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台湾で60s&70sソウル&ファンクを追求する音楽家YUFUが語る、理想のサウンドとは?

StoryWriter

台湾に「YUFU & The Velvet Impressionism」というロックバンドがある。台湾のガレージ・サイケデリック・ロックシーンを率いたバンド鱷魚迷幻(CROCODELIA)の元ギター / ボーカルYUFUによるR&Bロックバンド・プロジェクトで、2018年末にプロジェクトが始動、2020年9月に1stアルバム『Is It Vain To Be Awake?』をリリースした。60年代サイケデリック・ブルースに影響を受けたヴィンテージ・サウンドにR&B / ファンクリズムが加わったこの作品は、オンライン交流が盛んな現代社会に、いかにテクノロジーとマスメディアが人々を支配しているかを訴えたアルバムとなっている。

ある日、YUFUから「YUFU & The Velvet Impressionism」について、そして台湾の音楽シーンについて何かを書きたいと連絡をもらった。既に解散した鱷魚迷幻(CROCODELIA)やYUFU & The Velvet Impressionismの曲も聴いていた(残念ながら直接ライヴを観ることは叶わなかった)僕にとって、彼からのオファーは驚きであったと同時に、光栄でもあった。

「The Velvet Impressionism」を結成するまで、彼が求めるサウンド、そして現代の台湾音楽シーンに感じていること。翻訳というプロセスを挟んでしまってはいるが、少しでも彼の言葉がダイレクトに伝わることを願う。そして、彼の音楽を聴いてほしい。(エビナコウヘイ)


” Is it vain to play vintage music?”  ヴィンテージ音楽を演奏することは虚しいことだろうか?」

文:YUFU(from YUFU & The Velvet Impressionism, Taiwan)

モータウンレコードへの熱情

僕にとっては時間も空間も常に曖昧だ。だから僕はいつも異なる現実、様々な黄金時代たちや、作曲のルネッサンスのような時代に行ったり来たりしている。音楽によってのみ、タイムトラベルが実現できる。

僕のバンド「YUFU & The Velvet Impressionism」は、最初から妙なバンドだった。以前組んでいたバンド・鱷魚迷幻(CROCODELIA)で60sに影響を受けたネオサイケ・ミュージックを演奏している間、僕は自分の音楽への愛が、特にモータウンレコード(アメリカで1959年に創立されたレーベル)のような、ソウル・ミュージックやヴィンテージ・ファンクに注がれているものだと気付いた。何年にもわたって作曲をして、それを自分で楽しんできた。そして、バンドを組んでこの楽しみを共有すべきだと気付いた。

しかし、台湾にはヴィンテージサウンドへ理解を示す人は少ない。だからバンドの名前を「The Velvet Impressionism」に決めた。ほとんどの人はヴィンテージ・ミュージックのシーンに興味がない。だからバンドの名前を長くすることで人々が困惑し、僕が愛して止まず、作曲もしてきたヴィンテージ・ミュージックへ人々の注意を向けようとした。「ベルベット」とはビロードのように滑らかなサウンドとスタイルで、「インプレッショニズム」は僕のルーツであるサイケから来ている。

2年以上、The Velvet Impressionismに合うミュージシャンたちを見つけることができなかった。僕たちは、旧友の鱷魚迷幻(CROCODELIA)のオルガニストにレコーディングの助けをしてもらったが、彼はその後バンドを去ってしまった。そしてある時、僕たちのバンドにサックスプレイヤーが加わった。また、ボンゴと大正琴の奏者ともセッションし、良いインスピレーションを得た。多くのミュージシャンたちと演奏する特権をもらったかのような気持ちだったが、残念なことに多くの場合、彼らには他のプロジェクトがあり、そのため僕のバンドは定まらなかった。

 

台湾で僕の創り出したい60sや70sのサウンドを理解してくれるミュージシャンを見つけることは極めて難しい。先ほども述べたが、台湾の人々はこういった音楽ジャンルに詳しくなく、僕のようなイカれた男とギャンブルなんてしたがらない。アルバム発表の3ヶ月前、もう一人のメンバーが仕事の関係上バンドを離れることになった。その時まさに、ボーカル/ギターとして僕、ベーシストにYuun、リズムギターにHongli、ドラマーにTootle、新たなオルガニストとしてZhonglinからなる新たな「The Velvet Impressionism」を作る時だと気付き、音楽性が変わらなければバンドのメンバーが変わっても大丈夫だと気付いた。

1stアルバムに込めたメッセージ性

僕は現在、60s、70sのヴィンテージ・ミュージックのさらなる深掘りを続けている。特に好んでいるのは1968年から1974年の間の音楽だ。この期間の音楽には、他と一線を画するような違いがあると思っている。僕が音楽を始めたのは、10代の頃で皆とそう変わるわけではない。でも、時々、なぜ僕は台湾においてはほとんど見られないスタイルの音楽を学び、それにときめきを覚えたのかと不思議に思うのだ。

 

エルヴィス・プレスリーの楽曲「Hound Dog」を初めて耳にした瞬間をまだ微かに思い出せる。グルーヴ、エネルギー、ブルースが僕へ門を開いてくれた。そして、だからこそヴィンテージサウンドがいつまでも僕を捕まえて離さないのだ。僕にとっての新たな記録的音楽が現れるまで、ヴィンテージサウンドへの渇望は満たされないだろう。その後、リンク・レイやソニックスのようなガレージロックに傾倒し始めた。続いて日本のバンド、キノコホテルやImposters、サイケバンドのスウィート・スモークやストロベリー・アラーム・クロック、ザ・エレクトリック・プルーンズ、そして最終的にはカーティス・メイフィールドや、偉大な伝道師でもあるマーヴィン・ゲイに加え、ビリー・ポール、バリー・ホワイト、アイザック・ヘイズなどにたどり着いた。

多くのメッセージを持つ音楽を楽しみ、作曲も行うようになった。そして60sと70sの映画音楽から最も大きな影響を受けたため、そうしたサウンドが極めて自然に僕自身のサウンドとなり、誰からも僕の音楽が映画のようなクオリティだと言われるようになった。YUFU & The Velvet Impressionismの1stアルバム『Is It Vain To Be Awake』のレコーディングでは、まさに映画音楽の作曲手法をとっており、鱷魚迷幻(CROCODELIA)での作曲の仕方とは全く異なる。さらにR&Bで強烈なものだから、制作は非常に難しかった。

人々の意識にイメージを刷り込むことは僕自身も好きなことで、そのためにはメッセージ性が重要な役割を担う。アルバム全体が僕にとっての日々の記録というだけでなく、「社会、技術と、それがどのように僕たちに影響を及ぼしてきたか? なぜ僕たちは物質主義に引き寄せられるのか? についての議論」というコンセプトを持っている。僕は説教のようなスタイルが好きではない代わりに、自分が行ってきた観察をどうにか表現したい。それこそがこのアルバムの本当の目的でもある。

YUFUから見た台湾の音楽シーン

今年は誰にとってもジェットコースターのような年だったろう。例の新型コロナウイルスによるロックダウンは、世界中のミュージシャンにとって極めて残酷で厳しいものだった。台湾ではウイルスによる被害は少なく、音楽も力強く息をしていて、台湾に住んでいることは幸運だった。僕はとてもツイていたと言える。アルバムのリリースライヴも開催することができた。しかし、海外ツアーを考えると、まだ障害は残っている。ツアーのプランは今年の初めにすでに出来上がっていたが、残念なことに世界を回るツアーは行えず、肌と肌で海外のファンと音楽を分かち合うことはできなかった。

僕にとって、台湾でのR&Bはポップミュージックだ。台湾人のR&Bは現代のメインストリームな音楽に非常に影響されていると言える。しかし僕にとって、それはいわばオリジナリティ、もしくはその「代名詞」を欠いているとも感じられる。例えばカーティス・メイフィールドの絹のような柔らかいファルセットや彼のメッセージ、マーヴィン・ゲイの優しく、それでいて時々歪んだ歌声、バリー・ホワイトのギターのディレイとオーケストラ。これらはそれぞれR&Bのミュージシャンたちが持つ「代名詞的サウンド」だ。いつの日か台湾のR&Bでもこうしたサウンドを聴けることを強く望んでいる。今日のR&Bの定義は広がっていて、僕が思うに特に現代のR&Bでは曖昧なものになっている。

台湾における音楽シーンは現在、チルなサウンドに傾き出していて、ロックは主流とは言えない。YUFU & The Velvet Impressionismのように未だロックバンドは存在しているが、概して音楽のエネルギーはよりリラックスして、ソフトなものになった。シューゲイズやインディーロック、ソフトロックのようなスタイルが好まれている。必ずしもそれが悪いことだとは思わないが、人々がストレスを抱えていて、それを和らげるような音楽を聴きたがっているということが明らかになったと思う。

僕は、台湾における音楽シーンがもっと多様性に富むものになることを切に願っている。以前日本で演奏した時、あらゆるジャンルの音楽が親しまれ、シーンを生み、それをサポートするファンベースを持っていることに非常に感動したことを伝えておきたい。この経験があったからこそ、いつか僕も台湾で一つの音楽シーンを作りたいという気持ちに駆り立てられた。友人のバンド「Mong Tong」は今でもサイケを演奏し、最近、彼らは海外のマーケットから好意的な評価を受けた。他にも「漂流出口(Outlet Drift)」や「落差草原WWWW(Prairie WWWW)」のように素晴らしいバンドはまだある。

 

次の一歩として考えているのは、さらにたくさんの音楽を作曲していくことだ。将来的には、僕らの音楽性も少し変わる可能性もある。今は、すぐにでも新たな音楽を作ろうと計画しているところだ。何よりも今、世界に平和が訪れること、そして例のウイルスがすぐにでも終息することを深く願っている。強くあること、影響を受け続けること、日々の小さな出来事を大切にすることを大事にしていきたいと思っている。

翻訳:エビナコウヘイ


■作品情報

YUFU & The Velvet Impressionism

『Is It Vain To Be Awake?』

発売日:2020年9月5日(土)セルフリリース
=収録曲=
1. Is It Vain?
2. We’ll Be Watching You Burn 3. If The Night Wills it
3. Dosage Makes The Poison 5. Awake
4. Hiss
5. Wizards
6. Sail With Me
7. Your Eyes Are My Drug
8. Spectacular II
9. Don’t Say Goodnight

Bandcamp : https://yufuvelvet.bandcamp.com/releases
Facebook : https://www.facebook.com/yufuchenmusic/
Instagram : https://www.instagram.com/yufu_groovin/
Twitter : https://www.twitter.com/Yufuchen3/ 

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