watch more

【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第20回

StoryWriter

ギリギリでいつも生きていたい。

私は、常々そう思って日々を過ごしている。宵越しの金は持たない。家も、車も持たない。もちろん、もうパンツは履かない。そう、勝新太郎なみに豪快な人生を送りたいのだ。

その結果、現在の所持金、246円。

ポケットの中にはビスケットすら入っていない。まさにギリギリで生きる人生そのものなのが、今の私。

Route 246を走り厚木へと向かい、労働の疲れをキャバクラ「ギャッツビー」で癒したあの日。同世代の嬢、「ガッツだぜ」の類まれなる包容力の前に、場内延長、また延長の無限ループに陥った私。

「アゼざん、ぼれだぢ、がえりますよ」

気が付けば、エトウさん、サカイくんはいつの間にか店からいなくなっていた。私の隣には、ガッツだぜがいる。夫婦のように寄り添うガッツだぜと私。

「アセP、LINE交換してもいい?」

積極的にアプローチをしてくるガッツだぜ。もちのろん、良いに決まっている。すぐさまLINEを交換する私たち。ガッツだぜのアイコンは、ゴリゴリのスケ番ルック。「セクシーナイト」時代の三原じゅん子を彷彿とさせるパーマをあてたヘアスタイルがノスタルジーを喚起する。そして、すかさず第一声となるコメントを送ってくるガッツだぜ。

「よろしくだっちゃ」

ラムちゃん風にコメントを送ってくる、ガッツだぜ。同世代ならではのひと言に心がざわめく。

「じゃあ、これ、お会計」

突然、伝票を私の前に差し出すガッツだぜ。お会計はエトウさんが払ったとばかり思っていた私。恐る恐る伝票を覗き込む。

「お会計:7,500円」

3時間延長、場内指名を経ての、7,500円。安い、安すぎる。まるで何度目かのスターどっきり㊙報告で騙された大川栄策のように、目を丸くして驚いている私。

「一緒にいたカボチャみたいな顔の人が先に払ってくれたから」

どうやら、エトウさんが払ってくれたようだ。こんなところで友情を実感することになるとは。ありがとう、エトウさん。サカイくんがエトウさんを線路に突き落としていないことを祈るばかりだ。

私は、財布を出し、お会計7,500円を払うと、ガッツだぜとグラスを合わせた。

「今度は、うちが会いに行くっちゃ」

LINEから飛び出し、リアルな会話でもラムちゃん語を使うガッツだぜ。額に浮かぶ血管と目じりのシワがまぶしい。私は、黙って頷くと、意気揚々と厚木の街を後にした。

そして3日後の今、残金246円。

私は、ついつい調子に乗ってしまった。歌舞伎町のキャバクラであれば、60分プラス3時間の延長、場内指名ともなれば、お会計は余裕で10万円以上に達するだろう。さらに嬢がドリンクやフルーツを頼むことは不可避なだけに、もしかしたら20万円にも達する可能性すらある。そうなったら怖いお兄さんを伴って消費者金融巡りをしなくてはならない。

それが、厚木ではたったの7,500円で済んだ喜び。そんな経験をした今、どんなにお金を使っても歌舞伎町の店で散財するよりはまし。

そう思った私は、翌日から早速夕飯にピザハットを頼む。

7種チーズと厚切イベリコ、ダブル・シュリンプのどちらも捨てがたい。こうなったら両方注文することにしよう。もちろん、サイズはL。ビッグな男はLサイズに決まってる。サイドメニューには、ホームパーティーにうってつけなチキンコンボ、パスタなども頼んでおこう。

もちろんホームパーティーなどしない。しないけれども、今夜はダンシングオールナイトだ。ピザとチキンとくれば、コーラやスプライトが絶対に必要。

私は、急いでコンビニへとママチャリを走らせる。ゴルゴ13の新しいやつが出てるではないか。これは買わなきゃハドソンだ。ついでにサイバージャパンダンサーズのグラビアが載っている週刊誌も買おう。そうだ、食事の後は、デザートがつきもの。今日は日頃のご褒美に、ハーゲンダッツのアイスクリームを2個食いしよう。よし、思い切ってレジの横にあるミニ羊羹も試しに食べてみよう。そして、レジ内に置かれた根本はるみのDVDもゲットだ。さあ、今夜は忙しくなるぞ。

そして今、残金246円。

バカ、バカ、バカ、私のバカ。勢いあまって、レジにいたルビー・モレノ風の外国人店員さんにチップまで渡してしまうなんて。

調子に乗りすぎて、またしても破綻した私の経済。明日から、どうやって生きていけばよいのだろうか。

仕事もない、金もない。そんな私にあるのは、嬢という名の希望の光のみ。しかし、嬢がごちそうをしてくれることなど、ない。お金がないと、嬢には会えない。私は、泣いた。ただただ、泣いた。引退試合後のテリー・ファンクのように、泣き叫んだ。

そんなとき、私のスマホにLINEの通知が鳴った。

「アセP、今夜、空いてる? 新宿で会わない?」

ガッツだぜが、本当に私に会いにきた。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

PICK UP