
取材&文:西澤裕郎
写真:外林健太
GANG PARADE、ASP、ExWHYZ、豆柴の大群などのマネジメントを行う株式会社WACKが、2025年3月22日(日)~3月28日(土)にかけて6泊7日わたり開催する合宿型合同オーディション「WACK合同オーディション2026」。
今回の合宿オーディションには、書類審査と2次オーディションを通過した21名に加え、ASPからナ前ナ以が参加する。
その様子は最終日までニコニコ生放送ですべて中継される。
StoryWriterでは合宿の様子を連日に渡り現地からレポートする。
【後半】全て見せます!WACKオーディション合宿2026完全密着6泊7日の死闘
https://live.nicovideo.jp/watch/lv350108689
渡辺が問いかけているものとは?
WACK第1章の締めくくりとして開催されている「WACK合同オーディション2026」。これまでの集大成と、今後WACKが目指す新たな方向性が融合した合宿として始まったはずだったが、序盤から異様なほど多くの候補生が弾かれていった。
初日に現役メンバーのナ前ナ以、2日目の昼に3名、「ジュンジュン時限爆弾」が炸裂した夜に9名。3日目には8名が脱落し、唯一の残留者がタテ・マエ1人になった。21人でスタートした合宿が、3日でほぼ空になった。

タテ・マエ
表面上の理由はわかりやすい。渡辺が求めた「具体的な目標設定」に誰も応えられなかった。世界に羽ばたきたい、人の心を動かしたい——そういう言葉を渡辺は次々と跳ね返した。抽象的な夢ではなく、それを分解して今日何をするかまで落とし込めなければ、先に進めない。
ただ、それだけの話だろうか。
今年の合宿を取材しながら、ずっとひっかかっていたことがある。候補生の多くは、決して努力を知らない子たちではなかった。アイドルとして活動してきた経験を持つ候補生もいた。それでもあれほど早く、あれほど多く弾かれた。
渡辺が問いかけていたのは、目標設定の技術だけではなかったのではないか?
解散から1か月半、地下アイドルシーンを抜け出すために壱岐に来た候補生
3月25日、急遽行われた追加面接の場に、見慣れない顔が現れた。
候補生の名前は、ナ前アリ。2月16日に川崎・CLUB CITTAで現体制最後のワンマンライブを行い、解散したばかりのFinger Runsのメンバーだ。

追加面接で候補生となった3人(左から、ナ前アリ、ゲンジツユア、HANANOANA)Photo by Kazu Tanaka
彼女が壱岐に来たのは、渡辺のコラムがきっかけだった。ナタリーに掲載された「渡辺淳之介の敗北宣言」を読み、共感した。今のアイドルシーンにいながらどこも頭ひとつ抜けていない、ライブハウスの外には全く広がっていかない、このままじゃダメだ——そう感じていた自分と、渡辺の言葉が重なった。「世界に行ってみたいと思って、来ました」と彼女は言った。
筆者はFinger Runsが所属していたAqbiRecの代表・田中紘治氏と15年近い付き合いがある。Finger Runsにインタビューをしたことも、自分が主催するイベントに出てもらったこともある。だから緊急面接の場に彼女が現れたとき、正直驚いた。解散からまだ1か月半しか経っていない。
そういう意味で、ナ前アリは直近の地下アイドルシーンを内側から知っている人間だ。その彼女が、合宿6日目の朝、救済措置の腹筋対決に敗北し、正式に脱退が決定した直後、今回の合宿を見ながら感じたことを話してくれた。
「頑張りの基準」が低い場所で起きること

まず、ナ前アリに「地下アイドル」とはどういうものかを聞いた。
「広すぎて1つの概念ではないと思うんですけど、頑張っていれば正直、誰でもアイドルになれる場所」
「しかも、その頑張りの基準が曖昧なので、みんな自分の周りと比べて頑張っている・頑張っていないを判断する。だから頑張っているの基準がすごく低かったりする」
そして、その環境が生み出すものをこう続けた。
「みんな優しいから、何をしても褒めてくれるし、感動してもらえる。それ自体は悪いことじゃないんですけど、そこで満足してみんな頑張りをやめてしまう気がしていて。活動できることが居場所みたいになってしまって、そこから特に頑張ろうとせず、みんな自分のファンだけを見ているみたいな。なんとなく生活もできてしまうから、上を目指そうと思っている子ほど、やめていく」
褒められることに慣れた環境の中で、頑張りの基準は少しずつ下がっていく。ちょっとジムに行ったり、ちょっと腹筋したりするだけで頑張っている気になれる。ライブハウスの中では評価されても、その外には回路がない。そういう場所に長くいると、何かが少しずつ変わっていく。
この記事では便宜上、それを「地下アイドル病」と呼ぶことにする。
ただ、誤解してほしくないのは、これは地下アイドルシーン全体を否定する話ではないということだ。頑張っている人はもちろんいるし、そこから這い上がってきた人もいる。アイドル戦国時代と呼ばれた2010年代前半には、数多くのオルタナティブなアイドルが生まれ、多様性が広まっていった。渡辺が最初に手がけたBiSが誕生したのも2010年のことだ。
問題は、その多様性の広まりとともに、シーンの構造そのものが生ぬるい環境を生んでいることだ。
渡辺が合宿で本当に問いかけていたこと

今回の合宿で渡辺が序盤から求め続けたのは「具体的な目標設定」と「その分解」だった。抽象的な夢を言葉にするだけでは足りない。それを今日の行動まで落とし込めるかどうか、を問い続けた。
ナ前アリはニコ生でその面談の様子を見ながら、自分事として突き刺さっていたと言った。
「渡辺さんがおっしゃっていた具体的な目標を立てて、それに対してどうすればいいかをちゃんと行動するということが、自分に足りていないものでした。自分の中で甘えていた部分だとわかっていた。なんとなくの瞬発力だけの連続でやってきた」
筆者は、序盤に大量脱落が起きた理由が、ここにある気がしている。
アイドルを目指して書類審査と第二次審査を通過してきた候補生たちのほとんどが、「具体的な目標」を問われたとき、答えられなかった。それはやる気の問題ではなく、そもそもそういう問いを立てる習慣がなかったからだ。褒められることに慣れた環境では、目標を分解する必要がない。頑張りの基準が曖昧なまま続けられる。だからいざ渡辺の前に立ったとき、言葉が出てこなかった。
渡辺が今回の合宿で変えたのは、単なる審査の形式ではなく、候補生が自分と向き合う深度だったのだと思う。
HANANOANAは、最終日に変われるか

左側手前から奥に、タテ・マエ、ゲンジツユア、右側手前から奥に、HANANOANA、RYUUSEiKO
合宿6日目の昼時点で、残っているのはタテ・マエ、ゲンジツユア、RYUUSEiKO、そしてHANANOANAの4名。
HANANOANAは、ナ前アリと同じく地下アイドルシーンの出身者だ。渡辺からはこの合宿でもっとも厳しい言葉をぶつけられてきた候補生でもある。それでも渡辺は彼女を手放さず、HANANOANAも2度の脱落から追加募集と敗者救済措置を勝ち抜き、ここまで残ってきた。
同じシーンで活動してきて、同じように「地下アイドル病」の構造の中にいた2人。ナ前アリは脱落という形でそこを出た。HANANOANAはまだ合宿の中にいる。6日目のパフォーマンス審査を残り、最終日に何を見せられるのか。
合宿6日目、佳境のパフォーマンス審査は3月27日(金)19時30分から行われる。
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合宿6日目脱落者・ナ前アリ コメント

──合宿お疲れ様でした。敗者復活で残念ながら脱落となってしまいましたが、今の気持ちを聞かせてもらえますか。
オーディションを見ていて、渡辺さんがおっしゃっていることが自分事のように突き刺さって。来る前から「この状況にいたら私も落ちていただろうな」と思いながら見ていたんです。追加募集があるのを知って、後悔したくないからここに来て、渡辺さんと面談して合宿に参加できることになりました。自分がこうなりたいということはあって、そのために何が必要だったかとか、継続的なことは話せていたのに、今すぐにどうすればいいかを目に見えて伝えることが合宿中はできなくて。ひたすら自分に勝とうと思っていました。合格とか他の候補生よりも抜きにして、自分に勝とうと思っていたんですけど、最後の腹筋のときにいろんな感情が湧いてしまって。30回って、自分でもありえないと思う回数なんですが、自分に負けてしまいました。
──腹筋のとき、どんな感情が浮かんできたんですか。
今まで自分がどれだけサボってきたかを突きつけられて。でもそれを突きつけられるのは、自分の中でこれが2回目だったんです。もちろん体力がなかったのが1番なんですけど、いかにサボってきたかを思い知らされて。自分が頑張れなかったこと、自分の今までの日々を振り返って、「そりゃそうだろう」という気持ちになりました。途中、諦めるじゃないけど、自分に負けてしまいました。
──2回目、ということは1回目があったんですね。それはいつ頃のことですか。
1か月半前です。前のグループのラストライブで2時間やったんですけど、途中でばててしまって。何年か活動してきた中で、ばてちゃいけないはずのところでばててしまった。ライブをしながら、自分がいかにサボってきたかを何曲か考えてしまって。でも解散してから、努力とか次の準備とかできなくって。また同じ後悔をしてしまいました。
──解散してからそんなに時間も経っていない中で、どうしてこのタイミングで来たのかを聞かせてもらえますか。
自分に足りていないものが、渡辺さんがおっしゃっていた「具体的な目標を立てて、それに対してどうすればいいかをちゃんと行動する」ということで、自分の中でやっぱり甘えていた部分だとわかっていた。なんとなくの瞬発力だけの連続でやってきて、しかもそれは当時の事務所の社長である田中さんにも言われていたことでもあるんです。一朝一夕で変えられるところじゃないけど、今までそれを継続的にできなかったなって。ここに来た理由は、渡辺さんの敗北宣言を読んで、今のアイドルシーンにいながらどこも頭ひとつ抜けていないなと感じていたから。みんなずっと同じところを並走して、お互いを上げ合っていくような関係がグループ同士でもあまりなかったりとか、対バンしても自分の目当て以外はみんな出ていっちゃうとか。ライブハウスの外には全く広がっていかないとなると、どんなにいいライブをしても限界があると感じていて。渡辺さんの言葉に共感したし、世界に行ってみたいと思って来ました。
──「地下アイドル」という言葉自体、ナ前アリさんはどう捉えていますか。
広すぎて1つの概念ではないと思うんですけど、頑張っていれば正直誰でもアイドルになれる場所で、しかもその頑張りの基準が曖昧なので、みんな自分の周りと比べて頑張っている頑張っていないを判断する。だから頑張っているの基準がすごく低かったりする。
──「地下アイドル」という言葉に対して、ポジティブとネガティブ、どちらのイメージのほうが強いですか。
ネガティブなイメージの方が強いです。頑張っている人たちもいるし、友達にもそういう子たちがいるけど、本当に売れたいという感情があるなら、ここにいちゃダメだなって思いました。みんな優しいから、何をしても褒めてくれるし、感動してもらえる。それ自体は悪いことじゃないんですけど、そこで満足してみんな頑張りをやめてしまう気がしていて。活動できることが居場所みたいになってしまって、そこから特に頑張ろうとせず、みんな自分のファンだけを見ているみたいな。なんとなく生活もできてしまうから、上を目指そうと思っている子ほど、やめていく。頑張りの基準がすごく低いから、ちょっとジムに行ったり、ちょっと腹筋したり、ちょっとプランクをやってみたり、それだけですごく頑張っている気になってしまう。目の前にいるファンに向けてライブをこなしている子がほとんどの中で、これでいいやという頑張りを続けてしまって。環境のせいじゃないけど、環境に受ける影響もあったのかなって。
──それを「地下アイドル病」と呼ぶとすれば、そこから抜け出すためにはどうすればいいと思いますか。
まず自分の中で「これでいいや」という考えを捨てることと、目の前で褒めてくれる人たちをいったん遠ざけることも必要かもしれない。私は、SNSも多分もう見なくなると思います。自分がちゃんと納得できるまでやるとか、自分に厳しく言ってくれる人に見てもらうとか、私はまず環境を変えようと思っています。パフォーマンス審査でも、自分が今までやってきたことや形にばかりにとらわれて、渡辺さんが見たかったものや視聴者さんが見たかったものが出せなかった。自分の考えが足りなかった。悔しいことに昨日の夜それに気づいて。自分で考えて、納得できる答えを出すと気持ちが全然違うんです。
──今の地下アイドルのシーンにいる人で、渡辺さんがやろうとしていることの意図に気づける人はいると思いますか。
気づくかもしれないですけど、それを行動に移せる人は、今地下アイドルのグループに所属していたら難しいと思います。例えば、このままでいいと思っている人がグループの中にいたら、頑張っていない人も頑張っている人も、地下アイドルの中では同じ「頑張っている」になってしまう。だから本当に変わりたい人はグループをやめるしかないと思います。私はもしかしたらFinger Runsの中では頑張っていたかもしれないけど、それも地下アイドル病で、全然頑張れていなかったんだなって。あぐらをかいていたとも思わなかった。中途半端ではなかなか難しい。絶対に難しい。
──今後については、どう考えていますか。
まず今回はきっかけをいただいたと思っていて。それはアイドルになるためとかじゃなくて、1人の人間として変わりたい。根深い甘えていた部分を取り払って、WACKに限らず自分がいいと思ったところがあれば、挑戦できるならまた挑戦したいと思います。でも私がWACKに惹かれるのは、渡辺さんがついていきたいと思える人だからで。今回直接お話しできた経験を無駄にせず、自分を変えて、挑戦したいと思える場所で挑戦します。
──ちょうど今朝、ナ前アリさんの脱落が決定したあと、所属していたAqbiRec代表・田中さんから、僕宛にLINEが届きました。「ナ前アリがお世話になりました。皆さんのおかげで、とてもがんばって気づきも多かったと思います」って。
(涙を流す)
──合宿5日目のパフォーマンス審査で、候補生同士で直したほうがいい部分を指摘し合わせることにも、渡辺さんの明確な意図があったんでしょうね。
優しさっていろいろあると思うけど、こういう仕事をしているなら、よりよくなるためにみんなやっているわけだから、自分にとってきつい意見でも、それは優しさだと思う。「できてるよ、大丈夫だよ」より。候補生の子たちは、まだそういうことに慣れていない中でちゃんと自分が持っている意見を伝えようとしていて、素敵だなと思いました。みんなの人柄が1人1人すごく素敵だったので、悔いのないようにやりきってほしいです。
■イベント情報
2026年3月22日(日)13:00~
【前半】全て見せます!WACKオーディション合宿2026完全密着6泊7日の死闘
https://live.nicovideo.jp/watch/lv350108688
2026年3月25日(水)12:00~
【後半】全て見せます!WACKオーディション合宿2026完全密着6泊7日の死闘
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WACK 公式WEBサイト:https://www.wack.jp/



