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MOROHAが語る「生業としての音楽を取り返し、真っ当に金を稼ぐ」理由

StoryWriter

MOROHAが、新曲「主題歌」を5月18日に突如リリースした。

コロナ禍の中、一度も会うことなく制作したという本楽曲。アフロが自宅でレコーディングしたリリックデータを元にUKが自宅にてギターをレコーディング、さらにはミックス作業までも行ったMOROHA史上最もミニマムな形で制作された1曲になっている。

「主題歌」は非常にシンプルでユニークな方法でリリースされている。オフィシャルサイトのURLから誰でもフリーでダウンロードできる状態で発表され、投げ銭を払いたい人は、自分の好きな価格で対価を払うことができる。その振込先は、アフロの個人口座だ。リリースにあたりアフロはこんな声明を出している。

「俺たちはこの曲で失いかけていた生業としての音楽を取り返し、真っ当に金を稼ぐ」

クラウドファンディングや有料配信ライヴなど様々な音楽へのビジネスが生まれているが、ここまでシンプルに音楽に対する対価をリスナーが払える方法があっただろうか。インターネットという路上で鳴らされる音楽に、我々リスナーは自分で対価を決めて投げ銭をする。まさに1対1の関係性だ。

なぜ、MOROHAはこうしたリリース方法を選んだのか。そして、コロナ禍において、何を考え、どのような日々を送っていたのか。約2ヶ月ぶりに会うという2人に、ソーシャルディスタンスを保ちながら、ざっくばらんに話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎
写真:横山マサト


「みなさんの力で作りました」が言いたくなかった

──コロナ禍において、個人的にもクラウドファンディングや配信ライヴなどで音楽にお金を払ってきたんですけど、正直、音楽にお金を払っている感覚があまりないというか……。一体何にお金を払っているんだろうと心のどこかで思っていたので、ここまでシンプルに、音楽に対価を払う方法は気持ちいいなと感じました。どうしてこのような方法でリリースを行おうと思ったんでしょう。

アフロ : 発表の時に文面にも書いたんですけど、タダで聴いてもらえる方がいいなと思ったんです。平時の時は学生無料とかのイベントに対して「通常料金でいいだろ」という気持ちになる人間なんですけど。というのは、金がない中で必死でバイトしてチケット代を捻出する、という経験をしてから体感するライヴは、明らかに金銭的に余裕が出てから行くライヴとは残り方が違うので。もちろんこちらが金を稼ぐためでもありますけどね。ただ今は、学生に限らずバイトをするにも働き先がない状況なので、無料で聴いてもらうという選択肢が初めて生まれたといった感じです。支払い方法に関しては、振込だと振込名義でお客さんの名前も通帳に載るんです。ちゃんと音楽にお金を払ったということと、曲に対して直接リアクションができる。この2つって、聴き手にとってもしっかり残る体験だし、そういうものを励みに俺らもやってきたというところもあるので、そこは1番強かったと思います。

UK : いろいろな方法があるので、それぞれのメリット、デメリットを踏まえて考えてみたんです。その中でも振り込みって、ちょっと時代遅れというか、アーティスト自らが個人名義を晒してまでやることなのか、そういう危険を犯してまでやることなのか、って懸念もちょっとあって。でも、ちゃんと考えた結果、そういう部分を全部無視しても、おもしろいが勝って、出した答えだったんです。

アフロ : クラウドファンディングという選択肢もあったんですけど「お客さんの力を借りて作りました」が言いたくなかったというのもあります。そういう盛り上がり方は理解できるんですけど、俺たちの美学の中ではしっくりこなかった。あくまで商売としてのスタンスを崩してしまうと、この後、生業としての音楽というものに対して歪が生まれてしまうんじゃないかなと。金を稼ぐという、生々しさが俺たちの表現してきたことの一つだったから。「主題歌」は、俺の野心とか、欲深さみたいな要素がそんなに入っていない曲なんです。そういう自分はどこにいったの? ちょっといいやつになりすぎじゃない? という気持ちがどこかしらにあった。そこに個人口座を晒しての投げ銭という売り方によって、そういう要素が足された。そういう意味で、楽曲と売り方を含めて、自分たちのスタンスを全部表現できるんじゃないかなと思ったんです。

左からアフロ、UK

──正直、対価をいくらにするかめちゃくちゃ悩みました。と同時に、CDだったら2500円ぐらい、配信だったら1曲200円や250円と、レーベルやプラットフォームが決めた価格に、これまで何気なしに従って払っていたなということも実感しました。いきなり高いお金を設定しちゃうと、次こうしたことがあったときに、自分の中での楽曲への価値の整合性が取れなくなると思ったし、自分なりに置かれている状況とか、先のこともいろいろ考えて最終的に決めて入金しました。実際、反響という点でいくといかがですか。

アフロ : 通帳記入をしに行くと、曲を公開した翌日なのに、通帳が1冊に収まらず2冊目に突入して。そこに印字される音を聴きながら人の存在を感じていました。どれだけ俺達が「対価をよこせ」と言ったとしても、どうしたってMOROHAのこれからに対するエールも込めた額が入っていると思うんですよ。かなりデカい額を振り込んでくれる人もいたんですけど、そこに「すみません、助けてもらって」という気持ちは絶対に持たないぞという意志もあった。エールを感じつつも、うん、そんぐらいのもの作ったからね、と言える自分は意地でもキープしておかなくちゃいけないというか。

UK : ミュージシャンが直に振込み額を見れてしまう恐ろしさみたいなものを踏まえた上でも、これだけの件数を振り込んでくれて、ビジネスとしても成立するというのがおもしろいなと思いましたね。どこかのプラットフォームを使ってやると、直にお金を受け取れないということだけじゃなく、手数料とかを抜くと小数点の世界になってくるので現実味が湧かなくて。通帳に記載されている額がそのまま入ってくるとなると、本当に入っているんだなって実感しますし。今のこの時代のタイミングでやったことで、ものを売る根本的な体験になりましたね。

──この施策が生まれたのも「主題歌」という曲が完成したからというのが大きいと思います。コロナ禍によって楽曲制作にも影響や変化はありましたか。

 

アフロ : 3月30日に配信でリリースした「COVID-19」という曲が、コロナによってツアーやライヴが流れてしまったことに対する怒り、そこで生まれた自分の感情に対する情けなさへの怒りだったりしたと思うんです。その曲を書いていた時から2ヶ月位経って、また違った感情が生まれて、この曲を作ったんです。まぁそれはコロナだからという話ではなく「付き合い始めの彼女がかわいい!」の曲から少し経てば「知れば知る程ちょっとめんどい!」みたいに、書く曲が変化するようなものと一緒です。

──「COVID-19」での怒りが、もっと持続してもおかしくないのかなと思いつつ、「主題歌」は怒りとはベクトルが違う楽曲になっています。「屈従、忠誠、迷い、悟り、反発を全部ぶち込んだ」と書かれていましたが、どうしてこうした楽曲が生まれたんでしょう。

アフロ : インターハイ中止とかっていうのは結構でかかったですね。いろいろニュースがある中、自分たちの怒りみたいなのが「COVID-19」だとしたら、みんな怒って、傷ついて、何かしらを諦めざるをえなかったり、何らかのリスクをさらしていたりという状況にいたじゃないですか。そこに対しては怒りではなく尊敬の念が生まれてっていうのが「主題歌」かもしれないですね。

UK : 僕が歌詞を客観的に聴いて思ったのは、「COVID-19」は自分の目線で歌っていたイメージ。「主題歌」に関しては、人としてどうかという根本の話。ミュージシャンとしてという視点はもちろん入っているけど、そもそも1人の人間の生活としてどうなのか? を歌っている。そこの違いかなとは思いますね。

 

見様見真似でやってみて、それが技術として身についていく

──MOROHAは、暮らしや生活のことを、ずっと自問自答しながら書いてきました。そんな日々の暮らしが、ウイルスによって外に出れず人に会えないみたいに、漫画の世界のように変わってしまった。その中でMOROHAの曲に何かしら影響があったと感じますか。

アフロ : 俺らが変わったというより、(リスナーが)1人で聴くしかなくなったと思うんです。MOROHAとしては、自分が作っている環境に近い環境で聴いてもらっている感じがするんです。だから、すごく響くんじゃないかなと思います。

──ライヴがしばらくなかったことに関してはいかがですか?

アフロ : ライヴがないこと自体は残念なんだけど、落ち込む時間は減りましたね。ツアー中は、その日のライヴを思い出して悔しくて風呂場で発狂する事もザラなので。そういう瞬間はライヴがないと皆無なんですよね。ゆえにある意味で精神的には安定していたというか。そんな中で一昨日ラジオで俺、えげつないスベリ方をして。その夜、寝る前にすごく落ち込んだんです。その時、「あ、ライヴの日々ってこんな感じだったな」と思って。何かしくじったり、上手く伝えられなかったりした時、こうやって落ち込んでいたよなって。久しぶりだなーって。この日々に、またこれから帰るのかと思ったら、ちょっと…… イヤだったという。

──あははは。

アフロ : みんながライヴをやっていたらたぶん焦るんだけど、みんなやれていない状況じゃないですか。自分に非がない落ち込み方をするのと、自分に非があるしくじりに落ち込むのとはまた別だと思うんです。今回はどうにもならない事だったので単純に切ないというか。でも自分の責任に落ち込んだり、喜んだりする事が人生における美徳なので。なんだかんだライヴやりたいなって気持ちです。

──コロナ禍、どんな日々を送っていたんでしょう。

アフロ : (UKは)どうしてたの?

UK : 基本的に、僕はインドアなので。

アフロ : 長い休みって感じ?

UK : そもそも僕はライヴもCDも、自分が表現をする手段の1つだと思っていて。吐き出し口が1つなくなったぐらいにしか思っていないというか。インドアの時間がちょっと増えた代わりに、これまでやっていなかったことに挑戦しようと過ごしていました。本当にありきたりのことですよね。こんなこと言うと語弊があるかもしれないんですけど、ライヴを早くしたい、みたいな焦りはないですね。〈日程未定ツアー〉(※注)を組んで、楽しみが先にできたという意味では、いつになるかなというワクワクや期待もあります。だけど、今ライヴ自体ができない状況に対しては、それはそうだよねという感じかな。根本的に、仕事もそうだし、何事も人の生命の危険を犯してまでやることではないと僕は思っているから。

※注:コロナウィルスの影響でイベントの延期や中止が続出する中、困窮を極めているライヴハウスに、先々に開催されるツアーの会場費をMOROHAが先払いし、現状を打破してもらう事を狙いとしたツアー

──時間ができた分、どんなことに挑戦されたんですか。

UK : それこそ、今回「主題歌」を宅録で作ったんです。もともと宅録の技術なんてなかったけど、どうやったら世の中に出せるクオリティまでできるのかを試行錯誤した。それは、この時間があったからできたことの1つですね。

アフロ : 宅録でやったから、俺の声が割れているところもあるんだよね。

UK : ギターもそう。

アフロ : それがよかったんだよなあ。俺はライヴ盤の音源が好きなんですよ。UKはまた別の価値観を持っているんですけど、MOROHAはああいう生々しいものが真骨頂なんじゃないかな。それを今回初めてやらざるをえない状況でやってみて、自分の中ではすごくよかった。今後の音源制作にしても、お互い意見をぶつけ合ってですけど活かせたらなといういい経験ではありました。

──あくまで自宅がスタジオ的な役割を果たしていたと。

アフロ : 今回はそうですね。なんなら噛んだりしていますしね、俺。普通のレコーディングだったら、もう1回歌い直すと思うんですけど。あと、ほとんど練習していない状況でやることの良さはあったなと思う。

UK : もともとMOROHAって、ライヴで初披露みたいなことが多かったから、リリース先行してやることってないんですよね。「スコールアンドレスポンス」とかもそうだよね。

アフロ : ライヴではやってないか。音楽番組でやっただけだよね。

UK : そういう形ができてきたのは、MOROHAとしても新しいなと。

アフロ : みなさんからしたら普通だけどね(笑)。

──UKさんがミックスでこだわられた点とかってあるんですか?

UK : ない(笑)。

アフロ : どうにか、だもんね(笑)。

UK : とりあえず、できるだけ音が割れないように。あと音圧を稼ぐようにというところは、師もいないから、ネットで調べてやりました。

アフロ : 本当にすごいなと思った。もともとある程度できたのかと思ったんだけど、その技術を身につけたのは今回だったんだね。

UK : そうそう。これに限らず、僕は人生をそういうふうに生きてきていて。見様見真似でやってみて技術として自分に身についていくみたいな。MOROHAもそう。最初はアコギをやってなかったけど、やっている中で身についてきて進んでいる。そこは僕の性なのかもしれないですね。と同時に、プロはすごいなと痛感しました。この期間中、いっぱいそういうことを痛感しましたね。

俺たちが変えようとしているものは誰かにとっては正義ではないかもしれない

──コロナ禍によって、みんなだいぶ生活スタイルも変わったでしょうしね。

UK : 個人的にはコロナ禍によって生まれた文化みたいなものは残ってほしいです。これまで、ネット環境を使って配信などをしてこなかった人たちが、見様見真似でやってみて、できたじゃないですか? これが続けば、もうちょっといろいろな世界が見れるんじゃないかなと思う。僕はこの文化を残しつつ、普通の生活に戻るのが1番理想かなと思います。

アフロ : たしかに。ZOOMで飲み会とかできるようになったじゃん? 前に一緒にバイトをやっていたマルさんっていう友だちがいて、最近全然会っていなかったんですけど、1週間に1回ぐらいZOOMで飲み会するようになったんですよ。これがなかったら会わずにどんどん時間が空いていたと思うんだよね。あと、ZOOMで喋ると、生で会ったときに「おお! 本物!」って感じがあるというか(笑)。本物のミッキーだ! みたいな感じの喜び。人と生身に会うことが贅沢なことだと思えるし、繋がりは切れないままでいれるし、そこはいいよね。

UK : たしかにオンライン上での温度感が出たなってイメージがある。SNSとか文字面だけでも事足りているはずなのに、ちゃんと面と向かってフェイスタイムとかZOOMとかを使ってやるっていう文化が生まれつつある。

アフロ : でもさ、照れるんだよね。平時のときに、何の用もないのに「元気?」とかって男友だちとかに電話するのも照れるじゃん。この状況だからこそ男同士でZOOM飲み会しようぜって言えるというか。平時に「テレビ電話しようぜ」って言われたらさ、え? どうしたの? ってなるけど、この状況だから言い訳になって、そういうことができるようになったというかさ。

UK : 俺、残ってほしい理由はもう1つあって。それは、「オタク大勝利」みたいな発想。もともとインドアの人たちが、あまり日の目を浴びない時代が続いていたけど、そういう文化に今助けられている。それをもっとリスペクトしてもいいんじゃないかと。

アフロ : 我々の勝利だと(笑)。

UK : そうは言っていないけどさ(笑)。こんなに素晴らしい世界だよっていうのが認知されたのは、すごくいいことだと思う。ビジネスもそうだし、人と触れ合う機会も、オンラインでのよさが分かったよねという部分は残ってほしいなって。

──僕もコロナをきっかけに、いろいろなものを見つめ直す期間になっていて。正直、レコード会社から宣伝費をもらって記事を作りますってサイクルを疑問に思っている部分もあったんです。コロナ禍によって、リリースが先延ばしになって、余計なこと考えず取り上げるべきものを取り上げているんですけど、すごく健全な気持ちでできていて。実際、記事もすごく手応えがあるんですよ。本来は、おもしろいとか、かっこいい記事がいっぱい載っていて、そこに広告を載せたいという需要が生まれるものだったのに、いつの間にか宣伝がないと記事が載せられないという逆転現象が起こってしまっていたと思うんです。

アフロ : 今の話を聞いていて思ったのは、こういうふうにインタビューしてもらって、俺たちの想いを記事にしてもらったから、それに対して対価を払おうということ自体はありだと思うんですよね。西澤さんが俺たちの気持ちを引き出してまとめてくれて発してくれたことに対して、俺達がその対価を払うって健全なことだったと思うんですよね。だけど歪みが生まれてしまうのは、ミュージシャンが雑誌媒体に金払ってインタビューをしてもらってるくせに、あたかも新聞の取材と同じように求められて答えてます、って見せ方をしなきゃいけないこと。もうね、その嘘が限界なんだよ。これからはミュージシャン自身の要望として、第三者の目線で自分の気持ちを掘り起こして欲しい、それをリスナーにも知って欲しい、その為に音楽を掘り下げるプロであるライターに仕事を依頼している、という事を明確にして行かなきゃいけない。それはミュージシャンが自分達の事を発信する媒体を持つって事に繋がると思うけど。そうなってくると一緒に作品をつくる事に近い、ぶつかり合いも厭わない信頼関係が必要だよね。でもそれこそが醍醐味だと思うし。

──もともとMOROHAは、エリザベス宮地さんだったり、他のスタッフの方たちも、信頼できる人とやっていらっしゃいますよね。そこの関係性や考え方は変わらないし、すごくいいなと思う部分です。この先は、よりミュージシャンごとのやり方というのが生まれてくるんじゃないかなとも思っています。

アフロ : 俺、西澤さんの話が今強烈に刺さっているから余計思うんだけど、今までのシステムで明らかにおかしかったことはあると思うんです。コロナが明けたから変わるとかじゃなくて、コロナに乗じて変えられるチャンスだとは思うんです。ただ、これは完全に自分たちの都合で、俺たちがそうやって変えようとしているものって、誰かにとっては正義ではないかもしれない。その人たちはそれを守ろうとするのが自然だし、その人たちが間違っているとも俺は思わない。ライヴハウスに関しても、俺たちにとって大事だから〈日程未定ツアー〉を組んだけど、もしかしたらライヴハウスが全部なくなった方が、新しいことを始めやすいと思っている人もいるかもしれない。焼け野原で第一人者になれる人もいるだろうし。

 

俺たちがやっていることを「文化を守ろうとか音楽を守ろうって気持ちですよね?」って言われると違和感があるというか、そんな大きいものを背負うつもりはさらさらなくて。俺たちが都合良く世の中を回すために、俺たちのエゴでやっていることなんです。そこに共感してくれる、その通りだと思ってくれる人がいるだけのこと。すごくいいことをやっていると思われているけど、別に焼け野原になったらなったで、そこで歌を歌い出すやつはいるだろうし、音楽は別にそんなことじゃ滅びないよって。表現や文化はそんなことじゃ死なない。死んだとしても、死んだことによって生まれる文化があるから。自分のやっていることは、自分の美学に則った上でのいいことだから、みんなにいいことやったでしょ? っていう顔をしちゃいけないなと思う。その気持ちを持った上で、お互いに刺激しあって、いい方向に進めていくことができれば、俺にとって都合いい世界になっていくから。そこに邁進したいなと思っている。

──誰かの正義を押しつけると、そこで何か争いが生まれますからね。

アフロ : うんうん。自分のエゴのままにやっていくのがいいと思う。そのエゴを楽しんでくれる人がいれば広がっていくし、楽しんでくれる人が少ないのであれば、狭い世界でも自分が納得するようにやっていくし。〈日程未定ツアー〉も、ただただ自分のエゴで守りたい人の顔が浮かぶから、それに対して何かするってだけのことで。コロナ禍があったことによって、その密度はどんどん濃くなっていく。苦しい状況になればなるほど、それはいい方に左右するかもしれないし、そういう感じになっていくんじゃないかなと思うかな。

──アフロさんは常に自分を疑いながら、問いかけて答えを出して、またそれに対して問いかけて生きているから、なかなか心が落ち着かないんじゃないですか?

アフロ : そうですね。でも、歌詞ってそういうことでしかないから。俺達の曲、根本のメッセージは凡庸なんです。でもみんなに求めてもらえているのは、その根本のメッセージを曲の中で一度は疑う、それを越えてまた根本へ辿り着く、というルートがあるからだと思います。それが自分の曲の書く上のマナーというか癖ですね。これは2人組だったからこそかもしれないです。1人でやっていたら自分がこう思ったからこれが正義だ! ってなるかもしれないけど、UKがいる事でいつも別の角度を意識しなきゃならないというか。UKが突っ込んできたことに「あーたしかにな」と思って悩んで、でも俺はやっぱりこう思っているから! って言い返したものが曲になっているというか。そういう感覚はすごくありますね。それは2人やっているということの強さ。俺がソロラッパーだったら、そうならなかったと思う。

UK : 歌詞に関しては僕は担えないからアフロに任せらることができていて、逆に僕はギターに専念できる。僕はアフロが書いた歌詞に対して、普通に人としてどう思うかを返しているだけ。それに対して、さらに考えて反応するのはアフロのすごさだと思う。どう悩んで、どう考えて、それを歌詞に落とし込むかは、歌詞を書く人の才能の1つだと思うから。逆もあって、ギターに関しては俺が汲み取って、アフロができない部分を補わなきゃいけないなと思っている。そこは2人組でよかったなと思います。

イエーイ! おりゃー! とか擬音が増えるかもしれない

──今日、久しぶりに会ってみてどうでした?

アフロ : (UKの)髪が赤くなっていましたね(笑)。

UK : (アフロは)1、2ヶ月じゃそんなに変わらなかったですね。これが3年とか会ってなかったらまた違うんだろうけど(笑)。

アフロ : なんか歳とってる! みたいな? 気持ちわりい(笑)。

UK : でも、そっちの方がおもしろいかもしれないですね。

アフロ : (UKに向かって)MOROHAを動かしていく上で、俺の方がやりたいと思うことを多く言い出したりするじゃない? それに対して、UKは熱烈にやりたいって感じも、熱烈にやりたくないって感じも出さない印象があるんだよね。それはどういう感情なの?

UK : おもしろければいいかなと思う。人生が。

アフロ : たしかに、そうだよな。

UK : やりたくないことに対しては、自分のこだわりがあるんです。そこに反することに関してはもちろん言うんですけど、それ以外で見たことないことややったことのないことに関しては、やってみないと楽しいかどうかわからないから、何とも言えないというか。どっちかと言うと、俺は物事をするかどうかの判断はそうやってしている。これをしたら危険なんじゃないか? という話し合いはするけど、ダメだと分かってもやっちゃえと思ってやることもあるし、その上で楽しかったね、ダメだってねって話し合うほうが俺は好き。例えば「UKが女装してステージに立ってみてよ」ってなったら、イヤだ! って言う。それは結果が見えているから。だけど、アフロが「女装してやってみたいんだよね」って言ったら、どういう景色になるかはわからない。アフロの個人的なキャリアに傷がつく可能性があるから、俺は「自分がやりたいんだったらやっていいんじゃない?」という言い方になるけど否定はしない。それがうちらの日々のやりとりというか。

アフロ : 結局、自分のエゴってことだもんね。

UK : そうだね。俺らは上手く自分たちのエゴを消化しているのかも。

アフロ : 忘れがちになっちゃうんですけど、MOROHA結成の根っこの根っこは、ダンボールに「人生相談」って書いて、町田駅の前に座り込んで人の話を聞こうぜってやり始めたのが最初なんです。別に人生相談じゃなくても、なんでもよかった。なんか誰もやらないようなことをノリでやっちゃおうぜ、そっちの方が楽しそうじゃん、っていうノリが初期衝動だったんですよね。今思えばそれだって凡庸なんだけど。でも音楽的な結成より前にそれが始まりなんです。その延長で始まっているのに、だんだん良くも悪くも欲が出て固定概念が生まれて、最初はそうじゃなかったじゃんって。

UK : 夢中になれることだよね。

アフロ : そう。自分達が犬みたくハァハァすることが最初だったじゃんって。

UK : 俺は多分、ずっとそこにいるんだと思う。だから、ギターを捨てて、新しいことやろうぜって言ったとして、自分で見てみたいと思う。MOROHAを全部スタイル崩してでさえ、そう思う。こだわりがないって言ったらそれで済んじゃうけど、そうじゃなくて、もっと他のところにこだわりを持っているというか。

アフロ : そうだったな。すぐ忘れちゃうんだよな。俺の方がお金、好きなんですよ。生まれ育ちだと思うけど、だからこそ優先順位を間違えそうになる時があるんです。そういう意味でも、この2人だからこそのバランスはあるかもしれないですね。

──東京も緊急事態宣言が解除されますけど、この先のMOROHAもなにか変化があるかもしれないですね。

アフロ : うん、もうちょっとバカになるかも。イエーイ! おりゃー! とか擬音が増えるかもしれない。あともっと、たすけてー! という声をあげるかもしれない。

UK : あーあ! っていうのもあるかもしれないし。

アフロ : おりゃーおりゃー! って言っている中で、たすけてー! を送れる宛先を増やしたいね。助けを求めた相手にとって、MOROHAおもしろそうだから絡んでみるか!と思ってもらいたい。そういう存在でありたい。そういうアイデアをこれからも出していきたいですね。

すげえの書き上げた。
屈従、忠誠、迷い、悟り、反発を全部ぶち込んだ一曲、六分間。
俺達はこの曲で失いかけた生業としての音楽を取り返し、真っ当に金を稼ぐ。
ただコロナ禍、それぞれの経済状況が違う中で一律の値段を設定する事は今回はしたくなかった。
だから俺達はこの曲と投げ銭箱を持って路上に出る事にした。
ただし、そこはインターネットという名前の路上だ。
今、唯一自由が許される場所だ。
なんせ路上で勝手に鳴らす音楽だからタダで聴く人がいていいし、払いたい人は自分で決めた額を払えばいい。
俺達はそれを寄付や支援ではなく、対価として受け取る。
それが叶うリリースの方法を模索したところ、俺の個人口座を晒しての投げ銭リリースに行き着いた。(相方とジャンケンして負けた。)
バカバカしい程に分かり易く、生々しいのが俺達らしい。
さぁ、新曲「主題歌」。響け。

MOROHA アフロ

 

投げ銭の振り込み先は以下。

三菱UFJ銀行
三軒茶屋支店(普)0288053
タキハラユウト

PROFILE
MOROHA(もろは)アフロ[MC] | UK[Gt]2008年結成。舞台上に鎮座するアコースティックギターのUKと、汗に染まるTシャツを纏いマイクに喰らいつくMCのアフロからなる二人組。互いの持ち味を最大限生かす為、楽曲、ライブ共にGt×MCという最小最強編成で臨む。その音は矢の如く鋭く、鈍器のように重く、暮れる夕陽のように柔らかい。相手を選ばず、選ぶ筈が無く、「対ジャンル」ではなく「対人間」を題目に活動。ライブハウス、ホール、フェス、場所を問わず聴き手の人生へと踏み込む。道徳や正しさとは程遠い、人間の弱さ醜さを含めた真実に迫る音楽をかき鳴らし、賛否両論を巻き起こしている。雪国信州信濃から冷えた拳骨振り回す。

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