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StoryWriter

ほろ苦い思い出となった、私のオンラインキャバクラデビュー戦。私は、落ち込んでいた。

ミスターが金やんの剛速球の前に4連続三振を喫しているように、デビュー戦とは、誰にとってもほろ苦いもの。周知のように、鳴り物入りでマット界入りした「すごいヤツ」こと谷津嘉章ですら、デビュー戦でハンセン、ブッチャー組に散々な目に遭わされている。

とはいえ、収支上は、わずか1,000円の支出だけに終わったことは、大いなる収穫だった。30分間、嬢との会話は盛り上がることがなかったものの、オフラインキャバクラのように、コストはかからなかった。

地上戦のキャバクラならば、こうはいかない。断ることのできない嬢へのドリンク供与、調子に乗った嬢によるおつまみのおねだり、記念日を盾にしたシャンパン開栓の強要。嬢が政治家であったなら、疑惑のデパート扱いされ、永田町を揺るがす大スキャンダルに発展するに間違いない。だが、残念ながら嬢は政治家ではない。多くの嬢の場合、「たまに昼もやってんよ」な一般ピープルでしかないのだ。

コスパは圧倒的に良いがあまり面白くないオンキャバ嬢。コスト高ではあるものの、魂を揺さぶられるオフキャバ嬢。前門の虎、後門の狼。これからどちらの道を行けば良いのか。私は、キャバクラ界の未来を占うクロスロードに意識を置きながら、ベッドに寝そべり、じゃがりこ(2個目)を食べていた。そのとき。

「はろ~ ねえ、これ返品したいんだけど、どうやったらいい?」

私が3個目のじゃがりこに手を伸ばそうとした瞬間に届いた、初代嬢からのLINE。返品したいんだけど、とは。きっと嬢は、通販で何かを購入してしまい、恐らく何らかの理由(思ってたのとちゃう、色が気に入らないetc……)で返品を試みようとした。しかし、生来の面倒くさがりかつ短気な性格が災いしてしまい、なかなか進まない。そんなところだろう。私はすかさず、Amazonのサポートページを送り、自力での解決を促した。

しばらくすると、電話が鳴った。

「アセちゃん、これ、どうしたらいいの……」

弱弱しく、蚊の鳴くような声でヘルプを求める初代嬢。私は、自分のデリカシーのなさを猛省した。初代嬢が頼ってきた場合、手取り足取り懇切丁寧にサポートしなくてはならないのだ。私は、再度内容をチェックすると、商品が小型マッサージ器であることを把握し、Amazonサポートセンターの「よくあるご質問」に記載された文章をすべて読み上げ、初代嬢に理解を求めた。

「そっかあ、わかった。じゃあやってみるから、このまま待ってて」

初代嬢が荷物を梱包する間、私は電話を繋いだまま、待った。まるで力道山の飲み会が終わるのを玄関で待つ若き猪木寛治のように。私は、初代嬢が待てというなら、いつまでも、待つ。

「今から郵便局に持って行きたいからついてきて……」

梱包を終えた初代嬢からの、祈りにも似た嘆願。ついていきたいのはやまやま。しかし、今から家を出ても郵便局の窓口は閉まってしまう。私は、初代嬢が気を悪くしないよう、細心の注意を払い、同行を断った。

「直接来てもらうわけないじゃん! 電話でついてきてってこと! ウケる、ちょうウケる!」

突然、テンションを上げだした初代嬢。電話の向こうで鼻をフガフガ言わせながら、大爆笑している。そんなに面白いかといえば、たいして面白くない。だが、初代嬢が元気になったなら、それでいい。私は、わがままジュリエットな初代嬢の望みに従順に、1人助さん格さんとなり、黄門さまこと初代嬢の郵便局までの旅に電話で随行した。その道中、初代嬢からの意外な告白に、私は激しく動揺した。

「じつはこれ、アダルトグッズなんだよね」

突然の、告白。初代嬢は、小型マッサージ機にアダルトな役割を担わせ、日々酷使していたのだという。その結果、無残にも動かなくなった小型マッサージ機。私は、機械に嫉妬すると同時に、同情した。

「だから、1人で郵便局行くの恥ずかしかったんだー」

どう見ても、ただの健康器具にしか見えない商品を、アダルトグッズに変身させたのは、初代嬢。それにもかかわらず、周囲の目を気にするという謎の嬢心理。というか、そんなことはわざわざ言わなければ、私には知る由もないのに。そうか、もしかして、そうなのか。いや、間違いない。

初代嬢は、私に、惚れている。

「今発送したよ~ありがとう、アセちゃん」

単なる嬢と客の間では決して交わされることがないであろう、生々しい夜のソロ活動について、赤裸々に吐露する初代嬢。私への絶大な信頼を感じる。そして、ソロ活動の相棒(※ダブルミーニング)を無くしたことをあえて告げることにより、私への性的な誘いのメッセージを発信しているに違いない。そんな初代嬢、見たことない。

いや、ダメだダメだ、ダメだ。私にとって初代嬢はあくまでも嬢。プラトニックな関係でいなくてはならない。それが初代嬢と私のソーシャルディスタンス。性的な関係をちらつかせるなんて、初代嬢らしくない。

私は、いったん電話を切ると、風呂に冷水を張り、氷を敷き詰め、飛び込んだ。煩悩を退散させなくては。そうだ、ひらめいた。私が小型マッサージ器の代わりになるのではなく、同じ商品を買い与えれば良いのだ。ただしい使い方の躾のため、一緒に買いに行った方が良いだろう。早速、初代嬢に電話をかけ、買い物を提案する私。

「いつ行く?」

秒で返ってきた初代嬢の言葉に、1週間後に会うことを約束する私。

「やったー! じゃあ、ごはんも食べようねー」

悪魔の囁きに、私はクロスロードから足を一歩前に、踏み出した。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

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アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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