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【INTERVIEW】台湾の男女二人組ユニット・好樂團が語る、デビュー7年をかけて生み出した初アルバム

StoryWriter

2023年4月5日、台湾の男女二人組ユニット・好樂團が1stアルバム『在遊蕩的路上學會寬容(We Learn to Let Go in the Ongoing)』をフィジカルリリースした。

「好樂團(GoodBand,ハオユエトゥアン)」は2015年結成にされ、ボーカルの許瓊文(ジョアン・ウェン)とギタリストの張子慶(クワン・チィン)から成る男女二人組ユニット。その歌声はフォークを基調にロックやストリングス、R&Bなどの要素を盛り込み、心の琴線に触れる歌詞と暖かなウェンの歌声によって作りあげており、2015年のデビュー作「我把我的青春給你(私の青春をあなたにあげる)」からネット上で多くの話題を集め、YouTubeで公開されている同曲のMVは1,300万回以上の再生数を記録している。また、2020年に発表された楽曲「他們說我是沒有用的年輕人(彼らは私を役立たない若者だと言った)」も“現代の台湾の若者を最も表現した楽曲の一つである”として台湾現地で人気を集め、話題となった。

そんな好樂團は、2022年末に7年のキャリアを経て自身初となるフルアルバム『在遊蕩的路上學會寬容(彷徨の中に寬容を学ぶ)』を発表。同作は、社会の実情に向けた独自の観察眼を含みながらも、盲目的なまでの完全性への追求から、自身の欠点を受け入れて共存するという悟りの境地までの過程を記録した作品となった。ここでは、彼らへのメールインタビューを決行。二人の出会いから初のフルアルバムに込めた想いに関してざっくばらんに話を聞いた。

取材&文:エビナコウヘイ


二人の出会いと音楽遍歴

──まずお二人の出会いとバンドを結成したきっかけを教えてください。

許瓊文(Vo./以下、ウェン):元々、私と張子慶(チィン)はそれぞれ別に音楽活動をしていたんです。その後、共通の友人の紹介で知り合ってお互いの作品を聴いて、一緒に活動できるかもしれないなと思って2016年に好樂團を結成しました。私が初めてチィンの作品を聴いた時には、とても心地よい音楽を作るなという印象があって。ちょうどその時に私が歌いたいと思っていた曲風ともマッチしていましたし、一緒に活動できるのかなと思いました。

張子慶(Gt./以下、チィン):僕のウェンへの第一印象で覚えているのは、階段の踊り場で一眼レフで撮影したウェンの歌っている映像を見たのですが、とてもDIYで生命力に溢れた強い印象があったんです。それ以来、二人で好樂團としての活動を始めて、プロデューサーの方と意見を交わしながら、ライヴではサポートメンバーを迎えながら音楽活動をしています。

ウェン:二人で好樂團を結成してから3〜4年ほど経ってライヴや色々な仕事が多くなって軌道に乗って来た頃に、バンド活動で生活していくことができるのか真剣に話し合う機会があって。そこから、バンド活動をそれぞれの中心とすることに決めました。

チィン:現在は二人とも音楽関係の仕事を主としていて、僕は好樂團の活動以外にも、ギター講師や個別の音楽関係案件を受けて活動もしていますし、ウェンもバックステージ関係の仕事をはじめ、作詞作曲、アフレコなどの仕事もしています。楽曲に関しては、大部分は自分自身の経験や、友人たちの周りに起こった出来事を観察していく中で生まれたものですね。

ウェン:特に映画やその他のカルチャーから生まれた作品はいまのところなくて。必ずしも自分自身に起こった出来事ではないですが、身の周りで目の当たりにしたり、感じたりしたことから生まれた悟りや考え方から曲を書いています。

──それぞれの音楽的バックグラウンドも聴かせてください。いつ頃から音楽をはじめ、普段はどんな音楽を聴いているのでしょう?

ウェン:私は高校まで合唱団に参加していて、大学に進学してから他の楽曲のカバーを始めたり、ボーカルコンテストにも参加するようになって。そのうちに自分自身でも作曲するようになったんです。最近はアニメ『チェンソーマン』を観た影響もあって米津玄師さんをよく聴いていますが、元々大橋トリオなんかも大好きです。普段からジャンルを問わず、リンキン・パークや台湾のバンドも多く聴いていますね。

チィン:僕は小学生の頃から電子ピアノを習っていて、高校生の頃からギターを弾き始めました。当時は陳綺貞(チェン・チーチェン、台湾のフォークソングSSW)が大好きで、自分でも曲を書くようになりました。普段から日本の音楽を聴くことが多くて、緑黄色社会やMIWA、GLIM SPANKYなんかをよく聴いています。好きなミュージシャンは二人それぞれなのですが、どちらかと言うと、心の中に思っていることを表した歌詞の歌が大好きですね。

自嘲的歌詞と若者のSNS上のコミュニケーション表現の感覚がマッチした

──最新作のお話も伺っていきたいです。2015年から7年の活動を経て、ついに初のフルアルバム『在遊蕩的路上學會寬容(We Learn to Let Go in the Ongoing)』を作りましたね。

ウェン:2016年に1st EPを発表してから、バンドの運営のために試行錯誤しながら作品を生み出し続けてきて7年近くの時間が経ったので、知識や経験、気持ちの面であれ、アルバムを制作する準備が整ったという感覚があったんです。

──7年間を経て心技ともに整ってきたと。

ウェン:今回のアルバムのタイトルでもある概念“在遊蕩的路上學會寬容”(We Learn to Let Go in the Ongoing)は、私たちの仕事の経歴とかも関連しているのかなと思います。私たち二人が7年の活動をしてきた中で、学生時代、そして卒業して新社会人になり、自由業を主とするようになる、という段階を経てきたのですが、自分が最初に想像していたものと実際にやってみた上で感じるギャップも当然あったんです。その中には、混乱や怒りという感情もあったのですが、やはり最後には、それらのネガティブな感情と希望なども含めたバランスの取れた状態になりたいとも思っているわけです。なので、このアルバム全体でも、混沌の中から最後には平静な状態を見つけられるという点をコンセプトにしました。

チィン:僕たちは普段から色々なところへ出向いてライヴをしますが、その道中はいつも車に乗って移動しているんです。その時には車窓からたくさんのものが見えて、様々なことに思いを巡らせて、心を深く沈みこませていく。今作の制作時には、そんな時に作曲へのインスピレーションが生まれてくることもありましたね。

──気持ちの面でも長い時間がかかったのですね。今作のアルバムは、そんな長い活動を振り返るようなきっかけがあったのかなと思いました。

ウェン:私たちはいつも完璧な人でありたいという想いがあって、いろいろな努力を試みてきたのですが、完璧な人であることは不可能なんだと気づいたところから始まりました。誰もが生まれながらにして完璧ではないけど、でもその不完全さを補うことでそれぞれの特徴が生まれると思うし、自分にしかできないことを見つけることで個性を持った人になれる。こう考えることができるようになるまでの過程をアルバムに込めようと決めました。これこそがタイトルにもなり、私たちが人生という長い彷徨の中で学んだことでもあったわけです。

──そのような考え方をできるようになったのも、7年も時間をかけたこと、そして昨今の個性を考えるような時代の潮流の影響もあるのかもしれませんね。台湾や日本をはじめ、多くの若者はこのアルバムのコンセプトのように世界や自分の心の中の混沌でもがいている人が多く、まだ自分を受け入れる境地までたどり着けていない人も多いと思います。その上で、このアルバムはそういった人たちの支えになるかもしれないと思いました。

ウェン:このアルバムのテーマと時代背景は関係があると思います。私たちの年代は、例えばSNSのようなコミュニティがない時代から、それらが生まれて存在するようになった時代までを渡って生きてきた世代だと思うんです。つまり、情報が溢れかえっていく過程を身を以て体験してきたわけです。その過程を体験してきた若い世代は、きっとたくさんの心境の変化があったと思っていて。それは上の世代とも違うものだし、彼らとは考え方も違う。だからこそ、多くの若者たちが似たような境遇や考え方を持って、一種の集合意識が生まれてきたのではないのかな。

──なるほど。

ウェン:でも、同時にSNSの例の通り、皆がインターネット上で自分自身の考えをより自由に共有できるようになりましたし、インターネット自体の発達もますます進んできましたよね。私たちの作品もより多くの人に聴いていただける環境にもなりました。それが、例えば私たちの作品にせよ他のものにせよ、自分自身の存在を預けられるような場所も見つけられる。そんな時代に生まれた作品です。

──今作にも収録されている、2020年に発表した楽曲「他們說我是沒有用的年輕人(彼らは私を役立たない若者だと言った)」は、そのタイトルにも表されているような怒りと悲しみの感情について、台湾の若者からも大きな共感を集め、大きな社会現象にもなりました。これも先ほど述べた、ある種のコミュニティからの反応が起こったことについてはどう感じているのでしょうか?

 

チィン:僕が思うに、やはり世代が変わったということは大きな理由だと思います。現在の台湾の若い人たちの生活は、上の世代が過ごしてきた環境とやはり違うと思うので、憤りを感じるような不平も多く感じられるようになったし、世代間の認識の違いがあるという状況がよく見られるようになったんだと思います。そこに若い人からの共感が生まれたのかなと。

ウェン:チィンがこの曲の歌詞を書いているときに、自嘲するような表現を多く用いて若者の混乱や怒りなど不本意な感情を描いたということも、台湾の若いリスナーの共感を生んだ要因だと思います。私たちと同年代の若者が心の中にある不本意な感情にどうにか納得するためには、自嘲という対処方法を用いることが多々あると思っていて。皆さんも例えばFacebookやInstagramなどSNS上のコミュニティで投稿や話をするときに、自嘲的な表現を使うことが多いというある種の社会現象があると思うんです。だからこそ、この曲の自嘲的歌詞と若者のSNS上のコミュニケーション表現の感覚がマッチして、特別な感じがあったのかなと思います。

チィン:そうですね。でも、この曲を細かく追究していくと、確かにリスナーに与える印象は怒りが大きいと思いますが、同時に若者から世界に向けた期待というのもあると思います。期待しているからこそ、怒りも生じるのではないかなと思うんです。

──3月には、アルバム収録曲の「能不能請你別把我丟下(私を捨てないでください)」のMVも公開されました。YouTubeのコメント欄で、曲中で表現された感情の吐露に対する多くの共感の意見がありました。「他們說我是沒有用的年輕人(彼らは私を役立たない若者だと言った)」の反響もそうでしたが、自分たちの発表する楽曲に対して世間からどのような反応があるのかは意識しているのでしょうか?

ウェン:作品を発表するときに、リスナーの反応に特別何かを期待したりすることはないんです。でも、新たな作品を出すたびに寄せられるコメントやメッセージはしっかり見ていますよ。メッセージを見ていく中で、私たちの作品がリスナー1人1人の中でそれぞれにある物語や経験を象徴するものになっていたりするのを感じるのですが、これは私たちにとっても大変不思議な感覚ですね。

楽曲って、書き上げられた後にそれぞれの旅路につくと思っているんです。さっきの話にもあったように、曲が発表された後にはリスナー1人1人それぞれの生活にそれぞれの物語があって、それぞれの意味を持った曲になってくる。そして、リスナーもそれぞれ新たに得た考えや感情を私たちに返してくれて。そうやって新たに意義を含んできた楽曲は、成長して戻ってきていると思います。面白いことに、僕たち自身でさえも完成から時間が経った曲を改めて聴くと、作った時とは全く違う感じがしたりするんですよ。

 

細部まで作りこんだアルバムの魅力

──その他の収録曲についてもお聞かせください。収録曲の「遊蕩的人(彷徨う人)」では李玖哲(台湾で活躍する米国籍韓国人シンガー)さんともコラボレーションしました。彼とはどのようなやりとりがあったのでしょうか?

チィン:最初に「遊蕩的人(彷徨う人)」の編曲について意見を交わしたときに、男声を入れるのが絶対合うなと思ったんです。たくさんの人選を挙げた中で、僕たちのプロデューサーである李詠恩さんが、李玖哲さんを推薦してくれたんです。李玖哲さんはコラボできると想像もできなかったくらいの方なので、この提案には私たちも大感激でした。実際にお会いしてみると李玖哲さんはとても親切な方で、喜んで一緒に色々な歌い方を議論して試してくれましたし、しかもどの歌い方も素晴らしくてそれぞれのニュアンスを出してくれて。とてもプロフェッショナルでした。

 

──今作の収録曲では、私は個人的に「被愛灌溉長大的人(愛を与えられて育った人)」が好きです。このアルバムのテーマである自身の混乱から安定の過程の大きな転換点であり、その後の「棲身之地(身を寄せる場所)」「回到木星(木星に帰る)」という安寧と悟りを開いたような境地に続いている構成が素敵だと思いました。「能不能請你別把我丟下(私を捨てないでください)」に対しては歌詞の世界観に対して共感もするし、曲の展開も素敵だと思いました。

チィン:「被愛灌溉長大的人(愛を与えられて育った人)」は、僕自身も今作で一番好きな曲で。自分が今まで遠ざけてしまった多くの人に対して、自分が落ち込んでしまった時にやっと、彼らは実は僕を抱きしめたかっただけなんだと理解できたというストーリーがあって。描いた心境の大きな変化が魅力的だと感じています。

ウェン:私が今作で好きな曲は「送給你的(あなたに贈る)」ですね。とても率直な物言いな歌詞になっていて、毎日を必死に生きている人の心の内にある小さな世界を訴えかけているんです。この曲が、周りの人々の慰めになってくれればいいなと思っています。

──好樂團の音楽性としては悲しさや痛み、時には怒りなどあまり明るくない感情を表現することが多いという印象があります。そして、それを表現することこそが曲の世界観のように辛さや痛みを抱えている人々にとって“癒し”や”安心”にもなるのかなと思いました。

ウェン:実は私たちと接したことがある人やライヴを観にきたことがある人はご存知だと思いますが、二人とも決して普段から傷つきやすかったり、何かに怒りを感じているわけではなくて。ただ、そういう悲しさや怒りの感情は全て楽曲に込めているんです。楽曲を書くことによって、もっとポジティブに生活に向き合うことができるし、いろいろなジャンルの音楽を聴くことで自分たちの音楽に込める感情のバランスを保つこともできると思っているんです。

──アルバムパッケージのデザインも、ハガキやファンから募集した旅や駅にまつわる物語を集めたブックレットなど、今まで見たことがないほどDIY感のある、独特で素敵なものだと思いました。

ウェン:今回のアルバムのフィジカルデザインの部分は、非常に長い時間をかけてデザイナーの張溥輝さんと何度も意見を交換して、案を出してくださって。いくら感謝してもし尽くせないくらいです。当初、アルバムデザインは“彷徨の道”を表現するところから始まり、収録曲一曲一曲のストーリーを伝えたいとデザイナーの方に伝えていました。なので、こんなにたくさんの冊子が収録されていて、博物館を観に行くような味わいがあるものになっています。アルバムのパッケージのリボンや歌詞の冊子のコピーデザインなど、全てが“ひとそれぞれ道がある”こと、“道は長く繰り返されるもの”を表現するような作り方になっています。各収録曲から今作のアルバム全体のテーマまで全てを表現できたと思っています。そういった点も含めてこだわった作品なので、ぜひ日本の皆さんにも楽しんでほしいです。いち早く日本のリスナーの皆さんとお会いできることを楽しみにしています。


■作品情報

好樂團 1stアルバム『在遊蕩的路上學會寬容(We Learn to Let Go in the Ongoing)』

発売日:2023年4月5日(水)
価格:3,500円(税込)
購入:https://diskunion.net/portal/ct/detail/1008627595

=収録曲=
車站/駅
蒸發/蒸発
淹沒我/私をかき消す
他們說我是沒有用的年輕人/彼らは私を役立たない若者だと言った
能不能請你別把我丟下/私を捨てないでください
遊蕩的人/彷徨う人
送給你的/あなたに贈る
被愛灌溉長大的人/愛を与えられて育った人
棲身之地/身を寄せる場所
回到木星/木星に帰る

公式アカウント
Instagram:https://instagram.com/goodband2015?igshid=YmMyMTA2M2Y=
Facebook:https://www.facebook.com/verygoodband/
YouTube:https://www.youtube.com/@goodband2015/videos
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HP:https://goodband.bitfan.id/

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