市の直営から調布市の文化財団に管理が移ってから、事業評価もうまくできていないというか。しかも、今までのコンピューターも全部捨ててしまったんです。サイトのアドレスもデータまで全部捨てられちゃったので困っていて。

──それでも開催にこぎつけたというところで、12年目の挑戦ということだったんですね。

巻上:11年間やってきた中で、チームができていて。あと昨年観に来て、僕らを研究対象にした芸大の院生もすごく頑張ってくれて、助かりました。その子がいなかったらできなかったかもしれない(笑)。こういうのって1回休むとね、小さくなって続かなくなったりするので。このフェスは、日本の中でも相当珍しいイベントなんですよ。実は、世界的にも有名になっているんです。佐藤允彦さんが書いてくれていたけど、ポーランドに行ったら〈JAZZ ART せんがわ〉ってどんなの? って訊かれたりとか、みんな来たがっているって。

──オファーも巻上さんの方から声をかけられているんですよね。イベントの名前にジャズとついていますが、普通のジャズフェスとは違うのでしょうか?

巻上:潮流からは外れていますよね(笑)。本当にいきいきしたものをやりたいので、そこで何が生まれるかというのが大事なんです。なので、ネームの大小では選んでいないです。でもそのバランスをよくしようとは思っていますけどね。インプロビゼーションとか、アンダーグラウンドな音楽と言うと、ちょっと内向きになりがちなんだけど。そこを街と繋げて、明るく外向きな雰囲気を出そうという努力をずっと続けてきました。

──それは今のヒカシューがやっていることにも繋がっているなと思います。局所的な中での自己満足ではないというのを、昨日すごく感じたので。

巻上:自分だってね、みんなに理解できないものをやるつもりはないからね。要するに共通の感覚というもので繋がられるというのが芸能的には重要なことで、音楽ももちろんそうで。分からない音楽なんてないからね。もちろん感覚的に繋がる人たちと、上手く繋がれれば最高なんだけども。

2019年からスタートした〈第1回熱海未来音楽祭〉

──9月20、21日には〈第1回熱海未来音楽祭〉を開かれました。

 

巻上:今まで湯河原でやっていたんですけど、ちょっと熱海に舞台を移して。これは〈JAZZ ART せんがわ〉で呼んだ外国からのアーティストの受け皿にしたいなと思って作ったんですよ。でも結局全然違う人たちが出演することになっちゃった(笑)。しょうがないですよね、成り行きだから。

──テーマに「詩そして電子音」とつけられていますが、これはどういった催しにだったんでしょうか?

巻上:それは町田康くんと僕が詩を読む。あとはオーストリアから2人来るので彼らとのコラボレーション。オーストリアはサウンド・ポエトリーが劇場でとっても盛んなんですよね。サウンド・ポエトリーだけで作ったような演劇とかもあるみたいで。そういう世界で先を行っている国ですね。

──会場となる起雲閣音楽サロンはどういう場所なんですか?

巻上:元々は別荘ですね。そのあと旅館になって、太宰治が入ったりとかしたところです。今は市が買い取って、見学ができる庭と後から作った音楽サロンがあってそこからお庭を見られます。電子音は夜やらないとね。光が重要なので。

──昼間はストリート・パフォーマンスがありました。どのようなパフォーマンスになるんでしょう?

巻上:それは一応チンドンですね(笑)。チンドンならなんとか切り抜けられるかなと。あまりアートパフォーマンス系だと文句が来るんですよ。それも好きなんだけどね。

──“2日目は一緒に街を練り歩こう、飛び入り参加オッケー”と書かれています。

巻上:帽子を作るというワークショップがあって。それを被って、パレードに参加をする。すると、街に違った風景が起きる。ただ温泉場に来て、ありきたりな観光を見て、おしゃれなカフェに行くのってなんかつまらないじゃないですか。でもその日は違う風景がそこで見られると思う。熱海の街って、またこれがレトロなんですよ。潰れちゃったパチンコ屋とか、なんとも言えない昭和レトロが残っていて。別に人が来なくてもいいんですよね、やるっていう(笑)。第1回目なんで、気楽に考えてます。

──熱海サンビーチでは何が行われたんでしょうか?

巻上:海のところにどこにも繋がらないドアを設置しました(笑)。それを開けると、イベント的に何かが始まる。〈JAZZ ART せんがわ〉で「CLUB JAZZ 屏風」とう3人しか入れないライヴハウスを作ったんですよ。そっちは屏風だったので、こっちはドアにしようかなと。

熱海未来音楽祭 ラビリンスドア

ラビリンスドアから登場する巻上氏

JAZZ 屏風はなんで作ったかというと、仙川劇場は120人しか入れなくて、少し小さいのでフェスと呼べるのかなって思ったんですよ。だからもっと小さいのを作れば、120人の劇場が広く見えるだろうと思って。長峰麻貴ちゃんにデザインしてもらって、作ってもらいました。今3体あります。駅前とかに持って行って、箱だけで箱の中から音楽が聴こえてくる。でも、何やっているかは分からない、3人しか見れないから。

──3人と演奏だったりパフォーマンスをする人が中に入るということですよね。

巻上:うん、だからものすごい近い。谷川俊太郎が中に入ってその人の誕生日の詩を読んでくれたりとか。

──熱海サンビーチでは逆にドアを開けるという動作になるんですね。

巻上:そうそう。そこのドアを開ければ、何かと繋がっていくというのがテーマで。

──それで熱海の国のアリスというものなんですね。

巻上:そうそうそう。

──熱海未来音楽祭という、名前に未来を入れた理由はどうしてでしょうか?

巻上:熱海音楽祭だと、地元の人がやる感じがするじゃないですか。今回も地元ではありますけど、もうちょっと広く広げた方がいいかなと思って。

──こちらも〈JAZZ ART せんがわ〉のように毎年続いていくのでしょうか?

巻上:3年はやるという風に静岡県には言ったんですけど。〈JAZZ ART せんがわ〉は最初始める時に10年やりますって言って、一応10年続いているんですよね。僕の考えは10年経ったら僕が辞めても、他の誰かが発展的に続けられるだろうと考えていたんですけど、いろいろと戦わなきゃいけなくなったので辞めないです(笑)。

──今年40周年のヒカシューの活動もある中、巻上さん自身が背負うものが大きくないですか?

巻上:いやー大変なことになりましたね(笑)。なんとかしないといけない。


■ライヴ情報

ヒカシュー40th Anniversary [マンスリーヒカシュー 10月編]
2019年10月23日(水)@スターパインズカフェ
出演:ヒカシュー
時間:開場 18:30 / 開演 19:30
料金:前売 3,900円+1drink / 当日 4,300円+1drink
お問い合わせ:スターパインズカフェ TEL:0422-23-2251
武蔵野市吉祥寺本町1-20-16 B1 URL:http://www.mandala.gr.jp

ヒカシュー
1978年に結成のノンジャンル音楽ユニット。リズムボックスとメロトロンを使ったバックグラウンドに、 地下演劇的な内容と軽快で色彩感ある歌声を加味した音楽で、スタート。1979年にニューウェイブロック、テクノポップバンドとして一般に認知されたが、 その後、メンバーを変えながらも、即興とソングが共存する方法論で、今なお、独自の活動を続けている。 そのライブは、陶酔と覚醒 のアンビバレンツ。究極のノンジャンル。 ・・・そして、形而超学音楽のロックバンドとして唯一無二。その即興性は魔法の領域にある。Official HP http://www.hikashu.com/index2.html
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