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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第4回

StoryWriter

オンラインキャバクラを利用すべく始動した私のもとに、突如届いた、初代嬢からのメッセージ。

「ていうか、でんわではなそ? いまでんわしていーい?」

嬢が、くる。

麒麟がくるどころの騒ぎではない。きっと初代嬢の中では、自粛ムードの中で謀反を起こし天下統一を目論む新勢力への対抗心があるに違いない。「敵はオンラインキャバクラにあり」。今、キャバクラ界の明智光秀こと初代嬢が狼煙を上げる。私は、すぐに電話を取った。

「ああ、アセちゃん? 久しぶり」

低く、だるそうな声。面倒くさそうな口調、そして巨乳。いや、違う。自分で電話しておきながら話すのは面倒くさいという、その理不尽な態度。なんだこいつ。されど、これが、嬢。初代嬢なのだ。私はそこに痺れる、憧れる。

電話で繋がった嬢と私は、しばし旧友との再会を楽しむように、懐かしい会話に花を咲かせた。そう、まるでマチャアキと井上順がスパイダース時代を振り返るように。ライヴ映像を見るとやっぱ乃木坂は生駒ちゃんだよね。と言われるのと同じように。コロナ時代に於いても「嬢と私」の関係は変わることなく、永遠。きっとそうなんだ。

「アセちゃんだから、言っちゃうね」

やがて、嬢は語り出した。聞くと、嬢は私との連絡を絶っていた間、彼氏がいたのだという。私は、グッと奥歯を噛みしめながら、その一部始終に耳を傾けた。この2年間、彼氏に夢中だったこと。一途に尽くしていたこと。結婚すら夢見ていたこと。負けないこと・投げ出さないこと・逃げ出さないこと・信じ抜くこと。そんな、大事マン的なことをすべて彼氏に教わったこと。

しかし、彼氏の束縛により、スマホに登録された客たちの連絡先はすべて消され、やがてスマホも没収されたという。そして、ついにはキャバクラの世界から足を洗うことを余儀なくされたのだという。つまり、この沈黙の2年間、嬢は嬢でなく、無力な恋する乙女だったのだ。ただ、そんな束縛にいつまでも屈していられる嬢ではない。

「いい加減別れたよね。超好きだったけど、今は超キライ。死ねって感じ」

超好きからの、ザラキ。嬢が唱える呪文は、いつだって気分次第。きっと元彼はほこらの中で屍となっているだろう。

「で、前の店に戻ってきましたー!」

メジャーデビューを発表するアイドルのように、自らのキャバクラ復帰を華々しく宣言する嬢。日経も見習ってほしいほどの満を持しての情報公開に、私の心は踊り、すぐに足を運びたい所存であることを口にした。そして、店に行く前にはもちろん、デート(同伴)をしなければなるまい。帰ってきた、アイラブ爆笑クリニック。嬢と私のラブゲーム。ウキウキウォッチングが止まらない。

「いつにするー?」

例によって、スーパーソニックなレスポンスを見せる、嬢。相変わらずの、カジキマグロばりの食いつきの良さ。きっと、天国の梅宮&松方コンビも目を細めているに違いない。私の心のリールは、スピードを増して嬢を引き寄せる。

が、しかし。

東京都内は、いまだに外出自粛が続いている。まして、オフラインキャバクラの営業は、東京都知事・M.C.コミヤの要請により、倦怠期ならぬ営業休止時期とされている。うかつに外出して自粛警察の餌食になるのはこわい。

「いつにするー?」

私は、部屋の中央に立つと、スマホを水平に掲げ、辞世の句を詠む織田信長のように、舞った。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編は不定期更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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