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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.7 『世界一やさしい精神科の本』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、7回目は『世界一やさしい精神科の本』(斎藤環・山登敬之著 河出書房)です。これは他にもさまざまなテーマを取り上げている「14歳の世渡り術」という「中学生以上、大人まで」を対象にしているシリーズのひとつで、タイトル通りとてもわかりやすく書かれています。作者は前回紹介した『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』にも書かれていたお二人です。

取り上げられているテーマは「発達障害」「ひきこもり」「対人恐怖・社会不安障害」「摂食障害」「解離」「PTSD」「人格障害」「うつ病」「統合失調症」などになります。これまでにこの連載で取り上げてきた本に共通しますが、メンタルヘルスと、社会や文化のあり方は密接な関係にあり、この本でも読みどころは、精神医学に関する基礎知識だけでなく、社会論・文化論の部分にもあります。前書きの斎藤環さんの言葉を引用します。

「心の病」は、社会や時代の影響をもろに受けやすい。病気をみれば社会がわかる、とまではいわないけれど、ひきこもり問題だけやっていても、そこからニートとかワーキングプアみたいな、若者が置かれている厳しい状況がいろいろとみえてきたりもする。医者としては目の前の患者さんの治療が大事だけど、そんなわけで僕たちはどうしても、「社会」のありように無関心ではいられないんだ。

例えば対人恐怖・社会不安障害に関する章ではいわゆる「スクール・カースト」について取り上げているのですが、そこではコミュニケーション・スキルばかりが対人評価軸になってしまっていて、他の能力や個性が全く評価されない学校社会の生きづらさが指摘されています。摂食障害の章では、その背景にある男性優位社会による歪みの存在に対して問題提起されています。

また、同じく前書きで「なんというか『人の多様性』みたいなものの価値が、だんだん大事にされなくなってきてるように思えるんだよね」と書かれているのですが、本の中でもたびたび多様性に関連する問題の考察がなされています。この本が出版されたのが2011年で、そこから10年経過した今、以前よりも「多様性(ダイバーシティ)」という言葉が使われるようになった印象がありますが、多様性が本当の意味で大事にされているのかということになると、現在においても疑問を感じることが多々ありますので、今でも「多様性」に関しても学びの多い本だと思います。

「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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