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曽我部恵一がカレーの店「八月」をコロナ禍に開いた理由、暮らしを歌うというのは政治的なこと

StoryWriter

曽我部恵一が店主を務める「カレーの店・八月」が、2020年4月10日、下北沢にオープンした。コロナ禍真っ只中ということもあり、テイクアウト中心でスタートしたが、店内でも飲食をすることももちろんできる。3階建ビルの1階が飲食スペース、2階がキッチンになっており、3階には中古レコードショップ「PINK MOON RECORDS」もオープン。曽我部自身、カレー屋さんのカウンターに入って接客することもあれば、レコードの査定・買取をし、自らコメントカードを書いていたりもする。エプロンをして朝から晩まで働く姿はひとりの生活者として下北沢の街に溶け込んでいる。

一方で、曽我部の主催するインディ・レーベル「ROSE RECORDS」は2019年に15周年を迎え、自身のベストアルバムのリリースや、サニーデイ・サービスの新作アルバム『いいね!』のリリース、そしてGW明け5月7日24時には1曲15分の東京シンフォニー「Sometime In Tokyo City」を突如配信リリースするなど、ミュージシャンとしての作品制作と活動も充実している。特にサニーデイ・サービスのアルバムはあまりに純粋で、瑞々しく、若々しく、コロナ禍に聴いて何度も何度も勇気づけられている。そんな曽我部恵一に、お店の営業中の合間をぬって、ここ最近の日々について2020年5月10日、話を訊きにいってきた。

取材&文:西澤裕郎


今日売れるものを全部売ろうという感じで始めた

──すごいタイミングで、カレーの店・八月をオープンされましたよね。もちろん、前から進められていた計画だとは思うんですけど。

曽我部恵一(以下、曽我部) : うん、構想は一昨年ぐらいからずっとあって。去年、物件が決まって工事を始めて、4月、5月ぐらいにオープンしようかと言っているところだったんです。

──コロナ禍でオープンするかどうか悩まれましたか?

曽我部 : むっちゃ悩みました。「どうしよう」って言っている中、緊急事態宣言の話が出てきて。その前から、夜は出歩くなとか、バーはダメとか、飲食の営業自体が厳しくなっていたので、経営しているカフェ「CITY COUNTRY CITY」(以下、CCC)の売上が7、8割ぐらい減っていたんです。緊急事態宣言が出ることが決まったときに「じゃあ、CCCはとりあえず閉めましょう」って。カレーのレシピはもうできていたので、そんなことをする予定はなかったけど、「カレーを作って、テイクアウトしてもらう店を今日からやろう!」って言って、CCCを閉めた日に、鍋とかコップとかコーヒーメーカーとか全部持ってみんなで引っ越し(笑)。で、なし崩しでこのままやっちゃおうって、テイクアウトの容器とかめちゃ買ってきて始めたという流れです。なので、スタッフもCCCからそのまま移動してやっています。

カレーの店・八月の外観。同じビルの3階にPINK MOON RECORDSが入っている

──CCCの休業から地続きで、カレー屋さんを始めたというのは驚きました。

曽我部 : とにかくやれることは限られているけど、やれることがあるんだったらやるしかないねって。バイトの面接も去年ぐらいからやっていたんだけど、バイト代が払えそうにないからと言って待ってもらって。とりあえず身内だけで回して、なんとか始めたという感じですね。本当は告知をしたり、いろいろしようと言っていたんですけど、全然そういうこともできずに。

──今、従業員は何人ぐらいでやられているんですか?

曽我部 : CCCが3人。レーベルが僕を入れて3人。なので計6人です。

──カレー屋さんが入っているビルの3階には、中古レコードショップ「PINK MOON RECORDS」もオープンされましたよね。

曽我部 : このビル自体、3階建で、1階が食事用、2階がキッチンなんですよ。もともと3階はライヴもできる小さいイベントスペースにしようと考えていたんですけど、とてもじゃないけど無理だから、資材とか置いて倉庫になっていて。うちのスタッフがそれを観て「レコード屋さんにして、お会計は1階でしてもらえば、人がいなくてもものが売れるじゃないですか?」って。「それいいね!」ってことで、レコード屋さんも始めたんです(笑)。

PINK MOON RECORDSの入り口

──信じられないぐらいの、フットワークの軽さですね(笑)。

曽我部 : 今回、軽かったですね(笑)。もうね、吟味したり躊躇したりする余裕が一切なかったので。とにかく来月分の給料とか家賃を、どう生み出すか考えて、今日売れるものを全部売ろうという感じで始めたんです。

──このタイミングで、新しく店を始めるという人が身近にいなかったので、かなり新鮮というか、曽我部さんらしいなと思います。

曽我部 : そうですね(笑)。レコード屋さんを始めたら始めたで、もっとレコードを買わなきゃみたいな気持ちになって。こういう時だから、大掃除じゃないけど、断捨離をしている人が多くて。その際に出たレコードとかを買いますって言って売ってもらったり。逆に攻めているというか(笑)。

ジャンルごとに丁寧にレコードが並ぶ

コメントは曽我部自らが手書きで書いている

──実際にお店を始めたことで、気持ちに変化はありましたか。

曽我部 : 正直、CCCのお客さんが7、8割減った時はすごく不安だったんですよ。いつまでこの状況が続くかわからないし、給料や家賃をどうやって払ったらいいんだろうとか。毎日一生懸命やれることをやるだけなので、それは精神的にはよかったなって。そういった不安がなくなりましたね。みんなが必死になりすぎるのもよくないので、楽しいなという気持ちでできるようには思っています。ずっと練ってきた当初の計画は全部なくなってしまったんですけど、逆に新しい売り方のアイデアをみんなで出し合ったり、メニューもこういうのどう? とかやり取りして営業している。それはそれで楽しいです。

──八月という名前には、どういう由来があるんですか?

曽我部 : 最初は英語の名前も考えていたんですけど、海とか、空、青空とか、日本語がいいよねって話になって。うちのスタッフが「八月」って言って「それ、すごくいいね!」「八月いいねー」って言って、そのまま決めました。

──どうしてカレーだったのか、理由はあるんですか?

曽我部 : 最初、店長のシェフと食べ物屋さんをやろうというコンセプトで、様々なお惣菜を持って帰れるデリのお店いいねとか言っていたんです。どんなデリにするの? ってところでメニューが狭まってきて、最終的にカレーになりました。やっぱり下北って若い人が多いし、腹が減ったとき、カレーとかラーメンとか牛丼とかがいいんじゃないかなって。その中でもカレーだったら男性女性問わず食べたい日があるし、僕が好きだからというのもあって、カレーを作ろうってところから始めたんです。僕の好みも、他のスタッフの好みもあるので、僕がめっちゃいいと言っても、女性はうーんって感じだったりして、全員オッケーのカレーのレシピができるまでは結構時間がかかりましたね。

八月のチキンカレー

──お店の前を通るたびに、テイクアウトをされているお客さんの姿を見かけるんですけど、実際始めてみての手応えはいかがですか?

曽我部 : 本来想定していたことではないから、売上がいいのか悪いのかが全然分からなくて。とにかく1食でも多く売りたいなという感じでやっています。GW明けにCCCを開けたんですけど、そっちの売上が7割減だとしても、この感じで回していければ、家賃と給料は出せるかなというくらいです。

──CCCのほうは、今どういう状況で営業しているんでしょう。

曽我部 : 店長がワンオペで回しています。彼は料理もできるので、ホールもキッチンもやっていて。このタイミングでメニューを減らすのはさみしいから、増やそうって(笑)。僕はよく家でフレンチトーストを作るので、僕が仕込んだフレンチトーストを毎日限定なんですけど出しています。だから最近は、仕事終わりでフレンチトーストを仕込んで翌日渡すという毎日です(笑)。

コロナの怖さを感じながら、ある程度グレーゾーンの中で暮らしている

──コロナウィルス感染拡大により、ライヴが中止になったり、お店を営業し始めたりする中、曽我部さんの生活様式にも変化があったんじゃないですか。

曽我部 : 生活スタイルが全然変わりましたね。朝起きて、お店に行って、夜まで働いて帰る、みたいな。今までは、子どもたちもいるのであれなんですけど、好きな時に音楽を作ったりして、なんとなく暮らしていた。でも今はそういう時間は全くないです。片付けとテイクアウトの準備をみんなでやって、お客さんが来たらカレーを作って出す。レコードも同時にやっているから、買ってきたレコードにコメントを書いて値付けして出すのにも結構時間がかかるので。大体全部片付けて家に帰ると、12時とかになっちゃう。

買い取ったレコードを査定中の曽我部。取材の合間にも買取の仕事をしているのが印象的だった

──このタイミングで逆に規則正しい生活になっている人も多いですよね。

曽我部 : 夜、お店が閉まっていますからね。

──国や都の要請を守りつつ、その中で目一杯活動されていると。

曽我部 : そうです、そうです。国や都からの要請と言っても、強制力のあるものではないじゃないですか? もちろん衛生面はすごく気を遣っているんですけど、外へ一歩出ると感染を完全に防ぐのは難しいから。コロナウイルスの怖さを感じながら、ある程度グレーゾーンの中で暮らしています。みんなそれぞれ最低限気をつけながら生きていると思うんです。このお店に来てくれる人や、接している人は大体そういう感じの生き方だろうなと。例えば、国が「人との接触は100%辞めてください」とか「人がいたところは絶対消毒しますよ」「そうじゃないとウイルスは広がってしまいますよ」と言えば、みんな従うんだろうけど、国として、なんとなくグレーゾーンでいきましょうねという方向性だと僕は受け取っているので。その中で、自由に自分のやり方でやらせてもらいますって感じですね。

お店の前でテイクアウトも行なっている

──僕の事務所は渋谷・円山町にあるんですけど、VUENOSなどクラブ・ライヴハウスが閉店を決めたり、道玄坂の回転寿司屋さんが閉店になったり、思わぬ形で街が変わっていく不安というか悲しさを感じていて。

曽我部 : 渋谷はすごいですよね。新宿もすごかったですね。

──曽我部さんが生活する下北沢に関しては、どういうふうに感じてらっしゃいますか?

曽我部 : 下北も三茶もですけど、みんな生活しているから、コンビニに牛乳を買いに行くとかの理由で外に出ているんですよ。基本的に、渋谷・新宿に暮らしている人は多くない。それだけの違いだと本当は思うんです。結果、大都市圏じゃない、周辺の駅がある街の飲食店はなんとか持ちこたえているような気がしていて。新宿とかは、想像すると本当に大変だろうなと思う。お店を開けたところで、全く人がいないじゃないですか。家賃も桁が違うだろうし。

──円山町も、nest下のローソンでさえやっていないときがあって、街自体が機能していないんですよね。あれだけ賑やかだった場所なので、日々、さみしいですね。

曽我部 : VUENOSとかが閉まったのはびっくりしました。Club Asiaはまだ残っているけど、残念ですよね。自分たちがお世話になってきた会場がなくなるというのは。商売ってそういうものだと言われたらそうなんだけど、さみしいっていう気持ちはありますね。

>>clubasia 存続支援プロジェクト

──ライヴハウスがなくなると活動する場所がなくなることを心配しているミュージシャンも少なくありません。曽我部さんは、そのあたりはいかがですか?

曽我部 : 僕はどこでもできるので心配していないんですけど、好きなライヴハウスとか仲の良いライヴハウスでの人たちの顔が浮かんできて。小箱って、人と人との関係でやっていたところがほとんどだと思うんですよ。ライヴハウスがあろうがなかろうが、自分の音楽とか歌うということにあまり関係がないんですけど、めちゃくちゃお世話になってきたし、たくさんサポートしてくれた人がいっぱいいるので、この状況が落ち着いたら、お金をもらわずに回るようなツアーとか組んでみようかなと思っています。お客さんさんからお金をもらって、それをライヴハウスに置いていくようなことをしたい。

芸を見せてお金をもらっている関係性は変わらない

──先日、四谷アウトブレイクの動画に出演された時、配信ライヴについても話されていたじゃないですか。ライヴハウスがある駅から歩いて行って、受付を通って入るドキドキまで含めてが体験で魅力的な部分だと。

 

曽我部 : うん。ライヴハウスじゃなくても、その場所に行くということの意義が大きいと思っていて。映画館に行くのも一緒だと思うんです。ただ今は、それができないから、みんな家で観ている。この前、Have a Nice Day! の配信イベントに出たんですよ。空っぽのライヴハウスで、カメラが何個かある中で歌ってみた。その配信に対して、今までと同じお金を取れるのかはこれから検討する余地があるんですけど、別にやることは一緒だなと思って。チケットを売って、お客さんを集めて配信で観てもらうんじゃなくても、全部に開かれて、都度課金ができる中でやるしかないんじゃないかなって。それは芸人として。

──おひねりというか、芸に対してお金をもらうということですよね。

曽我部 : そうそう。ある人はタイムラインを見ながら「ありがとうございます! なんとかさん」って反応をするだろうし、ある人は今まで通り客なんて知らねえよってスタイルでやるだろうし、それを格好いいと思ってお金を払ってくれる人がいる。どんなやり方でもいいと思う。結局は芸を見せてお金をもらっているという関係性は変わらないから。音質とかはもちろん生とは違うんですけど、場に行くドキドキ感はお客さんの個人的なことではあるから。僕らとしては、配信だからと言って歌い方が変わるわけじゃない。だから、今までのことをやってお金をもらえなかったら、それはダメだったってことじゃんみたいな感じですね。そういうことでしかないんだろうなとは思うけど。

──これまで当たり前だと思っていたことの原点を見つめなおすきっかけでもありますよね。

曽我部 : そうですね。新しいスタイルが今から作られていくかもしれない。

──このサイトも、4月にサイトリニューアルをして、広告営業をしようと思っていたタイミングでコロナ禍になってしまったんです。そういう時期でもなくなっちゃったので、今は出稿などは考えずに取り上げたいもの、取り上げるべきものを、取材して記事にしているんですけど、正直、めちゃくちゃ健全な気持ちでできていて。そういう記事が載っているサイトに価値を感じて、広告を出したいと思ってもらえるようになるのが健全な形かなと思って、前向きな気持ちでやっています。

曽我部 : それはそう思いますね。もともとが、そうですからね。

──音楽メディアは、いつの間にか順番が反対になっちゃっていたのかなと感じていて。出稿がないと取材記事を載せられないみたいなことは本末転倒だと思うんです。ライヴハウスとかミュージシャンだけじゃなくて、メディアも含めてあらためて考え直すタイミングなんだろうなとは実感しています。

曽我部 : 結局、お客さんが必要としているものは残っていくんだろうなと思うんです。配信だろうがライヴだろうが、これにお金を払いたいというものは絶対に残っていくと思うんです。人に見てもらう、聴いてもらう、ということがなくなるわけではないので。会場がなくなろうが、ミュージシャンが少なくなろうが、メディアが少なくなろうが、そこは関係ないと思う。

──曽我部さんの話を聞いていると、すごく前向きになれますね。どちらかと言うと、今の状況が早く落ち着いて元のように戻るのを待っている人も少なくないので。

曽我部 : まあ、乗り切るも何も、終わる問題でもない気がしていて。考え直すタイミングというか、めちゃくちゃギューギューでライヴをやることって、今後なくなっていくと思うんですよ。ライヴハウス側も何十%という密度を守らないと営業できなくなると思うし、僕らライヴをやる側も、今までだったらソールドアウトでギューギューにしてるのがいいみたいに思ってたけど、もうちょっと人と人の感覚を空けてゆったり観れる方がいいんじゃない? とかなっていくと思うんですよ。そういう考え方も仕切り直しというか。すべてが1回0に戻った感じだなと思います。いい意味でも悪い意味でも。

──2年前に〈ボロフェスタ〉でLOSTAGEの五味(岳久)さんと対談をしていただいた際、物販の在庫が多すぎるから、それを減らして音源とライヴだけでやっていきたいということもおっしゃっていましたよね。

曽我部 : その変化の境目がずっと続いてはいるんです。物販など含めて在庫がすごくあるので、3階建ての一軒家を借りていて。十数年借りているので、大家さんともいい関係だとこっちは思っていたんだけど、今回のことで「家賃下げてもらえませんか?」って訊いたら、やっぱりダメだって言われて。結局家賃がかかっていくだけで、こういうことになったら大変だし、配信ライヴで食っていけるんだったら、それでもいいなとは思う。でもね、小さいライヴでも、大きいフェスでもいいんだけど、ライヴに呼ばれるじゃないですか? 前日から車に機材や物販とかいろいろ載っけて1人で行くんですよ。ギターを持って。その行く感じがいいんですよね。高速を1人で走って、夜になってちょっと仮眠とかして朝になって。その距離感を感じながら目的地に着くという。例えば、尾道とかすっごく遠いんですけど、こんな距離感なんだなとか思いながら、そこにたどり着けた充実感が疲れているんだけどあって。そんな中でライヴをやるのと、配信でどこでも観れますよというのはやっぱりちょっと違うんですよ。こっちの気分が。今日遠いなとか言っている感じもよかったりして。ツアーをやっているバンドはみんなそうかもしれないけど、それがなくなるのはさみしいな。配信だと世界中誰でも観れるだろうけど、逆にライヴというのは限定された行為だから。それはそれで残ってほしいなって思うけどね。

今の時代の流れに身を任せつつ、やるしかない

──緊急事態宣言明けが予定されていた5月7日に、曽我部さんの15分に渡る新曲「Sometime In Tokyo City」が急遽配信されました。

 

曽我部 : 仕事が終わって家に帰って、なんか曲を作ろうと思ってギター持ったらバーって出来たんです。それで録っちゃおうと思って部屋で録って。スタッフに聴かせたら、「これすぐ出した方がいいんじゃないですか?」ってなって、「そう? じゃあ出しまーす」って言って出したという。

──何か目的を持って作ったというわけじゃなく。

曽我部 : うん、なんかこれいいなと思って歌詞を作って。ニール・ヤングの曲で、すごく長くて、アドリブでやっているんじゃないかなって抽象的な曲があるんですよ。それを仕事中にお店でかけていたんですよね。全然曲って感じじゃなくて、心象風景をただ綴っているのにメロディをつけているような曲で。こういうふうに、楽に作ってもいいんじゃないかなと思っていたのが反映されてはいると思いますね。

──タイトルはジョン・レノンのソロ3作目のアルバム『Some Time In New York City』をモチーフにされています。何かしらの理由があるんですか?

曽我部 : 特にないんですけど、なんとなく合うなと思って。前作のアルバムをカーティス・メイフィールドの『There is no place like America today!』を文字って『There is no place like Tokyo today!』にしたんですよ。だから、また何かパロディがいいなと、有名なタイトルで文字ってみたんです。

──ジョン・レノンの『Some Time In New York City』は政治的なアルバムだったので、現状の日本に対しての何か意図があるのかと思いました。

曽我部 : そう捉えてもらってもいいですよね。暮らしを歌うというのは、すごく政治的なことだから。ジョンはもっと直接的に政党とか政策とかに対してコメントしていくんですけど、僕は今回、自分の暮らしを歌うだけでこれだけ政治的な表明になっていくのがおもしろいなと思っていて。例えば、最後の方に「下北沢に来たら、僕らの店に来ませんか?」という歌詞が出てくるんですけど、「来ませんか? って言っていいの?」と思う人もいると思うんです。この人はこういうふうに今考えて生きているんだって伝わっていく。それはある意味、政治的なメッセージですよね。

──そういう意味で気になったのが、曽我部さんのアーティスト写真で。あれは、渋谷PARCO前あたりですよね? 渋谷で撮った理由はあるんですか?

曽我部 : 渋谷に買い物で行った時、22時くらいだったんだけど全然人がいなくて。こんなに人がいない渋谷ってあるんだと思って、一緒にいた人に写真を撮ってもらったんです(笑)。おもしろいじゃないですか? 見たことがないし、今こういう渋谷なんだってことを覚えておくためにあの写真にしたんです。

曽我部恵一のアーティスト写真

──もともと、曽我部さんが2004年にROSE RECORDS第一弾シングルとして出した「世界のニュース ~light of the world」も、曲が完成した翌日にCD-Rで販売するなど即時性がありました。楽曲を作って出すまでの感覚もそうですし、普段考えていることや感じてることと歌の距離とかもそうですし、その間のラグがなくなって、すごい純度が高まっている感じがします。

曽我部 : それがより重要になっていくような気もしますね。サニーデイ・サービスの『いいね!』は配信は始めているけど、まだレコードとCDがあがってきていないんですよ。90年代は発売3ヶ月前くらいに全部が仕上がっていて、そこからプロモーションをやって発売日を迎えるという感じだったんですけど、今って3ヶ月のうちに何が起こるか分らないじゃないですか。そういうスピード感だから、今日作ったものを今日明日出す方が格好いいなと思って。

──世の中がどうなっていくかは分らないんですけど、今考えている曽我部さんの今年や翌年以降の計画はどのようなものなんでしょう。

曽我部 : ツアーはほぼ来年に延期したんですけど、今の時代の流れに身を任せつつやるしかないなとは思っています。なかなか、計画が立てられないですからね。

──八月も、PINK MOON RECORDSも、もともとの計画とは違う形でオープンしたわけですけど、お店の今後はどう考えてらっしゃいますか?

曽我部 : カレー屋さんに関しては、丁寧にずっとやっていこうというつもりでいます。レコード屋さんに関しては、そもそもが付け焼き刃なので、今後イベントスペースになっていっても、配信スタジオになってもおもしろいけど、とりあえずは今はレコード屋さんという感じでやっていこうと思っています。

──いいですよね。ここに来ると曽我部さんの姿が見えて、カレーも食べられるし、レコードも見れるみたいな場所があるのは。正直、今日話を伺うまで、本当に窮屈な気持ちでいたので、気持ちが軽くなりました。

曽我部 : みんな精神的に自分を閉じ込めちゃうような時期だからね。ネットとか情報ばかり気にしすぎちゃうと、そういう気持ちになってくるんだけど、実はそうでもないんじゃないかな、みたいな部分はあると思う。

──同じように、みんなストレスが溜まっているんじゃないかと思います。

曽我部 : それが1番よくないと思う。普通の暮らしごっこじゃないけど、気をつけながら、もうちょっと普通の暮らしを今の自分たちの生活に取り入れながら過ごしていく。それが大事なことだと思います。

カレーの店・八月
東京都世田谷区北沢2-14-19
https://twitter.com/8gatsu_curry

PINK MOON RECORDS
東京都世田谷区北沢2-14-19 3F
https://www.instagram.com/pink_moon_records/

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