たまに、ひとりで行きたくなるお店がある。
そこは、お洒落だけどすごく居心地が良くて「フランスの田舎のおうちごはん」といった雰囲気(フランス行ったことないけど)。
美味しいスープを出してくれる、私の癒やしの場所なのだ。
駅から5分ほど歩き、扉を開けると、女性の店主さんが「いらっしゃい〜」と優しい飾らない笑顔で迎えてくれる。席に座ると、今日のメニューをすべて口頭で伝えてくれる、スペシャルサービスつき。
レストランやカフェで「本日のおすすめ」をお店の方に聞くことはあるが、すべてのメニューを説明してくれることはなかなかないので、贅沢だなぁと思う。
しかし、「あ、それ美味しそう」「わ、それ食べたい」「あら、それもいいですねぇ」といつも興奮してしまい、最後の方になると最初に言われたメニューはもう覚えていない(ごめんなさい)。
「すみません。もう一回いいですか?」と聞き返すときもあるが、どうも申し訳なくなる。だって、接客、調理、提供を全て一人でやってるのだ。昔、お姉ちゃんと甥っ子と来たときには、忙しいのにもかかわらず、子ども用のお皿、おもちゃ、いろいろと出してくれて、その神対応に私も姉もたぶん甥っ子も、胸キュン。
ものすごく広い店内ではないが、ここに流れる温かい空気と美味しい味を求めて、いつも店内はいっぱい。
なので注文するときは「いかんいかん。優柔不断を発揮してる場合じゃないぞ……」と、聞いた時に一番心が動いたものを直感で頼むと決めている。
この前は「バターナッツかぼちゃ。冷たいスープで!」と、無意識に口が動いていた(冷たいのと、あったかいの、どっちもできますよ〜。と言われたので)。
冷たいスープもあったかいスープも、どっちも好き。
でも、冷たいスープを家で作ろうとすると、一旦「冷やす作業」と「時間」が必要なので、せっかちの私は、お店にあるとうれしくなる。
待ってるあいだは、怪しくない程度に店内をキョロキョロ。目に入るインテリア、器や本、すべてがわいくて、まるで絵本の中みたい。
店主さんの好きが詰まった空間を眺めていると、かかってる音楽が優しいせいか、お店に漂うおいしい香りのせいか、私の中にある毒の部分が溶けて無くなり、今だったら誰に何を言われても怒らない、仏みたいな状態に(どんな状態?)。
そこに、
「はい、お待たせ〜」
と、目の前に運ばれてきたオレンジ色の、まぁ綺麗なこと。
そして、一口。
「……ん〜!!」
かぼちゃの甘さと、サワークリームの酸味が絶妙に混ざり合い、そのあまりの美味しさに、ひとり深くうなずく(怪しい)。
夏のおわり。少しずつ涼しくなってきたが、日中はまだジリジリとまだ蒸し暑い中たくさん歩いたので、スープの冷たさが身体に染みていくと同時に、バターナッツかぼちゃの味が、秋が近づいてることを教えてくれた(食後はちゃっかりデザートもいただきました)。
食事をしているとたまに「自分は今、本当に心の底からこれが食べたいと思っているのか?」と疑問に思うこともあるが、「うんうん。これこれ」と、自分が食べたいものを食べることができたとき、本当に幸せな気持ちになるのは私だけだろうか。
「今度来るときは、もう少し寒くなってるかな。次はあたたかいスープも飲みたいなぁ」
季節の変わり目、そんなことを思いながら、心もお腹も満たされて帰宅した、ある日のお話でした。
そういえば、人生で唯一したことのあるバイトも、大好きなスープ屋さんだったから、昔から無意識に身体が求めているのかもしれない。
お家で作ってもお店で食べても、一瞬でなくなっちゃうスープ。
だけど心のどこかにその美味しさとあたたかさが残って、明日からもまた頑張れるのであった。
岡田ロビン翔子(おかだ・ろびん・しょうこ)
1993年生まれ。2006年から2018年8月2日の解散まで、チャオ ベッラ チンクエッティ(THEポッシボーから改名)のリーダーとして活動。 頭の回転の良さからくるトーク力には定評があった。解散後はラジオDJを中心に、MC、モデル、自身のアコースティックライブ「ロン喫茶」など、マルチに活動中。 様々なジャンルに興味を持ち、多方面にアンテナを張りめぐらせ、スキルアップのために努力を欠かさない向上心の持ち主。
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