【連載】ロビンの青い卵より vol.11「山の上のご褒美」

桜の花が散り、新緑が綺麗な5月。

山を登ることになった。

天気予報は、曇りのうち、晴れ。

前の日は朝から晩まで雨が降っていて少し心配していたけど、なんとか大丈夫そう。

朝5時に起き、普段はまだ寝ているこの時間にバナナを食べてる自分に少し笑えた（でも栄養大事）。

プライベートではなく雑誌の撮影なので「よし、まずはメイクを」と背筋を伸ばして鏡の前に座ってみたが、

「（ちょ）まてよ。山に登ってる最中にお腹が空いたらどうするんだ」

と、ついさっき眠い目をこすりながらバナナを食べたばかりだというのに急に不安になり、再びキッチンへ。

冷蔵庫を開けると、新宿で買った梅干し「しらら」が目に留まる。

「はちみつ梅干しじゃないけど、はちみつより甘いんです！　皮が薄くて美味しいですよ〜」

という売り場のお姉さんの言葉どおり、甘いけど甘過ぎない、酸っぱすぎるのは嫌だけど“梅干しを食べてる感”が欲しい私にぴったりの味だ。

「そうそう、これこれ」と眠気も覚めてきた、5時10分。昨日の夜セットしておいた熱々のごはんで梅おにぎりにして、カバンに忍ばせた。

メイクもほどほどに、今回雑誌の撮影で一緒に登ることになったスタッフさんたちと新宿駅の西口で待ち合わせをし、向かったのは、景信山（かげのぶやま）。

どうやら、高尾山のすぐ近くの山らしい。

日本に来て八王子で暮らした期間が長かった私は、遠足といえば高尾山だったし、新宿から京王線で「高尾山口行き」の電車に何度も揺られてきた。

お仕事終わり終電で帰ったとき、あまりにも疲れていて目が覚めたら高尾山口駅で、もう電車がないからそこからどうやって帰ろうか一人アタフタしたこと。大人になってからもお正月に母と二人で登って綺麗な夕日を見たこと。他にも思い出がたくさん。

そこに近づくだけでいろんな気持ちにさせてくれる高尾山口から少しだけ進んだところにあるのが、景信山。

どんな山なんだろう、と少しドキドキしながら靴紐をしっかり結び、車から降りると、ぱらっと雨が降ってきた。

「雨具……リュックに詰めた方がいいですかね？」

そう尋ねると、

「いや、この雨は……大丈夫でしょう！」

空を眺めながら小さく頷いたはじめましてのスタッフさんは、後で聞いたら登山回数100回以上という、笑顔が素敵な女性だった。

その予感は的中し、登り始めたら雨はぴたりと止み、鳥の鳴き声が響いた。

柔らかい光が木の隙間から差したり、陰ったり。

太陽に一喜一憂しながら、一歩一歩進む。

景信山の高さは727m。599mの高尾山と比べると少し高いが、比較的緩やかな道がずっと続きながらも景色がどんどん変わっていき「こんな穴場な山が地元の近くにあったのか」と、驚く。

そして驚いたのはもうひとつ。

山は人を優しくしてくれるのか、すれ違う人みんな「こんにちは〜」と、ほどよい距離感で、気持ちよく挨拶をしてくれる。

見知らぬ人同士が同じ山を登ったり下ったり、目的は違えど、なんだか素敵だなと思った。

その背中に背負っているリュックの中には何を忍ばせているのか、この山は何回目なのか、気になることはたくさんだったが、そんなことを聞くわけにもいかず（当たり前）。

私も同じように「こんにちは〜！」と、いつもよりほんの少しだけ高い声で、明るく、挨拶をした。

景色も楽しみながらも、転ばないようにしっかりと足元を見て登っていたからか、遠くで鳴いていたはずの鳥の声もいつのまにかすごく近くなっていて、どうやら私たちは気がついたら頂上まで登っていた。

この満足度。まだ午前中だというからびっくりする。

澄んだ空気と景色を楽しんだあとは山の上の茶屋へ。

いざというときに握った梅おにぎりは登る前の車で食べていたので、もうお腹ぺこぺこ。

景信茶屋・青木にて、名物と噂のなめこ汁と天ぷらを注文した。

「塩は自分でかけてね〜」とおじちゃんが教えてくれたので、揚げたての山菜の天ぷらに粗塩をふりかけ、お盆に乗った熱々のなめこ汁をこぼさないように、山の上の一番端の景色が一望できる特等席に運んだ。

びっくりするくらい大きいなめこの見た目と美味しさ、山菜のほどよい苦味や甘みを味わいながら、今度はプライベートでも来ることを胸に誓った。

日帰りでこんなご褒美が待っているなんて。

自然ってすごいなあ。やっぱりいいなあ。

ちなみにこの時の様子は5月23日発売のアウトドア雑誌、ランドネに載るらしい（宣伝すみません。笑）。