4人組ロックバンド・東京初期衝動のヴォーカル&ギターしーなちゃんが、ジャンル問わず、話をしてみたい相手と対談を行なっていく連載『ちゃっかりお見合い対談』。2018年にバンドを結成し、自主レーベル「チェリーヴァージン・レコード」を立ち上げ、DIYな活動を続けているしーなちゃんが、音楽に限らず、映画、お笑い、漫画などジャンルを横断し、それぞれの表現について、ざっくばらんに語り合っていく。
第3回のゲストは、漫画家のつの丸。週刊少年ジャンプで連載していた『モンモンモン』、『みどりのマキバオー』は、動物を主人公としながらもギャグと努力と友情などが入り混じった独自の作品で、アニメ化もされ、大ヒット。2018年には少年ジャンプ+の企画『ギャグマンガ家 人間ドックデスレース』で監修した医師から寿命が10年と判定されたが、その様子も漫画として描き下ろすなど、現在も精力的に活動している。パンクなど音楽好きとしても知られるつの丸との対談を実施。愛犬のピートくんとの撮り下ろし写真とともにお送りする。
取材&文:西澤裕郎
写真:大童鉄平
若い子がファンだって話してきて「なんか、怖いな」って(笑)
──今回しーなちゃんが、つの丸先生にオファーした理由から教えてください。
しーなちゃん:つの丸先生はレジェンドなのと、海とか、キャンプとか、格闘技とか、好きなものが私と一緒で興味が湧いたんです。
つの丸:え、格闘技好きなの?
しーなちゃん:私、やっているんですよ。家の近くで。
──ちなみに、2人はいちおう面識があるんですよね?
つの丸:そう。初めてライヴハウスで出会ったあとに認識したんですよ。
しーなちゃん:オナニーマシーンのライヴですよね? サンボマスター、オナニーマシーン、ガガガSP、氣志團、銀杏BOYZが出ていたときに物販につの丸先生がいるのをみつけて。
つの丸:物販にいたら、若い子が話しかけてきて(笑)。
──ギャルが話しかけてきたと(笑)。しーなちゃんも、よくつの丸先生に気づきましたね。
しーなちゃん:こんなモヒカンだから、どこに行っても気づきますよ。物販の列に並んで普通に課金しました。
つの丸:たしかスマホの写真を見せてきて。何の写真だったかな。
しーなちゃん:マグカップです! マキバオーの。
つの丸:あれ、どこで手に入れたの? イベントでしか手に入らないやつでしょ?
しーなちゃん:あれは、競馬キチガイのお兄ちゃんが持っていたやつです。つの丸先生を知ったのもお兄ちゃんの影響で。10歳以上離れているんですけど、漫画棚が共有だったから、こち亀とかワンピースとか王道漫画がいっぱいあって。マキバオーに関しては、変なキャラクターがいっぱいいるなと思っていたんですけど(笑)、最初アニメ版を観て。そしたら泣いちゃって、それで漫画も読みました。
つの丸:だいたい30代、40代ぐらいの男から声をかけられるから、若い子が話しかけてきて、ファンだって言われても「なんか、怖いな」って(笑)。
しーなちゃん:つの丸さんって、見た目が全然漫画家さんに見えなくてびっくりしますよね。
つの丸:それは言われるけど、偏見だったりするんじゃないですかね(笑)? オタクで汚い親父みたいな。
しーなちゃん:汚いイメージはないかも。健康的ですよね。つの丸さん。
つの丸:あー、動く方だとは思いますね。でも、連載中は我慢してます。
しーなちゃん:やっぱりみんな我慢してるんだ。
つの丸:連載中にフルマラソンに参加したことがあって。だいたい朝9時くらいから夜の1、2時まで仕事をしているんですけど、マラソンの練習をする時間がないから、夜中の3時とかから1時間くらい走って。明るくなってきたら慌てて寝て、また9時から仕事をする。本当は外に出てスポーツをやるの好きなんですけど、なかなか時間がなかったんですよね。
しーなちゃん:一緒です。自分、ずっとジムにいたいです。
つの丸:それは以前から?
しーなちゃん: 2年前ぐらいからハマりにハマっていて。でも1番やりたいのはサーフィン。ボディボードはできるんですけど、まだサーフィンに手を出してないんですよ。
つの丸:やりましょう! ピート(※つの丸の愛犬)も早く海デビューさせたいんですよ。
しーなちゃん:まだなんですね。
つの丸:1回行ったことがあるんだけど、まだクルージングしかしてないの。サップに乗せて。先代の犬からずっとクルージングはしてるんですけどね。
漫画を描いている時って漫画の世界にいる、この世にはいない感じ
しーなちゃん:私、マキバオーに出てくるキャラクターで、誰が1番好きだと思います?
つの丸:えー知らないよ(笑)。
しーなちゃん:猛烈に好きなキャラがいるんですよ。
つの丸:当てなきゃダメ? めんどくさいな(笑)。
しーなちゃん:ベアナックルです!
つの丸:あーなるほどねー。
しーなちゃん:人気度高いですか?
つの丸:いや、高くないよ、たぶん。俺は好きで描いてるけど。
しーなちゃん:過呼吸になるほど笑いましたよ。ベアナックルの猫魂の回。つの丸先生、頭がおかしくなっちゃったのかなって(笑)。
つの丸:ストーリーが破綻しだした頃のね。
しーなちゃん:ほんっとうにめちゃくちゃおもしろかった。
──しーなちゃんは、お兄さんの影響もあって競馬も賭けたことあるんですよね。
つの丸:そうなの? 俺全然やらないけど。
しーなちゃん:1回も当てたことないです。
つの丸:1回も?
しーなちゃん:うん、100円とかしか賭けたことない。
つの丸:額はどうでもいいんだよ。参加するかしないか。100円でもかけると違うから。
しーなちゃん:参加はするんですよ、一応。有馬記念とか、
つの丸:100円でもかけると、おもしろくなるよね。
しーなちゃん:100円とかだから外れてもショックにならないからできちゃうんです。
つの丸:それで当てたらハマっちゃうね。だいたいビギナーズラックでハマっちゃう人が多いから。
しーなちゃん:つの丸先生は競馬をやらないのに、マキバオーを描いていたんですか?
つの丸:やっていたよ。今もたまにG1とかで賭けるけど、毎週新聞を買ってというハマり方はしてない。連載中は調子に乗ってすごい額をかけたりしてたけど、財布パンパンで行ったのに何もなくなって帰ったりしてたから。ちょっと大人しくしてた方がいいなって。
しーなちゃん:あそこまで緻密に描いていたら、レースも予想できそうじゃないですか?
つの丸:実際の競馬って、そんなに見れてないんだよね。連載中は1日20時間くらい働いていてるから、漫画を描いている時って漫画の世界にいるのね。この世にはいない感じ。家に帰って、ご飯を食べてもあまり会話もしないし、漫画の世界にいる状態をキープしているの。そこから出ちゃうと、そこにまた入るのが面倒になってくるから。描いているうちはずっとそこにいるから、あまり世の中のことを見てなくて。それが嫌で今辞めているのよ。犬と一緒に遊ぶこともできなくなっちゃって。たぶんストーリー漫画を長いことやっている人って、そういう人が多いと思うね。もうちょっと現実を生きたいなっていうか。
しーなちゃん:じゃあ、今はバリバリ現実ですね。
つの丸:そう。だから、幸せ。
──つの丸先生の描く漫画において、主人公が動物であることにこだわりはあるんですか?
つの丸:ただ単に動物の方が好きというのと、人間をあまり描けないから(笑)。動物だったら、どう描いてもいいじゃないですか? 描けているかはわからないけど。
しーなちゃん:めちゃめちゃバリバリ描けてますよ。走ってる時の迫力やばいもん。
つの丸:最初は描けてなかったけどね。漫画は1年ぐらい描いてるとやっぱり上手くなるし。
しーなちゃん:漫画のこと訊いてもいいですか?
つの丸:どうぞ。
しーなちゃん:チュウ兵衛は、なんで死んじゃったんですか?
つの丸:なんで……(笑)。よく訊かれるんだけど。
しーなちゃん:やっぱり成長のため?
つの丸:いや、こういうのも嫌がれるんだけど、『あしたのジョー』が大好きで。好きすぎるんです。で、『あしたのジョー』の8巻で力石が死ぬんですよ。それで8巻くらいになると誰か死んでおかなければならないと思ってしまって(笑)。
しーなちゃん:だからチュウ兵衛が死んだのか(笑)。
つの丸:そっちに向かっていっちゃうんだよね。
しーなちゃん:カスケードに布をかけるシーンもその影響?
つの丸:そうそう。競馬場にあんな部屋あるわけないから(笑)。
しーなちゃん:誰かを殺さなければいけないと思ったから死んでしまったんですね。
つの丸:その前に描いてた『モンモンモン』も全8巻なんだけど、8巻の最後にモンモンモンが死んじゃう。8巻になると、ここは殺さないとって(笑)。
しーなちゃん:8巻になると死ぬ。
つの丸:呪縛がねあったの。でもあそこで完全に力石的なことをやったから、その呪縛から解き放たれて、その後はやってない。時代もあるのかな。自分の時代のテレビドラマとかでも、ショーケンとかのドラマを観ていると結構人が死ぬのよ。
しーなちゃん:大事な人が。
つの丸:主人公だったりね。映画だったらニューシネマとか、そういう流れなのかな。そういうのを観て育っているから、時々きついシーンを入れたくなっちゃう。
しーなちゃん:でも、それがあるからマキバオー、好きなんですよね。めちゃくちゃおもしろかった場面でいうと、雑巾で雨の芝生拭いてるシーンがめっちゃくちゃ好きなんですよ。
つの丸:感動するシーンね。
しーなちゃん:あれ、バカなんじゃないかって(笑)。
つの丸:笑うところなの?!
しーなちゃん:私、笑っちゃった、逆に(笑)。
つの丸:違うよ、あそこ泣くところなんだよ(笑)!
しーなちゃん:泣くところなんですか?! 私、笑っちゃったんですけど……。
つの丸:あそこはみんな号泣するところよ。
しーなちゃん:川で特訓して流れていくところもめちゃくちゃ笑ってました。
つの丸:あれはギャグだよね。
バンドをやっていると、マキバオーみたいな世界だなって思うんです
──しーなちゃんは、最初から高い能力値があるというより、努力をして這い上がっていくところが、いいところだって話していましたよね。
つの丸:でも、そこは他の漫画と変わらない部分もあると思いますよ。わりと最初から才能の片鱗が見えたりもするし。
しーなちゃん:キラッと輝く何かがありますよね。
つの丸:そういう意味で、すごく普通の成長ストーリーだと思っていて。そんなに変わった構成はしてないと思う。ただ、登場人物がいっぱいいて、主人公だけではなく、目線によって、こっちはこっちで格好いいという描き方はしています。
しーなちゃん:それぞれの格好よさがありますよね。
つの丸:見方を変えると、誰もが主人公になるというスタイルで描いているんです。それが俺のドラマのかっこいいところで。自分で言うのもなんですけど(笑)。主人公だけ追っかけなくてもいいんですよね。全キャラをメインで見てもらってもいいし。
しーなちゃん:私はベアナックルが好きです(笑)。
つの丸:ベアナックルのかっこいいところはないですけどね(笑)。
しーなちゃん:え! でも、よくないですか? 荒くれ者で、もともと才能があるんだけど、シンガポールから泳いできちゃったりする化け物感。現実にもそういうやつっていますよね。
つの丸:いないよ(笑)。
しーなちゃん:バンドをやっていると、マキバオーみたいな世界だなって思うんです。ベアナックルみたいに毎日酒を飲んで遊んでいても才能を持ってるやつは持っていて、突然いい作品を出してきたりする。カスケードみたいに、もともとずっと音楽をやっていてストレートで来て、みんなから好かれるような音楽をやってYouTube再生も上がっていてみたいな人もいる。うちらはどちらかと言うと、たれ蔵みたいな根性だけ前に走っちゃってる感じだから、すっごい感情移入して読めるんですよね。気持ちだけ前に前にみたいな。
つの丸:初期衝動、かっこよくてびっくりしたもん、あまり新しい音楽を聴かなくなっていたんですよ。もう歳だから、そういうアンテナが弱くなっていて。だから、うれしかったです。危険な香りがして。Twitterもやばいじゃないですか? 当時はアカウントが消された直後で、やばいなこの子って思いながらワクワクして。音楽だけじゃなく、そのへんの行動も楽しみに見ていました。最近、そういう意味ではおとなしいのかな。
しーなちゃん:めっちゃおとなしくなりましたね。「男できた?」とか言われるもん。
つの丸:最近は体を鍛えたり、自分を綺麗にすることに意識がいっているから、あのめちゃくちゃだったしーなちゃんがいなくなっちゃったなって感じはします。
しーなちゃん:本当にそうなんですよ(笑)。最近は健康に目覚めちゃって、めちゃくちゃしなくなったんですよ。いいんだか、悪いんだか。
つの丸:時々キレてる動画が上がったりしていたし、ブチギレているのを聞いてワクワクしていたんですけどね。あれがそろそろ必要なんじゃないかな。
しーなちゃん:体が強くなるとイライラしなくなるんですよね。よく、筋トレやると人がつまらなくなるって言うじゃないですか? 人に何かを言われたりやられても、こいついつでもぶっ倒せるだろうなと思うと、無視でいいやって思っちゃうんですよね。
つの丸:鍛えるの辞めた方がいいな。あれが魅力だと思うんだけどな、しーなちゃんの。
──絶賛制作中のアルバムも、そういう荒々しさに変化はある?
しーなちゃん:危険な香りはしないですね(笑)。どちらかと言うとラブリー路線ですね。
つの丸:あー、興味ないなあ(笑)。だって俺、「さまらぶ」も興味なかったもん。あれを50歳のおじさんが聴いてたらおかしいよね。
しーなちゃん:「春」とかはよかったですよ。
つの丸:「春」はいいね。
──つの丸先生、すごくストレートに言ってくださって気持ちいいですね(笑)。
しーなちゃん:めっちゃ貴重です。「さまらぶ」に関してはすごい言われます。あれよくないって。そのたびに、すみません、1回やってみたかったんだよねって言っている気がする。
つの丸:あくまで俺がそういうのが好きってだけで、進化する上でいろいろ変わっていくだろうから。ずっと同じことやっていてもしょうがないからね。
しーなちゃん:今回の対談にあたって、マキバオーを読み直した時、「うわ、めっちゃ自分にぴったりの言葉あったじゃん!」と思って。たれ蔵にツァデビルが「速く走りたいのなら お前の生まれつきの走りを大事にしな」ってシーン。あ、これ私に言ってるんだなと思って。
つの丸:うーん。
しーなちゃん:え、違いました?
つの丸:しーなちゃんって結構ブレるのよ。それがいいの。ガーッと強い信念をTwitterで言っても、ころっと変わってたりするじゃない? その時そう思ったことが大事であって、全然いいのよ。あの時あんなこと言っちゃったから前言撤回してこっち行くのはかっこ悪いなってならずに、その瞬間はこう! っていうのを追っかけてればいい。そこが大事だと思う。
しーなちゃん:最近、いろんなことにずっと気を遣っていたんですよ。遣わなくていいってことですか?
つの丸:そう。今思ったその瞬間、こうしたい! ってことだけを追い求めるのよ。あのブレてる感じがリアルでいいんだよね。過去に自分が言ったことに縛られていると、本当に小さくまとまっちゃうから。そんなのは知らねえ!今はこうだ!っていうのがかっこいい。
しーなちゃん:やばい! 今日はためになる会話だ!
つの丸:だから音楽性がどんどん変わっていっても全然いいと思う。前の方がよかったとか言う人いると思うけど、その人がそういうのを好きなだけだから。俺だって最初はギャグ漫画を描いて、次にマキバオーみたいにストーリーものを描いて、その次はもっとストーリーを描いて。ファンの間でも未だにモンモンモンだけが好きな人もマキバオーが好きだって人もいる。それぞれにありがとうだけど、そこに耳を貸して前みたいなのを描かないとダメだと思っちゃったらしょうがないじゃん。今これを描きたい、これを作りたい、っていうのをやっていく。
しーなちゃん:Going my wayだ!
つの丸:そうそう。だから、前みたいに自由に暴れてほしいんだよな。どうなっちゃうんだろうなみたいな(笑)。
しーなちゃん:あれがみんなをワクワクさせてたのに、今はもうそうじゃないかも。
つの丸:そう、安定感入っちゃっているから。次何してくれるんだろうみたいなのが、あまりなくなっちゃったんだよね。
しーなちゃん:えー! ちょっと今日、ジム辞めてこよ。
『モンモンモン』はプロの漫画家に混じって素人が描いて暴れてるって認識でやっていた
つの丸:しーなちゃんが暴れてた時だって、別にメンバーと関係が悪くなったりしなかったんでしょ?
しーなちゃん:でも、1人辞めてます。
つの丸:でも他の子は別に「あー暴れてるわ」みたいな感じで見ているわけでしょ?
しーなちゃん:1回、「さすがに迷惑かけすぎじゃね?」って泣かれたことがあって。私が行方不明になって、その時に周りがすごい心配しちゃって。
つの丸:そうなんだ。ドラムの子もやばそうな気がするけど。
しーなちゃん:それを言われたら、全員やばいんですけど(笑)。見た感じ、分からなくないですか? 他のメンバーもやばいっていうのは。
つの丸:ギターの子は分かりにくい。でも、その状況を平気で放置してる感じとかを見ると、やばいんだろうなというのもあるし。それでもずっと仲良くできてるんだからいいよね。
しーなちゃん:たしかに1番仲良いし。
つの丸:深夜テレビを観てたら初期衝動が告知しているコーナーがちらっと出てきて。何も喋らないで呼び込みくんを流して、みんなで適当にしていてさ。
しーなちゃん:股間に手突っ込んでジャンプしてたやつですよね。
つの丸:それだけ終わっちゃって、わーいいねー! って思って。この無駄にした数十秒いいねって(笑)。あんなの出てきたらたまらないじゃん。
しーなちゃん:つの丸さんみたいに「いいね!」って言ってくれる人もいれば、「さむい!」って言う人もいて。
つの丸:俺も全然「さむい」と思う派だけど(笑)。
──あははは。作品づくりという意味で、つの丸先生は読者アンケートの結果にどれだけ影響を受けていたんでしょう?
つの丸:一切見たことない。
しーなちゃん:かっこいい! まじで!
つの丸:そこを気にしていたら、俺みたいな漫画は描いていないと思う。編集担当がそれを見て「もっとこうした方がいいんじゃない?」って言ってくるけど、そうかなと思えば、ちょっとそっちに寄るかもしれないくらいで。最初からジャンプで看板を張るようなところというより、サブで暴れる作家みたいなところからデビューしてるから。そういう意味では好き勝手やってやろうと思っていたんだよね。漫☆画太郎が出てきて、俺が出てきてみたいな形で邪道だったわけだし(笑)。
──『モンモンモン』を最初に読んだときのインパクトはめちゃくちゃ強かったです。
つの丸:そうそう、インパクトだよね。『モンモンモン』の時は大学生だったから、自分が漫画家っていう意識もなかったし。プロの漫画家に混じって素人が描いて暴れてるって認識でやっていたから変なはがきが来たらうれしいというか。むちゃくちゃしてやってるぜっていうのがあって。マキバオーの途中ぐらいでヒットし出して意識的に漫画家の立場になっちゃった。残念ながらそういう意識が薄れていっちゃったというか、漫画家側に入っていったというか。
──そういう意味だと、しーなちゃんもだんだんミュージシャンになってきたというか。
しーなちゃん:ダメですよね。
つの丸:いいんだよ。そうしないと成長しないから。ずっと同じことを安定してやっていてもいいんだろうけど、単純に人の声を聞いて、こっちの方が売れるんじゃない? って引っ張られちゃうと、いいことはないと思う。いろいろなものを見て、「私もこんなのやりたい」、「あんなのやってみたい」って自分から行くんだったら絶対に後々いい方にいくはず。
しーなちゃん:私、あっちもなりたい、こっちもなりたいってものが多すぎて。だから、「さまらぶ」みたいなのができちゃうし。
つの丸:まだ過程だから、それが完全体として絶対的な何かになるんだろうな。なんか俺、偉そうなこと言ってんな(笑)。ふと我に返った。引くわー、俺、何様だよー。
しーなちゃん:いや、本当にうれしいです!
楽しいことをしていると罪悪感が生まれるんですよ
──つの丸先生は、作品づくりの上でギャグという要素をすごく大切にしていますよね。
つの丸:ギャグ作家としてデビューしているのもあるし、真面目に描いていたらだんだん恥ずかしくなってきちゃうんですよ。今みたいに急に我に返って、何真面目にずっと描いてるの? 泣かそうとしてるの? みたいに考えちゃう。そうなると急に感動的なシーンにふざけたシーンを差し込んだりしてしまうというか。
しーなちゃん:すごくわかります。私たちもライヴ中にMCがないんですよ。なんか言ったりしたら格好悪くなっちゃうかなと思って。ライヴ中はずっと格好よくいたいから。
つの丸:格好いいことを言えばいいじゃん。
しーなちゃん:え、無理、無理! よくミュージシャンの人とかMCで格好つけたこと言うじゃないですか。私、ああいうの無理なんですよ。気持ち悪いと思っちゃって。
つの丸:客観的に見ちゃうんだ。
しーなちゃん:うん、絶対に考えてきたっしょ?と思っちゃう。特に、前と同じMCをやってたら、1つの芸なんでしょ?みたいに思っちゃって。その場で出た言葉ってめちゃくちゃ格好いいけど、用意してきた言葉って分かるから。私は何も言うことないから、言わないで格好つけてる。
つの丸:「バニラ行きまーす」は格好いんじゃない?
しーなちゃん:あの曲ができた時期って、男ウケとか何も考えてなかったし。
──今は男ウケを考えちゃう?
しーなちゃん:いや、考えないですけど。
つの丸:男ウケと女ウケ、どっちを考えるの?
しーなちゃん:私は女ウケかも。けど、なんか恥ずかしくなってくる。
つの丸:異性を気にしてる感じがやだとか、男にモテようとしてるみたいなのがいやで、ストップがかかっちゃう?
しーなちゃん:そう。でも、自分のライヴ映像を観た時に格好いいじゃんってなるんですよ。それを引くとか無理っていう人は、私から無理だわって思うようにしていて。自分が格好いいと思ったものはやっていこうって感じです。だけどやっぱり、恥ずかしいって時もある。
つの丸:ライヴ中でも、恥ずかしいみたいになるの?
しーなちゃん:それはならないです。でも、レコーディングは恥ずかしい。フロアが盛り上がっていればいいけど、レコーディングってフロアもいないし、何ならこんな感じでスタッフもいるわけだから。歌い終わった後ブースを出て、みんなポカーンみたいになっていると恥ずかしくなっちゃう。
つの丸:曲を作って最初みんなに聴かせる時は?
しーなちゃん:それは恥ずかしいはないかな。
つの丸:全部1人で書いてるの?
しーなちゃん:いや、そんなことないです。構成とかはギターの希ちゃんがやったりするから、早く作らなきゃやばいと思いながらやってます。漫画家さんとかもそうですよね?
つの丸:まあ、ずっと締切に追われているよね。すぐ次が始まるから。よく仕事が1個段落して打ち上げする仕事ってあるじゃないですか? すげーうらやましい。
──週間連載だと、ずっと続いていくわけですもんね。
つの丸:終わった瞬間、次のことをやらなきゃいけなくて切れ目がない。月刊とかだったら打ち上げもできるかもしれないけど、週刊だとほんとしんどいですよ。
しーなちゃん:ずっと生活の中に漫画のこととか締切のことがありません?
つの丸:ずっとあります。
しーなちゃん:逆に楽しいことをしていると罪悪感が生まれるんですよ。曲を作れてないのに、今全然違うことやってるみたいな。
つの丸:そうそう。サボって別のことをやっても、そっちにも大して身が入ってないから無駄な時間なんだよね。
しーなちゃん:罪悪感だけが生まれて、全てがよくならない。
つの丸:今は仕事を忘れて遊んでって割り切れればスッていけるんだろうけど。遊びながらも「うわーこれやらなきゃいけないな」っていうのがあるから、大して楽しくないし、焦る。
しーなちゃん:遊んでいる暇があったら、少しでもいいものを作れよって思われるだろうなって考えちゃったりもするし。
つの丸:それって、周りからのプレッシャーがすごいってことだよね?
しーなちゃん:いや、全然すごくないんですけど、周りに対して自分にもそう思ってしまうから。そんな中、筋トレだけは肯定してくれるんですよね。腹筋を使って声を出すからとか、ライヴのスタミナをつけるためとか言い訳もできるし(笑)。
仕事だけしているのも嫌だから、寝る時間を削るしかないと思っていた
──つの丸先生が2018年に描かれた「人間ドッグデスレース」は、うすた京介先生他、漫画家の先生たちで人間ドックを受けてランキングをつけていくという異色の作品でしたが、これはどのようにして生まれたんですか。
つの丸:あれは漫画の中に描いた通り、本当に体調が悪かったし、人間ドッグというか検査すらしたがことがなくて。意外と周りの働いている人に聞くと、だらしない人でも検査していることを知ったのがきっかけだったんです。
しーなちゃん:私は看護師の仕事もしているんですけど、基本的に1年に1回健康診断の時期があるんですよ。みんな絶対に来るから、みんな受けてるのかなと思っていました。
つの丸:ちょっと行ってみようかなと思っても手続きとかめんどくさいから、全部編集にやってもらって、それを全部漫画にしたんです。でも、それ以来行ってない(笑)。本当は第二弾で、その後どうなったかを描くために病院の受け付けもして、この日行きますって言っていたら緊急事態宣言になって企画がなしになっちゃったんです。結局、漫画で啓発しながら、あれから行ってない(笑)。
しーなちゃん:余命が10年以内とかって言われたんですよね。
つの丸:あれはまあ、お医者さんがわかりやすく示してくれたというか。健康だとは思ってないんですけど、本当に寝ないとダメですよ。仕事をやっている間の記憶がなくて。何か食べるじゃないですか? 「これうまいね! なんとかの味だね」って言うけど、それ前も同じこと言っていたよって言われて、それを毎回繰り返していたんです。映画とか、テレビとかも同じこと言っていた。
しーなちゃん:映画もですか? それは重症ですね。
つの丸:今はそれが減ってきている。回路が復活してきた。寝ないのは絶対ダメです。
──忙しい時は寝る時間がなかったんですね。
つの丸:仕事だけしているのも嫌だから、寝る時間を削るしかないと思っていたんです。夜中の2時3時から映画を1本観て寝るってことをしていて。で、2時間くらいしか寝ない日々が続いたんです。
しーなちゃん:寝るのって大事なんだな。
つの丸:でも、ちゃんと検査しているなら平気だし、健康そうになっているんだもんね。
しーなちゃん:みんなに変わったって言われます。身内の友だちとかにも、人が変わったねって。やさしくなっちゃったじゃんみたいな。穏やかです。
つの丸:変わったことで何かいいものができればいいけど、俺は前の方が好きだな(笑)。とはいえ、暴れているしーなちゃんにはあまり近づきたくはないけど。
しーなちゃん:ライヴ中は相変わらず暴れてますよ。ちゃんと骨折もしてますし。
──これは僕からの質問なんですけど、つの丸先生の漫画に登場するモブキャラの人間たちが裸でちんこが出てるのは、どういう理由があるんですか?
つの丸:スポーツ漫画とかの観客って、だいたいスタッフが描いていて、違う絵が混じっているようなことが多くて気になったことがあって。そこだけ空気が違うというか。自分は絵が上手くはないし、なんだったらアシスタントの方が上手かったりするんですけど、世界観が違いすぎると気持ち悪いなと思って。そこもちゃんと自分で描かなきゃいけないなって思うけど、時間をかけてる場合でもないとなった時、髪型とか服装考えるのもめんどくさいから、全部なしにしようって。そしたらおもしろいし、楽だし最高じゃんって。
しーなちゃん:その考えが最高ですね(笑)。
つの丸:みんなもウケているし、あれを描いておけば喜ばれるみたいなこともあったし。サインをさらっと描いてくれって言われた時も喜ばれるし、このイラスト助かるなって。
──そういう理由があったんですね(笑)。
つの丸:他の作家さんだと成り立たないんだろうけど、俺しかできない。発明ですね。
しーなちゃん:そういうの大事! 私もオリジナルを作ろ!
つの丸:オリジナリティみたいなものをあまり考えなくても自然と出てくると思うよ。あと、周りから何か言われても、あの人はそう言ってるわぐらいの感じで自分の作りたいものを作るのがいい。
しーなちゃん:わかりました。Going my way。今後、東京初期衝動のライヴ、観にきてください。
つの丸:こんなおじさんが行ってる若いバンド、なんかダサいじゃん。
しーなちゃん:ダサくない!
つの丸:観たいけど、現場はやっぱりちゃんと盛り上がれる人たちが行くべきだと思うよ。だから、あまりおじさんとか招待しない方がいいよ。ダサくなるから(笑)。
しーなちゃん:つの丸さんには、ぜひ生を観てほしい! 待ってます!
PROFILE
つの丸
東京初期衝動(とうきょうしょきしょうどう)
2018年4月しーなちゃん(ボーカル/ギター)を中心に銀杏BOYZ好きが集まってバンド結成。2019年4月、自主レーベル「チェリーヴァージン・レコード」を立ち上げ、1st EP『ヴァージン・スーサイズ』でCDデビュー。SNS、ライブパフォーマンスなどが話題となり、11月にリリースした1stアルバム『SWEET 17 MONSTERS』は、初回生産限定盤2000枚が発売4ヶ月で完売。2020年春、初の全国ツアー「東京初期衝動の全国逆ナンツアー」が新型コロナの影響で夏に延期となり、8月16日東京LIQUIDROOMを含むすべての公演がソールドアウトとなる。このツアーを持ってベースかほが脱退。一般公募にて新メンバーあさかが加入となり、第2期東京初期衝動がスタート。現在のメンバーは、しーなちゃん(ボーカル/ギター)、希(ギター/コーラス)、あさか(ベース/コーラス)、なお(ドラム/コーラス)となる。2021年1月バスリズム「今年コレがバズるぞ!BEST10」の10位にランクインする。5月12日には、1年ぶりとなる新作3rd E EP『Second Kill Virgin』のリリースが決定!! 今、もっともライブシーンで初期衝動を感じられるロックバンドである。