学生のとき、好きなバンドの活動休止が突然発表された夜。
ベッドでスマホを握り締めながら、涙が止まらなかった。
活動休止前ラストライブは渋谷CLUB QUATTROだった。ライブもアンコールも終わってステージが空っぽになったあと、わたしは人生で初めてダブルアンコールを目の当たりにした。
その場にいる誰もが、どうか終わらないで、あと少しだけ、と願っていた。
ダブルアンコールに応えられることは無いのだと察して、フロアから少しずつ少しずつ人が減っていったときの、あの言葉にうまくできない寂しい空気感を、わたしは肌で覚えている。フロアの真ん中にいたわたしは、後ろから少しずつ人が減っていくのを背中で感じた。
そのバンドのファンはみんないつもどこか穏やかで、ライブも賑やかに騒いで楽しむというよりは、愛おしく噛み締めるように楽しむイメージだった。だからいつもライブ前も、ライブ中も、ライブ後も、特別にぎやかなわけではなかったと思う。そして、それはあの日も変わらずだったと思うけれど、わたしはなんとなく、あの場にいる人が何を考えているのか分かっていた。
言葉にせずとも、誰もが、ああ、終わってしまった、と思っているのが 空気を通じて伝わってきていた。
わたしがダブルアンコールを目の当たりにしたのは、あの日が最初で最後だ。そして、好きな音楽の「終わり」を目の当たりにしたのも。
フロアから外に繋がる階段を降りながら、前を歩いていた2人組のひとりが、こう話していた。
「でもさ、このまま解散しちゃうかもしれないよね」
ああ、そうか、そうだよな、と思った。
そう思いながらも目を背けたくなっていた。心の中で、そんなこと言わないでよと言い返していた。
わたしも心のどこかでそのことに気が付いていて、それでも、言いたくない、思いたくない、そうならないでほしいと思っていたんだろう。
結局そのバンドは解散することはなかった。
けれど、バンド名を変え、楽曲も全て新しくなった。
「終わり」は、思っていたよりも静かだった。
7月1日にわたしたちはデビュー6周年を迎える。
そして当日は6周年記念ワンマンライブを開催する。
コンセプトは、「仮想解散」。
わたしたちはいつも「全身全霊で」と言っているし、そういうライブをしている自信も、そういう音楽を作っている自信もある。でも、その中でわたしたちが「本当に全身全霊でやり切れるときはどういうときか」と考えた先で、「それは解散のときなんじゃないか」と辿り着いたこのコンセプト。
コンセプトを発表したとき、予想以上の賛否両論がわたしたちを取り巻いた。
文字通りの「賛」と「否」だけではなく、その合間を揺れているような声もわたしたちに届いた。
「『解散』という言葉を 簡単に使わないで欲しかった」と。
そんなことないよ、と思いながらも、そうかもしれない、とも思った。
「解散」はもしかしたら、ステージにいる側と、フロアにいる側で、受け取り方が違うのかもしれない。
アイドルになって時間が経てば経つほど、「解散」は身近な言葉になったように思う。
デビューして1ヶ月で仲良くなったグループは、「これからも一緒に頑張っていこうね」とメンバーと話した翌日に突然解散が発表されたし、「あのグループはもうすぐ解散するらしい」と人伝に聞いていたグループが数日後に本当に解散を発表していることもあった。解散の理由も様々で、やり切ったから解散を選ぶグループもあれば、やるせない理由で仕方なく悔いが残るまま解散をしたグループもあった。
身近なグループでわたしたちと同じように6年続いているグループを、わたしは数えるほどしか思いつかない。
でも、それはわたしが「ステージにいる側」だからの受け取り方だ。
きっと「フロアにいる側」はいつも、「解散」はほぼ100%の確率で突然 なのだ。
だからきっと、わたしたちが「仮想解散」というコンセプトを発表したとき、賛否両論があったのだろう。わたしたちよりもきっとずっと「解散」という言葉は、不慣れで不穏で不安な言葉なのだから。
「解散」という言葉を簡単に使ったつもりは無いけれど、だからと言ってフロアにいる側と同じ重さで使っているかと言われたら、それには頷けないかもしれない。結果的にそれは、フロアにいる側からしたら、簡単に使っていると思われても仕方の無いことなのではないか。
でもひとつだけ断言させてほしい。
SOMOSOMOは、解散する予定なんてない。
「デビュー6周年」という華々しいその日に、わたしたちが普通の幸せを求めなかったのは、わたしたちがただの地下アイドルで終わりたくないからだ。
「仮想解散」と銘打って全身全霊でやり切るためのワンマンライブをやるのは、SOMOSOMOを解散させないためだ。
わたしたちは全身全霊でSOMOSOMOをやって、人の心を動かしたい、人を楽しませたい、人を幸せにしたい、そしてその先でわたしたちも幸せになりたい。
「解散」という言葉を、わたしたちはほんとうに簡単に使っているかどうか、わたしたちがそれをどう表現するのか、そしてわたしたちがその先でどうなりたいのか、その目で確かめに来て欲しいのだ。
わたし自身も、こうやって言葉にしたからには覚悟を決めてステージに立たなくてはいけないと分かっている。
その言葉を簡単に使っていないという証明を、わたしたちはステージ上でしなくてはならない。
終わりたくない。このままでは終われない。終わらせるわけにはいかない。だから全力でやります。
あしたは渋谷WWW Xにて SOMOSOMOデビュー6周年記念ワンマンライブ<If>。どうか、どうか、よろしくお願いいたします。