産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、6回目は『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』(日本評論社)です。
6人の著名な精神科医(山登敬之・斎藤環・松本俊彦・井上祐紀・井原裕・春日武彦)による、「精神科医が自分のこだわりのある病気をひとつ選び、同時にそれを語る際のテーマとなる一曲を選んで思いの丈をぶつけてみよう」という企画の本です。内容的にも、普段馴染みの薄い精神科の病気を一般向けにも伝わるように意識して書かれています。
さて、どんな曲が取り上げられているかというと
五輪真弓『少女』
中森明菜『DESIRE―情熱―』
忌野清志郎『トランジスタ・ラジオ』
石野真子『失恋記念日』
神聖かまってちゃん『友達なんていらない死ね』
岡村靖幸『ステップUP↑』
クレイジー・ケン・バンド『ま、いいや』
SUPER BUTTER DOG『サヨナラCOLOR』
堀江美都子『タンゴむりすんな!』(TVドラマ『俺はあばれはっちゃく』オープニングテーマ)
TM NETWORK『Get Wild』
祐生カオル『Something Jobin〜光る道』
あんべ光俊『遠野物語』
杉田二郎『ANAK(息子)』
はしだのりひことシューベルツ『風』
ゆらゆら帝国『昆虫ロック』
吉田美奈子『ケッペキにいさん』
あざらし『逃ガサナイ』
というように、とても幅広く紹介されています。個人的には、情念・怨念・猟奇とか、そうしたものが炸裂する北海道のインディ・パンク・バンド「あざらし」がまさか紹介されるとは、という驚きがありました。
どんなふうに取り上げられているかは執筆者によっても違うのですが、斎藤環先生の章から忌野清志郎に関するところを一部取り出してみます。
あえて病跡学的に考えるなら、清志郎は典型的な「中心気質」者だった。
(略)
中心気質とは何か。彼らの生を特徴づけるのは、近景における喜劇性と、遠景における悲劇性だ。生の歓びに満ちた祝祭空間に、ふと死の衝動がよぎる。時に彼らは「限りなく優しい人でなし」にみえる。しかし彼らのかいま見せる含羞と愛嬌は、日本人に最も愛されるタイプのそれだ。
では解説しよう。まずは「気質」からだ。
このように楽曲だけでなくアーティストの分析なども行いながら、それを端緒にして精神医学に関する様々な用語や概念を説明していきます。取り上げられている精神医学関連の病名や症例も、発達障害、摂食障害、性同一性障害、解離性障害、PTSD、依存症、うつ病、統合失調症、などこれもまた多岐にわたりますが、それぞれの精神科医の方々がとてもわかりやすく説明されています。同時にその楽曲への愛情、思い入れが伝わってきて、それが文化論、社会論としても面白く読めます。
欲を言えば、女性の精神科医・臨床心理士さんの楽曲のチョイスもあったら読んでみたかったな、ということはありますが、精神医学・心理学への入り口の一つとしておすすめの一冊です。
ちなみに拙著『なぜアーティストは壊れやすいのか?』もいろんなアーティストたちのエピソードと絡めて、また違ったアプローチでわかりやすく書いていますので、ご一読いただけますと幸いです。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
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