駅前でティッシュ配りをしていたショートカットの金髪のギャルとセミロングの黒髪のギャルに誘われ、地下にあるガールズバー「ジューシー」へと続く階段を降りていく私とエトウさん、サカイくん。
「このあたりは、大学が近いから学生が結構住んでるんですよ。かわいい子、多いでしょ?」
エトウさんがドヤ顔で言う。今や住む家をなくし、エトウさんの親が所有するマンションに住まわせてもらうことになった私。ありがとう、エトウさん。おかげでこの街と出会い、そして久々に訪れるガールズバーで素敵なロマンスの予感もする。
久しぶりのラブストーリーのはじまりに向けて、心を震わせる私。そんな私の機先を制するように、サカイくんが先頭を歩き、階段を勇ましく降りていく。いつもなら、こんなに積極的な行動は見せないサカイくん。まさかのロト6当選により、とびきり浮かれているのだ。
「さっきの子たち、彼氏いるんですかね?ね?ね?」
血走った目とカサカサな唇、灰色にくすんだ顔面でサカイくんがたぎる。すでに、先ほどのギャルのどちらかと付き合うことを想像しているようだ。
「お2人とも、いくらでも指名、延長してください。なんてったって、僕は今日ロト6に当選してますから」
サカイくんは誇らしげにバカみたいな大声を上げると、階段の3段目からジャンプして店の前の床に着地した。そのまま上体を起こすと、目の前にある「ジューシー」のドアに貼られた「本日、制服DAY」と書かれたチラシをジッと凝視している。
ところで、どうやらサカイくんはガールズバーを誤解しているようだ。キャバクラと違い、ガールズバーでは指名ができない店がほとんどだ。横に座っての密接な接客ができず、カウンター越しの接客となるため、特定の人間ではなく、近くのカウンターに座った客とはまんべんなくコミュニケーションをとるからだ。言ってみれば、スナックの規模と従業員を拡大して垢抜けさせたのが、ガールズバーであるともいえる。
そうした環境から、キャバクラと比較して働くハードルが低く、気軽にサークル気分でガールズバーに入店する女性も多い。一説では、地方から上京した大学生のじつに98%がガールズバーで働くのだという(※アセロラ4000調べ)。そのため、特に大学生が多く住む街にあるガールズバーには、全国選抜レベルの女の子が所属している可能性が高い。そうか、そうなると先ほどのティッシュ配りギャル2人もきっと神7の一角を担っているフロントメンバーだ。きっとまだまだ柏木由紀や大園桃子レベルのガールズが所属しているに違いない。徐々にWOWWOW WOWWOWと歌いだす私のハート。地球に生まれてよかった。
それにしても、一向に階段から前に進まない我らのグレイシートレインならぬグーニーズトレイン。先頭のサカイくんが店の前に着地して以来、微動だにしない。サカイくんの背後に立つエトウさんがなぜか鼻を激しくひくつかせている。いったいどうしたというのだ。私は、一刻も早くガールズバーに入りたい。ゆきりんみたいな大学生と乾杯したいのだ。なぜ、動かないのか、サカイくんよ。
「すみません」
サカイくんが、蚊の鳴くような声でつぶやく。
「うんこ、漏らしちゃいました」
ドアが開き、大音量のカラオケが聞こえてくる。ドアの向こうから、ジャイアント白田に似たおかっぱギャルと、たまのランニングにそっくりなベリーショートギャルが顔を覗かせている。
「お客さん? ……うわっクサっ! 嘘でしょ?」
私とエトウさんは、「ジューシー」に背を向けると階段を上り、サカイくんを置き去りにして、暮れなずむ街を後にした。
アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
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月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
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