5月某日、私はゾーンに入っていた。
長年住んでいる、アパートの部屋。私は、パソコン画面に映る自分自身の姿と、背後におかしなものが映り込んでいないかと、デューク東郷ばりの注意深さで画角の調整をおこなっていた。
今日、ここを拠点に、私は初めてのオンラインキャバクラに臨む。
先日まで、初代嬢とのLINEと電話による逢瀬を楽しんでいた私。ただ、やはり今のご時世でオフラインキャバクラに足を運ぶことは大いなるリスクを伴う。さらに、初代嬢とデート(同伴)するとなると、ちょっとやそっとじゃCan’t Get Love。過去のデート(同伴)を振り返ってみても、とてつもない資金が必要になることは目に見えている。
ちがうちがう、今じゃ、今じゃない。初代嬢と濃厚接触するのは、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが本格的に収束した頃じゃなきゃ、ダメ。
私は、そう自分に言い聞かせ、初代嬢が連日のように送ってくる「いついく~?」の問いに対して、まともなレスポンスをせずにはぐらかしていた。初代嬢とは、しばらくLINEと電話でのみ、交流を続けさせてもらう。「時がきた」。私の中の橋本真也がそう叫ぶときがくるまで。それは、きっとそう遠い未来ではないはず。そう、夢、叶える日まで……。
そうなると、私が今やるべきことは、ただ1つ。オンラインキャバクラにトライすることしかない。
私は、事前に調べておいたオンキャバ店舗の中から、コストパフォーマンスの高さからチョイスした「エア♡ラブ」(仮名)を初めての店に決めた。1セット30分、嬢の指名なしのフリーならば1,500円。しかも、初回のみクーポンが使えるというではないか。
フリー30分1,500円に500円引きクーポン使用。事前にクレジット決算したお会計は、1,000円。
…… 1,000円、だと?
たった、1,000円でキャバクラ体験ができるというのか。オフラインの世界では、そんなことはありえない。というか、いまどきたった1,000円で会話してくれる女性などこの東京に存在するのだろうか。
私は、疑心暗鬼になりながらも、予約時間の10分前に届くというZOOMの入室IDとパスを待った。
いや、待っていてばかりでは、ダメだ。肝心なことを忘れていた。これは、オンラインキャバクラ。つまり、自分で自分が飲むお酒やつまみを用意しなければならないのだ。
私がオンキャバを予約したのは、21:00。現在時刻20:15。まだ少し、時間がある。走れ、メロス。コンビニへと。
せっかくのオンキャバ初体験。お酒のチョイス1つで、画面の向こうの嬢の対応が変わってしまう可能性がある。
私は迷わず「ストロングゼロ ダブルレモン500ml」を手に取った。あえてストロングゼロの9%という超庶民的な泥酔チューハイを飲むことで、初対面の嬢の警戒心を解こうという高度なドリンクチョイス。スーパーサブとして男梅サワーも買っておこう。
そうなると、おつまみは自然に「ナトリ 一度は食べていただきたい粗挽きサラミ」が名乗りを上げる。安いチューハイに、高価なつまみを合わせるギャップ萌えであることは言うまでもない。
おっと、若いギャルが相手だった場合を考えると、じゃがりこも買っておくべきだ。新発売の「じゃがりこ 小梅味」。「えっうそ、今こんなのあるんですかー」。あの小梅キャンディーがじゃがりこになっているという驚きを共有することで、出会って4秒で仲良くなれるはず。
そして、しょっぱいお菓子には、相対的理論として甘いお菓子も必要となる。もちろん、ここはアルフォートだ。まてよ、果汁グミのブドウ味もお口直しに良いかもしれない。レジに置かれたさくら餅も買っておこう。
しまった、甘いが続きすぎている。大丈夫、ここはローソン。一発逆転の切り札「からあげくんレッド」をメンバーに加えることで、すべてが丸く収まってくれる。からあげくんと私の信頼関係は、揺らぐことがない。
「合計で、1.185円になります」
お金が、足りない。
私は、ポケットから丁寧に畳まれた1,000円札を一枚出すと、からあげくんレッドのオーダーを取りやめ、支払いを済ませた。すると、スマホからLINEの着信音が鳴った。
「ご予約のお時間5分前です」
バカ、バカ、バカ、私のバカ。買い物に夢中になるあまり、オンキャバの開始時刻を忘れていたのだ。
私は、ローソンを出ると、無我夢中で走った。
現在20時59分55秒。Majiで恋する5秒前。
私は、部屋に駆け込むと、パソコンの前に座り、急いでZOOMを起動した。
アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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