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坂口有望がEDMサウンドに昇華したコロナ禍のリアル「ただシリアスなだけの歌にはしたくなかった」

StoryWriter

大阪の下町・天王寺出身、現在は東京の大学に通いながら音楽活動を続けるシンガー・ソングライター、坂⼝有望。新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、予定されていた⾃⾝のライヴツアーの中⽌などを受け、坂⼝のリアルなメッセージが込められた配信シングル「2020」を2020年7月22日に突如リリースした。これまでのイメージを大きく覆すEDMサウンドで、プロデュースを務めたのは、⽔曜⽇のカンパネラのサウンドプロデューサーでもあるケンモチヒデフミ。なぜ、坂口はEDMサウンドを取り入れたのか。そしてコロナ禍に何を考えたのか。メールインタビューにて話を訊いた。

取材&文:西澤裕郎


ただシリアスなだけの歌にはしたくなかった

──「2020」は、サウンド面でも歌詞面でも、坂口さんの印象を大きく変える作品だと思いました。いつ頃、どういう状況の中で書かれたんでしょう?

坂口有望(以下、坂口):この曲は、予定していたツアーの中止が決まってすぐの自粛期間に出来ました。ライヴがしたくて気持ちがウズウズしていたので、どこか吐き口として書いていたところもあると思います。

──ケンモチさんには、どの段階でサウンドプロデュースを依頼したんでしょう? 坂口さんのコロナ禍での想いが明確にこもっている楽曲なので、弾き語りという方法で伝えるのと、EDM調のサウンドで伝えるのでは伝わりかたが変わると思いました。

坂口:わたしが簡易で作ったデモ音源をスタッフチームに展開して、ケンモチさんにアレンジしてもらっては面白いんじゃないかと、満場一致で決まりました。弾き語りは、良くも悪くも歌詞の世界観に寄り添ってくれます。でも今回、ただシリアスなだけの歌にはしたくなかった。だから、サウンドは踊れるようなEDM調を選びました。もう一つ、実は、今回はじめてDTMで曲を作ったんです。自粛期間だったからこそ挑戦できたことです。そんな皮肉も、曲に込めようという意図がありました。

 

──コロナウィルスの影響によって、学生生活、音楽のお仕事はどのような変化を受けましたか。

坂口:まず、大学は全て遠隔になりました。学食で友達と喋るリフレッシュの時間もなく、ただ勉学に徹して、課題に追われる日々です。音楽面では、春から予定していたツアーが中止になりました。ライヴの景色を想像しながら、前作の制作、リハーサルまでしていた分、ショックは相当大きかったです。今は、オンライン授業の合間を縫いながら楽曲制作に励んでいます!

──大学では英文学を勉強されているとのことですが、コロナ禍関係なく、感銘を受けた作品や作家さんがいらっしゃったら教えてください。

坂口:高校生の時に出会った、F. Scott Fitzgeraldの『The Great Gatsby』は今でも大好きな作品です。「女の子はおバカな方が、上手く生きていけるのよ」といったセリフがあり、そこに覚えた悔しさが、今もわたしの行動力の源になっていると思います。

──上記の質問に近いのですが、大学生になってから出会った音楽や芸術作品などで感銘を受けたものはありますか。

坂口:大学入学と同時に上京して、スタッフさんと話す機会が増えたこともあり、昔の作品にたくさん触れるようになりました。洋楽ではELTON JOHNにハマりましたし、邦楽では、今改めて荒井由実さんのアルバムをリピートしています。

 

わたしにとって音楽は、水のようなもの

──「2020」の歌詞の中に「抵抗の迷走」というフレーズがあります。これはどんな出来事を象徴した言葉なんでしょう?

坂口:ネットのデマ情報を信じ込んでしまう人、また、コロナ禍でなくても心のムシャクシャをSNSの誹謗中傷で埋めようとする人、それらが抵抗の迷走のように思えて書いた言葉です。

──「ライヴはミュージシャンとしての私が、一番生き生きしていられる場所だと思います」と別のインタビューでおっしゃっているのを拝見しました。坂口有望 Tour 2020 「shiny land」の延期など、ライヴができない日々が続いていることに対して、どんな想いでいらっしゃいますか?

坂口:わたしは、オリジナル曲もまだない頃に、ライヴハウスという場所が好きで、ライヴが好きで音楽活動を始めた人間です。ミュージシャンとしての私だけでなく、学生としての私の生きがいでもあります。少しでもチャージしようと、最近はインスタライヴなどでも歌っています。

 

──岡山のライヴハウス・ペパーランドの創設者・能勢 伊勢雄さんが、インタビューでこんなことを発言されていました。

「(死という)絶対的なものを前にして、それらの判断は全て全面的に正しいし、表現をしたいと言って決行しようとすることも正しいわけです。そのどちらも間違いではない。それはなぜかというと絶対的なものを前にしての判断だからです。言葉を変えて言えば「死」という、もう選択の余地のないものを前にしてのことだから。それはどちらも正しいのです」。
https://www.musicman.co.jp/interview/312676

コロナ禍で、ミュージシャンは音楽をやる覚悟を問われていると感じています。コロナ禍を経たことによって、音楽活動に対して考えたことを教えてください。

坂口:この状況が永遠に続く訳ではない(そうであってほしいものです)ということが、唯一の救いです。死という永遠なものがライヴ中止によって防げるのであれば仕方ないと、一時的だから言えるのだと思います。また、表現の形は一つではないと気づかされました。わたしは、ライヴではなく、こうしてコロナの曲を書きました。それがまた誰かの心に届くのであれば、希望なんじゃないかと。音楽の可能性は無限です。

──「2020」という楽曲を作ったことによって、表現の幅が広がったと思いますが、今後チャレンジしてみたい表現方法などがあれば教えてください。

坂口:以前はギターだけで作っていたのに対し、DTMもそうなんですが、鍵盤でも曲を作るようになりました。ピアノ弾き語りの繊細な曲があったら面白いんじゃないかと思っています。

──坂口さんにとって音楽とはどんなものでしょう?

坂口:わたしにとって音楽は、水のようなものです! 飲むことも、潜ることも、人とかけ合うこともできる、色んな形でわたしの人生と結びついている不可欠な要素です。

PROFILE
坂口有望(さかぐち・あみ)

2001年2月20日生まれ。大阪の下町、天王寺出身。 ルーツミュージックはチャットモンチー、クリープハイプ、TAYLOR SWIFT。ファイバリットアーティストはRADWIMPS、JOURNEY。 今年大学進学と同時に上京し、大学に通いながら音楽活動中。現在大学2年生。 温かくも切ない歌声と、等身大の世界観の中から鋭く切り取られ描かれる歌詞。詩とロックとポテトを愛する、大っきな可能性を秘めなが らも、ちょっと小っちゃな19歳。

Official HP:https://www.sakaguchiami.com/

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