もうすぐ30歳になる。
果たして私は、昔思い描いた大人になれているのだろうか。
知らないことが多すぎる。大好きな食に関してもそうだ。
おじいちゃんに厳しく言われたおかげか、好き嫌いなくいろんなものを食べてきたつもりだが、未体験の食材がまだまだあることに気がついた。
このあいだの初体験は、ゆりね(百合根)。
恥ずかしながら人生で一度も食べたことがなかったのだ。
たまたま入ったお店のおすすめメニューに「ゆりねの塩昆布和え」と書いてあったので好奇心で注文することに。
「ゆりねって食べたことある?」
「そりゃーもちろんあるよ」
「どんな料理で?」
「…茶碗蒸しとか…茶碗蒸しとか?」
「どんな味?」
「えっなんていうか……ほら…あの…」
主人があてにならないので質問するのをやめた。
一体、どんな姿で出てくるのだろう。ネットで調べたらすぐ出てくるが、楽しみが減るのでぐっと我慢をし、ドキドキしながら待つ。
すると、私の目の前に料理が運ばれた。
そこには、白くて小さい、かわいいゆりねちゃんが塩昆布をまとって、キラキラと輝いている。
小さなカブ、小さな玉ねぎといった、その控えめな姿にときめきながら、一口いただく。
「ん〜!!」
ホクホクとほんのり甘く、お上品で、きめ細やかなじゃがいもと言った感じだろうか。
よーく見ると、にんにくにも見えてきた。
派手な味ではないが、もう箸が止まらない。
塩昆布の塩味加減がちょうどいいということもあるが、ゆりねのこの食感がたまらないのだ。
知らなかった恥ずかしさと、出会えた喜び。両方を噛み締めながらいただいた。
それから、またあの味が食べたくなってスーパーに行くたびに探してみたが、意外と売っていない。
そんなタイミングでTwitterを見ていると、
「百合根を1分半塩茹でして、香りのいいオリーブオイルをかけて胡椒削って、生ハムと一緒に食べるの本当に美味しい」という情報が流れてきた。
その食べ方もいいなぁ。
毎日頭の片隅にゆりねを想うこと、約一週間。偶然通りかかったお店で「ゆりね」の文字を発見!!
だがしかし、私が食べたかわいらしい姿は見当たらない。
も、もしや、売り切れ!? 意外と人気なのか。ゆりねちゃん。ないと思うと余計に欲しくなる。
半ば諦めモードで
「ゆりね、もうないですか?」
とお店の方に尋ねると
「それだよ〜」と指差した先にあったものは、私がこのあいだ美味しく食べたゆりねの姿ではなかった。
これは、ゆりねの粉末? パウダー? 益々よく分からなくなったが、半信半疑で買って家で恐る恐る袋を開けてみた。
すると中から出てきたでてきた、ゆりねちゃん。
どうやら、おがくず君に守られてたみたい。
初めて見るゆりねの原型に少し驚きつつ、ネットで調べて下処理をはじめる。
まずは外側から1枚ずつはがし、根元を切り落とす。水をはったボウルに入れて洗い、土を落とし水気を切り、変色している部分を包丁で削る。
これが、実に、面倒くさい。
が、やってるうちに楽しくなってきた。
今回は塩昆布ではなく、生ハムと一緒にぱくり。
ほほう。ゆりねそのものの味はクセがないから、塩味のあるものと合うのか〜とうなずく。
その後、カラスミなども手作りしてしまう達人シェフのお店に行った時のこと。
「このあいだ、ゆりねを初めて食べたんです」
と伝えると
「本当ですか! 僕も大好きで、このあいだゆりねのスープを作りました。1度で15個くらいのゆりねを使いましたよ〜。なかなか大変でした」
と笑顔で教えてくれたとき、美味しいものは、本当に手間暇がかかってるんだなぁと実感した。
もうすぐ30歳、まだまだヒヨッコ!
これからどんな初経験が待っているのか、ドキドキワクワクピヨピヨな私です。
岡田ロビン翔子(おかだ・ろびん・しょうこ)
1993年生まれ。2006年から2018年8月2日の解散まで、チャオ ベッラ チンクエッティ(THEポッシボーから改名)のリーダーとして活動。 頭の回転の良さからくるトーク力には定評があった。解散後はラジオDJを中心に、MC、モデル、自身のアコースティックライブ「ロン喫茶」など、マルチに活動中。 様々なジャンルに興味を持ち、多方面にアンテナを張りめぐらせ、スキルアップのために努力を欠かさない向上心の持ち主。
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