オタク文化とラップが高い次元で手を取り合う興奮──ゴンザレス下野が語る新時代のヒップホップ

「サイファー」という言葉をご存じだろうか。

知らない人たちも、駅前や駐車場などで若者が集まり、ラップをしている光景を見たことはあるだろう。あの集まりがサイファーである。正直、自分がラッパーでない限りサイファーに近づくのは勇気がいると思う。いまだ日本では「ラップ=不良の文化」というイメージが根強いからだ。かつての筆者もそうだった。

実際、ラップなどのヒップホップ・カルチャーはアウトサイダーたちの受け皿にもなっている。しかし、ヒップホップとは想像以上に懐が深い思想だ。大阪にあるオタクの聖地、日本橋には生粋のラッパーとオタクが入り混じり、交流を深めている巨大サイファーがある。そして、その場所は「オタクMCバトル」開催へと発展し、十人十色の出場者たちがアニメや漫画、アイドルへの愛を競うまでになった。

同様のイベントがかつてなかったわけではない。しかし、ゴンザレス下野主催の〈日本橋ウォーズ〉はオタクMCバトルとして史上最大級の動員と試合のクオリティを誇っている。オタク文化とラップが高い次元で手を取り合っている興奮―。これは2020年代の新たなヒップホップ像として、これからもっと広まっていくのではないか。未熟ではあるがラッパーとして、すでに日本橋サイファーと〈日本橋ウォーズ〉の虜になった筆者は、ゴンザレス下野に日本橋独自のヒップホップ観を語ってもらってきた。

インタビュー・文:石塚就一 a.k.a ヤンヤン


先輩に「日本橋のヒップホップとして良い」と言われた

──下野さんは北海道出身なんですよね。向こうでもラップはやっていたんですか。

下野:ちょっとやってたって感じですね。クラブ行ったりとか。大阪に来たのが2018年くらいです。「オタクがラップできる環境を作りたいな」となんとなく思って、オタクなら日本橋だろうと。それからTwitterで「日本橋サイファー」のアカウントを作って「やりたい人いませんか」ってつぶやいたら2人くらい引っかかったんです。そのうちの1人は日本橋ウォーズ立ち上げメンバーの杞憂くんです。

──最初は3人からだったんですね。たった2年で50~60人が来るサイファーに成長したのは驚きです。人数が増え始めたのはいつくらいからだったんですか?

下野:最初の半年間はずっと自分と杞憂くんだけでサイファーをやっていたんですよ。それから、自分がいろいろなイベントに行ったり、バトルに出たりするようになってからみんなサイファーにも来てくれ始めました。横のつながりがぐっと増えた感じです。

──バトルで名前を上げたんですね。

下野:あと、他のサイファーにちょっとだけ排他的なものを感じていたんですよ。「ファミリー」みたいな感じで固まっていると、自分が行っても疎外感を覚えちゃってたんです。だから、日本橋サイファーではそれをナシにしようと。そしたら、他のサイファーに行けなかった人がメチャクチャ来てくれるようになりました。

──最初から「誰でも来ていい」のはコンセプトだったんですね。

下野:そうです、そうです。

──80年代生まれの僕たちの世代とかは特にだと思うんですけど、「オタクでも行けるよ」って場所は、ハードコアな人から馬鹿にされることも多かった気がします。でも、日本橋サイファーってオタクの人もハードコアな人もいるのが興味深いです。

下野:最初は自分もハードコアな人が怖かったです(笑)。ゴリゴリのラッパーから「おまえらオタクがラップやりやがって」とか言ってこられると思ってました。でも、誰もそんなことなくて。ある先輩ラッパーに聞いてみたら「逆に間違ってる」って言われました。その人たちは「日本橋のストリートでやっていて、下野もいろんな現場に出ていて仲間を大切にしている。それは日本橋のヒップホップとして良い」って。

──僕も勝手なイメージで、(日本橋に近い)アメリカ村(※1)とかのヒップホッパーたちは、自分みたいな初心者ラッパーは嫌いなんだろうと思っていました。でも実際には、僕とかにもイベントで普通に話しかけてくれる。それって現場に行かないと分からないことで。だから、下野さんが初心者でも足を運びやすいイベントを作ってくれたのはすごくうれしかったです。

下野:それはよかったです(笑)。

第1回大会は「失敗したな」って

──そうやって日本橋サイファーが大きくなっていき、〈日本橋ウォーズ〉の構想が生まれたのはいつ頃だったんでしょう。

下野:2019年の1月くらいですね。「イベントをやろう」って話はずっとあったんですよ。きっかけは、杞憂くんで。自分はいろいろ考えてしまって前に出られないタイプというか。でも、始まったら運営をちゃんとやる人間なんです。逆に、杞憂くんって行動力がすごくて、何も考えずに動けるタイプ。ただ、杞憂くんが借りてきた箱が「あまりにも……」だったんです(笑)。キャパが少なくてドア代(※入場料)も3000~4000円くらいになっちゃうところでした。そこで、自分でも動くようになり。

──杞憂さんの暴走のおかげで〈日本橋ウォーズ〉ができたと(笑)。

下野:でも、構想はずっと前からありました。最初は自分が中学とか高校生くらいのときです。ネットでらっぷびと(※2)を聴いて。自分は当時、アニメをメチャクチャ見ていたんですけど、らっぷびとがアニソンのトラックでラップしているのを聴き「これは面白いな」と。それからラップも聴くようになりました。それでいつか、こういうラップとアニメを掛け合わせたイベントをできたらいいなと思ったんです。ただ、当時はラップをしている友達もいなかったので何もなく。次に、社会人になってから自分は東京に転勤したんです。そしたら、オタクのラップイベントを開いているところがあった。それに参加して、面白かったんですけど、ただ「もっと面白くできるな」とも思ったんです。たぶん大きなイベントを打つノウハウがなかったりして、面白い要素を完璧には引き出せていなかった。自分はもう一段階上のイベントにしたくて、大阪に来てから杞憂くんと「やろう、やろう」とは言い続けていました。それがあって杞憂くんが箱を借りてくるっていう流れではありましたね。

──当初からオタク文化をレぺゼン(=代表する)し合うMCバトルにしようという想いはあったんですね。

下野:はい、それは決めていました。

──でも、第1回〈日本橋ウォーズ〉って2019年1月でしたよね? やろうって決めてから大急ぎで開催に漕ぎつけたということですか。

下野:2、3週間くらいで準備しました。最初の優勝者は、魔法少年ふくだ★ユウガくんですね。

──魔法少年ふくだ★ユウガさんは、al3缶というMCネームで、近年のバトルシーンに台頭してきていますね。そのほか、煩悩さんなど関西のMCバトルでは有名なラッパーも第1回から参加していました。

下野:「こういうイベントをやりたいんだけど、どう思いますか」と訊いたときにal3缶くんも煩悩さんも「やりたい」と言ってくれました。「やっぱ興味ある人いたんだ」って思えましたね。

──第1回が終わったときの手応えはいかがでした?

下野:いいこと訊きますね(笑)。自分の中であったのは「失敗したな」って気持ち。すごくつまらなくなったと思ったんですよ。出場者はラッパーが半分、オタクが半分。ラッパーの方は、どうやってオタクのアイデンティティを確立させるかでぎこちなくなっていました。オタク側の方々はそもそもラップがあまりできない。かみ合わない試合が多くなって、昔、東京で見たオタクMCバトルのクオリティには達してないと感じてしまい。なんなら主催を辞めようとさえ思っていました。でも、それをイベントの司会である公家バイブスさんに相談したところ、ちゃんと怒られまして(笑)。

──熱いなあ(笑)。

下野:公家さんに怒られることってなかったんですけどね。「やりたいって言ってたでしょ。じゃあどうやったら面白くなるのか考えなよ」と。そのときに初めて考えたのが「ジャンル制度」です。ラッパー同士でも、似たような作品なら話しやすかったりとかあるんですよ。オタク側も開催までにラップを練習しようという気持ちになってくれるのでは、と。そうやって気合を入れ始めたって感じです。

DJのみなさんは100%の答えを出してくれる

──そして、2019年3月の第2回大会を迎えます。僕も初めて出場したのですが、下野さん的には上手くできた感覚はあった?

下野:2回目は大成功したなと思いました。イベントとしても動員としてもすごく盛り上がりましたから。

──でも、イベントの難しいところって毎回少しずつ新しい要素を足していかなくちゃいけない点ですよね。いつもどんなことを意識されていますか?

下野:ちょっとずつ改善している点だと、ジャンル制度もそうですし、「女の子を呼ぼう」と。女の子にライヴで歌って踊ってもらったらやっぱり盛り上がるので。あと、DJの方々にもパワーアップしてもらおうと。最初の頃は、アニクラ(※3)の人たちを呼ぼうという構想だったんですよ。ただ、DJさんにはこだわりがあるので、「自分はこういう曲を聴いてほしい」というセットに走る傾向があるんです。でも、ウォーズの傾向として、ヒップホップは好きだけどアニソンにそこまで詳しくないお客さんがいる。そして、アニメは好きだけどヒップホップをあまり知らないお客さんもいる。その最小公倍数をかけなくちゃいけないので、今では京歌さんやYASUさんといったDJのみなさんに「誰でも盛り上がれる曲をかけたいですよね」というアイデアを出して任せています。

──最近のウォーズではオリジナルビートも増えてきました。どれもクオリティが高いですよね。

下野:あれは全部DJのおかげです(笑)。京歌さんもYASUさんも経験が自分より上なので。YASUさんはいろいろなイベントで回しているし、京歌さんは最近、〈戦極MCBATTLE〉(※4)のDJも担当されている。「盛り上がれるアニソンのバトルビートがあったら面白いですよね」と言うだけで、100%の答えを出してくれるお2人ですね。

──下野さんを中心とした、最強の布陣が集まっていることが分かりました。DJにVJ、そして名司会者もいます。

下野:いやあ、本当です。公家さんの司会は相当素晴らしいですよ。

──MCバトルってラッパーが素晴らしくても、司会者で盛り下がることってありますからね。

下野:間違いないです。

──2019年9月の第5回は3連休ということもあり、過去最高に知名度の高い出場者、ゲストが揃いました。KBD a.k.a 古武道さん(※5)のバトル出場とライヴには驚きました。

(突撃!!日本橋ウォーズ!!第5話!! -オタクラッパー総集編!!-:動画LINK)

下野:さまざまなイベントでビッグネームの方ともお話しする機会があったんです。KBDさんは梅田サイファーの一員として知られていますけど、日本橋でもバトルのイベントを主催されているんですよ。共通点が多いと思っていて。KBDさんの〈オーバー・ザ・トップ〉というイベントのコンセプトが「日本一敷居の低いMCバトル」なんです。僕、そのコンセプトがすごく好きで。「みんなウェルカムだから楽しくやろうよ」という雰囲気が良いと思っていたんです。あと、KBDさんも漫画がお好きで。それで、オファーさせていただきました。

──僕も日本橋サイファーの存在を知ったのはオーバー・ザ・トップでした。バトルは煩悩さんや公家さんにボコボコにされたんですが(笑)。

下野:そうだったんですか(笑)。

──でも、僕に限らず、ラップを始めたいのに方法が分からない人間にとって、下野さんやKBDさんのイベントはとても機能していると思うんです。僕みたいに悩んでいた人間にはちゃんと届いている。それを続けているのはすごいです。

下野:ありがとうございます!

漫画を読んだことのない日本人っていない

──〈日本橋ウォーズ〉も開始から1年が経ち、ルールなども細かく調整されてますよね。そんな中、下野さんが考える「変わらずにいたいポイント」は何でしょう?

下野:2つあります。「みんなが楽しく、みんなで楽しく」あと、「ちょっとずつ大きくしていこう」というのは常に考えています。

──以前、ウォーズの締めの挨拶で「ゆくゆくは全国レベルの大会にしたい」とおっしゃっていました。

下野:そうですね(笑)。UMB(※6)さん、KOK(※7)さん、戦極さんレベルのイベントにはしたいです。それを10年のスパンで考えています。でも、そのためにはいろんな壁を超えていかないといけない。ひとつは東京とのコラボ。オタクラップのイベントが盛んに行われている秋葉原さんとは、一緒にイベントを打つべきだと思っています。そのために積極的なやりとりをさせていただいております。あと、これは具体的な動きになっていないんですが、MC正社員さん(〈戦極MCバトル〉主催)さんが「ちょっと興味ある」みたいな話を聞いて。今、正社員さんとお話をしたいと考えているところです。

──それは実現してほしいです!

下野:いつも言ってるんですけど、漫画を読んだことのない日本人っていないと思うんですよ。ヤンキーでも漫画って読むじゃないですか。だから、誰でも何かしらの作品をレぺゼンしてウォーズには出られるはずなんです。それこそ、MADJAG(※8)さんが『クローズ』や『ドカベン』で出てくださったりとか。

──MADJAGさんのバトルは動画配信でも見返してしまいます! 『ドカベン』に詳しいのが笑ってしまった。

(突撃!!日本橋ウォーズ!!第3話!! 〜オタクラッパーバトルロワイヤル!!〜)

下野:そうなんですよ。好きなものに関しては誰だって詳しくなるし。だから、全国区のラッパー、東京のラッパー、あと、ネットラッパーの方々ともお話しする機会は多いので。人選の面でも力を入れていこうとしています。

──でも、すでにKBDさんやMADJAGさんが出てくれて、高校生ラップ選手権の出場者もエントリーしている。すでにバトラーの面子はすごくなっていますよね。そんな中、ただのオタクでも彼らに勝てる可能性があるのは面白いです。

下野:そうですね。

〈日本橋ウォーズ〉はヒップホップの土台にオタクが乗っている

──過去大会で印象的なラッパー、バトルってありますか?

下野:第1回から振り返ると、スペクタクルくんの存在は衝撃でした。オタクとラッパーのハイブリッドみたいな。かなり長い期間ラップをやっていなかったらしいんですよ。だから誰も名前を知らなくて。東京ではちょっとやっていたらしいんですけど、関西ではあまり活動していなかった。それなのに決勝まで行って。al3缶くんとのバトルは「まだこんなラッパーがいたのか!」と驚きました。あとは、ヤンヤンさん(インタビュアー・石塚のMCネーム)も。

──ありがとうございます(笑)

(突撃!!日本橋ウォーズ!!第2話!! 〜オタクラッパー四国志!!〜)

下野:初めてのタイプだったんですよね。オタクの出場者ってどうしてもオタクの語り口になってしまう。それを一段階上げてくれたと思っています。アニメキャラクターになりきるというバトルスタイルを初めてやったのはヤンヤンさん。あ、むうとくんも。

──第4回の覇者。『ジョジョの奇妙な冒険』の台詞やポーズを引用しまくって観客の心を掴みました(出場時のMCネームは「吉良吉影」)。

(突撃!!日本橋ウォーズ!! 第4話 〜オタクラッパー天下一武道会!!〜)

下野:あのバトルスタイルもウォーズでしかできないですよね。かなりユニークな戦い方ですし。初めての女の子の出場者になった茜新さんも記憶に残っています。第3回、dope assくんとのバトルで、彼が〈赤目が斬る 茜が散る〉って韻を踏んだんですよ。そしたら『さよなら絶望先生』レぺゼンの茜新さんが「いや絶望先生の女の子は全員死んでるから」って返して。あのアンサーはオタクじゃないとできないですよね。

──完全即興ですし。

下野:バトルには負けちゃったんですけど、あれには死ぬほどアガりました。最近の出場者だと第5回のbinksくんですね。彼はラップも上手いし、漫画に出てくる言葉の使い方が絶妙です。SOSくんとのバトルがすごかった。SOSくんは超高速フロウで「こんなのできないわ」ってラップをしてくるんですよ。そしたら「オレでなきゃ聞き逃しちゃうね」って『HUNTER×HUNTER』の台詞をサンプリングして返したのがすごく面白かったです。

──2019年11月の第6回大会はレベルがすごく上がった感じでした。スキルの高さもさることながら、〈日本橋ウォーズ〉でしかありえない状況が起こっていました。ゴリゴリのラッパーとオタク寄りのラッパーがつばぜり合いをして、その日の正義を決めようとしている感覚に興奮しました。

(突撃!!日本橋ウォーズ!!第1期最終回!! -さよなら日本橋ウォーズ!!-)

下野:優勝したドルバケツくんとdagくんのバトルは象徴的でしたね。あの戦いはすごく意味を持っていたと思っています。ああいうバトルを嫌がる人もいるんですよ。それは、ドルバケツくんが『ラブライブ!』レぺゼンの立場で、dagくんが好きな『ラブライブ! サンシャイン!!』をディスっちゃったから。「パート2なんていらないんだよ」って主張をしたんですよね。でも、僕としては良いバトルだと思っているんです。オタクってラブはあってもピースが必ずしもあるわけじゃない。掲示板やSNSを探すと、ドルバケツくんと同じく「『ラブライブ! サンシャイン!!』より『ラブライブ!』が好きだ」って人も多いんですよ。それって、オタクらしいメンタルの発言でリアルだなって。逆に、ウォーズでラップスキルをディスるとかだと「あまり良くないんじゃないか」と思ってしまう。ただ、オタクの立場からのディスだと愛を感じるな、と。

──それに、言ってる側の本音ですもんね。思っていないことをディスるのは良くないけど、それだけ『ラブライブ!』が好きだったという証でもありますし。普通のMCバトルにも通じることですが、ディスがなくなって盛り上がるのかという問題も出てきます。

下野:盛り上がりもそうですし、オタクのリアリティが失われるとスカスカの試合が続きそうな気はします。

──僕も「『スター・ウォーズ』新作つまらん」とか言っちゃう側の人間なのでよく分かります(笑)。でも、だからといって『スター・ウォーズ』が嫌いになったわけじゃなくて。

下野:見るは見ちゃうんですよね(笑)。でも、それってオタク的じゃないですか。どうしても好きなものほど評価はしちゃうし。ウォーズが独特なのは、他のオタクMCバトルってヒップホップとラップをミックスしていると思うんですよ。でも、自分はヒップホップの土台にオタクが乗っているというイメージなんです。ただのラップでオタクの話をしていると、ディスという概念が消滅するんですよ。ただ、根源にヒップホップ的思想があってオタクが参加しているのが〈日本橋ウォーズ〉。「どうしてもオタクってきついことを言っちゃうしやっちゃうよね」というのが大前提にある。

──それはすごくしっくりくる説明です。〈日本橋ウォーズ〉も日本橋サイファーも本当にいろいろな人が来ますよね。ヒップホップという大きな器をちゃんと下野さんが見せているからだと思います。『アタック・ザ・ブロック』という、イギリスの不良少年たちが宇宙人と戦うって映画があるんですが、彼らは普通に日本の漫画の話をしている。それは、ヒップホップ的な事象としてナチュラルに漫画を取り込んでいるからなんですよね。

下野:それはイメージ的にとても近いです。ドルバケツくんのラップも根源にヒップホップがあって、『ラブライブ!』を語ってるんだと思います。

──でも、違う価値観でオタクMCバトルを開催している団体とも、対抗戦のようなイベントができたら面白いかもしれませんね。

下野:いやあ、やりたいですよ! この間〈UMB〉2005年のDVDを見たんです。東京と関西で予選を行って代表を決めてというシステムで。メチャクチャ面白いんですよ。第1回大会ということもあり、今の感覚と違う試合も多いんですけど。ラッパーの方々もお客さんも手探りの段階で。でも、雰囲気とかバトルの形式とかすごく好きで、ああいうものを自分でもできたらうれしいです。

──今、バトルイベントも数が多くなってきていて、まったく新しいものを見る機会が減っているように思います。〈日本橋ウォーズ〉には画期的なムーブメントになる可能性を感じます。

何でもいいので〈日本橋ウォーズ〉に協力してほしい

──個人的に聞きたい部分でもあるんですが、下野さんの思う、〈日本橋ウォーズ〉における「勝ち方」って何でしょう?

下野:勝ち上がりやすさでいうと、韻やフロウ(※9)はもちろん大切です。ただ、今までの傾向だと、優勝者はそのとき1番愛が強い。言いたいことをすべて表現しきった人が優勝していると思います。いわゆるバトルライム(※10)だけだったら、普通のMCバトルでやったほうがいいと思っちゃいますね。会話しながら「いや、俺のほうが好きだし」っていうのを押し出していくほうがいいんじゃないでしょうか。そこに韻やフロウがあると「愛の表現方法が上手だな」と見えてくる。

──ちなみに、下野さんが出る可能性もある?

下野:運営の打ち合わせでは毎回「出る」って言ってるんですよ(笑)。でも、「出る出る詐欺」になっちゃってますね。まあ、近いうちに出ます!

──では、今後の〈日本橋ウォーズ〉の見どころを教えてください。

下野:東京、全国に広げていくつもりなので見ていてほしいです。あと、全国のオタクの人に「こんなことやってるんだ、面白いな」って興味を持ってほしいですね。宣伝的なところでは、〈日本橋ウォーズ〉と日本橋サイファーは2020年、音源制作を頑張ろうと思っています。それも聴いてもらえたら! それと…… みんなラップしてほしいですね(笑)。自分としてはカラオケくらいになれればいい。「今日カラオケ行く?」くらいのノリで「二次会でサイファー行く?」って、ラップが日常になってくれたらいいなと思っています。

──僕はサイファーって、ストリートライフを歩んでいない人間が行ってはいけない場所だと思い込んでいました。でも、探せばいくらでも初心者を受け入れてくれるサイファーはある。日本橋サイファーでそれに気づけたのがよかったですね。最後に締めの言葉をお願いします。

下野:これから全国区に向けて頑張っていくうえで、「梅田・枚方・日本橋」(※11)って言われる感じになってくれたら嬉しいな(笑)。そして、みなさんにも協力していただきたいです。サイファーに興味がある人、ちょっとでも協力してくれたらありがたいです。地方から「日本橋サイファー、ウォーズ面白そうだけど遠いからいけないや」って思っているんだとしたら、自分が全国区でやります! そのかわり、今何でもいいので協力してほしい。リツイートしてくれたりとか、動画見てくれたりとかでいいので。それが重なれば少しずつ大きくなっていくと思っています。

──地方の学園祭とかで〈日本橋ウォーズ〉番外編ができれば盛り上がりますよね!

下野:N高とか呼んでくれないっすかねえ(笑)。下野さんの話を読んでいただければ分かるだろう。〈日本橋ウォーズ〉は一過性の色物イベントでも、オタク文化とヒップホップ文化が互いの正当性を押し付け合うような場所でもない。ヒップホップという大きな土台が、いかなる人にも向けられていることを証明する空間なのだ。ラップやMCバトルに興味があるにもかかわらず、なんとなくイベントやサイファーに参加するのが憚られているなら、とりあえず大阪の日本橋に来てみてはどうだろうか。遠いどこかに住んでいる貴方も、下野さんがそうしたように、まずは自分から始めてみよう。きっと同じことを思っている誰かが集まって輪になるはずだから。

2020年1月13日 千日前商店街にてインタビュー収録


※1. アメリカ村……心斎橋にあるエリアの通称。大阪における若者文化の中心で、ヒップホップ関連のクラブやショップも多い。
※2. らっぷびと……1987年生。ラッパー。10代の頃からインターネットを中心に音源発表を始める。『ひぐらしのなく頃に』『さよなら絶望先生』関連曲などのサンプリングが有名。
※3. アニクラ……アニメソング中心のクラブイベント。
※4. 〈戦極MCBATTLE〉……MC正社員主催のバトルイベント。学園祭や他イベントとのコラボなど、自由でオールスター感のあるアイデアが特徴。
※5. KBD a.k.a 古武道……梅田サイファーの一員。緻密なライミングのスキルで評価を得るラッパー。2019年〈UMB〉奈良予選王者。
※6. 〈UMB〉……〈ULTIMATE MC BATTLE〉。LIBRA RECORDS主催。各都道府県の予選優勝者が一堂に会し、その年のラッパー日本一を決めるMCバトル大会。
※7. 〈KOK〉……KING OF KINGS。9SARI GROUP主催。その年度における地区予選と他団体主催のバトル優勝者が集結し、トーナメントを争うMCバトル大会。
※8. MADJAG……ラッパー。BOIL RHYMEの一員にしてトライアングル大阪マネージャー。生き様、パフォーマンスともにハードコアなスタイルを貫く。
※9. フロウ……ラップをするうえでの節回し。ビートにハマっていて、なおかつ印象的なフロウができるかはラッパーの実力を測るうえで重要。
※10. バトルライム……MCバトルでしか使われないライム(韻)のこと。例「ダサいおまえを公開処刑 俺がしてやる存在証明」「WACKなMC次々始末 おまえはしちゃう首吊り自殺」。
※11. 梅田・枚方・日本橋……梅田サイファーはR-指定やKBD、KZといった人気ラッパーを生み出した。枚方サイファーは有望な若手ラッパーが集う場所として知られている。


■イベント情報

〈突撃!!日本橋ウォーズ!!第2期1話!! 〜天才たちのオタク頭脳戦〜〉

2020年1月27日(月)@大阪・MILULARI
時間:18:30-
料金:1,500円(2D込み)
ライヴゲスト:Kecchi、コミ☆SHOW、ピラ・ニア子、ドルバケツ
DJ:きょーか、リトルボス
VJ:USA
※詳細は日本橋サイファーのTwitterにて

日本橋サイファー(@Osaknipponbashi
ゴンザレス下野(@R_DIS_

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