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文化が盛り上がっていく瞬間、たまたま近くに『TRASH-UP!!』がいたーー雑誌列伝Vol.1

StoryWriter

左から屑山屑男(編集長)、シマダマユミ(デザイナー)

強烈な個性や独自の切り口をもった雑誌の編集者や著者に迫る新連載「雑誌列伝」。

記念すべき1回目は、「アイドルも! 映画も! コミックも! 全部!! 日本で唯一のトラッシュ・カルチャーマガジン!」と銘打った雑誌『TRASH-UP!!』をピックアップ。2008年に創刊され不定期で発行されてきた同誌は、マニアックなB級映画から、オルタナティヴ・ミュージック、漫画やイラスト、詩に至るまで、アンダーグラウンドなカルチャーを中心に、ジャンルレスで偏愛に満ちた熱量の高い記事が詰まったカルチャーの百科事典的な雑誌。現在は、レーベル事業やアイドル・グループSAKA-SAMAの運営など多角的にアウトプットしていますが、どのような思想の元、雑誌を作り発行してきたのでしょう。

編集長・屑山屑男さんとデザイナーのシマダマユミさんにインタヴューで迫りました。

インタヴュー&文:西澤裕郎
編集協力:ちゃんおか


あの頃は連鎖的にいろんな人たちと知り合っていたんですよ

──2016年12月に最新号24号を発行して以降、雑誌『TRASH-UP!!』は発行されていません。その大きな理由として、アイドル・グループSAKA-SAMAのマネージメントや、音楽レーベルとしての仕事が忙しいということがあると思うんですけど、なんとしても取り上げたいというシーンが少なくなったことも大きいのかなと思っていて。実際のところどうなんでしょう?

屑山屑男(以下、屑山):それもありますよね。『TRASH-UP!!』を始めたころは、東京インディーズシーンが盛り上がってきた時期で、その中でも特に「東京BOREDOM」が大きかったしおもしろかったんです。それに付随する形で、名古屋とか地方の音楽シーンも取り上げていくことになって。

シマダマユミ(以下・シマダ):広島もありました。

──ああ〜、広島特集はどこもやっていなくておもしろかったですね。

屑山:「こんなおもしろい連中がいるんだ!?」っていう感じでしたよね。

──そういった地方特集の情報源は、どこからだったんですか?

シマダ:ミヤナガ(サトル)くんが名古屋のバンドの「のうしんとう」を取り上げたいって熱意が強くて。そしたら、のうしんとう以外にもおもしろいバンドが名古屋にいっぱいいることがわかったので、結果、大きな特集になったんですよね。

屑山:広島に関しては「広島もやってほしい」って売り込みがあったんですよ。それで広島に行ってみたら、「なんでこんなにおもしろいやつらがいっぱいいるんだ!?」と思うくらい、いろんな人たちが出てきて。あと、山口特集もあったよね?

シマダ:ライヴハウス「BAR印度洋」に出ている人がおもしろい、みたいな感じでね。

屑山:だから、あの頃は連鎖的にいろんな人たちと知り合っていたんですよ。

──『TRASH-UP!!』が、これを取り上げたいって熱意を持っていた人の媒介になっていたんでしょうね。映画も熱意を持った人たちが執筆していましたよね。

屑山:映画は特にそうでしたね。当時の映画ライターさんたちは商業誌に流れていって、いまも雑誌とかで書き続けています。あと、TwitterとかSNSが流行り出して、そこで満足しちゃう人たちも出てきて、わざわざ『TRASH-UP!!』で紹介したいっていう人は減りましたよね。

──2011年頃、屑山さんと話していて印象的だったのが、映画関係のライターさんは「お金はいらないけど書かせてくれ」っていう人が多かったけど、音楽系のライターさんは1回書くと満足しちゃう人が多かったって。その傾向が全体的に押し進められた感じもしますよね。

屑山:そういう書きたい情熱を持った人との出会いが減ったのはデカいですよね。そういう人がいなくなると雑誌がなかなか続けられなくなっていくから。

──あんなに雑多なカルチャーが一同に載っている雑誌は『TRASH-UP!!』ぐらいしかなかったですからね。2000年代とは思えない分量と内容の濃さでしたし(笑)。

屑山:最初はそんなに分厚くなかったんですよ。やっていくうちに、どんどんいろんな人が現れていって分量が増えていっただけで。

シマダ:作っている途中で、新しくおもしろい人が現れて、じゃあちょっと発売日をずらそうかとか言いながら作っていましたね(笑)。それで分厚くなっていった。

記念すべき『TRASH-UP!!』vol.1

──当時から、屑山さんとシマダさんの2人で編集しているんですよね?

屑山・シマダ:そうです。

屑山:あの頃は若かったですから。体力もあったし(笑)。

シマダ:まとめる作業が中心だったから。

──とはいえ、わかりやすくレイアウトするのは大変ですよね。映画も音楽も漫画もすべてごちゃ混ぜですし。

シマダ:読みやすいかどうかはさておきでしたけどね(笑)。おもしろい人が載っているから、おもしろく見せたいし、パッと開いたときにその熱量が伝わって「読みたい」と思ってもらえる誌面作りにしようと思って最初は作っていました。でも、読みやすくした方がいいかなという時期もあったり、毎回試行錯誤していましたね。

──表紙のテイストも判型も、毎回変わっていましたもんね(笑)。

シマダ:値段もよく変わっていましたからね(笑)。

『TRASH-UP!!』ぐらいでしか書けない、濃い内容のものを書いていた

──『TRASH-UP!!』が本棚にあると自分がカルチャーに精通しているような気になるというか、アングラカルチャーの百科事典的な匂いは強くありました。

 

『TRASHU-UP!!』のロゴ

屑山:関わってくれている人たちがすごかったですからね。最初は僕の知り合いのライターが数人いただけだったのに、どんどん増えていって。

シマダ:デザイナーも、創刊号は3人くらいで分割してページを作っていたんです。

屑山:3、4号目くらいまでは完全に知り合いだけで作っていました。やっていくうちにどんどん知り合いが増えていった感じですね。

シマダ:あと、売り込みですね。

──どんな人が売り込みに来ていんですか?

屑山:例えば、今売れっ子の武田(砂鉄)さんがメタル連載をしたいって連絡をくれて、書いてもらっていました。

──松原弘一良さん(パンク専門誌「MOBSPROOF」編集長)も書いていましたよね?

屑山:松原さんは、昔僕がビデオの仕事をしていたときに「MOBSPROOF」の前進のパンク雑誌を作っていて、それを通して知り合ったんですよ。

──ちなみに『TRASH-UP!!』では、アニメのことを書いていましたよね(笑)。

屑山:そうそう(笑)。オタクなんですよね。

──みんな本業じゃなくても伝えたいことがあるっていうのがすごいですよね。

屑山:そういう人が多かったですよね。『TRASH-UP!!』ぐらいでしか書けない、濃い内容のものを書いていた。きっと出す場所がなかったんでしょうね。

シマダ:うん、そんな感じはあったよね。

──今、雑誌が売れないから作りにくいのかもしれないですけど、『TRASH-UP!!』がないと、そういう拠り所がなくてさみしい部分も大きいです。

屑山:僕らがおもしろいものを作ったというより、文化が盛り上がっていく瞬間にたまたま『TRASH-UP!!』が近くにいたんですよ。逆に、今はそういう盛り上がりがない時期なのかもしれないですよね。あのときはZINEカルチャーにしろ、音楽にしろ、映画にしろ、色んなものが盛り上がって、みんな次の展開を楽しんでいた時期で。そこに『TRASH-UP!!』がちょうどあったっていうことだと思うんです。今はそういうシーンがないから『TRASH-UP!!』はそこにいられないというか。

──音楽で最初に取り上げていたのはノイズでもすもんね。中原昌也さんが表紙で。

屑山:中原さんは知り合いだったので。あとはガレージ・パンクですよね。

『TRASHU-UP!!』vol.04

BiSに限らず、すべてがよくわからないエネルギーに満ちていた

──そこからオルタナ・シーン、そしてアイドルへと、取り上げるものが変わっていきましたよね。

屑山:そうそう。アイドルは西澤さんがBiSをやりたいって言ってくれたからで。

──BiSがおもしろいから特集をやりたいです! って相談はしましたけど、蓋を開けてみたら、僕も知らないアイドルのインタヴューもいっぱい載っていて(笑)。

『TRASHU-UP!!』vol.14

シマダ:BiSを知ったら、他のアイドルももっと観てみたいと思ったんですよ。

屑山:あのときライブアイドルがまた盛り上がってきた頃で、そこにベルハー(BELLRING少女ハート)もいて。現場に行けば行くほど「なんだこれ!?」っていう出会いがあったんです。

シマダ:すごくヤバいなって思ったよね。

──オルタナバンドのライヴを観に行くと、お客さんが腕組みしてわかったような顔をして見ている一方で、アイドル現場に行くと、みんな「うぉ~!」って盛り上がっていて、「なんだこの熱気は!?」って驚きましたからね。

シマダ:そうですよね。

──すごいのが、まだ活動も始まっていない、ゆるめるモ!が載っている(笑)。

シマダ:たまたまカメラマンの津田(ひろき)さんが知り合いで紹介してもらって。津田さんもバンド繋がりで知り合った人だから、もともとアイドルはぜんぜん関係なくて。たまたまそうやって「何かが何かを呼んだ」感じでした。

屑山:あの号で色んなものが生まれたんですよね。アリス十番(仮面女子)も、知り合いの知り合いだったし。

シマダ:そうそう。アイドル現場に通っていた人が衣装を提供したグループがいるから見てよみたいな感じで、たまたま紹介してもらって。

屑山:BiSをやるって決めたから、みんなあそこに集まってきたんですよ。

シマダ:そう、だから全部西澤さんのおかげです。

──いやいやいや(笑)。それだけBiSをはじめとした地下アイドルシーンがエネルギーに満ちていたんですよ。

屑山:あのときのBiSはすごかったですよね。BiSに限らず、すべてがよくわからないエネルギーに満ちていましたよね。

──そのあと、『TRASH-UP!!』はベルハーを大きくピックアップしましたよね。

屑山:ちょっと経っただけなのに、ベルハーがすごく勢いのあるグループになっていたんです。

シマダ:だから、表紙にして100ページぐらいにして出そうっていって。

『TRASHU-UP!!』vol.15

──しかも雑誌に帯がついていましたもんね。

シマダ:うん、何か違うことをしたくて。

屑山:あれを作っていた時期に、いまの黒い衣装ができたんだよね。

シマダ:そう、だから衣装の人とか、曲を作っている人とか、周りの人たちみんな取材しようって言って。

──そういう意味で、『TRASH-UP!!』は盛り上がっているものにいち早く目を付けて、集中的にエネルギーを注いで取り上げてきましたよね。

シマダ:自分たちも訳がわからないエネルギーに影響を受けていたんでしょうね。迷うことなく「じゃあベルハーで行こう」みたいな。

屑山:19号ぐらいまではそういう感じだったよね。19号はゆるめるモ!が表紙で。

『TRASHU-UP!!』vol.19

──ゆるめるモ!をどこよりも早く、深く取り上げているのも『TRASH-UP!!』のすごいところで。もう紙の雑誌を出さないというわけではないんですよね?

屑山:そういうわけではないです。

シマダ:私はすごく出したいです。

屑山:さっき話したように出会いが圧倒的に減ったのもあって、今ちょっと止まっていて。今、SAKA-SAMAっていうグループを運営しているんですけど、その活動を通して出会いがあるから、どうしてもそっちに力が入っちゃうのはありますね。そういう意味で、『TRASH-UP!!』の誌面の代わりがSAKA-SAMAなのかもしれない。いろんな人が関われる存在にありつつあるから。

TRASH-UP!! が手がけるアイドル・グループ「SAKA-SAMA」

シマダ:出会いが減ったって言っているけど、出会いはあるし、おもしろい人はいる。それを本という形で紹介できたらベストだけど、今はそこまでできる状態じゃない。どうにかやりたいんですけどね。

屑山:雑誌は無理にやるものじゃないからね。時期が来たらまたやるつもりです。

──漫画も詩も載っているし、イラストが掲載されていたり本当に雑多な雑誌ですからね。

シマダ:色んなものが好きだから、ギュッと集めてみんなに見せたいっていう欲望があるんですよね。色んなところに興味が湧いちゃうから…。

屑山:僕らはそもそも何かのエキスパートじゃないので、そうなっちゃうというか。

──CYBORG KAORIを取り上げるのも早かったですからね。

シマダ:ははははは! 「なんだろうあの人は?」って。

屑山:あれはビックリしました。でも今もちゃんと活動していますもんね。

シマダ:出会ったときは「何だこの人!?」って思った人が、ちゃんと大きくなっているのが面白いです。コムちゃん(水曜日のカンパネラのコムアイ)もそうだけど、みんなステップアップしている。おもしろい人の魅力はちゃんとつたわるんだなあって。

──カンパネラの特集で、シカの解体に一緒に山梨まで行きましたもんね(笑)。

屑山:ははははは(笑)。行きましたね。過去の『TRASH-UP!!』を見たら色んな人がいるんですよね。GEZANもいるし。

熱意がある人は、良いものを作ろうっていう気にもなる

──ずっと雑誌を作っていた2人が、レーベル「TRASH-UP!! RECORDS」を始めたのはいつからなんですか?

TRASH-UP!! RECORDSのレーベルロゴ

屑山:3年くらい前ですかね。神楽坂エクスプロージョンの社長さんと親交のあるSTARMARIEってアイドルのプロデューサーさんからライヴハウスのブッキングをやってほしいって話が来て。それと連動させるためにレーベルを始めたんです。

シマダ:店のイメージも変えたいとのことで、ライブハウスの名前にも「TRASH-UP!!」にしましょうと言われて。

屑山:最初の3か月間は苦痛でしかなかったよね? 赤字赤字で(苦笑)。でもだんだんイベントに出たいっていう子が出てきて。そういう流れが出てきた時期はおもしろかったよね。だんだん人気が出てきて「ここがホーム」って言ってくれる人たちも現れて。SAKA-SAMAを自分たちで作ろうと思ったのは、その延長だよね?

シマダ:うん、そうですね。ハコバンみたいな発想です。

屑山:イベントを毎回やっているなら、そこに毎回出るグループがいればイベントも盛り上がるんじゃないかなって。そういう発想からSAKA-SAMAは始まったんです。まあ、そんな簡単なことじゃなかったですけどね(笑)。

シマダ:本当にそう。それまでいろいろアイドルを取材して見てきたはずだけど、いいところしか見てきていなかったんだなってことがわかって(笑)。

──見るのとやるのでは違ったわけですね。

屑山:全然違いました。でも形は違えど、出会いの媒介になるって意味で、興味があったんですよね。SAKA-SAMAをやっていれば面白い人に出会えるっていう。

シマダ:アイドルも、CDでもライヴにしても一緒に作るっていう作業という意味では、雑誌を作るのと同じなのかなって。

──TRASH-UP!! RECORDSからリリースしているグループを見ると、あヴぁんだんどにしても、少女閣下のインターナショナルにしても、“TRASH-UP!!”っていう感じはしますもんね。

シマダ:あヴぁや少ナショの雑多な魅力はすごく近いものを感じましたね。

──「・・・・・・・・・」(以下、ドッツ)も盛り上がっています。

屑山:ドッツがこんなに注目されるとはね(笑)。

シマダ:どんどん人気が出てきましたね。

──正直僕もドッツは最初よくわからなくて。当時、水曜日のカンパネラもいいのかわからなかったけど、運営さんの熱意があるし、「一緒にやりますか」って手伝っていたらどんどん盛り上がってきて。やっぱり、人の熱意って大切だなって。

シマダ:うん、すごく大事ですよね。

屑山:熱意がある人は、良いものを作ろうっていう気にもなるし。

──この数年間は、SNSなどが発達してアウトプットの連続の時代だったと思うんですよね。みんなが発信できるようになって、自分の中のものを出し尽くしてきた時期なのかなって。でもやっぱり、個人個人の発信が束になったときのエネルギーはあると思うんです。だから、また『TRASH-UP!!』のように雑多なものがごちゃ混ぜになっているものが必要になる時期が来るんじゃないかなと思っています。

シマダ:作りたいですね。

SAKA-SAMAはいろんな人と出会わないといけないグループなんです

──SAKA-SAMAは、どんなグループにしていこうと思っているんでしょう。

屑山:SAKA-SAMAを通して、いろんな人と出会えたり、いろんな文化の真ん中にいるような存在にしたいですね。それは『TRASH-UP!!』に限らず、一般の人にとってもそういう存在になれればいいなと思っていて。SAKA-SAMAはいろんな人と出会わないといけないグループなんです。

──このグループの見どころがあるとしたら、どんなところですか?

屑山:クセのあるメンバーが揃っていて、その中で自分の出し方をちょっとずつわかってきているところで、今ちょっとおもしろくなってきたかなっていう感じですね。不器用な子ばかりが揃っていて、よくこんな子たちが集まったなって(笑)。何かを発信したいけど発信できないというか、まだ自分から発信いくっていう感じではないので、これからの成長を見ていってほしいですね。

シマダ:いい刺激をたくさん受けて、いろんなことができるようになれば、もっとのびのびできるはずなので、メンバーにはいろんな人に出会ってもらいたいですね。『TRASH-UP!!』を読んでいて、偶然知ったみたいなことってあると思うんですよ。目当ての特集があって買ったけど、違うページを見たらおもしろそうなものが載っていて初めて知った、出会ったっていうことが。それって、自分も雑誌を見て体験してきたことだから、SAKA-SAMAの活動においても同じように、メンバーにはいろんな人と出会って、世の中のいろんな面白いことを知ってもらいたいなと思います。

屑山:自然にやっていけばいいんだよね。この前大阪に行ったときも、対バンはアイドルだけじゃなくてよくわからない人たちを呼んでやったからね。

シマダ:アイドルと、バンドと、パフォーマーという組み合わせで。『TRASH-UP!!』の誌面みたいなイベントになったと思います(笑)。

屑山:世間にはこんなに面白い人たちがいるんだなって彼女たちが自然に思ってくれたら、SAKA-SAMAはもっと強くなるんじゃないかと思っています。

TRASH-UP!! が手がけるアイドルグループ記念すべき発ワンマンが開催!

SAKA-SAMA 1stワンマン・ライヴ「イッツ ア SAKA-SAMAワールド」

2018年3月17日(土)SHIBUYA TSUTAYA O-nest
時間 : OPEN 17:30 START 18:30
料金 : 2,500円(D代別)
チケット
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