こんにちは! もう「よいお年を!」と言い合う人がちらほら出てきて年の瀬を感じているたまざわです。
実は先月結婚をしたのですが、Instagramで報告写真をあげたところ、小学校時代に転校して離れ離れになってしまった友だちと結婚指輪のデザイナーさんが一緒という奇跡が起こり、20年近く振りに会ってきました。
彼女がパリピになってしまっていたらどうしようと思って緊張していたのですが、物理的な距離は離れていても、通ってきたカルチャーが一緒すぎて、すぐにまた打ち解けることができました。その子が転校してからの小学校〜中学校はあまりよい思い出がないから、今あらためて再会できたことで魚の小骨のように喉につっかえていた過去の嫌な思い出が少し取り除かれたような気がします。
さて、生活に寄り添う本を紹介するこの連載。第35回目に紹介するのは、河田桟『くらやみに、馬といる』。
vol.35 河田桟『くらやみに、馬といる』
『くらやみに、馬といる』
著:河田桟
出版:カディブックス
内容:
「あとがき」より
与那国島でカディと暮らしはじめて十年が経とうとしています。日々の暮らしのなかで私がひときわ大切にしている日課が、夜明け前のくらやみの時間をカディと過ごすことです。馬といるくらやみに身を置いているうち、一滴一滴したたり落ちてきた言葉の断片を集めたのがこの本です。
本書は馬と一緒に与那国島で暮らしている文筆家・河田桟さんの馬との自分の関係や、自然と人間、心について1つ1つ丁寧に言葉を紡いだようなエッセイです。
装丁もとてもすてきなんです。文庫本より少し小さめサイズのカバーを外すと、横開きの本が出てきます。文章が中心ですが、ところどころにくらやみに馴染んでいる馬の輪郭の濃淡がはっきりしている写真が載せられていて、めくる度に不思議と心が落ち着きます。
与那国島で馬と暮らしていると言うと、すごく突飛なことみたいに東京で暮らしている人からしたら思うこともあるかもしれません。河田さんは約10年間、馬の群れ、主に馬のカディと暮らしてきました。一緒に暮らすというより、共生しているというイメージに近いのかも。本作は特に夜明け前の深夜帯、くらやみでカディたち馬と過ごしている時の自身の感情や記憶、馬たちの仕草など静かに繊細で柔らかな言葉で綴られていて、都会の喧騒に最近参っていた私には心地よい音楽のように体に吸収されていくような感覚になりました。
著者の河田さんは小さい頃からヒトではない生き物と友達になりたかったと語っています。私もそうですが、きっとこの連載を読んでくださっている方の中にも少なからず一度はそう思った人がたくさんいるのではないかなと思います。
若い頃、暗黒時代があった。自分でそう呼んでいた。自我が壊れ、これが世界だと信じていたすべては幻想にすぎないと知った。どこにも出口はないと感じていた。あの頃は、光の方へ行かなくては外に出られないと思っていたのかもしれない。光が希望。闇が絶望。そんなふうにとらえていたのかもしれない。考えてみたら、そもそも私は光に目を向けることを苦手としていたのだ。 ((2019年)河田桟『くらやみに、馬といる』104ページより引用)
上記は夜明け前のくらやみで馬たちと静かに過ごしているうちに河田さんが感じたことです。もしかしたら、光が希望と思われがちだけど、闇が絶望だなんて誰が決めたのだろうか。くらやみにもやすらぎがあるのではないか。今まさに私は自我が壊れている最中で自分でもコントロールできず、どうしたものかと思っていたので、この一冊に救われたと言うとありきたりで、薄っぺらい言葉になってしまうけど、体も心も少し温めてもらった気がしています。
人間ではない生き物と一緒に暮らしている方はもちろん、明るすぎる場所に疲れて静かで柔らかい暗い場所に行きたいなと思っている方にぜひおすすめしたい一冊です。
それでは今週はここまで。来週もよろしくおねがいします。
※「本と生活と。」は毎週水曜日更新予定です。
1993年生まれ。SWスタッフ。もともとクラリネットとドラムをやってました。音楽以外の好きなもの:本、映画、動物、ドラマ、Netflix、Hulu、ぬいぐるみ、文房具など諸々たくさん。モルモットのごまちゃんと生活してます。30歳になるまでに本屋さんの開業を目指しています。