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〈京まちなか映画祭2020〉運営委員・石塚就一 a.k.a ヤンヤンに訊く、コロナ禍の京都カルチャー

StoryWriter

「京まちなかを歩いて映画を観よう!」をテーマに京都で毎年開催されている映画祭〈京まちなか映画祭〉が、2020年11月27日(金)~29日(日)に開催される。

ゲキメーションで世界的評価を得ている宇治茶監督(『バイオレンス・ボイジャー』など)、人形劇の第一人者である飯塚貴士監督(「フォーカード」など)を総監督に迎え、京都市内にある総本山誓願寺を拠点に9月からワークショップを行いながら1本の映画を観客と制作。脚本クラスのアドバイザーには自主映画『みぽりん』を全国でヒットさせ、新作『コケシ・セレナーデ』の公開準備中の松本大樹監督、撮影にはヨーロッパ企画の山口淳太監督(『ドロステのはてで僕ら』)といった関西を代表する映像作家が参加し、イベントを盛り上げていく予定だ。 また『フリースタイルダンジョン』出演でも話題を呼んだ京都のラッパー、歩歩プロデュースで主題歌制作のワークショップも実施。講師として関西で活躍しているラッパー、ゴンザレス下野、公家バイブスが参加する。

筆者は、2019年には〈京まちなか映画祭〉の取材のため京都を訪れ、主催者インタビューをはじめ、映画監督や会場のライヴハウスオーナーなどの話を記事にした。今年は現地取材は叶わなかったが、〈京まちなか映画祭2020〉運営委員・石塚就一 a.k.a ヤンヤンにメールで現在の京都の街の様子について、今年の映画祭についてざっくばらんに話を訊いた。

※この内容は2020年8月上旬のものです。

取材&文:西澤裕郎


「現場主義」を徹底的に貫きたい

──昨年、〈京まちなか映画祭〉の取材で京都に伺わせていただいたときは、こんな世の中になっているとは想像もつきませんでした。今回はメールインタビューという形になりますが、4月の緊急事態宣言から、8月に至るまでの京都の雰囲気を教えていただけたらと思います。まずはざっくりとした質問で恐縮なのですが、コロナ禍における京都の雰囲気を教えていただけますでしょうか。

石塚:例年と比べて外国人観光客の数が圧倒的に少ないため、本当に変な感じがします。また、木屋町通などの飲み屋街も、夜に歩いていると「暗いなあ」と思います。遅くまで開いているお店が減ったので、地元民の思う京都らしさは減退している印象ですね。一方で、緊急事態宣言解除後、僕の周りの映画ファンは以前より劇場へと足を運んでいる印象があります。やはり、映画への飢えは強かったのではないでしょうか。『ドロステのはてで僕ら』がヒットしたりとか、地元にゆかりのある作品が盛り上がったのも無関係ではないと感じます。

 

──京都の映画館、ライブハウスは、コロナ禍によってどのような影響を受けていますか?

石塚:ライブハウスやクラブの打撃はかなり大きいですね。知り合いのライブハウスが閉業に追い込まれたりとか、確実にコロナの影響は出ています。緊急事態宣言中ではライブを催せないので、手製のマスクを販売していた箱があったり……。クラウドファンディングに成功したところもありますけど、圧倒的に十分なサポートを得られていないライブハウスのほうが多いです。第二波のダメージがかなり心配です。それでも限定観客ライブ、配信などでなんとか興行を続けていて、音楽の灯を消さないようにしようとどこも頑張っています。

──石塚さんは映画館で映画を観ることに非常に拘られています。コロナ禍において、映画を観る方法や考え方にどんな変化がありましたか。

石塚:コロナ禍では「劇場に行けないから配信文化が伸びるだろう」みたいな言説ばかりで素直にムカついてます(笑)。僕自身、配信で映画を見ることはないし、いかに話題作だろうが「劇場で公開してくれないかな」としか思わないですから。見逃した映画を人からメチャクチャ薦められたらソフトで見ますけど、面白かったら「劇場で見られなくて悔しい」以上の感想にはならないです。別に配信やソフトを批判したいわけではなくて、合理主義っぽく「劇場文化は廃れていく」みたいに決めつけていく考え方には抵抗したいんですよね。たぶん、こういう人間は少数派で、僕ら世代より若くなっていくともはや変人レベルだと思うんですよ。だからこそ、映画館人口をもっと増やしたいという思いを抱き続けているし、コロナ禍でそれはますます強くなりましたね。僕にとって映画館がなくなるのは、映画を見なくなることとほぼ同義なので。

2019年の取材時の様子、向かって右側が石塚

──映画ライターとしての仕事には、どれくらいの影響がありましたか。

石塚:映画ライターとしては、もともと売れてないのであまり仕事に影響はありません(笑)。でも、昔書いていた媒体の人がSNSで「みんな大変だね。俺らは関係ないけど」みたいなことをつぶやいていて、発信側でも現場を知らない、現場の気持ちが分からない人がいるんだなと思いました。だから今は「現場主義」を徹底的に貫きたいです。ぶっちゃけ、映画の文章を書くなら配信の波に乗っかったほうが絶対にいいんですよ。でも、僕はいつまでも、映画館と、映画に関わる人たちの中で起きていることを伝えていきたい。ライブに行かない音楽ライターなんていないじゃないですか。同じことで、映画館じゃないと分からないことを書いていきたいです。

上の世代がギラギラしてる一方で、学生たちはどんどん元気をなくしている

──全国的にコロナウィルス陽性者の数が増えていますが、中でも東京は数が多く、他県へも出づらいし、他県からも来づらい状況です。京都にいらっしゃる石塚さんや周りの方から東京はどのように見えているのか教えてほしいです。

石塚:報道だけ見ていると「怖いな」と思ってしまうのですが、陽性者が増えているのと同じくらい、魔女狩りの雰囲気が漂っているみたいで、引っかかります。それは大阪とか、京都にも少なからずあるムードなんです。でも、「コロナはかかる人が悪いから」っていう理屈は全面的に支持できなくて。この間、ワイドショーで東京の「夜の街」に繰り出し、感染した女性が泣きながら後悔しているインタビューを見たんですよ。夜の街以外で感染した人に対し、そんな断罪的なVTRを作るのかな、と思ってしまいました。東京についてはコロナそのものよりも、そういう空気が危険だと感じています。でも、京都が今より感染拡大したら同じような空気になってしまうかもしれない。全然他人事とは捉えていないですね。

──京都は学生もとても多い街で、そうしたことで生まれるカルチャーもたくさんあると思います。〈京まちなか映画祭〉にも、クリエイターやスタッフをはじめ、若い人たちが多く関わっていたと思います。そうしたコミニティには何かしら影響がありますか?

石塚:〈京まちなか映画祭〉でいうと、20代の子たちは本当によくやってくれています。今年からYouTubeチャンネルを開設したんですが、プロの映画監督、安田淳一さんに監督をしてもらっていて。その補佐に若い男の子をつけてみたところ、メチャクチャ成長が早いです。安田さんには相当しごかれてますけど(笑)。彼は今年、映画祭が新しいことを始めた中で台頭してきた人材です。あと、映画祭デザインチームの中心も若者なので、助けられることばかりです。僕自身に映像やデザインのスキルがないので、本当に頼ってます。

気になるのは…… 真面目さの裏返しだと思うんですけど、学生からはもっとアクションがあってもいいはずなんですよね。アプローチしてみても冷めてる子たちが多い印象です。僕の印象では、上の世代がギラギラしてる一方で、学生たちはどんどん元気をなくしてます。大変な時期なのは分かってるし、そもそもコロナ禍で学費が払い続けられるか不安な学生たちもいるでしょう。だから偉そうなことは言いたくないんですけど……。それでも、もしこれを読んでいて、映画やイベントをやるだけの力が残っている子たちは奮起してほしい。京都で映画祭、上映イベントをやっている人たちの中で、一番アホで青臭いのは僕たちなんです。30代以上のオヤジ集団に情熱で負けてる、っていうところは学生なら悔しがってくれないと困る。京都を盛り上げるのは10代、20代であるべきで、僕らはむしろそいつらの仮想敵でいいくらいなんですよ。ただ、繰り返しますが、あくまでも優先は自分の生活と学業でよいので。

──石塚さんの周りにいらっしゃる音楽、映画などカルチャーを生み出すクリエイターの方たちは、コロナ禍でどのようにお過ごしでしょうか。

石塚:松本大樹監督がすごくて。松本監督は2019年に『みぽりん』という自主製作映画を関西でヒットさせて、関東の劇場にまで繰り出した猛者です。ただ、今年の初めごろに電話したときはちょっとお疲れモードだったんですよ。『みぽりん』の興行が落ち着いて、休眠に入ってたんだと思います。

 

でも、コロナ禍が来てから、創作意欲に火がついてしまった。ZOOMとかを利用して、あっという間に2本の映画を撮ったんです。『はるかのとびら』と『コケシ・セレナーデ』。どちらも傑作です。『はるかのとびら』はYouTubeで全編視聴可能です。京まちなか映画祭でも、スクリーンで上映します。あと、映画祭でラップ教室の講師を引き受けてくださったゴンザレス下野さんも無観客イベントとかオンラインのMCバトルとか積極的に主催していますし。みんなバイタリティーあふれていて、刺激を受けています。それでも、ライブやイベントの頻度はかなり少なくなっていますね……。

 

──前回の取材でお会いした浅川周監督はお元気ですか?

石塚:浅川さんは2、3月くらいに「俺は今年、新作を撮る」って宣言してました。あの人、完成している映画も1本あるのに、全然上映してくれないんですよ。だから、この記事がきっかけになればいいですね。浅川さん! いい加減に上映しましょう! 新作も撮りましょう!

──昨年の取材の際、『嵐電』の話を熱っぽく話してくださったのが今でも印象に強く残っています。今となっては牧歌的な街並みの中で幻想的な出来事が起こっていく物語ですが、コロナ以降に描かれる映画の内容や構造など、これから変わっていくと石塚さんは思われますか?

石塚:最近、ドラマとか映画を見ていたらずっとソーシャルディスタンスばかり気になってしまいますよね。『半沢直樹』でも「人の近くでマスクもつけず大声出してるなあ」とか(笑)。そういう変化はあるんじゃないでしょうか。ある映画監督とLINEしていたときに、「何年か経ってから2020年を描くのに苦労するだろう」とおっしゃっていて、「確かに」と思いました。だから、作り手の人は逆に「いかにコロナを避けるか」みたいなところで頭を悩ましていくと思います。『サザエさん』的な、時間軸の曖昧なフィクションが増えるのではないでしょうか。「平成32年」とか。これだけ日常が壊された後なので、『よつばと!』みたいに毎日の大切さをミニマルな視点で描くような話も人気が出ると思います。

心からみんなが「面白い」と感じられる場所に京都を変えていけたら

──今年は11月27日(金)~29日(日)で〈京まちなか映画祭〉の開催を発表されました。開催を決定するまでにどんな議論などがあったか、そのなかでどうして今回のような企画をやろうと思ったのか教えてください。

石塚:議論に関していうと、まったくなかったです。もう、スタッフはみんなやるつもりでいました。ただ、オンラインにするかオフラインにするかとか、そういう判断を今後、慎重にしなくてはいけない。でも、たとえオンラインになっても映画祭のコンセプト「映画を通して京都を知ってもらおう」が変わるわけではない。僕らがかっこいいと思っている人、作品があればどのような形でも、広める方法はある。大切なのは形態じゃなく、中身だと思っています。今回のワークショップ企画に関しても、まずは人ありきです。これだけすごい人たちと関わっているわけだから、みなさんにも彼ら、彼女らの才能を知ってほしい。直に感じてもらいたい。企画が固まったところでコロナの感染が拡大したわけですけど、「じゃあ止めましょう」と思うくらいの人なら最初からお声がけしていません。どのような方法でも、安全性と企画の面白さを両立させる道を常に探り続けていきます。

──日々状況は変わっていますし、その中で1番いい方法を探していくことが大切ですよね。

石塚:コロナは重大な問題ですし、僕たちも真剣に向き合ってますけど、映画祭の主題にはならないと思っています。〈京まちなか映画祭〉はずっと続いていくものだし、たまたま今年の会場が映画館になろうとライブハウスになろうとオンラインになろうと、特別なことだとは考えていないですね。僕の支えになっているのは、打ち合わせで飯塚貴士監督がおっしゃった言葉なんです。「小さいころはお絵かきも粘土遊びもみんな普通にやっていて、上手い下手なんて気にしていなかった。大人になっても同じように楽しめたらいいのに」って。僕も小さいころ、幼なじみや兄弟と、オリジナルのクイズ大会とかお笑い企画とか毎日のようにやって過ごしていました。今も映画祭をやるモチベーションは「面白い人たちと面白いことをやりたい」ということです。絶対面白いのは分かっているんだから、後は行動でそれを実証し、お客さんに分かってもらうしかない。コロナ対策を本気でやるのも、その一環だと考えています。

──石塚さんはご自身でのラップを行うくらい、ヒップホップに強い思い入れを持たれています。去年お会いしたときは、そこまでラップのお話をした記憶はないので驚いた部分もあるのですが、どうしてラップにそこまでのこだわりを持つようになったんでしょう。

石塚:もともとリスナーとしてヒップホップは好きだったんですが、聴いていたのは9割が海外の曲でした。日本のラップは、曲よりバトルに触れる機会が多かったと思います。ラップ教室でラッパーの歩歩さんに学んだりもしていたんですが、当初、あまり目的意識がなかったんですよね。ラップすること自体が楽しいだけで、活動をしようという発想にはなりませんでした。でも、2019年3月くらいから興味本位でMCバトルに出るようになって。そこで出会った人たちに教えてもらって、ゴンザレス下野さんが主宰している日本橋サイファーに通うようになり。その流れで、今年の冬、下野さんにインタビューしてStoryWriterさんに記事を掲載してもらいました。そこで、下野さんの思いに触れ、非常に刺激を受けまして。というのは、彼は北海道出身なんですけど、地元にほとんどラップ仲間がいなかったらしいんですよ。だからこそ、一緒に音楽をやったりイベントを開いたりできる仲間と出会えた、日本橋という場所に並々ならぬ思い入れがある。僕も映画に関わって生きてきましたが、学生時代の友達とかほとんど理解はしてくれなくて。「金にもならないことやってるな」とマウント取られたり。「そんなことより早く結婚しろよ」とか(笑)。

──ゴンザレス下野さんとの出会いが大きいんですね。

石塚:だから、勝手に自分と重ねてしまったんでしょうね。好きなことを好きだと堂々と言えるヒップホッパーの人たちって、関わっていてすごくかっこいいです。それと、ヒップホップの界隈って大きな互助組合みたいなものなんです。クラブでやってるイベントの費用とか聞いたら安くてびっくりしちゃいましたよ。僕は映画の「やるからには赤字覚悟」な部分があまり好きじゃない。だから、ヒップホップの精神に学ぶことが多いと思っているんです。

──〈京まちなか映画祭〉は、コロナによって謳われた蜜にならないことやソーシャルディスタンスをとることとは真逆の、いわば蜜で深いコミュニケーションの中で生まれた映画祭だと思っています。ポストコロナ、withコロナが叫ばれている中で、どのような映画祭でありたいと思われますか。

石塚:コロナに関しては「ポスト」にせよ「with」にせよ、キャッチフレーズみたいなものなので、そう決めてかかるのが危険だと思っています。本当に予断を許さないじゃないですか。「with」なんて、本当に願望でしかない言葉ですよね。自分がコロナにかかったとして、本気で「with」とか言えるのかな、と思う。だから、ニュートラルな映画祭でありたいと思っています。恐れすぎないかわりに、舐めもしない。必要な対策は全部やる。お客さんも、関わってくれる方々も、安全を徹底的に確保する。ただ、別に「コロナ禍を象徴する映画祭」になんてしなくていい。コロナの中でも当たり前のように存在し、お客さんを楽しませることが目標です。オンラインとかオフラインとか、手法はどうだっていいんですよ。僕たちはそのとき、一番面白いと思っていることをやる。それが失敗すればやり方が間違っていたんだろうし、反響があるなら正しかったんだと思える。例年と変わらないですね。

──とても心強い言葉だなと思います。

石塚:ただ、「面白いことは誰でもいつでも面白い」という今年のテーマは重みを増していくと思います。僕が言ってはいけないのかもしれませんが、映画や音楽がなくても死なないじゃないですか。じゃあ、なんでこんなに必要とされているのかっていうと、面白いからですよね。2020年は、すごく娯楽や趣味の選択肢が狭まった年だと思います。そんな中、心からみんなが「面白い」と感じられる場所に、京都を変えていけたらと願っています。「童心に戻って」という言葉もありますが、僕は大人には大人の、お年寄りにはお年寄りの面白がり方があるはずだと思っています。いろいろな人が映画祭を通して、それぞれの楽しみ方を見つけてくれるのが一番ありがたいですね。


■イベント情報

〈京まちなか映画祭2020〉
2020年11月27日(金)~29日(日)
https://www.kyomachinaka.com/

京まちなか映画祭プレイベント「シークレット・オブ・モンスターズ」
2020年8月22日(土)@総本山誓願寺
時間:18:30~
料金:2,000円
飯塚貴士監督、宇治茶監督、松本大樹監督、山口淳太監督のレア作品を上映!何がかかるかは当日のお楽しみ。上映後は監督たちのトークもあり!
予約受付は、
kyomachinaka@gmail.com
もしくは
Twitterアカウント「@kyomachinaka」DMまで

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