エルスウェア紀行・Vo/Gt ヒナタミユによる初の連載”夢幻逃避行”がスタート。ヒナタミユが撮影した写真と共に、小説でもエッセイでもでもない、空想でも生活でもない”夢幻”の隙間を描く自由詩形式のシリーズとなります。
【声に出したい日本語】
” 3番レジ解放 “
アナウンスが店内に鳴り響く
1番が解放され、2番が解放され、3番までもが解放の時を迎える
奥の方から 勇ましい顔で3番レジへと戦士がやってくる
もはや急いではいない、余裕すら感じる歩み
きっと普段は現場を勇退し皆をまとめる指示役なのだろう、腕利きに違いない
「お次の方どうぞ」
2番レジは封鎖され、1番レジでは研修中の若者が奮闘していた
━━━━━━
“虹色の宇宙人”
駅から自宅へ10分ほど歩いたところにある、公園のベンチにここ数日宇宙人が座っている
誰も驚かないし、特段見向きもしない
子供が蹴って転がってきたボールを拾って会釈をし合っている様子を見るに
一旦自分の目を疑ってみる必要がありそうだ
最近、視力が0.01を切ったわたしは裸眼で何かを見ることはないのだから
もしかしたら新手の飛蚊症かもしれない
思い切って今朝は十数年ぶりに眼鏡で出掛けた、もうじき駅に着く
今日も宇宙人はいるだろうか
いた!
昨日の顔は銀色だったが、今日は虹色だ
わたしは大胆にも宇宙人の隣に座った
「徒歩3分のスーパーへ行くのは億劫なのに10時間かけて遠出することへは意欲が湧くの、なんでだと思います?」
なぜか帰りの電車で考えていたことを口走ってしまう
「私も考えていたんです。近くの職場へ行くのは億劫なのに、別の惑星へは頼まれなくても来てしまうの。まだ帰りたくなくてここにいるのですけど、また別のもっと遠い場所へ行きたい気持ちがふつふつと心の中に募るのです。」
美しい声で彼女が言った
━━━━━━
“ミトコン・ドリア”
いつだって 忘れない
エジソンは えらい人
そんなの常識 タッタタラリラ!
泣きそう、でも泣きたくないときは「おどるポンポコリン」を聴く
脳内からいくつもの声色で泣き笑いの大合唱が起こる
誰かが見たら大変に滑稽な表情をしているだろう
どんな時でもお腹は空く、お腹が減ったかも?と思えば今日の闘いが終わることを たぶん私は知っている
私が知っているというよりも、4000兆個のミトコンドリアが知っているのかもしれない
ミトコンドリア
声に出したい日本語
今日は甘辛く炒めた蓮根とドリアが食べたい
2020年始動の音楽ユニット・エルスウェア紀行 にてボーカルギター、作詞曲を担当。
近作ではアートワークも手掛ける。
並行してCM歌唱や作詞提供等の活動も行っており、#夢幻逃避行 は初の連載。