BiSHや豆柴の大群らが所属する音楽プロダクションWACKの中で、キャリアが最も長かったGANG PARADE(以下、ギャンパレ)が2つに分裂して生まれたアイドルグループ「GO TO THE BEDS」と「PARADISES」。キャリア順にメンバーが分けられ、衣装には「老」と「若」という漢字が入れられるなど、コンセプトのまったく違ったグループとしてスタートを切った。
GO TO THE BEDSは「老」の文字を背負い、ギャンパレでキャリアの長い5名――ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソンによって構成されたグループだ。2020年7月22日(水)にはグループ初となるフルアルバム『GO TO THE BEDS』をリリースする。
そんな彼女たちの個別インタビュー連載第3回目は、ヤママチミキ。ギャンパレの創設者であるカミヤサキに憧れて前身グループPOPに加入し、時には“武士”と呼ばれるほどの精神力で活動を続けてきた彼女は、コロナ禍によってライヴをはじめとした活動がままならない中でどんなことを考えたのか。そして、新作アルバムで書いた2曲の歌詞の背景にあるものとは。6月の晴れた平日、近況を訊いた。
取材&文:西澤裕郎
写真:外林健太
救われたと思ったその先も結局地獄だった
──「I don’t say sentiment」のMVが公開されました。前回のMVに続き不思議な世界観に満ちた作品ですが、どのようなテーマで撮られたんでしょう?
ヤママチミキ(以下、ミキ) : 歌詞に〈死にたい〉って入っているように、地獄をイメージしたMVになっています。私たちメンバーが、閻魔さまが差し伸べた救いの手を取りに行くんですけど、救われたと思ったその先も、結局地獄だったという内容なんです。最初にお話を聞いてコンテを見せてもらった時、うちららしいなと思いました(笑)。まさに、GO TO THE BEDSだからこそのMVだったのかなって。
──地獄の先にも地獄がある、というのが自分たちらしいと思う?
ミキ : もちろん地獄ばかりだったわけではなくて、楽しいことも嬉しいこともたくさんありました。その中でも、POPから活動している私とユアに関しては上手くいってなかった時もあって。地獄って言い方はあれですけど、自分たちの力が及ばずに落ちていくとか、また1からスタートするってことが何回もあったんです。今までの私たちを知ってくれている方は、分かる分かるっていうストーリーになっていると思うし、初めて観た方でもこの子たちは何かしらの苦労をしてきたのかもというのが伝わる作品になっているかなと思います。
──MVの中ではダンスもしていますよね。GO TO THE BEDSのダンスを見るのはこれが初めてだったので、とても新鮮な感じがしました。
ミキ : 前回のMVがストーリー仕立てでダンスがなかったので、今回がGO TO THE BEDSで踊っているのを見られる最初かなと思います。振り付けに関しては、基本的にマイカが主体で「こういうのどう?」って伝えてくれたものを中心に、マイカが思い浮かばなかったところとか、こういう動きの方がいいんじゃない? っていう部分を他のメンバーが意見して修正して完成させています。「I don’t say sentiment」は、結構早く振りが出来上がった気がします。
──脱退したカミヤさんがBiSにレンタル移籍していたときに、メンバー同士で振り付けをしていました。そのときに近い作り方なんですね。
ミキ : そのときよりもみんなの意見がちゃんと入っているというか。みんなが持ってくる意見や、その場で出るアイデアも以前に比べるとしっかりしているものが多かったんです。それぞれ経験を積んできているので、ダンスをしたとき想像できる部分も増えて、全員で作っている感はより強いダンスになっています。
──ちなみに、前作「Don’t go to the bed」のMVは何がテーマになっているんでしょう?
ミキ : 前作は、カラスに囚われて人体実験をされるけど、最終的に自分たちの力で切り抜ける、という感じの物語でした。何かしらに囚われるというか、何かしらの課題が課せられているイメージがGO TO THE BEDSなのかなって。
──5月22日には、カミヤサキさん脱退のニコ生放送が行われました。カミヤさんに憧れてこの世界に入ってきたミキさんにとっての通過儀礼だったと思うんですけど、そこから2、3週間経った現状の心境はいかがでしょう。
ミキ : 今までとあまり変わらないかもしれないですね。もちろん、ギャンパレとGO TO THE BEDSでやらなきゃいけないことややるべきことは違うけど、自分に課されているものはあまり変わらないかなって感じはしますね。
これでコケたら本当におしまいだと思っている
──サキさんの脱退から2週間近く、GO TO THE BEDSはしばらく沈黙期間が続いていました。メンバーのTwitterアイコンが卵になり、つぶやきも全くない期間がありました。その期間どんなことを考えながら生活していたんでしょう?
ミキ : 今までの自分を見直していました。それこそSNSの使い方ひとつとっても、より客観的に見れる期間だったので、今までの自分はどうだったかなっていうのをより見直したり、あとは振りの参考になりそうな動画を探したり、アルバムの振りをひたすら考えていました。Twitterに関しては、最初の2、3日は気になって開いていたし、エゴサもめっちゃしていたんですけど、だんだん、ない生活に慣れてきて。最後の方は1日1回開けばいいぐらいのペースになっていました。
──メンバーが5人になって、コミュニケーションも取りやすくなったんじゃないかと思います。全員癖の強いメンバーですけど、どんな話をしていますか?
ミキ : 本当にしょうもないことが多いかもしれないです。今はまだ、直接会って話す機会が週1、2回の練習の時だけなんですけど、ココは人と喋りたい子だから、1日空くだけでしゃべりたいことがいっぱいになるみたいで。こういうことが家で起きたとか、何時に寝て、こんな時間に起きてみたいな本当にしょうもない話をしています(笑)。そういう話で盛り上がるメンバーなので、「私こうだったよ!」みたいにマイカが言ってきたり、それだけでも結構盛り上がります(笑)。
──あははは。ミキさんはディズニーに行けないのがつらいですよね。
ミキ : 本当につらいですね。さみしくて。
──外出できないことで気持ちが塞ぎがちになっちゃうこともあると思うんですけど、ミキさんは家にいて1人で何か考えている時にそうならないですか。
ミキ : GO TO THE BEDSは動きはじめなので、まだ気持ちの落ちようがないというか。アルバムの振り付けが残り何曲もあるので、参考動画を探す方に専念したり、なにができるかを考えることが多いです。落ち込んでいる時間がもったいないなと私は思ってしまうとうか。落ち込んだ上で、いろいろ考えていいものを出す人もたくさんいると思うので、そこは人それぞれだと思うんですけど、私は落ちるだけになっちゃうタイプなので。やっぱり元気な姿を見てもらうのが1番だと私は思うので。そっちに方向転換した方が自分の柄にも合っているし、自分が見せたいものにもマッチしてくるなと。そこは人それぞれだと思います。
──ニコ生放送の後に取材させてもらったとき、「私たちはそんなに時間があるわけでもない」と話してくれました。そういう意識は常に持っているんですか。
ミキ : これでコケたら本当におしまいだと思っています。逆に、よくここまで残してもらえていたなと思うぐらいグループとして落ちてしまっていたし、自分の意識としても全然高くないところにいた。これがラストチャンスなんです。今まで事あるごとにスタートさせてもらって、また落ちて、スタートしてみたいなことを繰り返してきたけど、WACKも大きくなってきて、アーティストも増えてきた中、WACKの中で生き残るのも生半可なことではない。ここで頑張れなかったら、この業界では絶対に生き残れないと思う。いかにスタートダッシュを決めて勢いよく進んでいくかが大事になってくるんです。だからこそ、この自粛期間で落ち着いて1回考える時間がもらえたことがよかったなと思いますね。
どちらとも「生と死」をテーマにして書いている
──GO TO THE BEDSは、どういう部分が強みのグループにしていきたいですか?
ミキ : 今はまだライヴができていないんですけど、ライヴは絶対にいいものを作りたいと思っていて。ライヴで魅せていけるグループになりたいなと個人的に思っているし、スタッフさんからもライヴのことをよく言っていただいているので、そこは第一に考えていきたいなと思います。ギャンパレ時代にサビをよく歌っている子がGO TO THE BEDSに集まっているので、歌唱力の部分や歌詞の表現部分でも強みを活かしていけたらいいなってことを話しています。
──アルバムはどんな作品になりそうですか。
ミキ : これがGO TO THE BEDです! って1番しっくりくるアルバムになっていると思っています。前回出したスプリットアルバム『G/P』に収録されている3曲は、全曲ジャンルも雰囲気も違っていたので、方向性がちゃんと伝わりきれていないのかなと思って。それも良さではあったと思うんですけど、これからこういう曲を歌っていきますとか、こういう方向性ですっていうのが、アルバムを聴いてもらうとわかると思います。激しめのロックだったり、中毒性のある曲だったりが多いので、GO TO THE BEDSが進みたい方向を示しているアルバムになっていると思います。
──ギャンパレの血、みたいなものを受け継いでいると思いますか?
ミキ : それはありますね。GO TO THE BEDは、ギャンパレでやっていたちょっと激しめのオラオラ系を担わせてもらっている感じが強いです。メンツもオラオラ系なので(笑)。
──今回メンバーそれぞれが作詞している曲が入っているんですよね。ミキさんは「MISSING」と「VILLAIN」の2曲の歌詞を書いています。詞を書く時に心がけたことはありますか?
ミキ : 私は、その時の心情を書くことが多くて。デモを聴いて、こういう雰囲気だからこういうテーマにしようってことを、その時に決めたりするんです。今回書いた2曲は、どちらとも「生と死」をテーマにして書いていて。「MISSING」の方はわりと具体的にイメージしやすいものを書いたつもりで、「VILLAIN」の方が結構抽象的な感じをイメージして書いたものです。
──「生と死」を考えるようなことがあったんですか?
ミキ : これはあまり言おうと思っていなかったんですけど、WACK合宿オーディション期間中に父親が亡くなって。歌詞を書いていたのが、そのタイミングだったんです。
──それはかなり大きい出来事でしたね。
ミキ : 大きい出来事だったんですけど、同情されるのは嫌だから言わないでおこうと思ったんです。父親とはそんなに仲良くもなかったから、自分の中で想っていることも、外に伝えるのが難しいかなと思って。曲調的にもイントロから悲しい感じがあったので合うかなと思って、通夜と告別式の間の夜に書きました。
──身近な人が亡くなって、どんな心境だったんでしょう。
ミキ : 突然ふっといなくなってしまったので、あまり実感が湧かなかったというか。なかなか実感が全然持てず、不思議な感覚でした。
──「VILLAIN」というタイトルはどういう意味なんでしょう。
ミキ : 「VILLAIN」は直訳すると悪役みたいな意味なんです。マネージャーの辻山さんに「これは死んじゃった人が、本当は生きたかったという執念を持っている歌詞です」ってことを伝えた時、悪役っぽいイメージを持ったってことを言われて。VILLAINっていうタイトルの候補があったから、「じゃあ、それにしよう」って2人で決めました。
──歌詞を書いたときは、お父さんが亡くなられた渦中だったと思うので、いろいろな感情が渦巻いていたと思うんですけど、レコーディングをして、ミックスされた音源を、時間を置いた状態で聴いた時、どんなことを感じましたか。
ミキ : 「MISSING」に関しては、サビの部分を私は歌っていないんです。他のメンバーが歌ってくれていることによって、また違う曲にも聴こえるなと思いました。もし私が歌っていたら、このインタビューを読んでくれた方とかが、そういうものとして聴いちゃうけど、他の子たちが歌っていることによって解釈が何通りにもなるし、私が歌わなくてよかったなって。自分も感情の入れ方が上手く分からない曲なので、松隈さんはやっぱりさすがだなと思いました。普段だったらサビの歌割りがないことに関して悔しいと思うんですけど、「MISSING」はそれがなかったですね。出来上がりを聴いた時に他の4人が歌ってくれてよかったなという気持ちがありました。
──ある意味レクイエムみたいな感じの曲になっているというか。それぞれの人生が入っているアルバムでもあるんですね。
ミキ : 重いんですよね、ちょっと(笑)。っていうのは思いました。他のメンバーの歌詞もちょっとずっしりしている。
サビでは「お前らもっと行けよ」みたいに背中を押してくれている
──渡辺(淳之介/WACK代表)さん作詞の曲も何曲か収録されています。これまでも、グループの現状を表していたり、メンバーへのメッセージが込められたりする歌詞が多いですが、今回の歌詞に関してはどんなことを感じましたか。
ミキ : 「I don’t say sentiment」は特に思うんですけど、すごく私たちのことを見てくださっているなって。本当に伝えたかったことを思い切り歌詞にしてくれたんだなと伝わってきたし、私もそうだよなと思うような歌詞です。ド頭からずっと、そうだよなあの連続でした。Aメロ、Bメロとかは特に渡辺さんの気持ちが伝わってきます。
──この歌詞は、自分たちに向けられたメッセージでもあると。
ミキ : かなっていうのはすごく思いました。サビで「お前らもっと行けよ」みたいに背中を押してくれている感じもあって。そこは愛を感じるところですね。
──アルバム1曲目のタイトルは「行かなくちゃ?」です。WACKのグループの楽曲でよく使われるフレーズですけど「?」がついているのが気になるところです。
ミキ : みんな気になってくれていると思うんですけど、曲の中に「行かなくちゃ」って言葉は出てこず、「行けばいいんじゃない?」しか出てこないんです。「行けばいいんじゃない?」ってちょっと投げやりっぽい感じも、私たちに言ってくれている感じがするというか。
──背中を押してくれるけど、自分たちは最後のチャンスでもあるわけで、あくまでもその一歩を踏み出すのはメンバーなんだ、と。
ミキ : そういう意味でもピリッとするというか、ちょっと身が引き締まります。「行かなくちゃ?」も「I don’t say sentiment」も、そういう曲ですね。
──以前、ギャンパレを越えることが最低限の目標だと語ってくれました。それを踏まえつつ、どんなグループにしていきたいと考えていますか。
ミキ : 個人的には、人にちゃんと訴えられるグループになりたい。GO TO THE BEDSには、そういう曲も歌詞もあるので、上手く自分たちの力を相乗して何かを問いかけたり力を与えたりしたいし、自己満にならないようにしたいなとは思っていて。ギャンパレの最後の方は自分たちの思いがグループの中で留まっていた感じがすごくしたので、それは絶対に抜け出したい。そこを変えなきゃ変わらないと思う。あと、他のグループがやってこなかったことをやっていきたいねって、メンバーで話しています。PARADISESがインスタを始めたり、ナルハが「今日、好きになりました」に出て新しいことを始めているみたいに、GO TO THE BEDSだからできる新しいことを始められたらと思います。それぞれのキャラクターも強いので、おもしろいものが出来上がるのかなと思います。
──たしかにキャラクターがみんな強いから、それぞれの個性の掛け算で、おもしろいグループになっていきそうですね。
ミキ : それぞれ好きなものも違うので、個性をもっとより表に出していけたら結構変わるんじゃないかって。ドク(※ユイ・ガ・ドクソン)はラーメンコラムをしていたり、ユアもラジオやったりしているので、そういう部分をもっと伸ばしていったら、思いもよらないところに派生していくかもしれないなって。そこを大きくしていけたら自ずとグループとしても大きくなっていけるのかなと思ってやっていきたいです。私たちは遅れてきた新人なので(笑)、楽しみにしていてください!
GO TO THE BEDS PROFILE
ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソンの5人からなるアイドルグループ。読み方は“ゴートゥーザベッツ”。
2020年3月、所属する音楽事務所WACKが主催するオーディション合宿「WACK合同オーディション2020」最終日に事務所代表の渡辺淳之介より「ギャンパレ」を2つに分ける形で結成がアナウンスされた。
2020年4月1日に同日結成した「PARADISES」とのスプリットアルバム『G/P』をリリース。
同年7月22日に初のフルアルバム『GO TO THE BEDS』をリリース!!