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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン5 コロナ時代編 第26回

StoryWriter

「ハッピーハロウィン!」

ガールズバー「ジューシー」の店内では、恒例イベントとして、ハロウィンパーティが行われていた。

私は、ここで働き始めて早1か月。この日、私の様子を心配したエトウさんとサカイくんも店にやってきたものの、サカイくんはおもらし事件のトラウマを消化できず、入店10分で店を後にした。エトウさんはといえば、カウンターの前に立つガールズたちに思いっきりいじられていた。

「ねえねえ、エドさんって、カボチャに似てるよね?」

ガサガサ声のため、自己紹介時に「エドさん」と認識されてしまったエトウさん。エトウさんはエドはるみでもなければ、エド・サリバンでもない。ましてや、カブキロックスの氏神一番でもない。エトウさんの恥をかかせるな。私はそう思ったものの、カボチャに似ていることは認める。エトウさんは、意外とショックを受けたようで、1人で黒霧島のロックをチビチビと飲んでいる。

いや、エトウさんのことなどどうでもいい。私が今気になっていること。それは、毎週5日間はやってくる常連客・タキさんと、お目当てと思わしき31歳のガール、掛布ちゃんの恋のゆくえなのだ。

「あれ?今年はタキさん、遅くないですかぁ~」

店内でK-POPカラオケに勤しんでいた加護・辻コンビがそう言うと、店内のガールズが一斉に掛布ちゃんの方を振り返る。掛布ちゃんはさみしげに爪を見つめている。ネイルには、親指から真弓、平田、バース、掛布、岡田の顔がイラストで描かれている。掛布ちゃんは、ハロウィンパーティのために甲子園のバックスクリーンのコスプレで勤務していた。狭い店内で甲子園のバックスクリーンのコスプレは正直いえば迷惑だ。しかし、誰もそんなことを口にしない。なぜなら、今日は掛布ちゃんもタキさんとのハロウィンパーティを楽しみにしていることをみんな知っているのだから。

「今年も、あのコスプレしてくれるのかな?」

ジャイアント白田に似たガールが、掛布ちゃんに向かって言う。あのコスプレ、とは。私は俄然期待に心を躍らせた。きっと、大きなバットとボール姿で、掛布ちゃんの待つバックスクリーンへと飛び込んでいくに違いない。そう、思った。そのとき。

ガチャッと音がして、何者かが店内に入ろうとしている。しているが、入れない。扉に引っかかっているようだ。私は、新米ボーイとして率先して入り口に向かう。そこで私は、見た。

巨大な七面鳥に扮した、タキさんを。

「やっぱり、今年もタキさんはターキーで来てくれたんだね!」

亀田興毅によく似たガールズが、控室から顔を出してそう言った。タキさんのタキは、ターキーのタキ。毎年七面鳥のコスプレをしてくるが故についたあだ名らしい。

「最初は、クリスマスとハロウィンを間違えたみたいだけどね」

タキさんが、顔を赤くして、バックスクリーンのコスプレをした掛布ちゃんの前に座る。カウンター越しに向かい合うバックスクリーンと七面鳥。相変わらず、タキさんはひと言も喋らない。長い沈黙が続く。タキさんから少し離れた席では、エトウさんが酔いつぶれてよだれをたらしながらいびきをかいている。

どれぐらい、時が経ったのだろう。

「あの……」

掛布ちゃんが、おもむろに切り出す。

「タキさんって、本名なんて言うんですか」

タキさんは、スミノフの瓶をコトン、とカウンターに置いた。前を向き、口を開くタキさん。店内のガールズたちが一斉にこちらを見る。ごくりと唾を飲み込む私。

「幸田シャーミンと申します」

タキさん渾身の、ギャグ。なのか。

店内に冷たい空気が走る中、エトウさんのいびきの音だけが、けたたましく、響いた。

アセロラ4000『嬢と私』コロナ時代編はほぼ毎週木曜日更新です。
次回更新をお楽しみにお待ちください。

アセロラ4000「嬢と私」とは? まとめはこちらから

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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