2006年結成の4人組ロックンロール・バンド、a flood of circleが、10作目となるフルアルバム『2020』を2020年10月21日にリリースした。
10年以上のキャリアを積んできたとは思えないほど真っ直ぐでエネルギッシュなロックンロール・アルバムといっても過言ではない。頭で考えるよりも先に衝動に身を任せたくなる、過剰すぎるくらいパワフルな熱を帯びている。
全世界的にロックの勢いが強くない状況を客観的に把握しながらも、フロントマンの佐々木亮介は、なぜこのような作品を作り上げることができたのか。その理由を単刀直入に訊いてきた。
取材&文:西澤裕郎
写真:大童鉄平
分断の間にせめて文化があってほしい
──いきなり個人的な話なんですが、僕も佐々木さんと同じく音楽誌MUSICAでレビューを書いていた時期があって。だから音楽について分析して文筆を書く人というイメージが強いんです。
佐々木亮介(以下、佐々木):おもしろい視点ですね。そう言われたことはあまりないから。
──a flood of circleというマスに届くようなロックバンドのフロントマンでありながら、ソロ活動ではトラップやソウルなどを取り入れた実験的なサウンドを制作、音楽雑誌で音楽批評もされている。そして革ジャンを着ている。総合すると、かなり個性的な立ち位置にいらっしゃいますよね。
佐々木:いまおっしゃっていただいたような、よく分からない立ち位置の人になっているとしたら、それは2017年ぐらいからかなと思っていて。2016年頃、曲が書けなくなった時期があったんです。いくら書いてもいい曲だと思えないみたいな状態で、これが最後だという気持ちで「花」という曲を書いたんです。
その状態のままだと、そのあとが続かないと思ってからは、ソロ作品をメンフィスでレコーディングしたり(『LEO』)、先輩のイマイアキノブさんと一緒に何かをやったりするようになって。
a flood of circleには全く反映させてないけど、カニエ・ウェストなども大好きだったし、もっと掘り下げるとティーンエージャーの頃にビートルズが好きだった気持ちに帰った。音楽って何でもありでよかったなと思い出したんです。そこから、興味があったけどやってこなかったことにトライしようと思って、ディスクレビューも自分の分析でちゃんと言葉を選んで書くようにしています。自分的にはそれをもっと広げたいなと思っているし、もっとよく分からない人と思われたいと思っています(笑)。
──別のインタビュー記事で、今のカルチャーが分断しちゃっていて、そこの距離を近くしたいともおっしゃっていましたよね。
佐々木:それは今も思いますね。一昨日、自衛隊がやっている看護学校の特集をテレビでやっていて。看護師志望の女性の話なんですけど、自衛隊の看護学校だから、訓練の中で銃を持たなきゃいけないんですね。もちろん彼女は銃を習いたくて行っているわけじゃないんだけど、災害の派遣などに行きたいから学ぶことを決めて自衛隊に入る。銃は誰かを殺すための道具だから矛盾に感じるんだけど、その人のプロフィールに好きなアーティストが東方神起って書いてあったんです。音楽が介在しているのを見て、立場は違っても分かり合う方法があるかもしれないってことをすごく考えて。いまは音楽シーンが分断していることより、そういう分断の間にせめて文化があってほしい、あるべきじゃない? って思うんです。そう考えると、もっと変な音楽、新しい音楽があったらいいのかもなって。わざわざ架け橋になりたいですみたいなことを言うほどおこがましくはないんだけど、いいものが作れたら、自然とそうなるはずだと信じているので、そこを研ぎ澄ませたいなって思っていますね。
──コロナ禍で、ROTH BART BARONの三船くんに取材で「生きづらくなってないか?」という趣旨の質問をしたら、「最初からこの世界は俺が生きやすいようにデザインされていないし、この世界からあまり祝福されてないし、どうしたら作り変えられるのかという角度で生きていた」という話をしていて。その答えにすごくハッとさせられたんですよね。
佐々木:それは僕も全く一緒ですね。子どもの頃、ベルギーにいたことがあるんですけど、移民がいっぱいいたから生きづらい環境だと感じることが多かった。だけど、分断されている友だちにもドラゴンボールの話は通じるんです。それで繋がっていることがすごく嬉しかった。もっと極端につらい場所にいる人はたくさんいると思うし、それはみんな条件が違うから簡単に味方できるかどうか分からないんだけど、せめて分かり合うきっかけと可能性があるといいよなと思いますけどね。
──僕は同じ音楽好き同士の間で分断と対立みたいなことが起こっているということがコロナ禍で1番つらかったんですよね。それぞれの考え方やパーティがあって然るべきだけど、お互いを許容しあえないみたいな。
佐々木:堅い言葉でシェアするのは無理だなと思うし、かと言って言葉を柔らかくしても罵詈雑言しか残らない気がするから、音楽でよろしくって俺は思っていて。だから、そういうことも歌詞に書こうと思うし、曲で表現したいなと思いますよね。僕はまだ文化の力で寄せられるものや伝えるものがあるって信じたいから。そもそもみんな同じ人間じゃないのに、どっちかのルールをどっちかに強いるっていうのはかなり無理があると思いますし。
みんなバンドやれよって俺は思っているんです(笑)
──僕はコロナ禍でダンス・ミュージックが大好きになったんです。踊っていて自分が主役になれたり、ものすごく快楽的な側面がある。そういう意味で、新作アルバム『2020』も、何かを考えるよりも音で気持ちよくなるという側面をめちゃめちゃ感じて。佐々木さんにとっては、作り終えてみて今作をどのように捉えていますか。
佐々木:この作品を作っていたのはコロナ前のことなんです。2020年1月にトランプ大統領がアメリカからイラクにミサイルを撃った事件があって、世界の終わりの始まりじゃないかって感じて。それは直接的な攻撃じゃないですか。そういうのを見ていた時に、今自分がa flood of circleで鳴らすべきビートとかグルーヴがあるとしたら、それは人間のビートだと思ったんです。よれまくっていても、アップダウンしていてもいいから、本能的であるものというか。楽曲でも「Beast Mode」って言っちゃっているし、「ファルコン」とか動物っぽいんですよね。今回はそのモードに入っている。俺らの音楽はダンス・ミュージックとは決して言わないけど、本能的なものに近いと思っていて。立体的にどうやって構築して聴かせるかとかじゃなくて、1回ドカーンって鳴らすことを大事にしている。なので今作も、そういう本能よりのアルバムになっていると思います。
──別のインタビューでもおっしゃっていましたが、ロックよりもヒップホップだったりラップトップミュージックに流行りが移り変わっている認識も持っていらっしゃるわけじゃないですか。その中で、ここまでガツンとロックンロールを鳴らせたのはなんでなんでしょう。
佐々木:たぶん、バンドが理想だと思い込んでいるんだと思います。スピッツやビートルズが僕の入り口なんですけど、全く気が合わなそうなやつらが集まってきてバンドって構成されていたりするじゃないですか。うちは特に性別も年齢も出身地もみんなバラバラで、入ってきたタイミングも違う。そういうやつらが集まって、何か1ついいと思える瞬間を探そうとしている。作曲も演奏のリズムもそうだし、全然違う人たちが集まって何か一緒のものを探して作ることに相当美学を感じているんです。それが1番いい世の中じゃんって。みんなバンドやれよって俺は思っているんです(笑)。
──たしかにそれはバンドならではのことですよね。
佐々木:バンドって関係性がいいなって思うんですよ。超難しいこととか面倒臭いこととか、お金のこととか、大変なことはいろいろありますけど、その美学を捨てられないから続けているのかなって。バンドがいいと思う時期とソロモードの時期があって、自分的には行ったり来たりなんですけど、それがだんだん混ざって螺旋状に高みに届いたらいいなって思っているんです。自分がバンドマンだとか1個に決めつけないで、できるだけ動き回ってやってやろうって。それで学んでいって、どこかですごいアートにたどり着けたらいいなって思っているんですよね。
本当はどんな仕事でもアートだと思う
──今作では「Beast Mode」と「Super Star」の2曲をエンジニアの柏井日向さんがミックスしているそうですね。
佐々木:2011年にリリースした『I LOVE YOU』って曲を、aikoさんのバンドでギターを弾いていた弥吉淳二さんがプロデュースしてくれたんですけど、そのとき柏井さんがミックスしてくれていたんです。弥吉さんは亡くなってしまったんですけど、最近当時やっていた作業をよく振り返るんです。エモすぎて未だに泣けてくるんですけど、弥吉さんがメモを残していて。もし元気になったら亮介とこういうことをやりたいみたいなリストみたいなのがあったんです。それを最近すごく想像するんですよ。
弥吉さんはもともと北九州のロックンローラーで、ゴリゴリのめんたいロックをやりつつ、椎名林檎さんのバンドやaikoさんのバンドをやったり、ロックンローラーで幅がある人だった。その影響は結構考えるんです。それを考えていたときに、弥吉さんはa flood of circleに軽快さを与えてくれたなと思って。手が超でかい人なんですよ。手がでかい人ってカッティングが速いから、無理やり弾かなくても速さだけででかい音が鳴るんです。弥吉さんは完全そういうギタリストで。2011年に弥吉さんと出会って、弥吉さんがバンドの状況を踏まえて重いと思って、軽さを与えてくれた。「I LOVE YOU」という震災の後の曲に対して、弥吉さんがロックンロールの軽快さとかを少なくともステップが踏めるぐらいのビートじゃないとダメだって教えてくれたことがあって。それを思い出したんです。それで「I LOVE YOU」のミックスをやってくれた柏井さんとやろうと思って。弥吉さんとのストーリーがあるっていうことを伝えて、一緒に仕事してもらいました。
──それ以外の楽曲は、最近のa flood of circleの楽曲をミックスしている池内亮さんが担当されています。どんなサウンドの共有をしたんでしょう。
佐々木:楽曲制作の当時はカニエ・ウェストがちょうどゴスペルアルバムを出した後だったり、ラップもどんどんマニアックになってきて、ブルックリンなどのダークなラップも増えてきているからって話もしつつ、どういうバンドのサウンドだったらおもしろいかって話をして。それぞれとの関係で1番いい仕事をしてもらおうと思って任せました。
エンジニアって、ミュージシャンが楽器を操っているのと全く一緒だと思うんです。ミキサーってどこかでミュージシャンになると思うんですよ。DJも今はちゃんとミュージシャンとして扱われているじゃないですか。ミックス・エンジニアもミュージシャンだって、そのうちみんなが気づく時が来ると思うんですよね。それこそビリー・アイリッシュのお兄ちゃんはLogicで録音もして、ミックスしている。エミネムもそうだし。だからエンジニアは超大事。尊敬しています。僕がエモさまで共有するのは、彼らのことをメンバーと思っているからですね。そういう部分も伝えて今作は一緒に作りました。
──デジタルになってクレジット表記が軽視されがちですけど、そこは本当に大事な部分ですよね。
佐々木:一応クレジットボタンがあるから僕も見るけど、本当に最初にしか書いてないので、もっとできるんじゃないかと思うんです。うわー格好いい曲だ、誰がミックスしているんだろうと思ってパッと見て調べることができたら、そのあとメールすればコンタクトは取れるだろうし。俺はその感じでメンフィスに直接メールしました。本当にいいと思ってコラボしたいと思ったら連絡できるよう、ちゃんと名前を出して伝えていける環境は大事だと思います。
──佐々木さんはプレイヤーとしてだけではない幅広い視点を持ってらっしゃいますよね。だからこそ、形の違うアウトプットができるんだなと今日話を聞いていて強く思いました。
佐々木:本当はどんな仕事でもアートだと思うんです。人事の仕事も人をどう組み合わせるかの表現だし、ドアを作るのももちろんアートだと思う。何もかも本当は表現なのに、みんな自分が表現していることに気づいていないのが、すごくもったいない。文系とか理系とか分けるのも、なんでだろうと思うんです。アルキメデスとかは天文学も数学も詩も書いているじゃないですか。今日たまたま本を持っているんですけど、相対性理論とか時間とは何なのか説明していて。なんでそれができるようになるかと言うと、詩から考えているらしいんです。詩というアートの中に知らなかった可能性があるかも、と想像しないと科学的な発見は生まれないって書いてあって。自分も音楽という表現をやっていますけど、ディスクレビューとかどんなことも自分のアートになるんだなってすごく思うんですよ。すべて大事だなって。そういった一つ一つのことをないがしろにしない方がいいし、実はみんな繋がっているんだなと僕は思うんです。1個1個が本当はすごく大事なんだなって。
a flood of circle PROFILE
2006年結成。佐々木亮介 (ササキリョウスケ)、渡邊一丘(ワタナベカズタカ)、HISAYO(ヒサヨ)、アオキテツの4人組。”ロックンロール”はジャンルでなく”体現”であることを証明し続けているバンド。2009年にはビクター・スピードスターからメジャー・デビュー。2014年にはNHKアニメ「団地ともお」のEDテーマに抜擢、FIFAワールドカップをモチーフにした朝日新聞CM「サムライに告ぐ」篇に新曲「GO」が使用されるなど大きな話題を呼ぶ。2016年ベストアルバムのリリース、自身初となる海外ツアーを開催。2017年11月にはトリプルAサイドシングル「13分間の悪夢」をUNISON SQUARE GARDEN田淵智也プロデュースでリリース。収録曲「美しい悪夢」がBS日テレドラマ「妖怪!百鬼夜高等学校」の主題歌に採用される。2019年4月リリースシングル「The Key」がテレビアニメ「群青のマグメル」のEDタイアップ。10月21日に10枚目のフルアルバムとなる「2020」をリリース。2021年にはバンド結成15周年を迎える。