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StoryWriter

桜が咲く前の街。

まだ少し肌寒いけど、春の匂いがうっすらと香るこの季節が、一番好きかもしれない。

ぽかぽかの日差しに包まれながら、冬と春が混ざったような風に背中を押され、どこまでも歩きたくなった、ある日のこと。

家から歩いて見える景色には限りがあるので、行き先も決めずに電車に揺られ、知らない街で降りて、ぶらり途中下車することにした。

初めて歩く道にワクワクしながら少し小腹が空いてきた頃。

パスタという文字を発見。

「お昼からパスタかぁ、いいなぁ」

扉の前でそのお店のことを調べると、味の評価は抜群。気になるのは、店主の方の塩対応っぷりエピソードがたくさん出てくること。

ただ、パスタの文字を見てパスタの口になってる私は、恐る恐る入ってみることにした。

すると

「うち、パスタしかないですけど」

と、噂通りの塩対応。

事前に調べていた私は「これが噂の……!」と逆に興奮してしまったが、調べていなかったらびびって入れなかったかもしれないくらいマスク越しでも分かる、鋭い目つき。

「はい!」

と二つ返事をし、ネットで調べないからこそ味わえる楽しさや感動もあるが、この時ばかりは事前に調べていて良かったと思った。

ありがとう、ネット。ありがとう、クチコミ。

私が店内に足を踏み入れた瞬間、中にいた女性が

「ごちそうさまでしたー!」

と、ちょうど帰っていくタイミングだった。

その方のお会計をしながら、無言のジェスチャーで案内されたカウンターの一番端の席に座ると、カウンターを挟んでコワモテ店主とまさかの対面スタイル。なんと二人きり。

しかも、音楽もかかっていない。き、気まずいぞ。

昔から沈黙が苦手な私は、鼻歌でも歌ってこの沈黙を埋めようと思ったが、鼻歌なんか歌ったらキレられそうだと思い、ぐっと我慢。

メニューを見ると本当にパスタだけだった(二種類)。

早く注文しなくてはと少し焦りながら、一番上に書いてある一番シンプルそうなパスタを頼むことに。

すると

「いやぁ、いい天気ですね〜」

どこから声が聞こえると思ったら、目の前のコワモテ店主だった。

窓の外を見ながら、さっきの鋭い目線はどこへやら。穏やかな優しい横顔をしていた。

その言葉をきっかけに、今日この街に初めてきたことを伝えると、美味しいご飯屋さんをたくさん教えてくれて、イタリアに旅行した時のこと、いろんなお話をしてくれた。

扉を開けたときとお話ししてるときのギャップに驚きつつ、今度の休みに行こうとおすすめされたお店をメモしていると、目の前にパスタが運ばれる。

オリーブオイル、パルミジャーノチーズ、胡椒を合わせたパスタ。

食べてみると、つるりとなめらかな食感。そこにチーズのまろやかさと胡椒のほどよいアクセントがあとからやってくる。

な、なんじゃこりゃ!

具がないパスタは初めてだったけど、ものすごくシンプルだからこそ、麺のおいしさがダイレクトに伝わってくる。これは無限に食べられるぞ。

聞くところによると、イタリアで手打ちパスタを学び、麺もその日の手作り。ここにはプロの方も習いにくるらしい。

す、すごい。相当のこだわりだ。

初めて食べる味と食感に感動していると、お店に電話がかかってくる。

すると

「うち、予約は受け付けてませんので」

と忘れていた塩対応、低音ボイス、再び。

今電話かけてきた方に、扉を開けた先には実は優しい店主と美味しいパスタが待ってると伝えたかった。

けど、あの言い方だったら、たぶん来ないだろう(でもどうか勇気を出して来てほしい)。

そう思いながら、最後の一口を噛み締めるように頂いた。

帰り道。美味しい料理に心が満たされ、そのお店から知らない道を思うがままに歩いていくと、道端に早咲きの桜を発見。

春はもうすぐそこだ。

岡田ロビン翔子(おかだ・ろびん・しょうこ)

1993年生まれ。2006年から2018年8月2日の解散まで、チャオ ベッラ チンクエッティ(THEポッシボーから改名)のリーダーとして活動。 頭の回転の良さからくるトーク力には定評があった。解散後はラジオDJを中心に、MC、モデル、自身のアコースティックライブ「ロン喫茶」など、マルチに活動中。 様々なジャンルに興味を持ち、多方面にアンテナを張りめぐらせ、スキルアップのために努力を欠かさない向上心の持ち主。

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