お世話になっております。レコード店が営業を再開し始めてようやく外に出るようになったdigる男・ヨコザワカイトです。
今回は、妙にエロくてサイケなチーチャの名盤をdigったのでご紹介します。
クンビアとは、そしてチーチャとは
まず、チーチャを語る前にクンビアを語らなければなりません。
南米コロンビアのマグダレナ川下流域からカリブ海沿岸地方に伝統的に伝わるリズムと舞曲のこと。山岳地帯の音楽バンブーコと並びコロンビアを代表する音楽とされる。(Wikipediaより)
https://youtu.be/n78vyOFQc_s
ご機嫌と哀愁をテロテロに仕上げた音楽、それがクンビア。「ジョー・ストラマーが晩年こよなく愛した」いうお墨付きでよく紹介されます。中南米のスペイン語圏の国ではこういう音楽が本当に大人気で、そこら中でかかっているらしいです。
その歴史を調べてみると、19世紀〜20世紀初頭のどこかで、奴隷としてコロンビアに連れてこられたアフロ系の人たちの音楽と、UFOっぽい金細工が出てきて話題になったマグダレナ川下流域に住んでいた先住民族シヌー文化の舞曲が融合してクンビアが生まれた、とのこと。
そんなクンビアという音楽は、1950年代から1960年代にかけて、都市との交流を深めていく中で商業音楽化して広がっていきました。その流れとともに当時の都会的なサウンドと混ざっていったそうな。コロンビアを発祥として、ラテンアメリカ全体に行き渡り、各国でいろいろな発展をしています。
今ではデジタル・クンビアなるジャンルもあり、マージナルな音楽が好きなDJ界隈では10年くらい前に再評価の波もあったらしいです。色あせない音楽なので、これからも世界中で愛されていくでしょうね。
(デジタル・クンビアの一例)
そんなクンビアですが、特にペルーではチーチャというジャンルでサイケロックと融合して発展しています。ようやく本記事の本題に入れました。今回は、そんなチーチャの原点ではないかとされる1枚、Juaneco Y Su Comboの『El Gran Cacique』を、レゲエ・ミュージックレコード店・新宿ダブストアで買ってきました。
クンビアにサイケを持ち込んだ男たち
Juaneco Y Su Comboは、アマゾンのプカルパという地域に住んでいた中華系のJuan Wong Paredesと彼の息子たちが1966年にグループを組みスタートしました。その地域では、歴史上初のバンドだったそう。その後、彼らの影響からプカルパは東部クンビアの中心地となっていきます。
1971年には、ギタリストとしてメインの作曲を担当するNoé Fachínを迎え、Juan Wong Paredesの息子がバンドを改めてJuaneco Y Su Comboと名付けて、活動を本格化させていきます。
そんな彼らが、1972年にアルバムとして初めてレコーディングしたのが本作『El Gran Cacique』です。「チーフ」はインディアンの部族長を指す言葉で、民族的な尊敬の意味が楽曲には込められました。このLPに収録されている「Mujur Hilandera」という曲のヒットによって、このバンドとチーチャが、ペルーそしてラテンアメリカに広まっていきます。
チーチャを他のクンビアから際立たせている特徴は、エレキギターのサイケな音色です。Juan Wong Paredesは元々アコーディオン奏者で、その技術をエレキオルガンに応用していったことと、ギタリストがバンドに加入したことが彼らの音楽を革新的なものにしていきました。彼ら自身、当時都会で流行っていたザ・ビートルズやボブ・ディランを練習していたという資料も残っています。
1960年代は、ザ・ビートルズが『Revolver』を発表したサイケロックの時代でした。彼らが都会的だと感じていたのは、そんなサイケな響きだったのでしょう。実際、Juan Wong Paredesはエルブルージョ(魔女の医者)というニックネームで呼ばれ、アヤワスカという幻覚剤をよく使っていたとのこと。
とにかく、このアルバムは、時代的にも地理的にも様々な文化との境目に生まれた1枚です。
妙にエロい、そこがいい
そんなバンドですが、実は1977年にメンバー5人をのせた飛行機が事故に遭い、オリジナルメンバーはほとんどそれで亡くなってしまいました。彼らが生きていればチーチャの発展の仕方も変わったかもしれません。しかし、残されたメンバーはめげずに新たにメンバーを募集してバンドを続け、そこから40年間バンドは活動を続けました。YouTubeには、下のようなテレビ映像も残されています。彼らが伝統的な民族衣装を着て演奏をしていたことが分かりますね。
そして気になるのが、横でエロいねーちゃんが踊っていること。これはテレビ用の演出というだけではなくて、Juan Wong Paredesが表現したいエロティシズムの世界観があるんですよ。B面の1曲目「VACILANDO CON AYAHUASCA」では、喘ぎ声がサンプリングされたりもします。それがまたサイケな曲調をもたらしていて良いのです。
クンビアはよく、「テロテロしてて良い」という日本語で評価されますが、まさにこのバンドの曲はテロテロさに溢れています。明るくて前向きになれる成分が主なのですが、どこか哀愁が漂っていたり、エロが挟まれたり、いろんな要素がシンプルに表現されていると思います。
僕が買ったのは、この2018年リイシュー版です。ストリーミングもあるので、よければこのアルバムからチーチャ、そしてクンビアを聴き始めてはいかがでしょうか?
※「【連載】digる男。」は毎週月曜日更新予定です。
1997年生まれ、千葉県出身。大学では社会学を専攻している。StoryWriterで連載を担当しながら就職活動中、そして迷走中。最近は、密かにLolicoreを制作している。