AV監督・カンパニー松尾が地元愛知を記録したドキュメンタリー映画、爪切男とのトークをレポート

カンパニー松尾によるドキュメンタリー映画『劇場版 さよならあいち』が、2020年、東京LOFT9 Shibuyaを皮切りに上映中だ。

同映画は〈あいちトリエンナーレ2019〉映像プラグラム用に、松尾が撮りおろした4時間5分のドキュメンタリー『A DAY IN THE AICHI』を追加&短縮しながら再編集したもの。「平成から令和へ。時代の節目に記録されたAV監督による、ふるさとの人々との対話30人、3時間20分」というコピーに違いのないドキュメンタリー作品となっている。

 

〈あいちトリエンナーレ2019〉映像プラグラムのキュレーター・杉原永純が、愛知県春日井市出身の松尾に声をかけたが、本部からの多くの反対にあい、制作開始までにかなり時間がかかったという。最終的に、芸術監督の津田大介と杉原の尽力により企画が通り制作がスタート。2019年の5月から8月上旬まで撮影し、9月末にあいちの会場で4回上映している。

そういう経緯を経て完成した『劇場版 さよならあいち』には、松本亀吉(会社員/ライター)、大橋裕之(漫画家)、ココ・パーティン・ココ(GANG PARADE)、澤田英敏(澤田酒造)など、様々なジャンルで活動する愛知県出身者が登場する。現在劇場公開になっている話題作『さよならテレビ』や大ヒット作『人生フルーツ』を制作した東海テレビの阿武野プロデュサー、土方ディレクター、伏原ディレクターへのインタビューも収録し、愛知県が文化不毛の地と言われることへの検証映像としても観ることができる。

 

また、松尾のイベントに訪れていた大学生の青年こと奥平進助も本作をドライブさせる重要な役割を担っていたり、様々なカレーの絵が差し込まれるなど、カンパニー松尾のドキュメンタリーらしさがしっかり感じられる作品となっている。

故郷を離れて東京で活動してきた松尾が、自身の実家や母親をカメラに抑えたという点でも、これまでの松尾ワークスとは一味違うドキュメンタリーといっても過言ではないだろう。

本記事では、1月7日、LOFT9 Shibuyaで上映された後に行われた小説家・爪切男と松尾の対談をダイジェストでお届けする。

爪切男×カンパニー松尾

左から、爪切男、カンパニー松尾

松尾:自分で作っておいてなんなんですけど、長いし最終的にいろいろな要素が入っちゃったから、一言でスパンと言える感じではなくて、ちょっと特殊な作品という気がするんですね。爪さんは、前半を観て猫がいいと言ってくれていましたね。

爪切男:猫とお母さん。

松尾:愛知県を撮ることになって浮かんだのが、(実母の)みね子なんですね。今まで撮っていないんですよ。AVでも、それ以外でも。実は、親父が亡くなるときは、みね子に内緒で撮っているんです。それは『私を女優にして下さい AGAIN 11』というAVに入っているんですけどAVなのに真ん中のパートだけ、死にそうな親父が出ている、ちょっと奇怪なAVがありまして。そのときは、みね子にバレないようにやっていた。今回〈あいちトリエンナーレ〉という大枠があるからとはいえ、なかなか言い出す勇気がなくて。言い出す場面も入っていますけど、それまでは全部本人に言っていないんですよ。なにげなく撮っている。だから1月1日の映像も家族は誰も知らない。最後のシーケンスに持ってきている52日の朝日もiPhoneで撮っているんです。みね子も撮っていることは認識しているけど、俺は普段写真を撮る感じでビデオを回している。気合入れて話を聞かないとと思って、撮影が進んでいる中で「実は……」って話した。薄々は気づいていたと思うんですけど。

爪切男:母親っていいですよね。僕は、1才年上の兄貴を連れて出て行ってしまったから、生まれたとき母親がいなかったんです。写真も全然残っていないから、自分の中で母がいないものだと思っていて。作家活動をする前に、インターネットでブログを書いていまして。母の名前を使ってブログをはじめたら、4記事目くらいに見つかったんですよ。非公開コメントがついて「たぶん私があなたの母親だと思います。今から出す10問のクイズに答えてください」って。

(会場爆笑)

爪切男:3択なのに答えがなかったり。いたずらにしてはやりすぎだろうって(笑)。会ってわかったんですけど、母親が躁鬱病で、社会から攻撃を受けている感じでみたいな状態になっていたらしく、朝から晩まで自分の名前でエゴサをしていたんです。俺のブログのアクセス数が上がるにつれて検索でヒットしてみつかったと。

松尾:それが逆に功を奏したというか。

爪切男:親父に母ちゃんに会うって報告をしたんです。そしたら「写真ないから黙っていたけど、テイラー・スイフトに似ているぞ」って言われて。さすがにそうではなかったんですけど、大黒摩季が1番よかったときくらい感じで。俺からしたら言ってみれば知らないおばさんなんですよね。本にも書いたけど、いきなり抱きついてきたから、俺は勃起をおさえるのに大変で。(会場爆笑)色気のあるおばさんが乳とかをグリグリしてくるから。

松尾:息子をハグしているだけなんだけどね。

爪切男:いきなり会った息子が勃起したら、彼女の30年以上の人生を否定するようなことになるから、絶対に勃起しちゃダメだと思って。頭の中に違うことを想像して。そのあと、母ちゃんがフロントで手続きしているとき、気になって母ちゃんの荷物の中を見たら、出刃包丁が3本入っていた。母ちゃんと、母ちゃん方のばあちゃんが俺に会いにきていたから……。

松尾:もしなにかあったら3人を殺そうと。

爪切男:昔観た武士道の映画で、どんな犬畜生でも最低限の礼儀を払って1本の刀で1人を殺すというシーンがあったんです。その武士道が目の前にあると思って。(会場笑)俺の親父は武士道を重視する人だったから、離れていても夫婦なんだなって。

松尾:どういうところで感じているんだ(笑)!

爪切男:俺は香川出身なんですけど、はあまり地元に気持ちがないんです。松尾さんもないですよね?

松尾:複雑ですね。実は愛知のことと言いながら、自分の話ですから。愛知でやると「ちゃんと帰ってきて立派ね」みたいに思われるんだけど、僕はやっぱり愛知を出ちゃっている人間だから。実はそこは無理してやっていて、映画に出てくる青年と話しているときに「あ、俺、愛知好きじゃないかもしれない」って気がついて。青年には信頼関係があって「ネットでなんでもできるじゃないですか」って言ってくるんだけど、俺はくそっと思って。お前出てこいよって。別に出て行ったらいいとか、田舎が悪いって話じゃないけど、俺は出ちゃったし、愛知を撮りながら、東京を思う気持ちもある。

爪切男:難しいですよね。地元について知ろうとすると、どんどん知らなくていい事実が出てきて。これは今週のSPAに書いてあるんですけど、じいちゃんが死んだあと、自転車屋の川西さんっていうじじいが、めちゃめちゃ俺のばあちゃんの家に来るようになって。ばあちゃんと絶対できていると思ったから、川西さんに近づこうと思って、自転車屋さんで夏休みとかよく一緒に働いていたんです。結局ばあちゃんと結婚しないまま死んでしまって。死んだときに親父に「ばあちゃん、なんで再婚しなかったの?」って聞いたら、「あいつホモやで」って言われて。川西さんの狙いは、俺だったみたいなんです。昔、じいちゃんと同級生だったみたいで、俺がすごくじいちゃんに似ていた。それを聞いて悪寒を覚えました(笑)。

松尾:ぜひ観たいですね。爪さんの「A DAY IN THE KAGAWA」。ぜひその際は、僕に撮らせてください(笑)。

映画は松尾による自主公開となっており、明日以降も様々なトークゲストが登場予定。映画の中で登場する澤田酒造の日本酒も300円で飲むことができる。平日日中の上映ではあるが、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。

取材&文:西澤裕郎


■上映情報

Cinema9 SPECIAL / 仕事始めだけど2020!!
『A DAY IN THE AICHI 劇場版 さよならあいち』
アフタヌーン上映会 in LOFT9 Shibuya

【上映日程】
2020年1月6日~1月10日(計5日間)
場所:LOFT9 Shibuya
*いずれも12:15上映開始予定(12:00より受付開始)
*予約 1,800円 / 当日 2,000円(+Cafe9にてご注文お願いします)
予約フォームこちら

※全上映後に、カンパニー松尾による舞台挨拶orトークショー付き!
※ゲストは決まり次第、追加発表致します。
※本編3時間20分と長編のため、1度休憩を挟んでの上映となります。

トークゲスト決定!

2020年1月8日(水)_早川瑞希(AV女優/A DAY IN THE AICHI 出演者)
2020年1月9日(木)_大橋裕之(漫画家/A DAY IN THE AICHI 出演者)
2020年1月10日(金)_調整中
*トークゲストは決まり次第随時発表いたします!
*本編3時間20分と長編のため、一度休憩を挟んでの上映となります。

2020年2月15日(土)〜21(金) 名古屋シネマスコーレ
2020年2月21日(金)〜 京都みなみ会館
2020年2月29日(土)刈谷日劇イベント上映

平成から令和へ。時代の節目に記録されたAV監督による、ふるさとの人々との対話30人、3時間20分。

あの炎上したあいちトリエンナーレ2019で、静かに発表されたAV監督・カンパニー松尾の長編ドキュメンタリー『A DAY IN THE AICHI』が、劇場版に再編集され、LOFT9 Shibuyaにて先行上映会開催決定!!

公式HP

【出演】
カンパニー松尾(AV監督)
山口雅(ライター)
早川瑞希(AV女優)
松本亀吉(会社員/ライター)
大橋裕之(漫画家)
かおりさん(会社員)
花村映実(モデル)
ココ・パーティン・ココ(アイドル/GANG PARADE)
渡辺靖典(トマト農家)
澤田英敏(澤田酒造)
阿武野勝彦(東海テレビ)
圡方宏史(東海テレビ)
伏原健之(東海テレビ)
今村彩子(映画監督)
坪井篤史(シネマスコーレ)
永吉直之(シネマテーク)
池田さん(フリーター)
森田裕(TOKUZO)
奥平進助(大学生)
野田くん(会社員)
小林芽生(フリーター)
堀部俊仁(刈谷日劇)
堀部昭広(刈谷日劇)
岩瀬貴己(建設業/森 道 市場 主催)
大島さちえ(食品販売)
高嶺格(アーティスト)
池田康寿(大学生)

■カンパニー松尾 コメント
今作は、あいちトリエンナーレ2019 映像プラグラム用に撮りおろした4時間5分のドキュメンタリー『A DAY IN THE AICHI』を追加&短縮しながら再編集したものです。

もともとあいちトリエンナーレの話は、2018年冬、映像プログラムキュレーターの杉原さんから「”情の時代”というテーマで 新作を撮って欲しい」と依頼があり、芸術監督 津田大介さんのステートメントを読み、思うところもあって、AV監督の僕でいいのかなと思いながら話を進めました。

もともと僕は愛知県春日井市の出身で、高校まであいちで育ちました。ただ、実際、あいちを知ったのは、高校を卒業し、テレビマンを目指し上京し、うっかりAV監督になってからで、それは、あいちの常識が東京で通じなかったり、東京での生活が長くなり、逆にあいちに違和感を感じたり色々でした。

そんな地元に愛着と恩返しの気持ちもあり、撮影を準備しました。今回、 ”情の時代”と聞いてまず思い浮かんだのは、僕が知るあいちの人たちでした。さらにこの機会を利用して、本業のAV撮影では会えない人に会って、話を聞こうと思いました。

テーマは色々。正式な撮影は、2019年の5月から始まり、あいちトリエンナーレが開幕した8月上旬まで行い、その後、9月末にあいちの会場で4回上映して終わるはずでした(その間の炎上騒動は、卑怯ですが、知らんふりして編集を急ぎました)。

しかし、またまた思うところがあり、今回、短縮版を作り、自主公開することにしました。思うところは秘密ですが、そんなに大したことではありません。ただ、名指しで申し訳ないのですが、東海テレビの阿武野プロデュサー、土方ディレクター、伏原ディレクターに取材させていただいたので、東海テレビ制作の劇場版最新作『さよならテレビ』や大ヒット作『人生フルーツ』の副読本として読める部分はあります。あと、タイトル通りですが、“あいち”をテーマに撮っているので、舞台はあいちであり、その地に身を置く人々が登場します。

大いなる田舎、文化不毛と言われるあいちの実像や気質もちらちら映ってます。で、結局、尺は3時間超あります。途中1回休憩を挟んでの上映です。(酒でも飲みながら)リラックスしてご覧ください。

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