2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を踏まえ、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令された。
感染リスクを避けるために営業自粛を余儀なくされていた全国各地のライヴハウスは、営業再開の見通しが立たないどころか、収入が絶たれた苦境へと立たされている。営業停止を行う文化施設に対する助成金を求める「#SaveOurSpace」といった運動や、ライヴハウス主導のクラウドファンディングなど、音楽を巡る環境を守るための活動も行われており、なんとしてでも文化の火を絶やしてはならない。
StoryWriterでは、2店のライヴハウス(埼玉県宮原にあるヒソミネ、東京吉祥寺にあるNEPO)と、2店の飲食店(埼玉県宮原にあるbekkan、東京吉祥寺にあるMOCMO sandwiches)を経営し、自らもミュージシャンである森大地に現状を聞き、定期的に現状を伝えていく記事を急遽連載することにした。状況は毎日大きく変化しており、そんな中でストラグルしている森の言動を共有することで、他の同業者のヒントになればと、そうでない人たちもライヴハウスのリアルを知ってほしいと思う。
第2回目となる報告は、緊急事態宣言が発令されてから約2週間弱の4月19日に電話で森に話を訊いた。
取材&文:西澤裕郎
>>Vol.1──緊急事態宣言直前、売上0で毎月200万ずつ減っていく現状を語る
外出しなくても成り立つような何かを始めないとなと思った
──前回の取材後、緊急事態宣言が発令されました。森さんの経営する4店舗の店に、どういった影響があったのかから訊かせてもらえますか?
森大地(以下、森) : 2つのライヴハウス(ヒソミネ、NEPO)は今はもうずっと閉めています。NEPOもヒソミネも5月6日までの休業は決まっているのですが、正直、再開は当分厳しいだろうなと思っていて。おそらく6、7月も休みになりそうな可能性が高いかなと。bekkanは営業時間を短縮して行なっていたんですけど、目の前のコンビニで感染者が出ちゃったみたいで、保健所が入って今はもう中に入れなくなっている。うちも大事をとってテイクアウト専門という形に切り替えています。MOCMO sandwichesはテイクアウトが結構出ることもあり、通常通り17時まで営業しているんですけど、やっぱり売上は厳しいですね。
──緊急事態宣言の期間は、現時点で5月6日までです。6、7月も難しいだろうというのは、どういうところで感じていらっしゃるんでしょう?
森 : 自分は専門家ではないんですけど、情報を集めていく中で、厳しいんじゃないかと思うことが多い。例えば、アメリカの医療専門家は、新型コロナウイルスのパンデミックを踏まえてフェスティバルやコンサートは来年の秋まで開催できないのではないかという予想を発表していたり、そういうニュースがいろいろなところで出ている。もし一度収束に向かったとしても、二次感染のことも考えるとすぐには厳しいかなと。それは僕だけじゃなくて、周りの経営者もほとんど口を揃えてそう言っている感じですね。
──現在、東京、札幌、京都とライヴハウス閉店のニュースが相次いでいます。ライヴハウス閉店という現状を、森さんはどういうふうに受け止められてらっしゃいますか? 前回、融資を受けてしばらくは耐えられそうとはおっしゃっていましたけど。
森 : 「融資」って支援みたいに聞こえますけど、結局は借金なので。これ以上借金を増やしたら破滅するなという判断をするオーナーもいると思うんですよね。うちはとりあえず借金をしてでも存続を選んだけど、その判断に迷われているところもあるでしょうし、実際のところ延命したという感じに近いんですよ。借りたお金をすり減らしながら、売上が上がらず0になるのが先か、それまでに復興するのかという勝負みたいなところがあって。言葉を換えれば、賭けに近いと思うんですよ。場合によってはこのまま何百、何千万、会社によっては何億の融資を受けて結局売上が上がらないまま、何千万の借金を背負うだけの可能性もある。ライヴハウスは営業できない、飲食店はお客さんが来ない。飲食店で今すぐできるのはテイクアウトや通販。ではライヴハウスだと何ができるかと考えた時、外出しなくても成り立つような何かを始めないなと思って。うちはそれらを同時進行で動かしている最中です。
──役所とか銀行もかなり混雑していると思うんですけど、実際融資は受けられそうですか? 入金とかもいつくらいになるんでしょう。
森 : 融資に関しては手続きが終わって、来週ぐらいに入金されると思います。前にお話をした時期に既に手続きは始めていて、スムーズに審査が通ったのでお金が入ることは確定しているんです。融資以外の助成金も既に手続きをしているんですけど、提出書類がいっぱいあって結構時間がかかっていて、すぐには振り込まれないんですよね。
ウェブ上に第四の居場所を作るという意味で「Fourth Place」
──4月16日から5月6日の間に無観客ライヴ配信をした場合、協力金の対象外になるかもしれない(※)ということが、ライヴハウス関係者の間で騒然となっています。そういうことに関して、何か影響みたいなものはありますか?
※2020年4月20日、三密の状態を避ければアーティスト・スタッフでの無観客配信ライヴを行っても都の協力金の対象に入ることが発表された。
声が届きました。文化を守るための歴史的第一歩です。
三密の状態を避ければアーティスト・スタッフでの無観客配信ライブを行っても都の協力金の対象に入ります。
明日行われる都議会の前に、
都議会(都知事宛)・総務局、産業労働局へ署名を提出してきます。
更なる声を。https://t.co/mDU6W3MOKN https://t.co/oEcdU9Mht8 pic.twitter.com/TnRkXIZRYZ— SaveOurSpace (@Save_Our_Space_) April 20, 2020
森 : 1ヶ月前くらいに都は無観客ライヴも推奨してないという話は聞いていて、何もできないじゃんって一瞬は思ったんですけど、すぐ考えを切り替えて何ができるかなと考えてみて。その結果、今日から開始の「Fourth Place」というプロジェクトを立ち上げることにしました。それは主にZoomミーティングとか、Zoomビデオセミナーなどを使った動画配信サイトなんですが。自宅からいろいろなミュージシャン、例えばdownyのロビンさんやSUNNOVA君、THE NOVEMBERSの小林さん、the telephonesの誠治君と言った人気ミュージシャンとZoomミーティングを使って、色々なテーマ、例えば人生を変えたアルバム10枚という企画でトークをしたり。アーティストによっては自宅ライヴをライン録音をしてもらって映像とミックスして公開したり。自宅でできるものに限定して配信を行います。
──そのプロジェクト名が「Fourth Place」だと。
森 : 基本的には無料でも楽しめる動画配信サイトなんですが、ちょっと変わったところだと例えばZoomビデオウェビナーを使った生放送のトーク番組で、視聴者の質問にリアルタイムで答えてみたり、その場でアンケートをとって結果を発表するみたいなことも考えています。あとはこちらも重要な要素なんですが、有料のオンラインサロンも同時に開設します。そちらはFacebookグループを軸にして、毎日の出来事日記、僕らのいろいろな考え、もうちょっと専門的な情報や裏話など、ファンクラブ的な要素が中心です。週何回かNEPOやヒソミネに寄ってくれる人もいて、その人たちにとって行く居場所がなくなっちゃった感じがあるんですよね。bekkanは、家、職場以外の第三の場所=サードプレイスを意識して始めたんですけど、今回はウェブ上に第四の居場所を作るという意味で「Fourth Place」。なので「Fourth Place」は動画配信サイトというよりは僕らの新しい居場所の総称ですね。
──ライヴハウスを拠点に配信をするということでもなく、それぞれの自宅なりから、ネットを介して1つに繋がっていくと。
森 : そういうことですね。ライヴハウスには場所があるのが最大の武器だと考えていたんですけど、その最大な武器がなくなった時、僕らは一体何を持っているんだろうと考えて。いや、自分たちは場所がなくても、人と人、人と音楽を繋げることが本来の役割じゃないかって思ったんです。その場所をオンラインに移しても、同じように人と人、人と音楽を繋げてみたいんですよね。NEPOスタッフ、ヒソミネスタッフも手を持て余しているので、みんなでやってみようと決めました。スピード勝負だと思ったので、β版に近いぐらいなんですけど、構想から2週間ぐらいで一気に形にしてリリースしています。
──値段は大体どれくらいになるんでしょう?
森 : 月額制のオンラインサロンは月々3000円を考えています。他の動画コンテンツは全部無料です。
──今までNEPO、ヒソミネで働いてらっしゃったPAさん、照明さんなどが、今回のスタッフとしても手伝ってもらう形になるんですか?
森 : 公開はもうちょっと後になると思うんですけど、コンピレーション・アルバムを作っているんです。OTOTOYさんのやっている企画「Save Our Place」にうちも乗らせていただいて、NEPO、ヒソミネのオリジナルコンピレーションアルバムを作ろうかと。彼らには、そのマスタリングとかやってもらおうかなと思っています。
人と人との繋がりを途切れさせて0にしたくない
──飲食店のほうでは実際、前回仰っていた塩キャラメルテリーヌや、音楽機材ケーキみたいなのも販売開始されているんですか?
森 : 販売準備は整っているんですけど、箱が届くのに時間がかかっていて。届いたら、すぐにでもやろうと思っています。音楽機材ケーキがめちゃめちゃいいんですけど、手作りで1日2個くらいしか作れないくらい手間暇かかっている。だから、結構お値段を取らなきゃ割に合わなくて。今のところ4000円ちょっとになりそうなんですけど、作るのにかけている時間で考えると、どうしてもそれぐらいの値段になっちゃうんですね。
──それは店舗のテイクアウトみたいな感じでの販売になるんでしょうか?
森 : 塩キャラメルテリーヌは店舗のテイクアウト販売も考えていますが、エフェクターケーキは通販限定にする予定です。Twitterにビッグマフ(ギターエフェクター)のケーキの画像を載せたところ結構反響をいただいていて、予約入荷待ちみたいな状態になるかもしれないのですが、できる限り多くの方にお届けできたらと思ってます。
新型コロナウイルスからの復活作戦3連発を企ていて、その内の1つ、お菓子販売では【塩キャラメルテリーヌ】と【音楽機材ケーキ】を今月末に販売開始予定です。
その【音楽機材ケーキ】のBIF MUFFケーキを先に公開!
手間暇かけまくりなので少し割高になりそうですが、音楽家への贈り物にも最適です。 pic.twitter.com/GCKNLunud0— 森大地 Teenage Brewing / Aureole / NEPO / ヒソミネ/ kilk (@daichimori) April 12, 2020
──前回、出前館とか、UberEatsの登録が混んでいて時間がかかっていると仰っていたじゃないですか。そのあたりの登録というのはいかがでしょう?
森 : UberEatsより出前館の方がちょっと手続きが早めですね。最近ようやく必要書類の提出を完了させたところです。
──前の記事を出したら、「こういう店で注文したいから早く登録できないかな」と書いている人もいましたよ。
森 : あー本当ですか、ありがたいですね。「ごちめし」っていう、先に買って誰かに奢るアプリがあるんですけど、MOCMOとbekkanの両方とも買ってくださる方がいて。NEPO、ヒソミネ含めて応援しようと思って買ってくださる方もいっぱいいるようで、めちゃくちゃありがたいですね。
──自分もテイクアウトで買うことが増えたなとは思うんですけど、先を見据えた時にテイクアウトに力を入れていくことで、経営は続けていけそうな手応えはあったりしますか?
森 : 正直、それだけでやっていくのはまず無理かなとは思ってます。それでもいかにマイナスを少なくするかを考えなきゃならない状況で。「Fourth Place」もオンラインサロンで月額って言いましたけど、そこで今までのライヴハウスの売上くらい上げられるかというとかなり難しいとは思います。それでも「Fourth Place」を始めたのは、これまでライヴハウスでやってきた、
命には替えられないから覚悟を決めてやるしかない
──現在、協力金とか一律10万円給付とか、政府の援助も少しずつ具体化してきてはいます。リアルな現場の声として、どういうものやことが必要でしょう。
森 : ロックダウンができないにしても、生活必需品以外のお店を完全停止させる状況を作るべきだとは思っています。もちろん現状のままそれをしたら、完全に僕もうちのスタッフも終わってしまう。お札を発行すると円が弱くなって日本経済も弱体化していくというのは分かるんですけど、正直人命には替えられないので、国債を発行してでも補償はすべきじゃないかなと。正直、今後10年は日本経済を立て直すのに相当大変な状況になるとは思うんですけど、人命には替えられないから覚悟を決めてやるしかないですよね。それでそこからもう1回やり直しましょうという感じにするのが最善なんじゃないでしょうか。
──ライヴハウスへの風当たりも強いからこそ、補償をしっかりしてほしいですよね。
森 : Yahooニュースのコメントで「ライヴハウスなんかに金払うな」みたいな意見もあったりしますけど、イメージと違ってよっぽど治安が良かったり、やさしい雰囲気じゃないですか。うちのスタッフも近所の人に「ここライヴハウスやってるんでしょ、本当に気をつけてねーやだわー」みたいに喋りかけられたみたいで。イメージが良くないのは薄々思ってはいたんですけど、いざこういう状況になって露骨にあぶり出されるとショックでしたね。他にもキャバクラとか「そんな店に補助金渡すなら潰せ」みたいな声も結構ありますし。キャバクラとか自分は行かないですけど、それでも何か嫌な気持ちになりますよね。業種差別って思ってたよりさらにあったんだなって。悲しいことですけど実感しています。
──キャバクラもオンラインでの営業を始めたりしているみたいんですね。
森 : みたいですね。テレビで観ました。
──人とコミュニケーションできないことがストレスになるなと思うので、誰かと繋がれる「Fourth Place」みたいな場はめちゃくちゃ必要だと思います。
森 : うちも今、NEPOスタッフとZoom会議でやっているんですけど、疲れるは疲れるんですよね。それでも人と会って話すということで初めて安心感が生まれるというか。あまり閉鎖的にやっていると自分のズレを感じてくるんですよ。こんな状況なので間違った方向に進んでないかなとか、お金のこともあって不安になりますし。自分はスタッフたちがいるからよかったと思うことが多いです。
──なんともできないこの状況、もどかしいですよね。
森 : 終わりが見えないというのが、また恐怖感を煽りますよね。震災もめちゃめちゃ悲惨でしたけど復興に向かっていった。今は、今いるところが悪いことの底なのか分からない。さらにどん底があるかもしれないから。一日ごとに希望に向かっているのか判断がつかなくて。それでも自分のできることを精一杯やって、希望に向かっているんだと自らを信じ込ませて行動を起こすしかないんですよね。「Fourth Place」も自分がトーク番組で司会をやっているんですけど、映像を見ていただけたら分かる通り、まあ向いていないんですよね (笑)。ラジオDJでもライターさんでも、インタビュアーでもないので見様見真似でやってるような感じで。向いてはいないんですけど、まず自分が率先してやるしかないという気持ちで動いています。
──四谷Outbreak!も、撮影とかスイッチングなどは、スタッフさんたちでやっているそうです。技術的な部分異常に、出演者に対しての愛情とか、かっこよく見せるぞという気持ちは伝わると思うんです。そういうあり方もより大事になっていくんじゃないかと思います。
森 : そうですね。できることをやっていきたいです。
・Fourth Place 公式ウェブサイト
http://kilk.fun/
・Fourth Place twitter
@kilkfourthplace
・Fourth Place 運営メンバー
森大地:Aureole、Temple of Kahn でソングライティング、ボーカル&ギターを担当。kilk records 主宰。ライヴハウス「NEPO」、「ヒソミネ」、カフェダイニング「bekkan」、サンドイッチカフェ「MOCMO sandwiches」代表、ライヴハウス「神楽音」立ち上げ(2018 年 12 月運営より撤退)など幅広く活動。
白水悠:KAGERO、I love you Orchestra のメインコンポーザー。ベーシスト。I love you Alone名義で現代音楽、ilyons名義で即興アンビエントも作曲。FABTONE INC.内に自身主宰のレーベル「chemicadrive」を創設。海外アーティストとの親交も広く、「NEPO」「MOCMO sandwiches」のディレクターを担当。
河野岳人:ベーシスト。NEPO 店長。マヒルノで本格的に音楽キャリアをスタート。MUSIC FROM THE MARS、Luminous Oranpeへの参加や数多くのアーティストサポートを経て、現在はLAGITAGIDA、SuiseiNoboAzで活動中。
西浜悠二:parade名義で映像作家、MV 製作、VJ、ライヴハウス【ヒソミネ】店長。
早瀬雅之:吉祥寺NEPO制作担当。ex.うみのて
甲斐一斗:音楽プロジェクト「asobius」主宰。「終わらない遊び(Asobi+Möbius)」をテーマに、アーティスト、作曲家、音楽番組企画制作など、様々な活動を行う。『い・ろ・は・す』『三菱 UFJ 銀行』等CMへの楽曲提供等多数の実績を持つ。
・森大地 Twitter : https://twitter.com/daichimori
・NEPO HP : https://nepo.co.jp/
・ヒソミネ HP : http://hisomine.com/
・bekkan HP : https://bekkan.kilk.jp/
・MOCMO sandwiches HP : https://mocmo.kilk.jp/